宇部興産窒素線・No.90鉄塔【2】

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(「宇部興産窒素線・No.90鉄塔【1】」の続き)

フェンス門扉のすぐ横にコンクリートの電柱のようなものが建っていた。


電信柱にしては造りが奇妙だ。固定されたコンクリート基礎を持っている。
通常の電柱なら直接地中に刺さっているものだ。


昇降用の金具が取り付けてあるのは通常の配電線と同じだ。しかし架線が見当たらず何のためのものか分からない。電柱の直径も配電線にしては太い。


この柱が鉄塔の横に建っているのは以前から分かっていた。同様に架線が除去されていることを思えば、窒素線に関連ある設備かも知れない。

フェンスで囲まれた背面の外側から2m程度の位置に民家があった。
こんな場所でガサゴソ藪を漕ぐのもかなり抵抗感があった。


それこそ怪しまれる元なのでカメラを向けるのも憚られるのだが…
民家の壁がこれほど近い位置にある。


壁には窓があったしベランダらしきものも見えた。家のすぐ裏が笹藪でこの鉄塔が鎮座しているのだから、確かに景観も何もあったものではないだろう。

門扉のほぼ反対側へ移動した。


いつ設置されたのかも分からない位に酷く錆び付いている警告の板。
まさかこんな所まで踏み込む人も稀だろうが、フェンスから鉄塔までの距離を考えると確かに「フェンスに近寄るだけでも危ない」のかも知れない。


フェンスの網目は細かいし至る所に笹の葉が貼り付いていて視野の確保が難しかった。
菱形の網目一つにカメラのレンズを押し込むとどうしても撮影アングルが制限された。


裏側に設置された碍子から三相のコードが降りていてスパイラル管に格納されている。


地中に降りる側の碍子を撮影していて気付いたことがあった。


碍子に苔が付着している。
これはどういうことだろうか。通常なら有り得ないことと思うのだが…


最上部の碍子から引き下ろされる表側の碍子は新品同様に真っ白なのに、地中化側へ接続される碍子には苔が生えている。通電されていなかったのなら、双方の碍子が同様に汚れる筈だ。
生きた電線が接続される碍子に苔が生えているのを今まで見たことがない。高電圧がかかっているなら、海の潮など粘り着く物は別として普通は微細なゴミなども付着しないのではないかと思う。もしかするとNo.90鉄塔まで電気が来ていながらその先の回路が開放されていて窒素工場には給電されていなかったのだろうか?

スパイラル管にまとめられた地中線は基礎上に並べられた保護コンクリートの中を通り、フェンス内側の敷地を周回していた。


奥のフェンスに取り付けられていた架台。「ディスコン棒置き場」の文字が見える。もっとも肝心の棒らしき機材はここからは見えなかった。


ディスコン棒が何を意味するものかは知らないが名称から想像はできそうだ。架線に異物が引っかかったとき除去したり手動で回路を開放するときに使う高度に絶縁された棒だろう。
ディスコンはdisconnectの略だろうか

敷地の端に向かって錆び付いたワイヤが地中に潜り込んでいた。鉄塔の上部からワイヤが民家側に降ろされていたので、何処で留められているか確かめたいと思っていた。


それは鉄塔からこの場所まで伸びている。電線を仮留めしたのかと思われたのだが…


元あった腕金部分からではなく鉄塔の中央から伸びている。
これは電線そのものではなく支持用のワイヤかも知れない。あるいは架線を撤去する以前からこのようになっていたのだろうか…


裏側から見た門扉部分。
最初の塗装部分が殆ど見えないほど錆び付いている。設置されて一度も塗り直されたことがなかったのではないかと思えるほどの酷い傷みようだ。


当初この鉄塔に近づけるとは思っていなかったところが、すぐ外側まで接近できてしかも早い段階で他の鉄塔群が撤去されていながらなお元の状態で観察できたのは僥倖だった。碍子や架線の撤去は恐らく関連業者がごく事務的に行った筈で、昭和20年代の価値あるかも知れない構造物だから記録に遺して…などということはしていないだろう。電線は再利用するだろうし、碍子は他に転用することもできなければ産業廃棄物として処理されるだろう。[1]

No.90が撮影できたことで少しばかり欲が出てきた。更に先を辿ればもしかしてNo.89やNo.88などの鉄塔も遺っているかも知れないと思い、一連の撮影を終えた後は向山の方へ分け入っていた。
時系列に沿って読むために以下のリンクを案内しておく。

(「宇部興産窒素線・No.88鉄塔」へ続く)

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その翌週、藤曲方面を訪れたときまだ鉄塔が残存していたので、撮り残しがあるかもと思って再度撮影に立ち寄った。以下、前編にないものだけを若干枚数追加する。

浜バイパスからの遠景を撮影。


新型番号札のついた側の面に、架空地線を接続していたのではと思われるコードが見つかった。


逆光気味で見づらいが、鉄塔の中央にコンクリート管が立っていて細いコードがその中に格納されている。落雷などで不測の電力が流れたとき地中に逃がすアースだろうか。

それから関係あるかどうか分からないコンクリート柱に刻印があったので撮っておいた。


この後、未だに痕跡すら分からないNo.89の位置を調べるために再度向山の中を歩き回った。

現物のNo.90鉄塔をカメラに収められたのはこれが最後だった。翌週の25日にたまたま平原方面へ向かうとき、鉄塔の解体作業を目にすることとなったからだ。

(「宇部興産窒素線・No.90鉄塔【3】」へ続く)

出典および編集追記:

1. 先日、高嶺バス停付近の市道杉原高嶺線を撮影していて窒素線に使用されていたと思われる撤去後の碍子が山積みされている場所を偶然見つけた。

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