旧宇部市立図書館に関する問題

公共施設インデックスに戻る

記事作成日:2022/2/11
最終編集日:2022/10/24
ここでは、新川地区島にある旧宇部市立図書館の抱える問題についてまとめている。
《 旧図書館の売却問題 》
旧図書館と旧郷土資料館を含む敷地は、今後民間への売却が検討されている。同等以上の機能を持つ図書館および郷土資料館が別の場所に存在すること、特に旧図書館の建物は築後60年以上が経過し耐震補強やバリアフリーの改築工事を行うにはコストがかかり過ぎることが理由である。市内にある老朽化し利用実態に乏しい建物の見直しの過程で決定され、この他に福祉会館青少年会館も対象となっている。この2物件は廃止および取り壊しがほぼ確定している。
【 市のスタンス 】
民間への売却というと聞こえが良いが、現状のままで旧図書館の建物を活用することはおよそ考えられない。この地を購入することを考える殆どの民間業者にとって建物はゼロどころか除却にコストがかかる負の価値であり、立地と敷地のみに価値を見出している。そうなれば敷地内にあるすべての建物が取り壊され再開発されるのは必至である。

学生時代に旧図書館で学んだ市民は極めて多い。その建物が殆ど市民に情報が与えられないまま秘密裏に処分されようとしている。もっとも有りそうなシナリオとして、民間に売却された後建物を全て取り壊し整地した後にマンションや分譲住宅を建設する案である。このことは現在なお市街部および周辺地域の宅地造成が拡大していることより推察される。旺盛な宅地需要があるならば、島地区のような場所は分譲地として売り出しても瞬く間に高値で売れるだろう。

前述の通り、敷地内にある旧図書館と旧郷土資料館は放置され廃墟同然となっている。この立地と建物の利活用方法を考えるよりは、民間に売却して資金を手にした方が手早いし利活用という面倒なことを考えずに済む。実際、使っていない施設を遊ばせておくのは無駄であり財源化することは道理ではある。

それにしても市は現状これらの売却案を明瞭な形で市民に提示していない。建物の取り壊しといったキーワードは含めておらず、廃止といった書き方をしている。これは旧図書館で学んだ市民が非常に多く、由緒ある建物がなくなることが明らかな書き方をすると市民の賛同を得がたいことを想定しているからであろう。
恩田運動公園の市営プール取り壊しのときも反対意見が極めて多く構想の見直しを迫られている
【 売却に反対する理由 】
結論から先に言って、旧図書館が取り壊されることとなる形での民間への売却案に反対する。これは個人的意見というだけでなく、新川歴史研究会としても取り壊すなど論外であり、敷地全体を含めて必要なものは温存する形でのリノベーションおよび利活用を提案している。この理由は以下の通り。
(1) 旧図書館が多くの宇部市民の学生時代を回想させる重要な施設であったということ。
(2) 建物や敷地を温存するのみならずそれらを現代社会が要請する用途に沿って利活用する余地が大きいこと。
(3) 旧図書館のある島地区が周辺を含めて風致地区に指定するに値する立地であるということ。
本件に限らず、どんな物件も語り継がれた内容やテキストに起こされた文言よりは写真や動画といった客観資料の方が価値が高く、更にそういった客観資料よりも「現物がそこに存在すること」の方が更に価値が高いと考えている。写真で見るだけでなく、実際にそこを訪れて学生時代に学んだのとほぼ同じ建物の状況を目で見て手で触れることができれば、遙か昔を回想する最良のスイッチとして機能する。この意味で、まず可能であれば現物を温存させるという選択肢を提案する。

ただし、一般によくある由緒ある建物などの保存において「保存ありき」の議論には馴染まない。例えば宇部銀行の象徴的存在である現在のヒストリア宇部は、建物こそ存在するもののそれが最も望ましい方法で利活用されているとは到底言えない。殆ど集客性が期待されない方法で公開され、しかも昔を偲ばせる部分が改変されたり、一般市民が立ち入ることができない状況に置かれている。

敷地において特に旧図書館の利活用を求めるのは、このような単なるノスタルジーに耽る温存を避けるためである。例えばクラウドファンディングで資金を調達して取りあえず敷地と建物の破壊は避けられたというだけのような先のビジョンのない手法では、売却を免れたというだけで建物は相変わらず廃墟同然で存在し続けるだろう。それでは取り壊しを免れた郷土資産が喜ばない。

このような一過性の救出に留まらないために、新川歴史研究会では建物や敷地をどのように利活用していくかについての手法を含めて提言している。具体的にはこの地を郷土資料全般を扱う情報の交流拠点とすることである。郷土関連の施設は船木に学びの森くすのきがあるが、元々この地にあったものを移転したに過ぎず、旧宇部村エリアに関するものは当然ながらこの地に必要である。それも歴史資料の現物を保管展示するだけではなく、今後ますます重要となるデジタルアーカーブに係る学習の場や作業所としても適切な立地である。

市は最近、市役所庁舎の面する常盤通りを含めたウォーカブルな街造りを前面に押し出している。この点で渡辺翁記念会館から至近にある島地区は、昔の路地や建物をよく遺した市街地最後のエリアであり、ウォーカブル思想に極めてよく馴染む。このことは換言すれば、旧図書館や敷地を温存し利活用するのみならず、島地区全体の数百年来変わらず在り続ける路地をウォーカブル題材として利活用すべきことも含めている。
出典および編集追記:

1.「宇部市|教育支援課

2.「宇部市|図書館年報」の(令和2年度図書館年報)p.32 本市の図書館の略年表(PDFファイル)

3.「歴史の宇部」(上田芳江)p.158

4.「有志6人が”新川歴史研究会”、旧市立図書館保存など呼び掛け【宇部】|宇部日報

ホームに戻る