桜ヶ谷地区道【2】

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(「桜ヶ谷地区道【1】」の続き)

思えば遠くへ来たもんだ…などとは言っていられない。そんな遠くもないのに周囲にあるものは舗装された道と藪ばかりだ。
眺めは効いても寂しい場所であることに変わりはない。


青空が広がり相応に眺めが効きながら人はもちろん民家もない風景…この景色から数年前に美祢市で実行したある台地の探索を思い出した。これと同程度の狭い道が藪を縫って延々と伸びていて道路から一歩外は至るところドリーネ…といった場所だった。[1]

これほど人工物に乏しい場所ともなれば、家庭用の送電線すら観察の対象となる。
それは奇妙にも道路の進行方向とはまったく無関係な方向からやって来ていた。


市街部では家庭用の電柱は一般に道路に沿って建っているものである。それは道路沿いに民家が並ぶからだけであって、家の疎らな郊外や山間部ではしばしばイレギュラーが起こる。昭和中期頃建てられたものは拡幅されない古い道沿いにあるし、極端に民家が少ない場所の場合は最寄りの幹線から直線上に枝を引っ張ることもあるようだ。後年開発が進み山が削られることで、電柱のみ山腹や高台に取り残されているケースもある。
鍋倉の向山を通る藤山幹線など

こういった設置のされ方の電柱はメンテナンスが必要なときには接近自体が一苦労だろう。
近接画像はこちら

眺めが効くこの場所を過ぎると道は再び藪のトンネルに突入した。


一応、舗装路を辿って進んではいるものの枝道がどの程度あるかは観察していた。
ここはそのうちの一ヶ所である。私有地の臭いがするので進攻はしなかった。


道の両側が竹藪に変わった。周囲の眺めはまったく効かない。今自分がどの辺りを走っているかも分からなかった。
そろそろ行き止まりも近いのだろう…先の答を早急に得るべく自転車のスピードを上げた。


竹藪の切れた先、唐突に同じくらいの二又に出会った。
自転車のブレーキレバーを引き絞る。そして停車するまでもなくこの先にありそうな答が見えてきた。


直進と左折。まったく同程度の幅の道が続いていた。その分岐点には目的をもってここまで来た外部からの来訪者には分かるような立て札が設置されていた。


それが何であるかは…プライバシーの問題があるので接写画像は載せない。要はこの先にある民家の個人名が書かれた立て札だった。郵便物の配達人などが迷うことのないよう住民が設置したのだろう。
したがってここから先は(民家の前を通って更に先へ出る道があるかも知れないが)私道である可能性が高い。札に個人名が出ている状況で先へ進攻するのはその家に用事のある来訪者だけだ。そうでない目的でこの道へ乗り入れているので進攻は無用だ。

このまま単純に引き返しただけなら道中の写真を撮っただけのことで、発見と言っても精々道ばたの石柱くらいのものだった。それだけならサクッと総括を拵える程度で時系列記事は作成しなかった。この直後に起きた偶然の発見によって記録されることとなったのである。

引き返しに至るまでにこの辺りが古くから人々の住まう地であることを思い出していた。そのことは道中にあった石柱からも感じ取っていた。
延々と長い道が続いていながら現在はこの先2軒の民家で行き止まりになっているというのも不自然が気がした。以前はもっと人が住んでいたであろう地なら、その痕跡があるのではとも思われた。

民家を案内する立て札を撮影した後、自転車を転回させた。
多分もう来ることはないだろうと思いつつ最後に振り返ってこの一枚を撮影した積もりだった。


藪の中に私の脳内センサーが反応した。
何か人工物らしきものがある。
最初それは捨て置かれた石材の一部のように認識された。しかし自転車を停めて道路の縁に近寄って眺めた時点でこれはもしかすると…という思い当たるものがあった。

少し近寄って撮影したところ。これなら対象物が分かるだろう。
もっとも慣れない読者ならこの写真とてまだ何を撮ったものか分からないかも知れない。


それが見えた場所は藪とは言えある程度の広さがある平地なので、昔の住居跡だろうという推察はできた。しかしそれも相当昔のことで、今居る道には繋がっていなかった。
私の中では多分あれだろうという推測があったし、もしそうなら接近するのは怖いと思った。まして恐らくは私有地である。進攻はあまり勧められたものではない。

一段高くなっている路傍からズーム撮影している。
これだけでも正体が何か読者にも見当がつくだろう。


そこまでは直線距離でおよそ10m程度、道はないものの藪はそれほど酷くなく我慢すれば接近可能だった。何よりも自分の中で「はからずも見つけてしまった」状況なので、ズームで一枚撮っただけで撤収する心境にはなれなかった。恐らく読者だってこんな中途半端な状況は嫌だろう…
この地区道に進攻開始してから一台の車も一人の地区住民にも出会わなかった。私有地にしても今は持ち主が不明か居ないだろう。それで自転車は路上へそのままにして接近開始した。

一本の大きな樹木に寄せる形で井桁に組まれた石材があった。上部に櫓はないし蓋もされていない。
しかし石材は接合部を丁寧に加工されている。


もう正体は殆ど分かっているので殆どすり足状態で近づく。
やはり…石材の内側にはそれらしき竪穴があった。


石材が置かれている位だからただちに周辺の地山が崩れるとは思えない。更に身を乗り出して覗き込んだ。
組まれている石材は一段のみでその下は既に地山、竪穴は円形だった。


竪穴は素堀りだったので常盤池の周囲でよく見かけるタブ跡を思わせた。あるいは適当に拵えたゴミ捨て場か厠かも知れなかった。
しかし…もしそうなら適当な深さだけ掘って済ませていただろう。私の中の不安心理を増幅させたのは、相応に覗き込んでも竪穴の底が見えて来ない点にあった。怖い。たまらなく怖い。

竪穴の底で僅かながら光の反射があった。明らかに底へ溜まっている水による反射だった。
うわわぁーーー!!
信じがたいほど深い!!


断面が円形の竪穴は果てしなく下の下の方まで伸びていた。写真ではこの高低差を巧く表現しきれないが、目測で10m位の深さがあろうかと思われた。

殆ど同じアングルからのズーム撮影。
とても怖くてこれ以上身を乗り出せない。


厠やゴミ棄ての穴ならこんなに深く掘削する必要はない。紛れもなく水を得るための井戸だ。驚くべきことはその深さもだが、まったくの素堀りという形態だった。
恐怖心を抑えつつ井戸の中を覗き込むことはこれまでに何度か行ってきた。それらの殆どはコンクリート製の円筒柱であり、特に古いものでは内部に石材が積まれたもの [2] も確認している。しかし素堀りの井戸は初めて目にした。地山が堅固であることが経験的に分かっていたのでそのまま竪穴を掘ったのだろうか。

何処の井戸でも転落した場合の危険性は同じなので、居住地から近い場所にある井戸は容易に動かせない重い蓋を載せるなどして対処されている。しかし殆ど人が近づくことのない場所では蓋がされないまま放置された井戸もある。タブ跡とは異なり周囲に地山より高い石積みなどがあって井戸と分かる状態なので、藪歩きをしていて落とし穴に出会う如く転落する可能性は極めて低い。他方、相当期間放置されていたなら井戸の周囲の地山自体脆弱になっているかも知れず、近づいただけで石組みもろとも内部へ崩れ落ちるかも知れない。
小さな竪穴なら両手両脚を突っ張った状態で上がれるかも知れないが、一般的な井戸は直径が2m近くあるので転落すれば脱出は不可能である。ましてこの場所は声が届く位置に民家もなく、携帯の電波も井戸の底からだと機能するか分からない。恐らくそれ以前に転落による怪我やショック、あるいは酸欠に見舞われるだろう。

…ということでわざわざ観に行く読者も居ないとは思うが久し振りに告知タグを貼っておこう。

危険この場所は生命にかかわる重大事故の危険があります。決して不用意に接近なさらないで下さい。

存在場所はほぼ間違いなく私有地なので、何か起きてもまったくの自己責任だ。

あともう一枚底が写っている鮮明なのを撮ろうと思ったのだが、どうしてもこれ以上カメラを差し出すことができなかった。


場所柄、何か起きたとき本当に助けを求められないことを知っていたのでそれ以上追求せず戻ることに。

この井戸からあまり離れてはいなかったと思うが、竹藪の中に全壊して屋根部分の痕跡のみ遺された家屋跡を見つけた。
接近はしなかったがそれほど古いものには見えなかった。


竹藪になっているから分からないだけであって以前はもっと民家があった場所かも知れないと思った。そのことは往路で家庭用配電線の柱を撮影した場所でも感じ取った。


電柱の建っているすぐ近くにもすっかり藪に包まれた廃屋があった。
倉庫か民家か判然としない位に荒れていた。


配電線が通ってはいるものの、もしかすると既に死んでいるのではと思われた。
腕金や碍子にまぶりついているツタ系植物が半端ない。通電されているならそもそもここまで植物が接近できないのではないだろうか。


この後、熱帯魚屋をはじめとして往路で眺めた民家や景色が逆順で現れる形で出発地点まで戻ってきた。


途中でいくつか枝道に出会ったものの未舗装路だったし私有地へ入り込みそうだったのでどれも視察はしなかった。10月も中旬入りして藪の勢いも衰える一方なので、昔の住居跡など古いものを求めて進攻するには難易度は下がるかも知れない。しかし高所恐怖症気味な向きにはトラウマになってしまいそうな深い井戸があり、それも恐らくは他にいくつもあるのだろう。素堀りの井戸のインパクト故に、まずは持ち帰ったものを報告せねばとばかりに時系列記事を作成したのであった。
出典および編集追記:

1. 2010年の秋口に車を使って美祢市於福付近の台山で行った興味本位の探索である。今から思えば描写がやや誇張気味だが発見的レポートとしては面白いので一読をお勧めする。
外部ブログ記事: 緑ヶ丘計画【序】(2010/10/16)
記事は序章を含めて全5巻構成で、当初Yahoo!ブログに公開され現在は Ameba ブログへ移植している。

2. 島地区の既に解体された民家に遺された井戸にそのようなものが見つかっている。

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