面河内池【4】

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(「面河内池【3】」の続き)

面河内池から流下する中山川の水路区間に沿った道があるだろうか…それを知るには余水吐から少しでも下流側に辿らなければならない。
余水吐周辺は見渡す限り盛大な藪で、ところどころ攻撃性の高いイバラも混じっている。無計画に突撃すれば、全身にトゲを刺され磔状態になる恐れがあった。

可能な限り下流側で日当たりの悪い場所を当たっていたところ、斜面にコンクリート補強されたような施工跡が見つかった。その傍には僅かばかり踏み跡が見えているようでもあった。


日当たりの悪い場所にイバラは生えない。ここから最後のタスクに取りかかった。
施工跡から先は厳しい急斜面になっていた。何処まで下れば水路に出会えるのか分からず、足元を確認しながらの下降となった。

微かに水路の灰色部分が見え始めた。
まず水路に柵など設置されていないだろうから、転落しないよう慎重に近づく。


水路付近は日照があるせいか、再びイバラの大群が見え始めた。残念だが身を乗り出して眺めることなど能わない。トゲのたった一箇所が服に絡みついただけで足止めを喰らう…それほど有能な自然の磔装置なのだ。
別の枝を使って慎重にイバラを押しのけてカメラの視野を確保した。

走水路は櫛状の減勢工部分で一旦滞留し、そこから更に急勾配の水路となっていた。
水路の天端までみっしり藪が押し寄せており、沿って下っていく道が存在しないのは全く明らかだった。


同じ場所から振り返って余水吐側を写している。
視座と面河内池の水面が一致している。かなり急勾配でくだっているのが分かるだろう。


可能な限り下流側がどうなっているか知りたかった。ここから観察した限りでは走水路の上を跨ぐコンクリート床版の橋は見あたらなかった。これでは水路を挟んで堰堤の両側が分断され行き来できない。そんな不便な状態に造るとも考え難かった。

先を偵察しようと身を乗り出せば水路に転落しかねなかった。
左手で近くの小枝に身を預け、思い切り右腕を差し出して撮影ボタンを押している。ファインダーを覗きながらシャッターを押せないので希望通りのアングルではないがこれが精一杯だった。


減勢工の先は再び急勾配になり、先で曲がっていたために中山観音付近の民家からどれほど離れているかを知ることはできなかった。ただ、水路沿いの道も水路を横切る橋も存在しないことだけは確認できた。

撮影を終えて復帰するも慎重に枝を戻す必要があった。この辺り本当にイバラだらけであり、枝跳ねでも喰らったら間違いなく出血プレーである…sweat

ここから走水路に沿って下っていく道の痕跡の存在は…
いや…そんなの検証する以前にまったく自明であろう。


余水吐まで戻るときに撮影。
それでもここまで下ってくる経路はあったようで、微かながら草木が生えない斜面が遺っていた。
もっとも自分が突撃したことでより道らしくはなったが…


ここからの接近および撮影は、本当にこれが限界だ。年間通して一番草木の勢いが衰える今の時期でこれほど厳しいのだから、周囲を草刈り機でバッサリやらない限りいつ来ても同様だろう。

厳しいタスクを先に片付け、最後に後回しにしていた堰堤のブロック部分に降りてみた。

県タイプの平ブロック護岸である。この資材が用いられるようになったのは平成期に入ってからだったと思うから、堰堤の改修工事はそれほど昔のことではなさそうだ。
表面は苔だらけで雑草が蔓延っていたが、何とか斜面を伝って進めそうだ。


平ブロックはそれほど傾斜がなく表面も乾いていたので足を滑らせる心配はない。
それでも疲労がかなり溜まって足元が不安に感じられたので、慎重に進んだ。


池の全容を撮影するのは後にして、ブロック上を辿って余水吐付近に向かった。


余水吐に到達。満水位で自然に越流していた。
ここも走水路を挟んで行き来できるようにはなっていなかった。


カマボコ形をした余水吐部分は単純にコンクリート打ちっ放しで木の枝なども構わずそのまま流れ込むようだ。
比較対照となるものがないので分かりづらいが、幅は4m程度でカマボコの高さは1mくらい。溜め池側は水に隠れて分からないが急に深くなっているかも知れない。


更に堰堤の左岸側を眺めている。
樋門だろうか…一本のパイプが見えている。


ズームで先を窺った。
水面に向かう部分も堰堤も草に覆われていてよく分からないが、樋門小屋は恐らくなさそうだ。現在も使われているのだろうか。


もし安全に行けるなら樋門のところまで接近したかった。
越流部分は僅かに水が嘗めて流れる状態なので慎重に進めばスニーカーを濡らさず歩けそうだった。
しかし万が一足を滑らせたら…全身びっしょの濡れ野ウサギになるか、それよりもっと悲惨な体験を迫られるだろうと思い自重した。


越流した水が洗っているカマボコ部分の天端を歩いて対岸に到達する自信はあった。越流している水も少量でスニーカーを浸水させるほどではない。
それでも自分は敢えて試さなかった。元から余水吐の堰堤部は越流する水で洗われる場所であり、人が歩くようには出来ていない。それより何より…次の一枚を見て頂ければ理解されるだろう。

走水路の様子。
これほどの急勾配なのである!


底を嘗めるようにチロチロと水が流れておりかなりの苔を蓄えている。余水吐堰堤の上を歩いてフラッとなったら、池へ落ちまいとしてこちら側に身体を預けるだろう。走水路の側面にはまったくしがみ着けるものがない。水路の底がどれほど滑るかは未知数だが、このまま一気に滑落して先に見た減勢工のところまで転がり落ちて全身を「大根下ろし」にされるだろう…

馬の背堤の下池では走水路部分を横切るコンクリート床版が設置されていた。ここ面河内池では同様の構造物を欠いているのが不思議でならなかった。
ここまで到達する道は曲がりなりにも存在していた。しかし堰堤上を相互に行き来できないのなら、一体あの樋門がある場所には何処から到達できるのだろう?
傍目にも樋門側の堰堤は切り離された空間になっているように思われた。

平ブロック周辺には木々が生えていないのでさすがにある程度の眺めが効く。
ここでパノラマ撮影しておいた。
左端に写っている岩が先ほどの大岩の塊である


堰堤まで到達し写真を撮れたのだから取りあえずミッション・コンプリーテッドだ。
試行錯誤や遠回りばかり目立った割にはそれほど見栄えのしない溜め池だった。接近に困難を極めただけに僅かばかりの達成感もあった。

既に傾きかけた太陽が走水路の側壁に自分の影を落としていた。
滅多にやらないのだが西日をバックにポージングしてみた…♪
常盤池の陸繋島上陸を果たしたときも同じことをやったような気が…^^;


さて…そろそろ帰ろう。
既に時刻は午後4時近かった。悪戦苦闘したせいで予定より大幅に遅くなっていた。

面河内池踏査としてはこれで完了なのだが、最後に自転車を置いた西分岐から一体どうやって堰堤に向かう突破口を見いだしたのか書いておかねばなるまい。
殆ど終わりかけていた「物語」を一つにまとめず敢えて第5章を作成したのは、帰途で思いがけないドラマがあったからだ。
この最終章は殆ど後日談めいた内容になるだろう…

(「面河内池【5】」へ続く)

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