白岩公園・初回踏査【序】

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記事公開日:2013/3/24
情報この記事および後続記事は速報性最優先で作成されています。後日記述内容の分割や併合など記事構成が変更される可能性があります。

白岩(しらいわ)公園は上中山に存在する歴史の古い公園である。いや「公園であった」と言った方が適切なのだろうか。現在は後で述べるような事情があって既に公園と呼べる状況ではなく、遺構ないしは廃墟と化している。現在入手可能な市内の観光マップに白岩公園の名前は現れず、ネット上の地図にも記載されていない。少なくとも現時点においては歴史の彼方に葬り去られてしまった公園なのである。

白岩公園というキーワードに反応する宇部市民は、恐らく真っ二つに分かれる。聞いたこともない名前の公園だ、何処にあるのかさっぱり分からないという声と、広大な山野に自然石が目立つ場所、小学校の遠足で何度か行って慣れ親しんだ秀逸な公園という声だ。私は前者の部類で、白岩公園の存在はまったく聞き及びしなかった。しかし一定年齢から上の世代で、中山を含めて藤山校区にお住まいの方は殆ど間違いなく知っている。体験談としては小学生時代に遠足で訪れたという声が圧倒的に多く、当時の想い出を熱く克明に語ってくださる市民もある。

私が白岩公園の存在を知ったのは、つい最近行きつけの事務所で借りた一冊の書物だった。現地に赴く以前に得ていた公園の概要は以下の文献のみであった。
「ふるさと歴史散歩」P.130〜131
著者/黒木甫(宇部地方史研究会理事) 出版/宇部時報社
書籍には白岩公園の特徴が写真と共に紹介されていた。私が知らなかったというだけで、その公園はかつて非常に知名度が高く規模も大きなものであったらしい。
・かつては「東の常盤公園、西の白岩公園」と呼ばれていたほど
 市民に親しまれていた。
・昔の小学校においては遠足の目的地として定番だった。
・渡辺翁の揮毫による「大自然」と彫られた大岩がある。
次に感じたのは、この公園のもつ特異性であった。
・一個人が自己修行の場という目的と御大典記念として
 一般人が愉しむ公園として自力で整備した。
・現在はまったく顧みられることなく藪の中に埋もれている。
即ち白岩公園は公園緑地課の管理する一般的な公園ではなく私有地である。そのことと呼応するのかも知れないが、後述する理由により次第に人々が訪れなくなってからは管理の手を離れ、藪に埋もれて自然に還ろうとしているらしかった。

現地が荒れているらしいことは書物に掲載された写真からも窺えた。いくつかの著名な構造物を撮影した写真はどれも藪に埋もれていたのである。「ふるさと歴史散歩」は平成初期の出版物なので、今から少なくとも20年近く前には既に荒れ放題で廃物件と化していたことになる。
書籍によれば、白岩公園は道路のつかない山奥にあって車で行くことはできないという。即ちかつては小学校の遠足の如くのんびり歩いて訪れる公園だったのだが、昭和中期以降のモータリゼーションによって人々の移動手段が車にシフトしたのが顧みられない公園となった一因とされている。

僅か2ページ余りに凝集された白岩公園の概要を読み、私の中でいくつかの知りたいことと納得いかない部分が生まれた。
それほど市民に親しまれていた一大公園なのに、
どうして忘れ去られた存在になってしまったのだろうか?
単に昔の小学校の遠足地だったというだけではない。かつては御堂が存在し、毎年4月には祭りも開かれていたという。何よりも市民に親しまれ、宇部が誇る偉人渡辺祐策翁の揮毫による石碑も存在するほどの一大公園が、何故に廃墟と化した状態に捨て置かれてしまったのだろう。それは余りにも哀しい定めではないだろうか。

この公園の辿った経緯を詳しく知るには、
まず現地へ行ってみなければならない…
白岩公園探索のはしりは、この3月上旬に行った歩行調査であった。同月の初旬に面河内池の踏査を行い、常盤用水路の追跡以来久し振りに中山の地を歩き回った。その直後に先の書物と出会い、白岩公園が面河内池と同じ中山地区にあるらしいと知ることになる。

中山観音の裏手から急な坂を登り、霜降山に至る遊歩道は「白岩公園コース」と呼ばれていることを別の情報筋から知った。それは期せずして面河内池を踏査したとき知らずに歩いた道だった。そのものズバリの名称が冠せられた遊歩道コースなら、きっと白岩公園の見える場所を通るのだろうと楽観視し、別の日に大したリサーチもなく行ってみた。周囲を丹念に観察しつつ歩いたのだが、西校分岐まで歩いたものの公園自体はもちろん入口の案内を含めて何の手がかりも得られず引き返すこととなった。
写真は白岩公園コース途中の一風景である…この場所では実際には通り過ぎている


遊歩道の道中にいくつか分岐らしきものはあったが、公園を案内する標識は既になかった。公園自体が白岩公園コースから離れているか、あるいは数十年を経過し藪に包まれているために遊歩道からは見つけられなかったと推察された。白岩公園がどの程度の広さをもつものか想像しかねるとしても、全体が藪に包まれて公園へ向かう道さえも失われるほど荒れているとしたら、このただっ広い山中で公園の場所を特定するのは極めて困難ではと思われた。いずれにせよ闇雲に山の中を歩き回って見つけられる話ではない。現地踏査の前にもう少し念入りな準備が必要と感じた。

白岩公園は中山にあるらしいことは先の書物で判明していた。しかし中山と言っても相応に広い。現地の方に聞けば分かることだろうが、なるべく他人の手を煩わせたくないし、そもそも予備知識のないまま試行錯誤も交えて自力で探索するプロセス自体も踏査のうちである。公園への行き方を地元の人に尋ねて言われるままに赴き、写真を撮って終わりなら、自分のやっていることは単なるレポーターだ。まあそれもアリなのだろうが、ここは一つ謎解きの醍醐味を愉しむが如く取り組もうと思った。一度現地が分かってしまった物件は、もう二度と「何処にあるか知らない状態には戻らない」。

そう…
既に壮大な謎解きゲームが始まっていた。

まず私は再度、先の書物の該当項目を熟読した。白岩公園の地図は記載されていなかったが、その場所を仄めかす情報として次のようなくだりがあった。
引用する。
> 市営バス中山線の白岩公園入口バス停から東へおよそ800m行ったところの道端に藤山校区ふるさと運動部会が立てた公園入口の標識がある…

> 山麓の家々が途切れた辺りに常盤池に流れる用水路があり、そこから山道に入ると石垣が見え…
まず最初の情報について、市営バス中山線となる道は現在の県道琴芝際波線を指している。しかし現在では白岩公園入口バス停なるものは存在しない。県道自体は3年前に自転車による県道レポート向けの記事を書くとき写真を撮りながら走破している。そのとき沿線にあるすべてのバス停を撮影し名称も確認済みだった。
基準となるバス停を特定できないが、2番目の情報から現在の上中山バス停ではないかと考えた。
写真は県道琴芝際波線の上中山バス停付近


中山には中山観音、上中山、中山、下中山の4つのバス停が存在する。中山観音は遙か昔からあるものだから旧白岩公園入口バス停の可能性はない。下中山バス停や山中バス停は既に山際からは離れ過ぎている。そうなるとバス停の統廃合や移動が行われていなければ、現在の上中山バス停以外有り得ない。実際、ここから山側に入ったところには確かに常盤用水路が通っている…

以上の情報から、私は現在の上中山バス停あたりから山に向かって伸びる道のどれかが鍵を握っていそうだと睨んだ。それらはいずれも常盤用水路を横切り白岩公園コースに向かっている。


何処であろうが現地踏査の前に必ずすることだが、これとは別に私はYahoo!地図で山中付近を調べていた。そして面河内池を踏査する以前からこの近辺の地図で奇妙な描写のある場所に気付いていた。
その場所を中心にポイントした拡大地図を示そう。


この場所には何も案内が出ていないし、別ウィンドウで航空映像に切り替えても見えるのは緑の連なる山野だけである。公園どころか岩らしきものすら見えていない。しかしYahoo!地図をよく観ると、大小2つの梯子のようなものが描かれていることに気付く。
この記述は一般には車が通行できないほどの急坂や石段を示している。水色の小さな円形は溜まり水か自然の池かも知れない。その西側に描かれている□印にヒゲの付いたような2つの印は宇部興産(株)の特別高圧線の鉄塔である。
この付近で県道を横切っていることは早くから分かっていた

Yahoo!地図の詳細はゼンリン(C)のデータを継承しており、今は存在しないものも含めてしばしば遙か昔の情報が修正されずに残っている。地図を見る限り、前後に道がついていない階段だけが山の中に取り残されていることになる。

もっとも近くを特高線が通っていることから、送電鉄塔の管理道で特に崩れやすい場所に階段を設置したのかも知れない。ただ、意味もなくこのような記述を地図に記載する筈もなく、そこに何かがある(あった)ことは殆ど間違いない。そして普通は送電鉄塔如きで設置される石段がこんな目立った記載を持つことも稀だから、もしかすると白岩公園の石段では…という想像が働いた。

ちなみに国土地理院の地図では、近辺でピークとなる場所に測量点の記号が描かれているだけである。この場所に到達する山道さえも記載されていない。

先の地図に戻れば、階段らしきものがあるのは常盤用水路のNo.2隧道の下流側坑口付近より山の斜面を登った先ということになる。No.2隧道は常盤用水路踏査で数年前から幾度となく訪れており、現地へ行くのに迷う要素はない。水路を辿りつつ山側をじっくり観察すれば何か手がかりが得られるかも知れない…

大まかな攻略場所と以上のような踏査方針を固めた上で、本気度の高い白岩公園の初回踏査が幕を切って落とされることとなった。

(「白岩公園・初回踏査【1】」へ続く)

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