(「峠」の部分が地元でどう読まれているかは分からない)
県内に限定しても同じ読みの峠があるだろうし、国内まで拡げれば漢字表記まで一致する峠が存在する。
「才」は些か地名に馴染みが薄い漢字と思われるが、後世の後付けとも考えられる。峠に限らず多くの地名において”初めに読みありき、漢字表記は後付け”の傾向があるからだ。
(最後の章末でこの件について言及する)
県内にいくつかあるかも知れない中から、今回訪れた才ヶ峠の位置を地図で示しておく。十字カーソルでポイントされた付近が峠になる。
地図では「サエガ峠」と片仮名表記されているのが気になるが、この峠にはどんな固有のネタが隠されているのだろうか…
そのことは峠に関する予備知識なしに上記の国土地理院の地図を眺め、操作するだけでも明らかになる。
・標高が異様に低い。
・低い峠ながら知名度が高い。
上の地図を拡大表示すると等高線が明らかになる。等高線から標高を読み取ることは容易いと思うが、茶色の線は標高10m刻みで、50m毎に太線で表記されることになっている。才ヶ峠(地図では「サエガ峠」)の最高地点は50mに届いていない。・低い峠ながら知名度が高い。
もう一つの知名度の点は、やはり上の地図から明らかになる。
地図は縮尺が小さくなるにつれて広範囲を表示する。その際にすべての地名などを書ききれないので、マイナーなものは間引かれて主要な地名だけが記載される。
上の地図で広範囲表示に変え、阿武郡全体が入る状態にしてもなお、サエガ峠の表記が見られるのである。
(ちなみに同じ日の最初に訪れた山口市の荒谷ダムは同じ縮尺ではダム名すら表示されない)
この峠は確かに低いが、地形的には大変に分かりやすいランドマーク的存在である。奈古側は途中まで郷川に沿って遡行し、峠を越えた先は宇久川を下るようになる。2つの川は同一河川系に流入することなく、独立して日本海に注いでいる。この意味でサエガ峠は小さな分水嶺を形成している。
才ヶ峠のある阿武町は私の住んでいる地区からは遠く、特に国道191号のこの区間を車で通ったことは数えるほどしかない。それにもかかわらず、私は一度この峠を越えただけで場所を完全に覚えてしまった。もう一つの分かりやすいものが峠に存在するからだった。
峠名の表示板がある。
峠名の表示板は何処にでも設置されているものではない。国道で名前を持つ峠ですら何もない場合が多い。(特に山を削り谷を埋めて造られた県内のバイパスにあっては峠という概念からして殆どない)
それ故に、最高地点が50mに満たないのに歴とした峠としての名前を持ち、それを明示する表示板が立っているということは、昔から重要な拠点として認識されていたに違いない。
11月の上旬、私は萩往還道路の踏査へ行くスケジュールの後にこの峠を訪れて写真を撮るミッションを組み入れた。この峠にどういう由来があるのか、何か縁あるものが見つかるのかという以前に、もっと素朴な気持ちがあった。
何年も前に何度か通り、ただの一度も
見逃したことがなかった峠の表示板を撮りたい。
---見逃したことがなかった峠の表示板を撮りたい。
時系列セクションで語るかも知れないが、萩市街部を出て最初に出会う道の駅「萩しーまーと」手前で酷い事故渋滞に巻き込まれた。
それでなくても萩往還道路で長居してしまっていたのに、渋滞を抜けきるまで30分以上を費やし、奈古の道の駅前を通過した時点で既に午後3時半を回っていた。
(この時点でアジト帰還は午後9時頃になるかも…という覚悟を決めていた)
国道191号が奈古の街並みを後にすると、殆ど丘越えのような峠を目指して少しずつ高度を上げていく。ただ一本の峠目当てにここまで来たのだから、再度撮り直しに来なくて済むよう丁寧にこなしたいと思った。
(以下、冗長な写真が多いと感じられるのはそのためである)
あとどれ位で峠に差し掛かるか分からず、緩やかな登り坂の途中にある駐車スペースで一旦車を停めた。これは少し歩いてきたところである。
写真を観る限りでは割と山奥に入ってきた印象があるだろう。
同じ場所から振り返って撮影。遠くに山々が見えるものの海岸線までそう遠くはなく、標高も低い。
車は自販機コーナーのある広いスペースに停めていた。
ここからそう遠くないのでは…と思い、車を停めて歩いたのだが…
いくら通るとき一度も見逃したことはなかった峠とは言っても、訪れたのは何年ぶりか分からない位だ。どの程度坂を登れば峠があるか分からなかった。
低い峠とは言っても、登り始めとなる奈古は漁港に面しており、海抜は殆どゼロに近い。国道の縦断勾配も割と緩やかだから、遠くから長い坂を登っていくことになる。車を停めたこの位置は峠に対して余りにも遠すぎだった。
既に日は相当傾いており、使い物になる写真を撮るならここから歩くなんて悠長なことはやっていられない。すぐ車に戻った。
峠の手前で車を停められる場所があればいいのだが、その保証などなかった。峠を車で通り過ぎるならチャンスは一度きりなので、カメラをダッシュボードに固定してスイッチを入れた。
どのみち適当な場所に車を停めて歩いて撮影する腹づもりだったが、車道からの映像は一発勝負だ。
登り坂の勾配が緩くなる。表示板が見えてきた。
後続車両がないことを確認してスピードダウンしている。
歩道に峠の表示板が見えるだろう。
手前過ぎると表示板が分からないし、通り過ぎてシャッターを押しても意味がない。ギリギリまで表示板を引き付けてシャッターボタンを押し、後は運任せ状態だった。
(すぐ後ろを走る車は居なかったが坂を登ってくる後続車両は見えていた…動画モードにすればよかった)
通過は全く一瞬である。鮮明な映像を得るなら動いている車からの撮影ではダメで、現地まで歩き、立ち止まって撮影しなければならない。
峠を通過後、何処か車を留め置ける場所がないか探した。
表示板を過ぎて下り坂に入る手前で左側に入る旧道のような狭い道を見つけたが、急ブレーキになるので停まることはできなかった。そのまま坂を真っ直ぐ下った先に同じ道と思われる合流点を見つけたので、すかさず左へ曲がった。鋭角のカーブを折り返して暫く走ると、確かに先ほど見た国道への入口に戻ってきたので、その手前に車を留め置いた。
ここまで来るのに要した時間を思えば、サッと車で通りすぎてハイ終わり…という訳には行かない。必要なデータはゴッソリとデジカメ映像で持ち帰る腹づもりだった。
以下、実際に車を運転したのと同じ奈古から木与に向かうのと同じ順序で写真を配列した。
(実際の撮影順序とは若干異なっている)
---
最高地点を過ぎて最初に見つけた左への分岐。
停めている車のお尻が見えかけている。
まずは車で通り過ごしたように木与(きよ)方面へ向かって歩いた。
(こんなアジトから遠く離れた場所で歩くなどもう二度と有り得ないだろう…と感じつつ…)
117K400地点。
国道は殆どカーブを伴わず素直に下っている。勾配もそれほどきつくはない。
主要地点までの距離を案内する青看。117K500地点である。
殆ど坂を下りきったところにドライバーへ呼びかけるサインがある。
ゆっくり走ろうあぶの道
(虻がブンブン飛び交っている道で窓開けてゆっくり走っている状況を想像してしまった…^^;)
振り返って撮影。
この合流点でサッと左へ曲がり、細い道をたどってさっきの場所に車を留め置いたのだ。
国道には峠の最高地点にある県道分岐点の予告案内が出ている。
戻るときも最初に車で通ったのと同じく、右側の細い道(もしかすると古い峠越えの道かも知れない)を歩いた。
昔の峠を偲ばせるものの存在と、あるものが見えるかも知れない…という思惑があったからだ。
それは普通車一台なら通れる程度の舗装路だった。
右側がかなり低い沢のようになっており、想定しているものがそこに在ることを窺わせた。
ちょっと路肩に寄ってみた。
斜めに切り取った地山をコンクリートで固めた部分が見える。確かにそこまでは分かったのだが…
ざっと眺めたが当面、それ以上の情報は得られなかった。
これは峠ミッションなのだから他の題材にあまり頓着はできない。日が暮れるまでの時間と追い駆けっこ状態に置かれていれば尚更だった。
(何のことかは…まあいずれ分かるだろう…^^;)
この道は登山道への分岐を経て再び国道に出てきた。先方左側に車を停めている。
国道に向かう少し手前で分岐して、山側に向かって伸びる細い道があった。
林道遠嶽線と呼ばれる民有林の道で、登山道も兼ねているらしい。
(熊が出没するってのに案内板はどことなくゆるふわ系w)
看板の左横には阿武町謹製の遠岳山登山道の案内柱が立っていた。
しかしその他に峠を特徴付けるそれらしきものは見つからなかった。
さて、それでは峠の表示板撮影に向かおう。
国道を渡って反対側車線に移動している。停めている私の車のお尻が見えかけている。
県道分岐を案内する青看があり、その柱を利用して遠岳山登山道はここから入る旨の案内も出ていた。
遠方に住む私が知らないだけで、遠岳山はローカルな山を愛する人々によって好んで登られているようだ。
(検査で調べると驚くほど多くの登山記を見つけることができる)
奈古近辺では本土部分が日本海側へ突き出た形状になっている。その半島部にある山なので見晴らしが良いのが人気の理由の一つになっている。
峠の表示板が山手の歩道側に見える。これだけはそこまで歩いて行ってでも撮影しようと思った。
(「才ヶ峠【2】」に続く)