間上発電所【4】

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(「間上発電所【3】」の続き)
一体、あとどれだけ続くのだろう…
先がどれだけあるかはもちろん、自分の現在地が道程の半分以上進んだ位置なのか否かも分からない。
実はまだ半分も来ておらず、この先更にきつい急斜面が今まで以上に待ち受けているなんてことになれば…

想像するもおぞましい。

台座コンクリートの上に座り込み、殆ど吸水機能を失ったハンカチで汗を拭いつつしばし休んだ。
ここは60ポイント地点だった。[11:35:09]
跨管橋の真下が128ポイントだったことを思えば実際やっと半分なのだった…)


幸いこの場所はいくらか日が射すものの、風がある程度通るしヤブ蚊の攻撃もなかった。既に全身汗まみれで、背中に貼り付くシャツが不快だった。
ここまで来たからには必ず極めてやるという気持ちはあったが、いくら帰りは下りでラクとは言えど同じだけの距離を歩かなければならない事実が重かった。
まったく…
何て酷いところに来ちまったんだろ…
むやみに休んでもいられない。時間は容赦なく経っていく。本来ならこの踏査箇所なんて今日の全行程にあっては前菜に過ぎないのだ。この水圧鉄管の踏査だけでグロッキーになって後の予定を全キャンセルして帰るなどお笑いぐさだ。

再び歩き始める。
座り込んで休んだポイントの先は、いわゆる”甘やかし区間”でちょっと勾配が緩くなり幾分楽だった。写真では水平にすら見える。[11:35:33]


むろん、水平な場所などある筈がない。
そこまでの勾配が緩く、先がきついからそのように見えるだけだ。[11:36:20]


振り返って上の写真を撮ったとき、塗装業者による諸元表が貼られているのに気付いた。
参考になることが記載されているかも知れないので、大儀だが撮りに戻る。

こういった一覧は別に珍しいものではなく、工業用水の水管橋などでも観られる。しかしペンキで描かれるのが通例で、ステッカータイプは初めて見た。
カメラは水平に構えている。[11:36:33]


”水槽〜第6固定台”という記述の意味するものは分からなかった。
平成20年の塗装だから、水圧鉄管が敷設された昭和40年からすれば随分と新しい。数年に一度の頻度で塗り替えられているのだろうか。

当たり前だが、塗装一つ行うにしてもペイント材や刷毛、仮設足場などを現地へ搬入する必要がある。左手に見えた果樹園などでよく見られるあの索道に貨車を載せて運んでいたのだろうか。あるいは作業員も一緒に乗り込んで。
何をするにしてもまずこの拷問級な管理道を行き来しなければならないことを思えば、もうそれだけで完全な重労働だ。
更に言えば、この水圧鉄管や基礎コンクリートを施工するための部材などは一体どうやってここへ搬入したのだろう…

水圧鉄管の勾配は、頻繁に変動していた。
この先に再び”甘やかし区間”があったものの、そこから更に先は…[11:37:04]


常軌を逸する急勾配!!

手前の水圧鉄管自体、水平ではない。既にかなりの勾配がついている。その先が殆ど折れ曲がったように見えることから、急傾斜ぶりが分かるだろう。
もちろん付随する管理道の階段も…[11:37:47]


この急勾配を見た瞬間、素直に泣きたくなった。

手摺りはあるし、足元はしっかりしたコンクリート階段。それほど長くもなく、階段上部の勾配変わり部分も見えている。
しかし全く休みを取らずに昇り続けることなど、もはや不可能。
全経路を通じて、もっとも勾配の急な箇所。
ここまで酷いと、もう笑えてしまう。殆ど垂直登り状態。
カメラの左右は水平に保ち、若干俯瞰する角度で撮影している。鉄管の表面に貼り付く水滴が苔を洗い流した後からも、鉛直方向が分かるだろう。[11:38:59]


パソコンで記事を読みつつ写真を眺めるのは楽だが、この撮影自体も本当に辛いひとときだった。
カメラを構える間は束の間の休息にはなるが、極度の疲労で膝も腕もガクガク震えて、被写体を捉えるのも苦しい。そして立ち止まればすぐヤブ蚊が血を分けてくれとせっついて来る。撮影を終えてもなお顔の前にまとわりついてくる。振り切って逃げようにも、足早に立ち去らせてくれるような管理道ではない。もう階段を踏み締めようと片脚を上げるのも足が鉛のように重いし、手摺りを持っていなければ一番下まで転げ落ちかねないほどの勾配なのだ。

ここってもはや管理と認めたくない。これはコンクリート製の管理梯子!!
ここでも勾配変わりに辿り着いたところで、ガードパイプにもたれかかって暫く息を整えることを余儀なくされた。[11:39:50]


先に見たのと同様な水圧鉄管の反対側へ移動するためのタラップがあった。
タラップの縞鋼板は水平に設置されているから、この階段梯子区間の尋常でない勾配が分かるだろう。[11:40:02]
手摺りを握ってカメラを下向きに構えているだけでもメマイがしそうだった


水圧鉄管はここで勾配だけでなく、進路も若干変化していた。
道中でもっとも目立つ折れ点へ到達である。[11:40:35]


この折れ点は地図で確認していた。逆「く」の字に曲がっているこの場所まで来れば、全体の7割方は進んできたことも覚えていた。

遠景を望む。
これほど急に勾配変わりしているということは、この地点が天空に向かって「出っ張っている」場所とも言える。そのせいか思いの外遠方まで見通せた。
来るとき歩いた例の地区道は、あまりにも足元に近すぎて見えない。それよりも遥か遠く、菊川の集落と山陽自動車道、瀬戸内海まで眺望が利いた。


ズーム撮影。
正面に見える島は、御影石の産地として有名な黒髪島である。
水力発電所の踏査なのに、まさかこんな眺望を得られるとは…


本当に、こんなところまで来る積もりなどなかった。
自分は何という大変な場所に来てしまったのだろう…

しかし…
山登りに来たのではない。この先にあるモノを極めに来たのだ。ここまで罰ゲーム同然に辛い思いをさせられたからには、必ず成果を持ち帰らせてもらう。

到達すべき場所までそう長くないと分かっていながら、道中の急勾配は少しも攻撃の手を緩めない。
ここからはコンクリート階段ではなく、電力会社が設置する索道に特有なプラスチック・ブロックみたいな階段になっていた。踏み代部分がコンクリートではなく自然の落ち葉なので、クッションが効いて幾分歩きやすかった。[11:41:32]


前方の木々がやや薄れ、空が見えがちになっていたことからあるものを感じ取っていた。
そして今度こそ、頂上が間近なことを知った。

先が見えてきた![11:41:55]


明らかに目的とする”あれ”だ。しかし歓喜して走って近寄る体力などもう残っていない。興奮からではなく、疲労でバコバコ唸る心臓を何とかなだめすかしつつ歩む。
一足先に、カメラのズーム機能で先を探らせた。

水圧鉄管は、砂防ダムのような堰堤にブチ当たっていた。
上部にはお約束のネットフェンスで囲まれているように見える。間違いない。[11:42:07]


ついに現れやがったか!

もう逃がしはしないぞ!!

あの先にあるものは…

(「間上発電所【5】」に続く)

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