佐々並川ダム【3】

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(「佐々並川ダム【2】」の続き)

何処へ停めても邪魔にはなるまいが、下りの分岐路の山側に寄せて車を停めた。


まるで異国の地にでも足を下ろしたかのようにまずは周囲を見回した。
車はさっきから通らないし近くに建物らしきものもない。ただ山のセミがやかましく鳴いているだけであった。

珍しくここは黄色のガードレールになっていた。
その端から谷底を覗き込んだ。垂直な崖という程ではないが、急な斜面が延々と続いている。谷底にはとても降りられたものではない。
ダム下が気になっていた故にどうしても降りられるかを考えてしまう


ダムに向かう進入路部分はコンクリート舗装になっていた。
見たければ勝手にどうぞとでも言いたげに張られたチェーンには立入禁止などの何の標示も出ていなかった。


先に伸びるアスファルト路は若干の登り、進入路はかなり急な下りになっていた。
「あぶない」の標示が出ているのは柵からの転落防止だ。


柵はコンクリート柱を一本のパイプで結んだ簡素なもので、常盤池の初代の護岸柵のような感じだ。
進入路部分の幅を確保するために間知石を積んだようで、それも見た目かなり古めかしい。


どんどん上の道との高低差が開いていく。
コンクリート舗装路につけられたタイヤ痕はまだ新しい感じがする。


前方が開けてきた。
進入路は開放的な造りなので、もしかするとこのままダム堰堤上まで行けてしまうのでは…とも思われた。


大きな左カーブを過ぎると、ダムが見えてきた。それにつれて先ほど観たダム下付近も。
凄い…圧倒される。


管理道の先行きは後回しで私の視線はダム本体とその下部へ釘付けになった。

崖の下の樹木が伸びすぎてしまって視界は遮られ気味だった。それはむしろ幸いなのかも知れない…もし剥き出しの岩場だったら、現在位置の急峻さに怯えてカメラを構えて接近するのも躊躇われただろう。

ダム堰堤は非常に近くに見える。それでいながらなおダム下が見えない。如何にこの場所が切り立った崖かが実感できるだろう。


柵ギリギリまで接近して大きく伸び上がりカメラを下へ向ける。崖に生えた樹木の端から漸く谷底が少しずつ見え始めた。
本当に凄い。確かにアーチ式ダムサイトとして典型的な場所だ。


一面、コンクリートの塊といった感じのダム下部。その中ほどに直方体の小屋がへばり着いている。多分監査廊の入口だろう。
監査廊下の通路からダム下へ降りる部分は階段ではなく斜面に取り付けられた梯子という構造に驚く。


詳細な映像を撮りたかったが逆光気味でもありズームすれば逆に解像度が落ちた。
コンクリート斜面にタラップのような金具が取り付けられている。まさかあれを使って谷底へ降りるのだろうか…
とんでもなく怖い気がする


立ち位置を変えて少し下流側を眺めている。
ダム下へ向かう管理道のような通路が見えていた。柵がついているから間違いない。下流側から延々と歩いて行けるのだろうか…
もし可能なら当然ながら行ってみたい…まず無理だろう


ズームで窺ってみた。
ダム下へ向かう方には階段があるから、画面左右に伸びる柵のある部分は間違いなく管理道だ。どこかに鍵付きの門扉でもなければ、本当に下流から歩いて行けるのかも知れない。
しかし上に向かって伸びる柵は…これは何だろうか?


通路の途中から急な崖をよじ登るように同じタイプの柵が設置されている。しかし柵があるだけで、階段のようなものは見当たらない。柵自体も6スパン程度先で途切れている。ここから観る限りでは有刺鉄線もつかない単純なパイプ4本掛けの柵だ。
意味が分からない。柵だけ設置されているが道らしきものは窺えず…一体どうなっているのだろう…

分かっている。ここからズームで窺うだけだ。鳥でもない限りあそこへ身を置くことはできない。しかし人が歩ける通路になっているのなら、この下流側は何処かへ繋がっているのでは…と考えたくなった。
資材運搬路、非常用の脱出経路、あるいは長門峡の景観を愉しむための遊歩道…そしてもし遊歩道だったなら…中電の職員でなくても長距離歩行さえ厭わなければ、実は誰でも行ける場所なのかも…

あそこに行ってみたい…(心の叫び)
私の知る限り、佐々並川ダムを真下から撮った映像をネットで見たことがない。通路が造られているのだからあの場所を通る人は必ず居る。それが管理区域の内側なのか、延々と下流から辿れば誰でも到達可能な場所なのかは不明だ。少なくとも私にとっては久し振りの「行ってみたくて疼く位の場所」だった。

谷底に展開される風景に目を奪われ、接近する前からほぼ結果の分かりかけている進入路の先が等閑になってしまっていた。

で、入口の方だが…
既に結果が分かっていたので後回しにしていた。



一般の進攻もここまでである。
当然予想されたことだが厳重な門扉に護られていた。


「さくの中に入るのはやめよう__」と諭されなくとも上と横へ念入りに設置された尖った鉄棒が進入拒絶の本気度を物語っていた。


もっとも既に門扉の向こう側に見えるものをキャッチしていた。行くことはできなくともデジカメなら先を窺わせることができる。

鉄格子の中に手を入れてデジカメを構えてみた。既に興味深いものの存在に気付いていたのだ。


堰堤に対してやや捻れた方向に坑口を持っている。
監査廊の入口か、グラウトトンネルだろう。サイズはかなり小さい。


管理道はその小さなトンネルの前で右へ曲がりダム堰堤に向かっていた。堰堤の接続部は樹木が生い茂り過ぎていて視界が遮られた。主要な設備などはすべて右岸側にあるらしく、ここか先に車を停めた道からズームで眺める以外なさそうだった。
堰堤への立ち入りが制限されていることは知っていたものの、生雲ダムが中電の管理ダムながら堰堤上を自由に往来できて管理所にも近づけることを思えば、魅力が削がれたのも確かだ。
仕方ない…
ここから見えるものだけでも撮影して持ち帰ろう…
しかしそれすらも困難になってしまうもう一つの要因があった。

(「佐々並川ダム【4】」へ続く)

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