佐々並川ダム【5】

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(「佐々並川ダム【4】」の続き)

コンクリート階段には鋼製の手すりが着いていたので、ある程度信頼して身体を預けることができた。もっともそんなに前のめりにならなくとも視座が充分に高いのでダムを見下ろすのには好適だった。

柵より一歩前に踏み出てカメラをなるべく高く保持して撮影した。
斜め右から差し込む逆光は如何ともし難かった。


佐々並川ダムの堰堤は一番厚い場所でも9m以下という。[1]確かにここから見ても異様に薄く、堰堤上の管理道程度の幅しかない。全体が上流側へ向かってアーチを描くこと、ダム本体の重量と水圧のかかる下部に向かうに従って湾曲していることでこの構造を実現できているのだろう。

ここから眺めることで、今までまったく見えていなかったものの存在に気付いた。
どのことかすぐに分かるだろう。


ダム堰堤右岸側に記念碑のようなものが設置されている。高台の一角に正方形のスペースが造られていた。
よく見ると堰堤に向かうカーブ内側にも何か掲示板のようなものが設置されている


何やら文字が描かれているようだが逆光の影になる側なので読み取れない。しかしダム竣功を記念するモニュメントであることは確実だろう。
その奥にある建築ブロック造りの桝は不明


この場所は既に観た厳重な門扉の内側なので、せっかくモニュメントを設置しても中電の職員しか目にできないことになる。実際、当初から一般来訪者に見せるものではなかったようで、モニュメントの周囲にはベンチも植樹などもなく殺風景な状態だった。殆ど誰からも眺めてもらうこともなくこのままゆっくりと朽ちていくのだろうか…
勿体ない…中電主催の一般見学会くらい開催しても良いのではないかと思う

大きく伸び上がって撮影。
まだダムの底までは見えないが、やっと納得いく一枚を撮影できた気分だ。


ダム底を眺める限界だ。右へ移動すると横から張り出してくる木の枝に遮られた。
何だか崖っぷちから身を乗り出し危険な体勢で撮影しているように見えるが、その心配はない。
真下は崖下ではなく今さっき車で通ってきた林道だ


動画撮影もしておいた。

[再生時間: 14秒]


階段を降りて林道を更に歩こうとしたが、このままだとどんどん車から遠ざかってしまう。

一旦車に戻り、再び同じような階段のある場所まで車を移動した。
アスファルト舗装路はまだ先まで続いていた。


車で乗って上がるとき一旦通り過ぎた場所まで戻っている。
雨水桝のようなものが道脇にあって気になっていた。こんな場所に桝など必要ない筈なのだが…


コンクリート製の桝で、上に取っ手のついた縞鋼板蓋が掛かっている。
まさかもの凄く深い竪坑の入口なんてことは…sweat


桝のすぐ横には長門峡県立自然公園の表示が立っていた。
これがあるということは、今いる場所は中電の私有地のような「居てはいけない」場所ではなく、誰でも来て良い公地と考えられるだろう。
舗装路は歩きやすくてハイキングには良いかも知れないが…クマ出没リスクが…


さて、桝の蓋を持ち上げなくても横が元から空いていた。
中にはコンクリート土台に鏡のようなものが埋め込まれていた。何故かカメラを構えた私自身が写っている。


鏡のような…なんて持って回った言い方は不要だ。これが何であるかはかつての業務上よく知っている。距離を測定するために使うプリズムである。

これは光波測距儀向けのもので、直接テープを張れない長距離間を測るときの必須アイテムである。遠方からプリズムに向けて光波を飛ばし、反射して測距儀に戻ってくる信号状態を検出し距離を割り出している。プリズムは入射方向へそのまま返すような角度でミラーが設置されているので、どこから撮影しても私のカメラが写るわけだ。実務ではこのようにプリズムだけを固定設置することは稀で、長い棒の先にプリズムを取り付け、測量者の指示するポイントへ移動し棒を垂直に立てて測距する使い方が一般的だ。
プリズムの付いた棒を持ってナンバー杭まで何度も歩かされたものだ

道路の端の至る所にみられるこのようなものは、ダムや周辺の地盤変動を測定する基準点かも知れない。

この桝から谷底を眺めれば…
先ほど足止めを喰らわされた立入禁止の門扉の内側が見えている。現在場所から降りることさえできれば管理区域内へ立ち入れるわけだが、そんな考え自体が萎えるのも当然だろう。


更に谷底へ目を遣る。
深く刻まれた谷底。本当に露岩ばかりだ。
道らしきものは全く見えない…下流から辿って行けるのではという甘い幻想を考え直した次第


さっき登った階段部分を通り過ぎ、電線が渡っている付近に移動した。
2本のコンクリート柱で支えられる電線は、堰堤上にカテナリーを描いていた。


直線距離としては若干近くなったところでもう一度ダム管理所付近をズームしてみた。
視座が上がったことで、ダム管理所には堰堤から直接行く経路があることが分かった。
対岸にも監査廊ないしはグラウトトンネルの入口が見える


取水塔をズームする。
塔の真上にダム管理所が建てられているようで、その造りも凄い…建物と同じくらいの高さのコンクリート柱を建ててその上に載っているような状態だ。何でまたこんな構造にしたのだろう…
2階は宿直室だろうか…窓を開けたらかなり怖い眺めになりそうだ


ズームの限界。これ以上ズームしても画質が落ちるだけだ。
建屋の載った垂直コンクリート壁の横に無数のタラップが見える。その左側には湖水に没する階段が確認できるので、恐らくこれが佐々並川発電所向けの取水塔と思う。


水位は若干低めでもスクリーンなどは見えていなかった。水中に隠れているのか、あるいはここではなく別の場所に取水口があるのかも知れない。

地図の記述を信頼するなら、取水口の高さは絶対高度180m程度だろう。


車を停めた方へ戻るように歩く。崖を覆うネットの端に何やら建屋が隠れていたことに気付いた。
ここからでは半分くらいしか見えない。


もう一歩踏み出してカメラを構えれば写せるのに…って?

ここがどういう場所かを想像してみて欲しい。
水平に板を差し出して10mも歩くことができればそこは既に湖上だ…^^;


電柱の位置まで移動し、スレート屋根とシャッターの付属した平屋と分かった。
管理区域内なので詳細はもちろん分からない。
小屋の先に管理道が続いているようにも思われたが未確認


思えばまだここへ来てダム湖側を撮影していなかった。
伸びすぎた樹木が遮らない場所を探して移動した。

(「佐々並川ダム【6】」へ続く)

出典および編集追記:

1.「Wikipedia - 佐々並川ダム|歴史」参照。

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