北原湧水

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記事作成日:2018/9/16
北原湧水とは、東岐波区北原地区へ古くから伝わる自然の湧水地である。


大まかな位置を示す。


現地は北原公会堂から尾根を下ったところにあり、周辺は田ないしは湿地帯である。湧水がある場所までは踏み付け道が続いている。


湿地帯の中にコンクリートの土間があり、その端に造られた円筒柱の中に水が注ぎ込まれている。


外観からは井戸のように見えるが、この円筒柱はただの溜桝である。湧水自体は併設されたパイプから流れ込んでいる。
バケツ等で汲めるように桝を造ったのだろう。


湧水が注ぎ込んでいるコンクリート桝の後ろには、蓋付きの桝があった。
これが井戸部分かも知れない。


コンクリート土間の外にはドラム缶と資材が置かれていた。
何かありそうな気がしたが、足元がどんな状態か分からないので近づかなかった。


現地にはこれが北原湧水であることを示す説明板の類は何もない。そのため予備知識がなければ田に水を充てるための灌漑施設に見えてしまうだろう。
湧き出た水は周囲を水浸しにしないよう溜桝から水路へ流れ込んでいる。それでも水道の蛇口を捻った程度の量が間断なく流れ出ている位だから、周囲の地面も水気を含んでいると想像される。

実際、普通のスニーカー履きならコンクリート土間から外へは不用意に出られない。
草が生い茂って見えないだけで、土間の下まで溜まり水が見えていたのである。ただの草地だと不用意に踏み込めば靴が残念なことになってしまうだろう。


振り返ったところ。
道路からここまでの間は湿地帯らしくガマの穂が沢山見えていた。


現在はコンクリートの土間や桝が造られているが、最初期はどんな感じだったのだろう。東岐波の郷土ふれあいマップでの記載はないが、郷土誌研究会の書籍に取り上げられているのをFBページの読者から提示されて知った。そこには既に現在と同じコンクリート桝へ注いでいる写真が掲載されていた。

湧出口はコンクリート桝より若干高い位置に取り付けられた塩ビ管である。
この高さまでどうやって水が上がっているのだろう。


周囲に電線が見られないことから、普通の井戸のように汲み上げることなく自噴しているのだろうか。しかしコンクリート土間の外にステンレスの箱のようなものがあるので、動力線が地下に埋設された簡素なポンプで汲んでいるのかも知れない。それにしても間断なくこれほどの量を湧出させていることは確かで、ちょろちょろと湧き出る泉のイメージではない。何故これほどの水がここに集まり、間断なく湧出するのだろうかといった疑問が生じる。

かつては水質検査をパスし飲料にも供されていた北原湧水だが、その後菌類が検出されたことで現在は飲用には不適とされている。[1]パイプには苔が大量に付着しているし注ぎ込んでいるコンクリート桝には藻の塊も浮いていた。飲用可の湧水ならもう少し清潔にされるもので、恐らく飲用不適となったことであまり手入れされなくなったのだろう。

藻が繁茂しているのは日光から遮蔽されていないことで光合成が可能だからである。見た目には汚く感じられても湧出する水そのものは清澄である。一般の井戸ではきちんと蓋をして埃も日光も遮断しているためこのようなことは起こりづらい。
そうは言っても現状は苔の付着したパイプを通って流れ出ているので、湧水自体は清澄でも注ぎ込む段階で苔の破片や苔由来の有機物が混じるのは避けられない。こういった湧水を生で飲むことは避けた方が賢明だろう。

もっとも飲料に適さないと判断された状況でも自己責任で汲みに来る人はあるという。水道水と異なりカルキを全く含まないため、湧水には明白に水道水とは異なる好ましい風味が感じられる。[2]飲料にしなくてもカルキを含まない水は植物への灌水など他の用途も考えられる。
《 これほどの水が湧出する理由 》
北原湧水の実体はほぼ自然の泉である。地下水位が地表近くにまで上昇した井戸とみることもできる。周囲よりもかなり高いパイプから湧出しているのは、僅かばかりの補助電源を用いて導いているか、本来ある湧出口を密封して水圧を上げているからと思われる。
ステンレスの箱のように見えるのは汲み上げポンプで電源線は埋設しているのかも知れない

地表部に自然水が湧くところは山間部ではごく普通であるが、間断なくこれほどの量を湧出させている場所は珍しい。多くの場合、それほどの水が得られる場所は早い時期に堰堤を築くなどして灌漑用の溜め池にする。稲作中心だった昔は水が極めて貴重であり、ダダ漏れ状態に放置することはおよそ考えられない。この地が溜め池にならず湧水地として使われてきたのは、量のみならず飲料に適する良質な水であったことに依るのだろう。

地理院地図を眺めれば、この近辺が比較的水を得やすい地勢であることが推察できる。


北原湧水は農免道路からだと長い下り坂の麓にあり、市道大田花園線では北原公会堂を過ぎた先でやはり急な下り坂の麓になる。即ち傾斜がややきつい尾根下の沢地に位置するので、双方の尾根筋から地下水が集まり、傾斜の麓部分から湧出しやすくなっているように思える。

地理院地図では農免道路を挟んで至る所に溜め池の記述がみられる。北原地区も補助池を含めてかなりの数がある。他方、北原湧水のある場所は狭い沢地ではなく二方向に斜面をもつ地勢なので、灌漑用溜め池を造るなら広範囲に掘削して皿池を造り、掘削土で長い堰堤を拵える労力が要る。湧出する水質の良さが早くから知られていたのだろうが、地勢上の制約からも溜め池にせず湧水地のままで現在に至ったのかも知れない。
《 アクセス 》
市街部からの場合、市道山村上の原大田線(通称農免道路)を北へ進み、車のサービスセンター前を過ぎると長い直線的な下り坂になる。坂の麓で大きな左カーブとなり、その手前にある細い道(市道立山北原引野線)を右折する。

農免道路の十字路から撮影。
車を停めている場所の右側に北原湧水がある。


市道沿い以外に車を停められる場所がない。湧水入口の前で路肩に充分寄せれば軽四なら通行に支障がないが、この市道はそれほどの幅がないながら交通量は意外に多い。普通車の場合、湧水を観に行くだけなら道幅のある場所へ停めた方が良い。
【 湧水の利用 】
先述のようにかつては飲料用水としても使われていた。日照りで井戸が涸れたときでも北原湧水は水涸れしなかったため、風呂水として使うために桶で汲んで家まで何往復もして運んだという話も聞かれる。[3]

過去の水質検査では飲料用に適するという判定を受けていたが、先述の通り細菌が検出されてからは飲用不可となっている。もっとも現地には飲料の可否についてはもちろん北原湧水に関する説明板自体が存在しない。湧水は特に利用されることなくそのまま植松川の支流へ流れ込んでいる。コンクリート桝の傍には(破れてはいるが)バケツも置かれているため、私的利用で汲んで持ち帰るのは問題ないと思われる。
出典および編集追記:

1. 10年程度前は飲めたものの近年サルモネラ菌が検出されたことで飲用不適とされたという。
北原湧水を紹介したFBページ読者による情報であり詳細は確認を要する

2. 水そのものは無味無臭なので食品と同レベルでの「美味しい」という表現は使えない。しかし長期間水道水を飲用した後で井戸水を始めとする自然の水を飲むと極めて弱い甘味として認識されることがある。これはカルキ由来の嗅覚・味覚の刺激がなくなることによる相対効果である。
逆に習慣的に井戸水を使っていると水道水のカルキ臭にかなり敏感になる

3.「FBページ|2018/9/12の読者コメントによる。
《 個人的関わり 》
FBページの読者に教えられて9月11日にコラム向け写真撮影のために日の山方面へ行く途中に立ち寄っている。この市道自体も通ったことは一度もなかった。
東岐波地区は居住地より遠く、自転車で数回訪れたことはあっても起伏が多い場所は自然と避けがちである。このため現在も訪問されていない名所などがいくつもある。

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