山立石池【2】

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現地踏査日:2012/3/17
記事公開日:2012/3/18
(「山立石池【1】」の続き)

その6日後の土曜日、用件を済ませて再び私は引野方面に車を走らせていた。そしてあらかじめ計画していた経路を見つけると本線を逸れて未舗装路に乗り込んだ。

車を乗り入れた直後。
そのまま車内から前方を撮影している。


この場所は地図では概ねこのあたりになる。


そもそもどの溜め池にも堰堤があり、そこから河川機能維持分を排出する用水路がある。そうなれば用水路を管理する道がある筈だし、そこを辿れば行けるのではないか…という推測があった。

カメラを更に右へ振ったところ。
道路がこの沢を辿らず、尾根部分を目指して急坂が始まる部分が見えている。


余談だが、かつて西岐波野口線の道路改良工事に携わったとき半年近く引野に通った。私が担当したのはこれより下流側の引野橋がある付近だが、今見えているこの急坂部分も恐らく同じ時期に整備された筈だ。
仕事を終えて帰るとき必ずこの坂道を車で登った。きつい登り坂は非力な車には低速走行を強いられるボトルネックである。当時、ここに緩やかな沢があるのにどうしてわざわざ一番勾配がきつい尾根部分に道路を通したのだろう…と考えていたものだった。
先にも述べた通り山立石池と黒谷池が両方の沢を占有してしまっているので尾根伝いに道路を通すしかなかったのである

さて、この農道を車で行ける場所まで進攻した。
農道は用水路に井堰がある場所で急に細り、先は荒れ道になっていた。


車を停めた場所から振り返って撮影。
広い田畑の一番奥になる。この辺りまでは農作業の軽トラもよく乗り入れるらしく、転回して出来たタイヤ跡が残っていた。


その先は恐らく車はもちろん人も殆ど立ち入らない場所らしくかなり荒れていた。道の幅は軽四でも余裕で通るが、踏み固められていない道ではタイヤが嵌るリスクがあって乗り入れる気がしなかった。


もっともターゲットが既に見えかけていたので焦る必要もなく、地道に歩いていく。

草刈りされていたのは車を停めた場所から数十メートル程度で、その先はいよいよ本格的な藪漕ぎになりそうな予感がした。


歩いて訪れる人もなさそうな荒れっぷりだ。
前方に堰堤が見えており、正体はよく分からないが堰堤の上にコンクリート製の建て屋らしきものが見えていた。
いつでも撮れると思ってズーム撮影していなかった


一年を通じて藪漕ぎに最も有利な時期だから、実のところかなり楽観視していた。既に堰堤が見えていたことも理由にあった。
ところがさすがに本気を出してもなお対処しきれない程に藪が濃くなってきた。さすがにきつい。
ダメだ…
藪の薄い護岸を歩こう…
護岸はコンクリートの天端だからそこには何も生えていない。そこを歩けば少しは楽に進攻できるだろうと思った。

水路の様子。実際は護岸のこの場所へ到達するのも酷い苦労を要した。長靴装備なら迷わず水路の中を歩きたいくらいだ。


先の方で用水路の折れ点が見えているが、護岸の上まで灌木が張り出しているので進攻できない。
一旦藪の中へ引っ込み、少しでも楽な経路を探すしかなかった。

最後の折れ点をやり過ごすと、先の方で水が落下する音が聞こえ始めた。
水路の先端部分は自然の滝になっているようにも見える。


用水路内に落下している巨大なコンクリート片。
これほど酷く割れてしまうとはただ事ではない。豪雨時によほど凄い流れが発生して折り取られてしまったのだろうか…


用水路を流れる水量は少なく、その気になれば飛び石伝いにスニーカーでもどうにかなるだろう。しかし肝心の水路は深さが背丈をはるかに超え、幅も3mくらいあった。言うまでもなく昇降できるような場所は何処にもない。堰堤へ向かうなら何処かで用水路を渡らなければならない筈だが、対岸へ渡れるコンクリート床版らしきものは周辺にはなかった。

さすがに不安になってきた。
進路どころかそろそろ視界が危うくなってきた。それでもこの酷い区間をやり過ごせば対岸へ渡れる場所があるのでは…という淡い期待もあった。

前方に見えかけていた自然の滝をとらえた。
橋は架かっていなかった。ここを横切るにしても何処から降りるものやら、更にはそこまで到達可能なものやら…


これはダメかも分からんな…
カメラは水平より若干上向きに構えている。
堰堤上に白いガードレールが微かに見えている。この辺りの藪は私の背丈を遙かに超えていた。


このまま進攻したとして、あの滝の部分をどうやり過ごす経路を取れるのかルートが思い浮かばなかった。どれだけ進攻しても藪はおさまるどころか逆に勢いを増すようだった。


少しずつ進攻のモチベーションが奪われていった矢先…
うぎゃっ…


捕まってしまった…sweat

このイバラの凶暴度たるや、今まで経験した中で最悪クラス。しなやかなムチの上にびっしりと針のような棘が並んでいる。


棘が極めて鋭く、厚手のズボンを履いていても容易に貫通して皮膚まで刺さってきていた。
当たり前だがカメラを構えている今の瞬間も棘が皮膚に突き刺さっている…当然痛い
しかも始末が悪いことに棘の根元が脆く、刺さったあと簡単に根元から外れてしまう。ズボンの上から棘が刺さったまま残ってしまうのである。
冷静になり、体勢を整えて外すしかないのだが、ちょっとでも動けば容赦なく肌に突き刺さる。しかもこれほどびっしり棘だらけの枝だから取り除こうにも手でつまめる部分がない…

指で枝をつまむことが出来ず、カメラの筐体の金属部分を使って枝部分に押しつけてどうにか払いのけた。
もうダメだ。
敗北宣言します…
まあ、これほど酷い藪も久しぶりだ。日当たりが良くて草刈りされない場所は本当に最凶だ。そういう場所ではイバラがよく育つので手に負えない。まさに自然の造った有刺鉄線だ。

結局、殆ど何も得るものがなく退散させられた。
堰堤上にある建て屋のズーム撮影すら忘れて退散する始末…


地図で検討していた時点では、この経路で必ず到達できるだろうと踏んでいたので、到達不能と判明した時点で計画は暗礁へ乗り上げた。
この経路がダメなら他に行きようがないだろう…
そもそも堰堤から流下する用水路は人が造ったのだから、必ず人がそこへ到達できる筈だ…しかし実際にはこの用水路は殆ど顧みられることがないせいか荒れ放題で、一年を通して接近不可能な場所になっていた。


そういう訳で、当初から断ってあったようにこの記事を書いている現時点でまだ山立石池の写真はまったく撮影できていない。

仕事で2度ほど東岐波方面に車を走らせた序でに立ち寄った物件で、今後は暫くこの方面へ来る予定はない。わざわざこの物件のためだけに車なり自転車なりで踏査するなら、ターゲットへ到達するのに安全かつ確実な経路を見つけ出すか、この近辺に魅力的な物件を掘り出さない限りあり得ないだろう。


次編がいつ書けるやらも分からないが、一応記事リンク用のテキストだけ設置しておくことにする。
本件に関して進展があったら記事リンクを張り、トップページで案内しよう。

(「山立石池【3】」へ続く)
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=== ここから先は山立石池とは直接の関係はない記事です。 ===


溜め池の踏査は殆ど諦めたのだが、すぐに立ち去ったのではなかった。

この場所へ車を停めるとき、堰堤からは離れて道路側に向かうようになるのだが、田畑の縁を回って山へ伸びる踏み跡を見つけていた。


ここから堰堤へ行ける可能性はほぼゼロだろう。第一、方向が違い過ぎる。山道の伸びる先は堰堤に接近しておらず、平行移動する向きだ。
可能性があるとすれば、山に入った先で実は大きく左へ曲がっていて、堰堤に向かう管理道の途中に偶然出て来ることができた…というまことに都合の良いパターンに限られる。

往生際が悪いのだが、あれでもこの山道から堰堤に向かう踏み跡を見つけることができるかもと思った。ここまで来ていながらイバラの洗礼を受けるだけで成果無しの手ぶらで帰りたくない気持ちもあった。

山へ入る手前にはネットが張られていた。
恐らく山から下りてきて田畑を荒らすイノシシ対策だろう。


朽ちた木が枝垂れ掛かっている。踏み跡こそあるものの殆ど人が通ることはないようだった。


山道はかなり急な傾斜で登っていった。

もっともこの先どんどん進んだとて、堰堤方向に進む分岐にでも出会わなければ尾根伝いに登っていく西岐波野口線へ出てくる筈だ。道路に出たところで何にもならない。そもそもあのフェンス門扉を突破はできないから溜め池に向かう別の経路をあれこれ考えていた訳だ。
結末が殆ど見えている山道歩きなんてモチベーションが上がる筈もなく、無駄な時間と労力を嫌って普通ならさっさと引き返すところだろう。それどころかもっと言えば、何もなければ私も溜め池踏査の失敗談をこんなに長々と、しかも道中の写真付きで解説する訳もないのである。

それを敢えてここまで詳細に述べているということは…

何かがあったのか?
そう…
何かがあったのだ。
目立った分岐などを見つけることもなく充分に長く歩かされれば、見込み無しとの判断を下すや否やさっさと引き返していただろう。
実際にはイノシシ避けネットを過ぎて山道を登り始めて50mも進んでいなかっただろうか。
ほぼ真っ直ぐに一定の勾配をもって登っていく踏み跡の先には…
あれは何だ?


(「山立石池・未知の用水路【1】」へ続く)

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