山口宇部道路・未知の跨道橋【6】

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(「山口宇部道路・未知の跨道橋【5】」の続き)

農機具庫のような建屋の前で道は直角に折れていた。
道の状態は思ったよりも良好だ。視界は効かないが確実に高度を上げてきている。


竹藪を抜けきったところで小さな沢地らしき場所に出会った。
写真ではあまりハッキリしないが前方を細い溝状の流れが横切っている。


小川の正体は雨水排水路だった。こんな山の中なのに斜面からヒューム管が顔を覗けていて少量の水を吐き出していた。
山口宇部道路が建設されるとき沢地を埋めたので、排水路確保のために布設したのだろう。


ここは不思議な生活感の察知される場所だった。ヒューム管の近くにはゴミが転がっていたし、中でも裏返しに置かれた洗面器が印象的だった。個人情報の兼ね合いから写真は載せないが、洗面器には平成8年の文字(H8)と所有者の名前に電話番号までマジックで書かれていたのだ。まさかこんな山奥で湧き水を使って行水でもなさっているのだろうか…と思われた。

小さな流れを跨ぎ越したところに畑地らしき痕跡があった。
一定範囲に木が生えず伸びた草もない畑地、そして先に見えるものから諸々の疑問が氷解したような気がした。


割と最近までここは畑地で、土地の所有者が作物を造っていらしたのだろう。洗面器は湧き水を汲んで畑に灌水するための道具で、ここまで見てきた建屋は畑地で作業をするための器具庫だ。畑作を休止した後、この先は何処にも出られないので外部の人が間違って進攻しないよう立入禁止の札を添えて柵で塞いだように思われる。そこには里道沿いにある自分の倉庫や畑地へ立ち入られるのを避ける意図もあったのだろうか。

即ち少なくともこの道が里道だった時期があるのは今や疑いない。そのことは放置された畑地跡の先に見えていたものからも確信できた。
ついこの間強引に訪れた跨道橋が高い位置に見えていたからだ。


プラスチックの洗面器にマジックで描かれたH8という情報からすれば、里道の通行とは別に畑作で数年くらい前まで土地の所有者が訪れていたらしい。その頃にはもう跨道橋へ向かう里道部分の通行はなくなっていたかも知れない。

そのシナリオを裏付けるように、畑地跡の前を過ぎると急速に踏み跡が淡くなった。既に跨道橋は見えていたので、地形からかつての道跡を推測するような状況だった。
この場所で里道は大きくヘアピンカーブで転換し丘を登っていた。


乱雑に木々が倒れかかっているため何処が正確な里道なのか殆ど分からない。


立木の一つに白いタグが取り付けられているのを見つけた。
プラスチック製のタグながら経年変化で真っ白になっており文字などはまったく読み取れなかった。恐らく山道にはお馴染みの火の元注意あたりだろう。


跨道橋に到達した。
やはり当初から怪しいと睨んでいたあの道が正解なのだった。


初めてここへ到達したときも道の繋がり具合をざっと調査した。しかし辿ってみようという気も起こらない程度に道の形は喪われていた。

訪れる人が皆無であることは、跨道橋の周辺にゴミ一つ落ちていないことから推察された。
カラスがつついて落としたらしい熟柿の橙色がむしろ印象的だ。


岡ノ辻側は酷い藪でもはや道の痕跡もない。そのことは初回訪問時から分かっていた。
橋を渡る前のこと、かなり近い位置に民家の設置物が見えることに気づいた。


ズームで撮影している。
ゴルフの練習用ネットか、野鳥除けのネットだろうか…


橋を渡って接近するとむしろそれは藪の高さに阻まれて見えなくなった。
さて、本当にここに里道があるのだろうか。


道がないどころかもしかすると「ここは既に道ではない」のではという考えに傾きかけていた。
その証拠となりそうなものが先に見えているのだが…ズームで巧く捕らえられない。


藪へ近づき可能な限りカメラを構える両手を前方に突き出した。
斜めにぴんと張られたトラロープが見える。何かを支持するために設置されているようだ。


草木の生え方から推測すれば、かつての道は真っ直ぐ伸びていたように思える。他方、そこには現在は上のようなトラロープが見えていた。既に民家の敷地の一部かも知れない。
このことから「かつては里道だったのだが用途廃止されたのでは」と考えたのだ。

地理院地図でも岡ノ辻側の道は不明瞭な記載のされ方をしている。跨道橋を渡った先は他のどの道にも繋がっていない。


前回ここを訪れたとき強引な進攻を見合わせておいたのは、藪の酷さだけではなかった。斜めに張られたロープの存在には気づいていたので、もしかすると既に道ではなくなっているかも知れないという判断があった。

元は里道だったものが廃止され私有地に変わることはあるのだろうか。ここから先は法律のカテゴリで現在は扱いが異なるかも知れないが、状況によってはあり得ると思う。登記簿上では里道のような国有財産になっていながらその利用実態がなかったり地籍図とは大幅な相違があるなどの場合、一定の条件を満たせば払い下げを受けることが可能だからだ。[1]
したがってあと一つ確認を要する事項があるものの、この跨道橋を利用していた里道は現在その一部が名実共に喪われている可能性があるというのが現時点での結論だ。

そうなれば今やこの跨道橋は前回述べたように「野生動物が渡る以外何の役にも立っていない」橋だ。


では将来的に撤去されることはあり得るのだろうか?
多分ないだろう。車両交通は確保しつつ足場を組んで部材を除去するのは甚だ困難で、むしろ崩壊しない程度に補修しつつ放置する方が安上がりだからだ。


往来の車が少なくなったタイミングを見計らって橋の上から数枚撮影しておいた。ここへ来るのは次があるにしてもあと一度程度だろう。[2]

引き返すとき、橋の接続部に何やら桝のようなものが顔をのぞけているのを見つけた。


ちょっと気になって靴の裏で溜まっている落ち葉を取り除いた。
多分、雨水桝の蓋だ。そう言えば橋の横に道路横の側溝まで水を落とすパイプが伸びているのを見たので。


下の道に自転車を留守番させているのでこのまま引き返した。

さっき訪れた畑地跡の前である。
立入禁止の札があったくらいだから、既にこの道も里道ではなくなっている可能性もある。


そのことを思えばのんびり長居し探索するような場所ではない。結論が得られたのだから人目につかない間にさっさと退散すべきだ。とかく私有地立ち入りはトラブルの元である。
早足で山道を下っていく間も誰かに鉢合わせしないかとかなり心配だった。

(「山口宇部道路・未知の跨道橋【7】」へ続く)
出典および編集追記:

1. 平成の初期に一度だけ国有財産の払い下げ申請書類の作成を行った(と言うかやらされた)ことがある。具体的な場所は伏せるが地図では赤線と青線が記載されていながら現地はボタ山ないしは残土置き場のようになっていて道や水路など痕跡も存在しなかった。当時は市道路課が窓口で、取得したい土地へ線または点で隣接するすべての地権者および自治会長の承諾が必要だった。必要な書類を整え、地権者とコンタクトを取って状況説明し判子をもらうだけで数ヶ月かかった。まして何年も前から地権者同士で揉めている案件で、完全に手を切るまで胃の痛い毎日だった。幾ら報酬を支払われようがもうゼッタイにやりたくない業務の一つだった。
こと土地となるとかくも人間はエゴ丸出しでいがみ合うものかと浅ましさを感じた次第

2. この跨道橋に固有名が与えられているのだろうかという問題があった。橋の躯体側面に架橋時のプレートが設置されているかも知れないが、それを調べるには未だ到達していない岡ノ辻側の橋の下も含めて調べなければならない。

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