白岩公園・第九次踏査【1】

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(「白岩公園・第九次踏査【序】」の続き)

両側から突き出た木の枝が刈り取られているため、前回よりはるかに快適である。クモの巣も殆どなかった。
ボール橋のある水路は灌漑用水の非需要期に入ったためか再び涸れていた。


石段の始まる場所に設置された白岩公園跡の標注。
これは山岳会の方々によるものであることが判明した。


さて、この標識があるところから石段を少し進みメインの道から左へ逸れる枝道がある。今回ある試みを行う目的地はこの先にあるのだが…
ここで変化に気付いた。
道を塞ぐ雑木が伐採されている。


今までにない変化だった。以前は道の形も分かりづらいほどに雑木が生い茂って混沌とした状態だったのだ。道を塞ぐ場所に生えた木は伐採され、園路の外側へ揃えて置かれている。

小さな沢に架けられた石橋。
この存在自体は数度の訪問により見つけられていた。
横から見ると僅かに上へ反り上がっている


園路を塞ぐ形で育っている大木はさすがにそのままだったが、周囲の低木はかなり整理されていた。
さて、目的地はすぐそこだ…


未だに正体がよく分かっていない小井戸である。
すぐ上に藤山八十八箇所・第59番の祠が見えている。


さて…この場所まで手揉みポンプと火挟みを持ち込んだ理由が分かっただろう。
小井戸の水を汲み出し木の葉を除去すれば
何か古い遺物が見つかるのでは…
白岩公園は時期を変えて何度も訪問され、そのたびに新たな発見があった。しかしそれは現地を歩き回って目視が効く限りでのことである。すべてが完全に見つかっているわけではない。
何しろ数十年のレベルで放置された庭園である。永い年月により落ち葉が積み重なり、周囲に降る雨は土砂を沢地へ押し流した。主要な遺構が隠れているとは思えないものの、落ち葉や土砂の下に当時を物語る未発見の資料が埋もれているのはほぼ確実と考えている。

本格的に取り組むなら、強力な電動ポンプや土木作業向けの角スコなどを持ち込んで行えば効率的だろう。しかし今回は自転車での訪問であり、更に念頭に置いていたのは「非破壊的調査」である。
白岩公園は依然として個人の所有地だ。園内を調べることに関しては明確に所有者の許諾を頂いているものの、極度に原型を変えたり園内の景観や現状維持を脅かすような改変をしてはなるまい。そこで自分としては正体がよく分からず最も気になっている小井戸に対して小道具により内部の水を汲み出すという非破壊的な手法による試験的調査が念頭にあった。

今回、この小井戸を試験の場に選んだのは、溜まり水の容量が少なく手揉みポンプ程度で除去できると考えたこと、弁財天の井戸のような役目があったなら、時代考証可能な賽銭などが見つかる可能性が高いと思ったからである。少なくとも霜降山で伝説の「金の鶏」を探すよりは現実的で確率も高いだろう…[1]

…と言うわけで本日のメインイベント地へ到達。
木々が伐採されているとは言っても相変わらずこの場所は暗い。


ここで私は手持ちの火挟みと手揉みポンプを地面に置いた。
一仕事が要るからついでに肩のショルダーバッグも降ろした。


まずは着手前を撮影。さすがにこのときだけはフラッシュONにする必要があった。
初めてこの物件を見つけたときからまったく変わっていない。水位が変動しないのである。


小井戸は片仮名のコの字型に石材が置かれているだけで、内部がどの程度広いのかは分かっていない。底に落ち葉の堆積しているのが見えるので井戸のように深いものではないだろう。意味あって人工的に造られたのは疑いないにしても、未だこの小井戸に関する設計書や文献などいっさい接しておらず、誰も何も知らない存在である。

まずは排水用の溝を火挟みで掘り起こした。
すぐ浅いところに木の根が出て来るので汲み出した水が流れ出る程度だけ掘った。


小井戸の中にポンプの足を降ろして手で揉み続ける。
何とも原始的な作業だが、排水作業に関しては充分に役立った。


== 排水作業中... ==

かなり根気よく継続して体感的には石油ファンヒーターのカートリッジ単位で2〜3個分程度は汲み出せたと思う。この日は天気があまり冴えず、また気温がいつもより高めだった。同じ場所に居続けて汗をかいてきたせいか、一匹のヤブ蚊に私の居場所を突き止められてからは数匹が生命維持のために強制的献血のご協力をお願いしますとばかりに執拗に集り始めた。鬱陶しい。

一段落したところで再度フラッシュ撮影する。
この時点では目に見えて水位が下がっていた。


桝の角から侵入しているあのモジャモジャしたものが気に入らない。火挟みを使って取り除こうとしたが、つまんで引っ張ってもまったく微動だにしなかった。水草ではなく近くの樹から伸びている生きた根だったのだ。

次に火挟みを使って底に溜まっている落ち葉を取り除くとしたのだが…
小井戸の底へ一突きした瞬間、微細な泥濘がモワーッと浮き上がって底が見えなくなった。そうなることがかなり予測できたので、水底を乱さないよう慎重に行った積もりだったのだが…透明度を取り戻すまでしばし待たなければならなかった。

待機する間、現地をフラッシュ撮影した。
周囲はかなり暗い。実際の見え方はフラッシュなし撮影より更に若干暗い程度だ。


再度、小井戸の傍へ接近したとき…いや、厳密にはその少し前から異変を感じ取っていた。
水位が作業前まで戻ってしまっていた。
ポンプ作業によって確かに水位が下がったのを見届けて木の葉除去作業に移ったのである。ところがしばし待機している間に再び水位が戻ってしまっていた。
何処かから湧水が流れ込んでいるのは確実だ。そうでありながらいつまでも流入しているのではなく、一定水準に到達すればそこで停まるらしい。どうやらこの付近の割と浅いところに水脈が走っていて、水位が下がれば供給され、雨水が流入すれば染み出ることで常時一定の水位が保たれているようだ。

持ち込んだ小道具だけではもはや手に負えない。
ヤブ蚊の鬱陶しさもあって排水作業は断念した。まあ、それほど巧く行くとも思ってはいなかったのだが…


持参していたスケールで小井戸の寸法を測定した。
岩に対して垂直な辺は65cmくらい。


平行な辺は75cm程度、肉厚は10cm程度だ。


最後にスケールの末端部を下にして小井戸の中へ入るだけ押し下げた。思い切り押し下げても桝の天端で1mにも満たなかった。
以上の調査結果から、小井戸と命名はしたもののこれは飲料水確保に掘られた井戸ではなく投げ銭のためのものか、単に周囲の湧水を集めるためのものだったと予測される。かつて人工の滝が設けられた記録もあることから、水源を確保するものだったのかも知れない。ただしこの小井戸から何処へ水を導いたか、内部がどのようになっているかは全く分からず、精密に知るには内部の水をすべて汲み出し落ち葉を除去する必要がある。
汗をかいてしまったし今日に限って気温が高めなせいか、一向にヤブ蚊が退散しようとしない。9月でさんざっぱら嫌になっていたので根負けしてその場を立ち去った。手揉みポンプと火挟みの出番はここだけなので、以後ずっと左手を塞ぐ形で持ち歩くことになった…

法篋印塔のあるエリアは充分な撮影ができていなかったので、その方向へ歩いた。
白岩公園入口辺りから気付いていた園路の変化は、ここから先で更に明らかな形となって現れた。
この石段って前からあったっけ?


周囲の木々の密度はまだしも落ち葉の堆積土は初回踏査時とそれほど変わっていないから、景観の変化で初めて訪れたように思えるだけだろうか。
石段の上に生える樹木には見覚えがある。その他の部分は…ちょっと自信がない。

ここでは園路に生えていたと思われるかなり幹径がある樹木も伐採されていた。
これはうちのメンバーではないだろう…先ほどの山岳会の方々だろうか。


明らかになった園路を辿ることで、今まで訪れた記憶がまったくない石段に出会った。
ここは既に撮影していただろうか…


この石段を登った先にあったのは…
以前に訪れていた御堂の建築現場らしき場所だった。


このエリアはかなり初期に分かっていたものの平場一面に低木が生えていて接近が困難だった。このたびは下草が全部刈り取られ、平地が明瞭になっていた。
地面が明瞭に観察できるなら何か新たな発見があるかも知れない…そこまで行かなくとも全体像を見渡せる写真だけは確保できそうだ。

(「白岩公園・第九次踏査【2】」へ続く)

出典および編集追記:

1. もっとも私有地で発掘される財宝類は当然ながら土地所有者に帰属すべきものである。白岩公園の研究に関わる我々は昔の姿を分析し理解することに重きを置いているのであって、財宝で一山当てる山師的な発想はない。
もっとも何か見つかるかも知れない…というわくわく感は当然あるが

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