山口宇部空港建設事務所【2】

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(「山口宇部空港建設事務所【1】」の続き)

何やら後ろのホワイトボードに水性マジックで落書きめいたことが沢山書かれていた。
そして信じがたいことに、ひときわ目立つ書き込みは明らかに建設事務所の今の状態に対しての状況説明になっていたのである。


この事務所は現在無人です。
以前は”おばけ”が出たと言われ
てまして、現在も…
核心部分が入るようにズームしてみた。


その他にも筆圧や字体が異なる雑多な落書きがあった。それらの文字群はもしかすると建物内部へ侵入した若者の仕業かも知れない。[1]しかしメインで描かれている告知文は、どう思っても若者のものではない。
そもそもホワイトボードは会議室で説明用に置いてあったものだろう。わざわざ玄関外から見える場所へ引っ張り出し、興味本位で忍び込もうとする人々に見えるよう置いたように見える。他方、侵入した連中が外から見えるよう落書きして引っ張り出して来たのかも知れない。

時系列は前後するが、このマジック描きについてその日のうちにFBメンバーへ尋ねてみた。そして私も同意するところなのだが、メインの文章は建屋の管理者か職員が警告と若干の茶目っ気を交えて書いたという意見が大勢だった。そのことは漢字の書き方でプロファイリングできる。
筆記者の年齢などはホワイトボードに遺された「以前」の前の字に特徴が一番よく現れている。この略記体は若者はまず知らない。マジック持たせてサラッと書きこなせるのは少なくとも今の40歳台から上の世代である。
私自身も読めはするもののこの表記はしない

「この事務所は…」の最初の一行と二行目以下の「以前は…」の筆記色の濃さが異なるようにも見えるが、これも同一人物が続けて書いたと言える。平かなの「て」の形状が共通しているからだ。そして右端にある「うしろをふりかえるな」などの落書きとは違う人物だ。書かれた内容もさることながら「し」の字の形状が異なっている。別人物に見せるよう書くには、マジックを握った時点でよほど強く意識しなければ無理だ。

大きく崩落した壁、意味ありげなホワイトボードの落書き…この時点で建設事務所は私にとって「ネタになる物件」と化した。そこで改めて記事仕様を意識して写真を撮り直すことに。

事務所全体を撮ろうと駐車場の端へ移動したところだ。
横長で後ろは植え込みなので一枚には入りきらなかった。


右側の2階はかつて入札室だった。階数はそれほど多くないが上司と随伴して応札したことがある。最後期には一人で行ったのだが、まあ神経をすり減らす業務であることに変わりはなかった。

玄関より左側が職員の事務室だ。日焼け防止のためのブラインドが至る所降りていた。


「ん?もしかして窓が開いているのでは?」と思った瞬間。
網戸がちょっと定位置からずれているだけだった。


ホワイトボードの落書きからすれば、何処かから侵入できた可能性がある。しかしまさか愚かにも窓の一つの鍵を閉め忘れていた…なんてことはないだろう。一体どこから内部へ忍び込んだのだろうかという下世話な興味は湧いた。

ブラインドの隙間越しに偵察してみた。
デスクなどは見当たらず、むしろ片付けられた場所一面に衣装ケースが積み上げられていた。


オフィスの窓際に置かれがちなものと言えば…各種アクセサリやソフトウェアの箱などだ。実際、ガラス戸越しに今となっては懐かしいソフトウェアのパッケージが置かれているのが見えた。
販売終了し既に売られていません…お世話になった方は多いはず

自転車を引き連れつつ建屋の2階の方に回ってみた。


東側からの撮影。植え込みが伸びすぎていてアングルが撮りづらかった。
事務所の前面まで駐車場になっている。


現役時代、資料配付や入札に来たときよく車を停めていたのはこの田形のコーナー部分だった。
あまり幅がない場所まで駐車スペースに割り当てているため、来訪者が多いときは停まっている車の横をすり抜けるのに苦労した記憶がある。
わざわざ矢印がペイントされているのは駐車場内で車が鉢合わせしないためである


2階部分。この上の方がかつて入札室に使われていた。
1階部分は宿直室ではないだろうか。裏手にも入口があった。もちろんこちらからは入ったことはない。


給湯関連の設備や窓の内側に洗剤の容器のようなものが見えるので、かつては宿直担当者が寝泊まりしていたのだろう。
当然ながら勝手口は施錠されていた。


勝手口横の窓はレースのカーテンが若干開いていた。


お節介ながら中を覗き込む。
畳敷きの部屋でさすがに使われている様子はないが、そう傷んでいる感じはなかった。


ざっと外側を見た限りでは窓ガラスに割られた跡などはなかった。そうなればあのホワイトボードの落書きは、物理的な破壊で強引に侵入したものではなく事務所が閉鎖された後の管理が行き届かなかった時期に入り込んだか、屋根まで上がって崩落した天井から侵入したのだろう。
まあさすがに窓ガラスを割って侵入なんてことはしないだろう。いくら閉鎖されている公共の施設とは言っても来訪者の進攻を明白に拒絶する状態になっているなら不法侵入だし、窓など破って入れば器物損壊が上乗せされる。

既にセキュリティーは機能していないと思われるが、こういう場所へ忍び込んだ場合、どちらかと言えば興味本位の学生よりも私のような成人だと事は深刻だ。保管されている何らかのデータに価値を見いだし窃取するとか、提出済みのデータを取り戻して改ざんするなどを疑われる余地があるからだ。

この事務所は今後どうなるのだろう。玄関内側の天井以外に傷んでいる部分は見当たらないので、何か他に活用するあてがあるなら補修して使うだろう。
それにしてもたった30年未満で屋根が抜けるなど一体どんだけの安普請なんだろうかという感じはある。加えてホワイトボードの落書き…関係者が書いたのではなく侵入者が(建設事務所関係者の振りをして)書いたとしても、見るからに美味しそうな廃墟状態になっているのを放任しているのも哀しいものであった。
なお、時系列としてはこの後に岬方面へ向かい、この過程で岬明神川の市道横断部について追加調査を行い驚愕物件にまみえることとなった。詳しくは以下の記事を参照。
時系列記事: 岬明神川【1】
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同年12月に再訪したときの写真を追加する。
現地撮影日:2014/12/13
玄関上部の剥がれかかっていた印刷部分は新たに白い紙で覆われていた。


崩落部付近の天井の様子。
玄関に近い側と奥通路側の2ヶ所に渡って天井が崩落し、断熱用のグラスウール素材が見えかけている。


寄せ集められた瓦礫。
一面に苔かカビが生えていて濃い緑色を呈している。付近には汚れた水が流れた跡があった。


浸水が停まっているなら苔は育たず枯れてしまうものである。この状況からすれば、抜け落ちた天井部分から今も雨水が建物内部へ侵入しているように思われる。
まずいことに平屋事務所の屋根はプレハブ造りなので平坦である。まとまった雨が長く続いたなら、そのうち流れ込んだ雨水が衣装ケースの積まれた元事務所へ流れ込むのは時間の問題だろう。
出典および編集追記:

1. 右端に小さく濃い字で「3/30 ミスチルライブ(広島)」と書かれているが、ライブが開催されたのは2013年なので比較的最近の書き込みのようだという読者からの指摘があった。
FB|2015/12/18のタイムライン」参照。(要ログイン)
その時期まで事務所が出入り可能だったとは考え難いので、もしかすると天井の崩落により開口部が生じ、屋上を伝って内部へ進攻したのではないかと思われる。
真っ黒けのけな不法侵入ですな…

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