面河内池【2】

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(「面河内池【1】」の続き)

水路沿いの細い道は池に沿ってうねうねと伸びていた。岸辺から殆ど離れていないながら原生林が密生しているために眺めが殆ど効かなかった。今やせっかくターゲットに到達できていながら、面河内池はいつまで経ってもその表情を見せてくれなかった。

水路は溜め池の斜面に造られているようで、進行方向右側は急な山、左側は溜め池まで急斜面だった。


水路の管理道からはこんな感じで足元の水面しか見えない。
水面までの高さは背丈以上。転落の危険があってさすがにこれ以上は近づけなかった。


面河内池の一部だけを垣間見ることで足りるならこれで良しとできるだろう。しかしそれでは到達したことにはならない。今までの溜め池踏査では、馬の背の新堤のように難航した事例があるもののすべて堰堤まで到達している。それ故に面河内池でも堰堤部分に到達できなければミッションを遂行できたことにはならなかった。現状は堰堤到達どころか、未だそれが何処にあるやらも分からない状況なのである。

この狭隘な場所を過ぎると一転して段々畑の痕跡のような場所に出てきた。
四輪が入ってきた形跡はないがどうかすれば通行できそうな程度の幅があった。


写真には入っていないが、雛壇は現在地より高い場所に一段、低い池の方には数段あるようだった。もっとも雛壇のようになっているという地形が窺えるだけで、雑草だけでなく背丈の高い樹木まで進攻していた。
この奇妙な雛壇的地形は、事前に閲覧していた地図で確認済みだった。恐らく段々畑か棚田の痕跡だろう… (地図では概ね現在いる場所を中心にポイントしている


地図では面河内池の岸辺ぎりぎりまで棚田になっている。このような例は珍しい。恐らく今まで辿ってきた水路によって別の溜め池から用水を導いているのだろう。
上の航空映像でも既に田畑は機能しておらず荒れ地のように映し出されている。これを降りれば岸辺に接近できるのだが、現状はもっと酷く棚田どころかまったく踏み跡が窺えない程荒れていた。

季節柄、上の段の平場には梅の花が開いていた。
もっともカメラに収めるだけだ。今は悠長に春の風物詩を堪能している状況ではない。


この辺りは視界が開けている代わりに面河内池の岸辺は遠のいてしまっていた。
この近くに堰堤へ向かう道がある筈だが…それを見つけるよりも先に、十数分前に訪れて見覚えのある場所が現れた。


接近するまでもなく前方に見える石橋で先ほど坂を下るのが嫌でズームで先を窺った場所と理解された。


その光景を見て結構脱力してしまった。
そのまま自転車で下って来れば良かったのだ…
坂の上からカメラに偵察させたあの石橋だ。
中山観音に向かって再び登り坂となっている道の他に、石橋を渡って水路沿いに伸びる道もあった。
面河内東分岐とでもしておこうか…


先ほどは西分岐付近に自転車を停めてここまで岸辺沿いに歩いてきた。しかし面河内池の全容を眺められる場所にはまったく出会えず、堰堤に向かう分岐もなかった。面河内池は私の脳内で描いていた位置よりもずっと東にあった。ここから歩いたとしても堰堤は更に岸辺を東に辿ることになるらしい…

ズームで撮影していた先ほどはここへ出てくる他の道があるとは思っていなかった。ここから県道に降りる道もあるようだから、帰りは自転車に跨ってサッと坂を下りれば楽だしアジトにも近い。
遙か離れた場所に自転車を留め置いてここまで歩いてきたのが殆ど無駄足になった。大儀だが自転車の元へ戻らなければならないのは一緒なので、急坂を歩いて自転車を取りに戻った。

== 再び数分が経過... ==


落ち葉で滑りやすい坂道を一気に下ってここへ舞い戻ってきた。


それにしても…なかなか遠回りをさせてくれる溜め池だ。如何にも無駄歩きが多い。一向に踏査が進まない上に溜め池の写真も現れず、結構焦れったくなってきた読者が多いことだろう。
こんな展開でディスプレーに石が飛んでこないか内心ヒヤヒヤしている…^^;
これほど手こずるのもまったく初めての場所で地理に疎いのと、周囲の眺めが殆ど効かず自分の居場所がつかみづらいこと、地図にこの近辺の山道がマトモに記載されていないのが原因だ。

既に時刻は午後3時を回っていた。ここまで粘ったのだから日没再試合なんて考えてもいない。今度こそはバシッと決めようぞ…

まずは堰堤が何処にあるか正確に把握する必要があった。どの方向にあってここからどれ位の距離があるか分かれば次の作戦を練られる…
そこでまずは比較的安全と思われる雛壇状の土地へ降りて可能な限り岸辺に近づくことを企てた。

最初の一段を下りてきたところ。この辺りはまだ草原地帯で降りるのにそれほど困難はなかった。


棚田の端まで来たところで漸く水面が見え始めた。もっとも自然の汀で堰堤は見あたらない。
もう一段程度下の棚田へ降りて様子を窺う必要がある。


しかし2段目からは急激に藪化が進行していた。雑草だけでなく灌木が目立ち始め安全に降りられる場所が見つからない。
1m程度の棚田の段差も足元の地面が見えないとなれば足を伸ばすのが躊躇われた。枯れ草で覆われているのは見せかけであって、もしかするとその下は湿地帯かも知れないからだ。

野ウサギの目で踏み跡を探す。
ここなど踏み跡とは言い難いがそれこそ野生動物の通ったような痕跡があった。


野生動物の後を追うようにその踏み跡から下の雛壇へ降りた。足元の地面は何とか分かるが前方の藪が酷い。

その下の雛壇は痕跡こそ窺えるもののまったく踏み跡がなかった。
たった1m程度の高低差とは言っても周辺は枯れ草ばかりで体勢を保持できる木の枝がない。見かけ以上に降りるのに苦労した。


やっと岸辺が見えてきた。
周囲は酷い笹藪…日当たりが結構良いせいで密集度は高い。しかし藪の隙間から対岸にそれらしきものが見えかけている。


既に自分の目には見えていた。しかし読者にも分かるような映像として持ち帰らなければならない。

藪をかきわけるようにズーム撮影する。
見えた…


堰堤だ。樋門らしき棒も見えている。


位置関係が漸く把握できた。
現在地は池の南側に伸びる細い入り江の対岸から眺めていることになる。

どうしても手前に生える木々がピントを奪ってしまう。
再度、若干場所を移動してズームで木の枝をかき分けた。


余水吐だ…
水位が高いせいか池の水が越流しているように見えた。
ここからでも周囲が著しく藪に蹂躙されているように見えて本当に到達できるのかかなり不安だった。


あの場所に堰堤があるならば…
堰堤へ向かう道があるならやはり自転車を停めたあの近くだ。


普通なら経路が判明した時点で「もらった!」とばかり即座に進攻開始するだろう。
分かっている…多分ここら辺から進むのだろうってことは先ほど感じていた。
さっきは水路沿いに歩いて石橋のある東分岐に到達し、自分の無駄足を嘆いて自転車を取り返して来た…その過程で「突撃開始予定箇所」の前を通過した。その時点で嫌な予感がしていたのだ。
もしここに堰堤へ向かう明白な踏み跡があったなら、自転車を取りに戻るなんてことは後回しにして直ちに進攻開始していただろう。それをしなかったことからも分かると思うのだが、
堰堤方向へ進める道がまったく存在しない。
現地の自分は突撃開始地点の写真すら撮っていなかった。撮影したところで全く何処にでもあるような藪で、記録する意味もないと思われたからである。

改めて自転車を留め置いた場所から数歩ほど堰堤方向に進んで振り返って撮影している。
もうそれだけで自転車の存在すらかき消されそうな程の藪状態だったのだ。


ここまで来たのだから…と根性論に頼って突撃できなくはないだろう。しかし考えてみて欲しい…先ほどズームで撮影した堰堤は少なくとも100m程度離れていた。先の状態がまったく見透せない藪の中を100mも漕いで歩くなど狂気の沙汰である。
いや…むしろ壮大な「罰ゲーム」とも言える^^;

棚田を一段下に降りて歩こうかとも考えた。そこは幾分藪がとれて視界が効くからだ。
もっともその棚田へ降りるだけでも足元が見えない草地を進まねばならない。降りたところでそこから先堰堤まで安泰に進める経路が保証されるわけでもない。


ここからではなく別の場所から堰堤に向かう道が伸びているのかも知れないと思った。あまりにも道らしい痕跡すら感じられない。
石橋のあった西分岐からは中山観音の八十八箇所に向けて再度山を登る道になっている。そこから分岐して堰堤に向かう管理道などあるのだろうか…

しかし今からその道まで戻って堰堤への分岐を探すなど悠長なことはしていられなかった。時間が押しているし、何よりもここまでいい加減遠回りばかり続いていたので、勝ち目がありそうなら強行突破も辞さない覚悟だった。それ故に安易に諦めて引き返す気が起きず、少しでも進みやすそうな経路がないか藪の中を右往左往しつつ踏み跡を探した。

それほど有名ではなく景色が秀麗と言われているわけでもない単なる溜め池…到達という自己満足と好奇心のみがモチベーションで日暮れにせっつかれつつ藪と格闘する私は相当に滑稽だった筈だ。
そんな痛々しい私の姿を見て救いの手を差し伸べる何かの存在があったのだろうか…私はしばし冷静さを取り戻し、ある視点をもって観察することで最終的にこの難関を突破する糸口を見つけることができたのだった。

(「面河内池【3】」へ続く)

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