面河内池【3】

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(「面河内池【2】」の続き)

地図通りに山道を辿ることはできたものの、一向に姿を見せようとしない溜め池…到達したと思えばまるで場違いなところに自転車を停めて取り戻しに歩くこととなり、今度は堰堤の場所が分からず…やっとの思いで対岸に見いだせたと思えば堰堤まで到達する道がまったくない…
県道からこの山の中へ分け入って既に一時間近くが経過していた。強行突破に訴えようかとも思いかけていたところ、ふとした発想の転換から突破口が見つかった。
やはりここが堰堤に向かう昔の道らしかった…
その妥当性はさておき、救いがたいと思われていた酷い藪は延々と続くものではなかった。正に入口部分が隠されていたようなもので、困難な短い区間を強行突破するとその先には意外に平穏な踏み跡が見いだせたのである。


何処にその糸口が見つけられたかは…
後で話そう。時間がない。読者もいい加減焦らされていることだろう…現地に居た自分まで読者のことを思ったわけではないが、時間が押していることもあって先を急いだ。

先ほど水路に沿って雛壇状の部分を辿ったが、この踏み跡はその延長のようだった。
酷く荒れてはいるがさほど起伏のない踏み跡がずっと続いていた。


雛壇部分は次第に狭くなり、やがて池の岸辺に一致した。そして原生林に視界を遮られながらも面河内池の水面がごく近くに見え始めた。


思えば面河内池を少しでも眺めつつ進攻できる初めての踏み跡だった。
岸辺までの傾斜も先の水路沿いの道ほどきつくはなかった。もっとも汀へ接近できるほど安全そうではない。


この丸っこい大岩には見覚えがある。
先ほど雛壇の下へ接近し、藪の間から何とか先を窺ったとき見たこのショットで撮影した岩と同じだ。


この岩の存在で自分の現在位置を概ね理解できた。

踏み跡の周辺は樹木が乱立しているものの意外に幅が広かった。もしかすると堰堤を築くときの工事用道路だったのかも知れないと感じた。既に見たとおり、中山観音から遡行する道がまったく存在しないことを確認済みなので、何処かに資材を搬入する経路が必要になる。面河内東分岐までは今でも軽トラ程度が通れる道だし、例の落ち葉に満ちた下り坂道も整備すれば通行できる幅があったからだ。

もっとも現在はまず誰も通らない廃道同然らしく周囲にゴミを含めて人工物が見あたらなかった。育った木の幹から推測してここ十数年レベルで放置されていたように思われた。


岸辺の一角に大量の岩が寄せ集められていた。
元から自然に存在していたのか、堰堤工事のとき出てきた岩を集めたのだろうか…


そこを過ぎて初めて周囲の鬱陶しい原生林が退き、面河内池の全容が見え始めた。
堰堤に到達したのである。


先にズーム撮影で窺い知れた通り、堰堤部分は平ブロックになっていた。
それほど昔の施工ではないらしい。


初めて目にする面河内池という溜め池の姿。
堰堤以外に人工物が見あたらない。岸辺は見渡す限りすべて自然の汀だった。


中山観音の裏手にこんな接近し難い溜め池があったことなど、殆ど知られていないのではなかろうか。


平ブロックから降りられるが後回しにするとして、まずは余水吐に接近を試みた。

ここは本当に最後の試練だった。余水吐付近は一定幅で堰堤が切り取られていて日当たりが良好だった。そのせいで今まで歩いてきた場所どころの比ではない位に藪が密集していた。


転落防止柵らしき白いガードパイプが見えている。あの外側は走水路なのは確かなのだが、みっしり笹が繁茂している。
定期的に草刈り…なんてことはここ数年来行われてなさそうだ。


余水吐のガードパイプがすぐそこにある。
それでありながら接近するなとばかり執拗に押し返す笹藪。


ここは踏ん張りどころだ。親の敵とばかりに背中というか肩というかグイグイ藪の中へ押し込んだ。
その結果…
捕まってしまった…


このイバラは大変に強靱だった。結構丈夫なスラックスを履いているのにその繊維を平気でかいくぐって棘を突き刺している。
少しでも動くと棘の先が皮膚を引っ掻いた。かと言って無造作につまんで引き剥がすこともできない。


何とかイバラを取り除いた後、人間に攻撃を仕掛けて来ない笹藪だけを選んでかき分ける。
あと一息だ。これほど酷い状態で放置されている場所も珍しい。


やっとの思いでガードパイプからカメラを差し出すことができた。
余水吐の様子。満水状態で少しずつ流れ出ていた。


ここから走水路の下流側を撮影したいと思ったのだが…
余水吐から先がすぐ曲がっているために先を窺うことができない。その先を窺うためには身を乗り出さなければならずあまりにも危険過ぎた。


この走水路の下流側がどうなっているかは当初から一つの興味の対象だった。

以前、面河内池の堰堤に向かおうとして中山観音の駐車場から中山川を辿ろうとして道がなく断念した。


実感が湧かないのだが、現在自分の居るところは上の写真の撮影場所から直線距離で200m以下の筈である。極端な話、写真で見えている水路が山あいに消えている部分イコールこの走水路の末端下流部という事態すら有り得るだろう。
そうとなればもしかして初回踏査ではリサーチ不足で、実は民家の裏手から水路を遡行して堰堤へたどり着ける道があったのでは…とも思われたのである。

それを検証するためには、何としても走水路のもう少し下流側を観察する必要があった。
しかし余水吐付近で既にこんな酷い有り様だ。ここから走水路の下流側へ接近できる経路なんては…果たしてあるのだろうか…

(「面河内池【4】」へ続く)

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