厚東川ダム・左岸堰堤接近計画【1】

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現地踏査日:2011/12/11
記事公開日:2012/2/1
厚東川ダムの普段誰も近づかない左岸に行けば、対岸からにはなるが工業用水や発電所の施設群を詳細に観ることができるかも知れない…
その考えの元で「左岸接近計画」を遂行し、途中思わぬハプニングがあったものの期待以上の成果をあげることができたのが去年の4月のことであった。

その後、7月下旬に開催されたダム見学会で、係員に随伴され普段は観ることの出来ないゲート室や堰堤上を見学した。その見学会で何よりも私を興奮させ、久しぶりに攻略意欲をメラメラ燃え立たせたのがこの物件だ。
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これはダム堰堤の左岸接続部で、フェンス越しに撮影している。フェンス門扉があるためにゲート室と外側とは相互に行き来が出来ない。
フェンス門扉の存在自体は右岸のダム管理所付近からも見える

見学会のとき私は当然ながら担当者に尋ね、こういうやりとりがあった。
「この先は何処に通じているんですか?」
「何処にも行かれません。」
「あの2本の柱は…一体何ですか?」
「ちょっと…分かりませんね。」
ダム管理者ですら全く立ち入らず、多くを知られない未知の空間がここに眠っていた。

見学会のときはゲート室を通ってダム堰堤からフェンス越しに眺めた。担当者はフェンス門扉の鍵を持っていなかったし、恐らく何処にも無いだろう。当然外へ出ることはできなかった。
通常では立場が逆になる。即ちゲート室やダム堰堤は立ち入り禁止だが、フェンスの外側は別にそうなっていない。もし望むなら、あのフェンスの反対側からゲート室などを眺めることができる。

問題はただ一つ。

そこへ到達する方法がまったく分からない という点だ。

左岸接続部を航空映像で眺めてみよう。

堰堤自体は視認できるがフェンスなどはもちろん上空からは見えない。そして地図モードにしても左岸堰堤まで向かう道らしきものは何も表示されない。
しかし私は適切な経路を選択すれば到達可能な筈だと見た。左岸のダム下付近までは到達できたし、そこからターゲットまでは直線距離で高々100m程度である。その間に詰んだ等高線で表現される急傾斜地や藪をやり過ごすことだけが課題だ。

この物件について報告するのは実は初めてではなく、ローカルSNSブログ側でダイジェスト的に触れている。何故詳細に報告しなかったかは恐らく想像がつくと思うが、早めに明言しておくと、
踏査は失敗に終わった
…からだ。

理由は後で述べるような複合的要因があった。もちろん「失敗しました。以上」で終わりにする筈がない。この記事を書いている現段階で既に別の実行計画が練り上がっている。それはいつでも着手する用意があるものの、年が明けてから一向に天候に恵まれない。この日曜日(22日)も終日曇りで夕方は雨という冴えない天気だった。

第一次踏査となるこの記事では私がどの経路と手段で何処まで到達し、どこで挫折したか、今後どうするのかを明らかにしようと思う。
元が失敗の記録なので、藪を写した写真ばかりで見るべき成果は何もない。今回はあくまでも読み物としてお楽しみ頂きたい。

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12月中旬の日曜日、私は懸案材料に挑むべくハイブリッド方式で厚東の地を訪れていた。
現地までの行程は左岸接近計画のときとほぼ同じなので省略し、ここからスタートしよう。これは左岸計画の記事をお読みになった方なら見覚えのある風景だろう。
自転車だけ違っている…初代自転車は破損により去年の夏に引退させた


ハイブリッド方式の援用は前回と同じだが、タイヤに優しくない砂利道を避けて、ここまでは車地交差点から国道490号を経由して来た。ここからは一本道なので仕方なくタイヤへのストレスを気にしつつ砂利道を進む。

最初に来たときに頭を悩まされた「泥のじゅうたん地帯」である。
あれから半年以上経って草が生えまり、それも今では枯れたようだ。


いや…
草が生えているのは想定の範囲内なのだが…
想定以上の酷い泥地状態!!


軽トラが通った比較的新しい轍跡があった。しかし今の状態になってから進出したのではなく、通った後で雨が降って水が溜まったらしい。初めてここに来たときもぬかるんでいたが、今回はその時よりも酷い。
これ…無理だよ。
編集長、行きたくないです。(>_<);


全線乗ったまま強行突破できる状況ではない。間違いなくハマる。そしてハマッた場合は地面に足を着かなければならないが、そうすると忽ち靴の中まで浸水するだろう。どうもこの低地は水はけが悪いようだ。

当然、迂回する方法を考えた。
まず、山の手に登る道はない。広場の右側はいくらか滞水が少ないように見える。だが草に覆われていて地面の状態が分からないし、道の形を成していないからまず乗っては進めないだろう。まだ軽トラが踏んだ経路の方が平坦だし信頼が置けそうだ。そうは言っても踏査の始まったばかりで靴を濡らしたくないし…


なんか…テンション上がんないなぁ。
今回は軽くパスしようかな…
バカモンッ!!
そこまで行っておいて、溜まり水が酷くて引き返しましたじゃ
読者に顔向け出来んだろがっ!! anger
鬼の編集長の一喝により(?)強行突破策と相成った。
自転車に跨り、少し離れた場所から勢いを付けてダブルトラックの中央部分を進んだ。溜まり水の少ない地点まで惰力で進むことができれば、そこで足を着いても浸水被害は少ないだろう…

滞水区間を乗り切り、ギリギリのところまでは爪先立ちで進攻することで何とか切り抜けた。帰りも同じタスクを求められるが、反対側からは助走距離が稼げるだけ何とかなりそうだ。

自転車にはハマる心配のない軽トラの踏み跡を辿らせ、自分は少しでも泥汚れしない草地を歩いた。
それでも心なしか靴の中がちょっと冷たい。少し浸水したかも…


やっと発電所の見える場所までやってきた。
こんなに長かったかなーと疑問に思えたほど
そこで前回来たときとは違う状況を呈している物件に気がついた。


水力発電所が稼働している。
泥のじゅうたん地帯を脱した頃から独特の電気音がここまで聞こえていたので想像はついた。何よりも建て屋下の排出口から大量のダム水が河川敷へ戻されている。


あの排出口から出ているということは、宇部興産(株)所有の厚東川発電所の方だ。
企業局の設置した二俣瀬発電所は工業用水施設に付随するマイクロ発電所
厚東川発電所が稼働するには厚東川ダムの責任放流分以上の余剰水が要るせいか、あまり発電しているのを見たことがない。外からだと殆ど変わらないものの、発電中の厚東川発電所はまだ写真に撮ったことがない。

しかし今回の主眼はあくまでも左岸堰堤への接近だ。せっかく苦労して来たのだから後で撮影することにして、まずは当初のターゲットに向けて直球勝負だ。

もう12月というのにまだ雑草は余力を残している。立ち枯れ状態になっているものの、草地は決して浅くはない。


前回も通ったこの経路は単に左岸のダム下へ向かうだけだ。ターゲットの左岸堰堤に向かうには、何処かで斜面を登らなければならない。しかし闇雲に分け入っても徒労になりそうなので、まずは一旦ダム下の接近可能なところまで進み、戻りながら登れそうな斜面を探ることにした。

前回は自転車へ跨り鼻歌で接近できた筈のこの場所も、立ち枯れた雑草たちが蔓延っていた。冬場の今の方がむしろ進攻に苦労した。


振り返って撮影。
背丈に近いくらいの雑草が目立つ。今でこうだから夏場は全く寄りつきならなかった筈だ。


自転車をそこへ留め置き、まずはダム左岸堰堤真下へ接近する経路があるかどうか探ってみた。
前回来たときは春先だったので当然寄りつきならなかったが、冬場の今なら少しは見込みのある経路が探せるかも知れない…


…と思ったのだが…
無理…即断。


接近すると堰堤部分が見えなくなるほど背丈の高い藪の海だ。いくらこの奥に魅力的な物件が眠っていようが、地面からして全く見えない状況では物理的に接近不可能。


ベストなのは、このまま藪を突破してダムの直下まで到達し、ダム堰堤に沿って斜面を登る経路だ。それが可能なら、ダム左岸堰堤という最終ターゲットを下から目視できるし、斜面を登るのも最短距離になる。何よりもダム直下は恐らく厚東川ダムが完成してから何十年もの間、誰も足を踏み入れたことのない空間になっているのが確実だからだ。
私はここに誰の目にも触れたことのない物件が眠っていると強く確信している…その理由は…

しかし12月の今時期とは言え、藪を見ればまだ青々としている草木もかなりある。思うに夏の盛りよりは断然楽ではあっても、12月はガチの藪漕ぎを要する物件踏査には時期尚早だ。枯れてはいるものの未だ自立している背の高い雑草に覆われた平原からも明らかだ。
いずれにせよ遺憾ながらこの藪の強行突破は着手不可能と見なさざるを得なかった。ダム直下へ到達するという副次的成果は断念して、左岸堰堤へ向かう経路取りを考えた。

誰か以前にでも通った形跡があれば、人の手が入ったものが見つかる筈である。山沿いを丹念に観察しながら歩いた。

藪の中へ赤い紐がぶら下がっているのを見つけた。もっとも現地の私は気づいてカメラを向けているものの、解像度が間引かれたこの写真から探すのはちょっとしたパズルだろう。


これである。間違いなく人工物だ。

それもたまたま赤いリボン状のゴミが引っかかっているのではなく、何かの意図をもって誰かが結びつけている。


木の枝に結わえられたリボンは、送電鉄塔のメンテナンスで索道を辿る作業員の目印であることが結構多い。一度は誰かが足を踏み入れて印を遺したわけであり、酷い藪だろうと何処かへ向かう経路としての信頼性は高い。

まずは正面から直接踏み込もうとしたが、藪の密度が異様に高い。とても進攻できる状況ではなかった。

確かこの辺りから沢を遡行する道があった筈だ。正確な地図のメモは持って来ていなかったが、この地図の概要は頭に入れていた。次のような経路を想定していたのである。


沢を遡行して点線が描かれており、人が歩ける道の存在を示している。ここを歩いて途中から小野湖側の斜面に取り付けば到達できるだろう…という考えがあった。

沢らしい水筋を見つけた。もっともざっと見た限り周囲に踏み跡らしきものは観察されない。雨で削れて失われているのかも知れない。


沢の遡行自体が酷く困難だった。これが上の地図で示した沢地という確証が持てれば、強気でガンガン押していたことだろう。似た沢地は結構あったし、そのすべてが例外なく雑木で覆われていて地形を確認できないので今ひとつ信頼を置けなかった。

当然道などないが、一本の沢を遡行するだけなら山中に迷う心配はない。一昨年のことか、厚東川1期導水路を辿るときにも尾根から道のない沢を下っている。

しかしこの場所は一昨年に挑んだ霜降山裾野の斜面とは地形的に酷く異なっていた。ところどころで酷い藪となっていたし、何よりも歩行を苦しめたのは異様に多い割石だった。


積み上がった大きめの砂礫は、一見するとはるか昔の人々が棚田の境界を目的に積んだようにも思える。しかしこれは人工物ではないと思う。積み方に何の規則性も見られない。人工物なら前面は石の平らな部分を向けて全体が一枚の平面を造るよう積むものである。そのような作為的配置の形跡が全く感じられない。大量の砂礫が上流部から流されて自然堆積したに過ぎない。

沢は乾いていたが、少しでも雨が降れば結構な水量で洗い流されるらしい。およそ土砂というものがなく殆どが割れ石だ。それも角が尖った岩だらけでとても歩きづらい。踏みつければ足の裏が痛いし、不定期にグラっと傾くから足場にもならない。

沢歩きだけでも一苦労なのに、沢の遡行だけでは駄目なのだ。ターゲットに向かうにはどこかで沢から斜面に取り付かなければならない。左岸堰堤までは直高で20m程度は登ることになる筈だ。
少しでも傾斜が緩やかで見込み在りそうなところを探し歩いた。沢に転がっているような割石だらけの斜面などとても信頼ならないので、少しでも土が露出している場所から挑み掛かった。

手がかりとなる太い木が疎らに生えている斜面に取り付く。
最近の雨がちな天気も踏査には大きなマイナス要因だった。しっぽりと濡れた木の葉は、踏みつけると全く面白いようによく滑った。太い枝を頼りに体重の半分を両手に預けたとしても、足元がこんな状態だから踏ん張ることができない。次の一歩を踏み出そうとした瞬間、足元が崩れる有様だ。
これは踏み出した足元が滑った直後の映像


それでも斜面に張り出す太い木の枝を頼りに暴力的な登攀を遂行し、急斜面の半分程度を登り切った。
しかし強攻策もそれまでだった。この石積みを前にして全く行き場がなくなったのである。


殆ど垂直に積み上がった自然の石積みで、高低差は1m以上。このような不安定な石積みが城壁のように続いており、回避して登る経路取りは不可能。
手の届く範囲には頼りになる太い幹はなく、この段差を越えるにはどうしても石積みのどこかに手足を置かなければならない。

露出している割石の一つに手を掛けて少し押してみた。
忽ちそれはポロッと外れ落ちて斜面を転がり落ちていった。
絶対、無理だ。
足を掛けた途端に崩れてしまう。
グラッと足元が崩れたら須く斜面の一番下まで転げ落ちるだろう。そして沢地には角の尖った砂礫がゴロゴロしている…そこへ転がり落ちればどうなるかは…
縦しんば登攀に成功したとしても、帰りに安全に降りられる保証など何処にもない。あれでもこの向こうにターゲットがチラッとでも見えていれば、後先を顧みず恐らく強行してしまっただろう。実際にはまだ7〜8mばかり登ったばかりだ。ここをこなしたとしても更に上があるのは明白だった。

諦めて撤収した。

撤収を決めても、この急斜面は容易に私を安全な場所まで帰してはくれなかった。とにかく足元が滑って覚束ないので、両手と両足に体重を半分ずつ分担させて移動した。それでも太い幹を握ったままで足元の土砂がズルッと崩れる事態が数回あった。
急斜面を踏ん張りつつ降り、更に割石ゴロゴロな沢地を歩き回っているうちにどうやら靴の裏に穴が空いてしまったようだ。水たまりに足を踏み入れると明白に冷たい感覚が靴下に染みてくるのを感じた。
もうダメです…編集長…。・゜゜・(>_<;)・゜゜・。
いくら何でも条件が悪すぎます。
這々の体で自転車の場所まで戻ってきた。


何も成果なしで帰れはしない。ここへ来たとき撮影すると決めていた厚東川発電所の稼働している様子を写真に撮ってこの場を後にした。
発電所の記事はまた日を改めて別途記載する予定
第一次踏査、失敗…
ターゲットに到達するなら、何処かであの急斜面をこなす必要に迫られるだろう。それにはもっと時期を選ばなければいけない。少なくとも数日くらい晴れの日が続かなければ滑る急斜面に苦戦させられるだろう。
経路も再考する必要がある。そもそも国土地理院の地図に破線で描かれている以上、人が往来していた形跡らしき道はありそうなものだ。それを確定してから挑む必要がある。いくら道のない山中を歩くのが平気とは言ってもやはり気持ち良いものではないし、無用な危険はなるべく回避したい。

他に必要なのは、靴を新しいものに買い換えることか…^^;

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1月最後の日曜日、まったく別の視点から第二次踏査を行ったのでいずれ記事にします。

(「厚東川ダム・左岸堰堤接近計画【2】」へ続く)

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