白岩公園・第八次踏査【1】

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(「白岩公園・第八次踏査【序】」の続き)

シダ藪はほいとを散布しないしトゲも持たない。ただ葉を上に向けて生い茂るために地面を覆い隠してしまうので、先へ踏み込もうとするとき障害になる。それらを刈り取る道具などは今回も持ち合わせなかったが、代わりの手段は考えてあった。
極めて原始的だが、
シダ藪がなくなる端まで最小限に移動し、
その裏側に回り込む経路をとる。
というものである。

前に進めないので、高度を下げる形にはなるが左側の沢側へ避けてシダ藪の背面へ回り込むよう努力した。もちろん道どころか踏み跡すらまったくない。

少しでも足元が見えるようになった時点でそれ以上離れることなくシダの中を進んでいった。
あまり先の進攻開始場所から離れると経路の再現性がなくなってしまうので。


シダ藪を回避している最中だ。
右側に見えているのが先ほど正面に見えていた進攻不能箇所である。もしここだけシダで隠されているのなら、その先に再び踏み跡が現れる筈だ。


完全な真裏ではないがおよそ回り込んだ場所がここだ。
さあ、どうだろうか…これは…道の痕跡だろうか?


暫くは草の生えない領域が見えたように思えたので、道かも知れないという期待感が起こりかけた。
しかしこの作戦もそう巧くは働かなかった。再び別のシダ藪に見舞われたのである。しかも今度はシダだけではなく他の種の雑木が混じっている。


この辺りは割と日照も見込める斜面であり、そのためにシダを始めとする雑木が旺盛ならしい。

再び思わせぶりな道の痕跡が現れた。
俄には信じられない。この程度の長さでシダが避けて生えている場所なら今までにも出会っていた。


やはり道ではなかったか、道だったとしてもほぼ完全に喪われてしまっている可能性が濃厚になった。

こんな酷い状態なのである。特に上へ向かって伸びる枯れ枝のようなツタ系は要注意だ。棘を隠し持っている可能性大である。
こんな中を強行突破しようにもそろそろ進攻モチベーションが削がれてきた。


進攻できるわけもないので、回避そしてまた回避が続いた。経路を確保しながらも出発点からできるだけ直線的に進むよう仮想上のルートを頭に描いていた。大きく下ったり登ったりはしていないので、尾根伝いに進んでいると思う。それにしても何らの進展もみられず、引き際を見極めるときが近いと感じた。
仮にこの先に倒壊御堂が見つかったとしても経路の再現性がないからだ。この考え方は直近の合同調査会によって培われた重要な考え方である。

今手がけているのは、白岩公園コースから直接倒壊御堂などに向かう経路の開拓(と言うか再発見)だ。それは私一人がたった一度到達できれば足りるというものではなく、検証可能であることを必要とする。たまさか今、目の前に倒壊御堂が見えたとしても自転車を停め置いた場所から何処をどうやって歩けば良いものか私は誰にも説明できない。それでは意味がない。

こんな考えに傾きかけていても、引き返すときには常に「目標物まであと一歩のところで撤収する人間をあざ笑う悪魔」が想起される。さんざっぱら苦労して進攻し、やはりダメだ、この道は違う…などと諦めて引き返したとき、実はもう数歩でも先へ進んでいれば到達できていた…という事態だ。踏査の世界ではそれほど危険な場所へは入り込まないのであまり問題にはならないものの、これが雪山などではまさに「引き返す勇気」そのものである。

このような事態に臨んだとき常に自身に課している方法として、あと一つ、目の前の藪をこなしても何も無かったならそこで撤収しよう…と誓って先へ踏み込んだ。

何かが先にある!

それは最初、雑木林の奥に隠された平板なものとして認識された。しかし自然が造る藪の中に平らな形状のものなど稀で、何かの人工物であることは推測された。

肉眼では認識できていたものの、その映像を検証可能なレベルで撮影するためには、もう数歩藪を漕がなければならなかった。


石積みである。
シダで下側が隠されていることを思えば、高さは私の背丈以上にありそうだ。


こんなところに道などないし、かつて家が建っていたなんてことも有り得ない。実際、石積みの上にも下にも道の痕跡は窺えなかった。
ただ言えるのは2つ…いつの時代か分からないにしてもこの場所に石積みを築く必要性に迫られていたこと、それと今まで訪れてきたどの石積みでもないということだった。


横から眺めたところ。
眺めると言うか、自由なアングルで撮影できたわけではない。膝下まで押し寄せるシダ藪で歩き回ることすら不安な場所だった。


動き回るのも困難な程度に雑木で覆われた地に、石積みだけが遺っている…ありがちとは言え何ともシュールな光景であった。

安易で虫の良い想像だが、もしかすると石積みの上が倒壊御堂なのかもと考えたくなった。
合同調査会で弘法大師像の後ろへ降りたとき、御堂が実は山の斜面に据えられていて、張り出した部分には石積みが施されていたのを確認していたからだ。その全体像は倒壊御堂から確認できたわけではないので、もしかして現在地はその石積みの真下かも…という妄想的な考えを抱いた。

そのためにも私はこの石積みの上がどうなっているかを確認したかった。しかし現地はもはや盛大な藪の海…もはや経路を回避する術もない。


なおも悪あがき的に右往左往しつつ経路を探したものの、今度こそ完全な手詰まりだ。


無理…諦めます。
もう一歩も踏み出せない。一歩先の地面がどうなっているか全く分からないのである。


この場所のシダ藪の深さ。
既に腹の辺りまで茂っている。今の時期だからやり通せるものの、春先から秋口だったらこの下に何が隠れているやら分かったものではない。
今だって冬眠し遅れたヘビがのそのそ這っているかも知れない…


もはや倒壊御堂を含めて経路の検証可能性すら失っていた。副次的に未知の石積みを発見はしたものの、こういう塩梅なので地図のどの辺りになるかも不明である。

さて、自分の中で約束した通りここで引き返しである。

== 撤退中… ==

やっと白岩公園コースまで戻ってきた。


出てきた場所は、最初に自転車を停め置いて潜入開始した場所から10m程度離れたところだった。
方向感すら失うような山奥でもないので別に不安はなかった。


何の目印もなさそうな藪の中へ分け入っていながら、撤退時に大方元の場所へ戻れることについて幾人かの読者からは不思議だと指摘を受けている。元の場所が分からなくなり山の中を延々彷徨ってしまわないかとか、道のない藪を歩き回ること自体不安を覚えるのではないかなどなど…

実のところその件については殆ど不安に感じていない。それは方向感覚について自信があるとか経験を積んでいるからという過信めいたものではなく、単にここが延々彷徨い続ける羽目に陥るほど深い山ではないからというだけである。どの方向にどの程度歩いているか位は体感できている。印象的な地形や岩、樹木は目印になる。それらを頼りに元の位置へ戻っている。たまさか本当に分からなくなったとしても、際限なく深山へ分け入ってしまう事態さえ回避できれば、直線的に歩き続ければかならず分かる場所まで出て来ることができる。[1]

シダ藪漕ぎなのでほいと被害はない。しかし苔生した倒木を跨ぎ越す場面は数回あったため、ズボンは幾分泥で汚れていた。
こういう時独り身だと洗濯する人に文句言われないので楽だね♪


体力はそれほど消耗はしなかったが、時間は幾分費やした。なおも私はここが何かの道の痕跡であったという仮説を取り下げる積もりはない。限りなく自然へ還ってしまっているだけである。そうでなければ白岩公園コースからの分岐点の思わせぶりな経路と黄色いリボンはあまりにも罪作りだ…^^;

ここにばかり時間を割いているわけにはいかない。次を検証した。もう一つ、道があるのではと思われる候補地が近くにあった。
白岩公園コースを進んで軽トラ程度の車が到達可能な最後の場所である。ここで転回可能なように小さな広場のようになっている。


自転車を停めた場所から山側は殆ど起伏がなかったので、進入路がありそうな気配を感じていた。
ここは日当たりが悪いせいか厄介な下草は殆どみられない。

白岩公園コースをちょっと外れただけで忽ち深い藪に見舞われた。この辺りは割と露岩も多い。
さすがに道はなさそうだ。


この軽トラ転回場を過ぎると白岩公園コースは本格的な登り坂で道幅も狭くなる。
雨が降れば水の通り道になるせいでかなり洗掘されている。


ここから左への分岐路がないか丹念に観察しつつ自転車を押し歩きした。

(「白岩公園・第八次踏査【2】」へ続く)

出典および編集追記:

1. もっとも獣道程度の踏み跡があっても地勢によっては本当に迷う場所もあるので、一般には道のない場所を単独で歩き回る行為は勧められない。足を挫くなど不測の事態を考えて、外部と連絡を取れる手段(モバイル機器の携行など)は確保しておく必要がある。

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