桃山配水計量室(六角堂)

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記事作成日:2017/7/1
最終編集日:2022/9/6
桃山配水計量室は市場下水道局が管理する歴史的に極めて重要な水道遺構で、市道小松原通り線が桃山の高台に向かう急な坂のほぼ最高地点に存在する。
写真は現地で坂の低い側からの映像。


この構造物の位置を地図で示す。


初期に桃山配水池から市街部へ送る上水道の流量を計測するための施設で、見た目の外観より六角堂という呼称が市民に定着している。ただし建物自体は実際には正八角形のレンガ造りである。後述するような歴史的背景から登録有形文化財となっているため[1]を始めとして多くの記事が作成されている。以下では桃山配水計量室を六角堂と略記し、なるべく既存の記事と重複しない内容を記述する。
《 歴史 》
六角堂は建物の北側にある桃山配水池に貯留した水を市街部へ送る際の中継地点で、送水量を計測するために造られた。この場所は桃山の高台において南の端に位置する。この位置に造ったのは高台端の急斜面が始まる場所で、埋設管の勾配変わり地点であり管の取り出し施工が容易だったからではないかと推測される。

大正13年10月に六角堂の横で関係者とコート姿の渡邊祐策翁が写っているモノクロ写真が著名である。
(出典:沖之山水道)


現在は六角堂より下は直線的な下り坂であり市道小松原通り線となっているが、元から踏み付け道がこの経路で存在していたのではない。

大正12年8月の撮影で、鉄管路を布設する施工状況の写真が知られる。
(出典:沖之山水道)


この写真には「宇部市字燒石配水池登り口鐵管布設工事の實況」という解説が書かれている。真っ直ぐに登る管路の先に六角堂は見えていないが、字焼石は六角堂に向かう登り口周辺の小字名なので、現在の桃山の急坂の真下であることが確定的である。元から道のない山の斜面を切り拓いて鉄管を布設したことがよく分かる。

現在の坂道は、管路の上を管理道のように往来可能としたものを後年更に拡幅したものと思われる。ただしこの坂の途中に明治期の庚申塚がみられることから、部分的にこの坂道と重なるか横切る古道が存在していたことが推測されている。
《 構造 》
鉄管の上部にレンガ壁を八角形状に覆い、上部を緑色の鋼板で屋根をつけた構造である。ただし後述するように屋根の部分は平成期による補修で、最初期の素材がどうだったかは調査を要する。
上掲のモノクロ写真では屋根も桃色レンガ構造のように見える
【 外部 】
鋳鉄管を固定する基礎部分まではコンクリートで、外壁はレンガ積みである。このレンガは宇部市エリアでは著名な桃色レンガである。
採光用に設置された開口部の上部も桃色レンガでアーチを造っており、桃色レンガで現存するこのようなアーチ構造は珍しい。


一般に桃色レンガは民家の塀に使われてきた。水道関連のような恒久的な設備の外壁に桃色レンガが使われた事例は稀である。急斜面の最上部という場所柄、作業性を考慮してレンガ積みが選定されたのかも知れない。

上部構造は平成期に改修され、コンクリート部分に加えて緑色の屋根がつけられた。緑色とは言っても灰色がかった渋めの色調であり、外壁の桃色レンガとよくマッチしている。この色調と形状を持つ東屋の上部構造が他の場所にも知られている。
【 内部 】
入口の扉は施錠されており、内部を見ることはできない。桃山配水池は特定の曜日に解錠され3号配水池展望塔やフェンスの内側を見学可能だが、六角堂は配水池からやや離れているためである。ただし近年では観光コンベンション協会によるプログラムや校区の小学校で行われる水育(みずいく)で子どもたちに関心を持ってもらうために担当者随伴で解錠され、内部が公開されている。

内部の壁はモルタルが塗られ、掘り下げられた空間にφ400mmの本管2本とφ350mmの管1本が通っているのみである。


現役時代は職員が定期的に訪問して数値計測が行われていた。鋳鉄管を流下する水の独特な音が響き渡っていたという。[2]

現在は内部を通る3本の鋳鉄管のいずれも使われておらず、外側を迂回する形で本管が埋設されている。この本管に対応する流下水量計量は、六角堂よりやや坂の手前側にある鋳鉄蓋に覆われた量水器室で行われている。


六角堂内部の見学については、職員の業務状況や見学希望人数などにより個別に対応可能な場合がある。詳しくは宇部市水道局へ問い合わされたい。
《 問題点 》
六角堂は市道の中央に鎮座し、往来する交通は四輪を西側へ、自転車や歩行者は東側を通る形に案内されている。道路の中央に位置するのは、現在の直線的な急坂がそもそも道路として建設されたのではなく、上水管を埋設した上を管理道にしていたものを転用したためである。かつては四輪も含めて六角堂を右側に見る形で通行していた。

この区間は非常に狭いため、車幅感覚を誤ったドライバーによる接触でレンガの側面が削られている。特に狭い区間に面している2本のレンガ柱の損傷が著しい。

坂道の下側にある柱。
柱部分の拡大画像はこちら


物理的な接触から護るには柱にクッション材で覆えば軽減されるだろうが、それでなくても狭い道幅が更に狭くなる上に六角堂の景観そのものも損なわれるためか、現状なすがままの状態に放置されている。とても国の登録有形文化財とは思えない扱いであるが、この市道を通過する車がそれほど多くないせいかもう何十年も現状のままである。

まさか六角堂を移設することなど不可能なので、取り得る保護策は以下のように限定される。
(1) 六角堂に隣接する民家から余剰地を買い上げて道路幅を拡げる。
(2) 既存の地区道を市の管理道(認定市道)として迂回を促す。
このうち敷地を買い上げる (1) については私有地側に余剰地がなく、特に四輪が往来する西側の経路は巨木が植わっていて移植を必要とするために殆ど不可能である。(2) が現実的な手法であり、市道以降の宅地開発に伴って造られた宅内道路が存在する。しかし迂回路指定すると外部からの車両が宅地内を通過することとなる。認定市道とするどころか現地では外部車両の通過を懸念して両側の入口に通行禁止の看板が提示されている。

六角堂のある区間を四輪の通行不可とする措置にしても県道側や市道小松原桃山線など物理的に四輪が通行可能な経路は存在するが、いずれも離合が極めて困難だったり遠回りになるため現実的ではない。桃山配水池と共に東桃山地区の高台にあり、訪問するにも徒歩や自転車では大変な場所である。このため登録有形文化財を2つも擁していながらそれらを観光資源として有効活用できないままでいる。

《 個人的関わり 》
初めて訪れた時期は不明だが、親父の運転する車で車窓から眺めたことのあるのは学童期だった。

注意以下には長文に及ぶ個人的関わりが記述されています。レイアウト保持のため既定で非表示にしています。お読みいただくには「閲覧する」ボタンを押してください。

その後、興味の範囲が市内の上水を含めた多岐なジャンルに及ぶようになり、自転車で数回訪れている。この総括記事を制作するにあたっても直近の写真を得るために撮影してきた。
初めて現地を訪れ写真を撮ったときのレポート。Yahoo!ブログに作成されたものをAmebaブログへ移動している。全3巻。(2009/4/7)
外部ブログ記事: 六角堂【上】
出典および編集追記:

1.「宇部市|桃山配水計量室

2.「宇部日報|音のある風景(第6回)

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