古原田上池【1】

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現地踏査日:2014/5/17
記事公開日:2014/5/18
情報この記事および後続記事は速報性最優先で作成されています。後日記事名やファイルの保存位置、記述内容の分割や併合など記事構成が変更される可能性があります。
古原田(ふらんだ)上池にまつわる興味の対象は
その名称や形状だけではなかった。
丸尾にある奇妙な形をした古原田上池。東岐波方面の踏査の折に立ち寄り、溜め池としてはごく一般的な記事に仕立てて公開した。古原田が市内では珍しい難読地名なので、それほど興味を持たれないかもと思いつつもFacebook版の「宇部マニアックス」ページ[1]でも紹介してみた。

FBでは常盤池のミニチュアのような入り組んだ汀と奇妙な読みの古原田について言及し、溜め池という地味なジャンルながら平均を若干上回る関心度をもって読まれた。


ところがFBで紹介したことによって、私がまったく気付いてもいなかった未知の物件が古原田上池の南岸にあるという読者コメントをいただいた。[1]を元に引用しよう。
「南側の湖面に飛び込み台がポツンとありますけど、いつの時代なんでしょうか?東岐波の中学生か小学校が使っていたのでしょうか?」
また、別の読者からも同一物件について指摘された。
「昔、バス釣りでゴムボートから2つの飛び込み台を見た記憶があります。こんな所で泳いでたの?と、友人と話してました。」
FBページで私が掲載した内容以外の物件について情報が寄せられることはそれほど多くない。当該物件にまつわる主要なものは書籍なども含めて一通り調べ上げているからだ。ただ、古原田上池に関しては深く調べていなかった。個人的関わりがなく自分にとって未開拓な東岐波区の溜め池である。地図で見て面白い形の溜め池と思ったので、現地で確認してざっと写真を撮って総括的記事にまとめる…程度しか予定していなかった。

お二方から同一内容と思われる情報を寄せられたとなれば、それはよほど目立つものなのだろう。指摘を受けて堰堤から数ショットに分割して撮影した写真を点検した。しかし私の脳裏で飛び込み台と考えているようなものは何も写っていなかった。
その後、最初に情報を寄せた読者が、その奇妙な遺構が見える場所への詳細な案内を投稿してくれた。再び引用しよう。
「吉田のイソベ自動車の東側から北上する道があり東部消防出張所背面へ抜けたあたりで古原田池に接する所があり、そこからご覧になれます。ちなみに東岐波の高齢者も使った記憶無いし、知らないと言っていました。新浦のピーヤみたいで不思議な景色です^_^」
東部消防出張所は国道190号沿いにあり、古原田池を訪れるとき確認していた。どうやらその裏辺りだ…と思ってYahoo!の航空映像を調べた。そしてもしかしてこれではないかと思われるものが見えたのである。


そこで確認のため、記事上でこのように尋ねてみた。
「航空映像で調べてみました。この場所の南北2ヶ所、池の中に飛び込み台みたいなものが見えていますが、これですか?(http://yahoo.jp/RMqdui
かなり古いもののようですね。もの凄く気になります。」
投稿者は飛び込み台のように見えるものはまさにそれだと答えた。

後出し的だが、実は航空映像で2本の棒のように見えるこの物体については気付いていた。現地へ行く前にYahoo!地図で経路を調べたり上空からの映像を眺めるのはごく普通に行っている。しかしその正体が何であるかについて頓着していなかった。その場所まで行く予定がなかったし、精々水上に浮かべられた筏だろう程度に考えていたからだ。
私は「飛び込み台のようなものが…」と聞いたとき、当初恩田運動公園の旧市営プールにかつて存在していた競技用の高い飛び込み台を想像していた。そうではなく小中学校のプールに付属する低い飛び込み台らしかった。

あの場所に何か存在するのなら、堰堤からの分割ショットに写っている筈だ…そこで改めて分割ショットを拡大表示しつつ調べてみた。
確かにそれらしきものが写っていたのである。


確かに航空映像と同様、棒状の何かの上に3つほど出っ張ったものが載っているのが見える。堰堤からの撮影なので遠すぎて写真だけでは正体が分からない。

上のコメントで私は「かなり古いもののようですね」と答えている。例によって国土画像情報で1970年代の古原田上池を調べ、2本の棒状のものが現在の航空映像と同じ位置に写っていることが確認できた[2]からだ。少なくとも40年以上も前から存在していたことになる。

池の中にあるものの正体が飛び込み台とすれば、溜め池の水を利用したプールの一部と考えられる。現在は古原田上池で泳ぐどころか釣りを含めて立入禁止になっているのだから信じがたいことだ。遙か昔、学校にまだプールが備わらない頃に溜め池を利用して仮設プールを造って水泳の授業に使っていたのでは…という想像が働いた。
些か矛盾するように思えるのは、東岐波で長く暮らしている筈の年配者も使った記憶がなく知らないと答えている点だ。小中学校のプールなら体育の授業で必ず使うので覚えていない筈もないのである。プールに付属する飛び込み台のような形をしているだけで実は全くの別物という可能性も考えられる。

FBの[1]スレッドで俄にその物件が注目され始めた。その正体を探るには、一にも二にも現地を訪れ、誰にでも分かる形の映像を撮影して読者へ情報を流すことだ。
これは何としても撮影して来ねばなるまい…
東岐波は自転車でそれほど近くもない地域である。しかも西部に比べて起伏が多く、訪問頻度が低いことは当サイトの東岐波にかかる物件の少なさからも分かる。それだけに訪れておきたい物件が多数放置されており、今回も本件をメインディッシュに東岐波地区のデータ採取を推し進めようという考えがあった。

FBのページ読者の「何があるか知りたい」という期待も背負って、情報の飛び交った翌日17日の午後、東岐波地区数回目の踏査の第一訪問地として設定した。
以下、時系列にそって些か冗長気味に記録している。当たり前だがすべての物件において初回訪問は一度しか体験できず、もっとも鮮明で刺激的な一コマだからだ。
結果だけでなくこういったプロセスを今まで以上に重視したいと思う

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FBページで情報が飛び交った翌日の土曜日、私は何度目になるか分からない東岐波行きで当該物件の詳細調査を優先するため、国道190号を北上していた。
長袖ではちょっと暑いと感じるほどの陽気で天気はすこぶる良い。

既に公開された古原田池関連の記事で「国道からは見えない」と書いた。そして実際、自歩道を走りつつ丁寧に観察したものの確かに国道からは池の存在すら把握できないことが分かった。

あの「飛び込み台」がある場所に接近するなら、古原田上池の東岸にアクセスしなければならない。そのためにはどの経路があり得るか下調べしてあった。
多分この道からだろう…と考えた入口をポイントした地図だ。


この他にも古原田上池の汀へ接近できそうな経路がある。しかし多分この経路が一番近いだろう。

地図のポイントまで来た。
国道190号の西岐波吉田交差点と丸尾交差点のほぼ中間点、消防出張所がある南側である。確かに池の方へ下っていく道があった。


この道だろう。
行き止まりなのは地図で分かっている。路面にタイヤの痕があるので地元住民が頻繁に通っているらしい。


ここから接近できる確信があったし、今しているようにアジトへ戻って記事化するとき詳細な場所が説明できなければならない。それで自転車に跨ったまま幾分丁寧に進入路の周囲を撮影していた。

撮影しているとき突然、消防署の方からけたたましいサイレンとスピーカの音声が流れたのでかなりびっくりした。


「そこの自転車に乗った方、一般家屋の写真撮影はプライバシーの侵害ですからおやめ下さい」かと思いかけた。まあ、そんな警告を消防が行う筈もないわけでして…^^;
一般民家の消火要請だった。繰り返しスピーカーで具体的な所在地や対象物件が流れた。日々こんな感じで市内の何処かで火事が起き緊急出動しているのだろう。

進入路は一軒おいて空き地を回り込むように曲がっていた。


ちょうど消防出張所の裏手にあたる。
火の見櫓の横で再び左に曲がっていた。


舗装路は池に向かって下っていく。下りとは言え要所での撮影があるので自転車は押し歩きしている。
何処まで行けるのだろう…


ここにちょっと足を停めて考えるべき場所があった。


立入禁止の表示板が藪に埋もれていたのだ。
支柱の横には狭い隙間も塞ぐような番線の鉄格子が設置されていた。


これと同じ表示板を先週だったか、真河内池へ向かう途中の果樹園で見つけている。立入禁止のプレートは汎用品を取り付けたのだろう。

立入禁止表示が見える位置に設置されていながら物理的にはまったく問題なく通行できるこういった場所は意外によく遭遇する。考え方はいくつかあろうが、一般論として進んでも問題ないと自分なりに解釈している。かつては真に立ち入って欲しくない私有地で物理的に締め切っていたのだが、その後別のオーナーの手に渡ったり別の家が建つなどして事情が変わったと考えられるからだ。そうでなければ門扉を設置するか、もう少し分かりやすい形で立て札を出すものである。
立入禁止を掲示する側からすれば一番排除したいのは、処分にカネがかかる廃棄物を不法投棄するために勝手に入り込もうとする軽トラ類だ。自分は自転車で来ているしもし先へ進んで誰何された場合、自分の目的を話せば足りる。そうでなければ郵便配達員でさえ先へ進むことができないではないか…仮に本当に立入禁止だったとしても謝れば済む話だ。

古原田上池の水面が見え始めた。
私にはこの先にあるものを確認し、知りたいと願う読者に情報提供するという使命がある。


そう大きなことを言っていながらも実際はかなり周囲を気にしつつ自転車を押して歩いていた。

既に溜め池の水面が見えている。恐らくこの辺りだ。
自転車を停める。


しかしただちに次のアクションを起こすには憚られた。写真に撮ってはいないが、この道の先は一軒の民家で行き止まりになっていて、まずいことに庭先で落ち葉掃きをなさっている住民の姿があったからだ。常盤池の楢原付近と同様、溜め池に隣接する場所まで私有地になっている可能性は大いにある。
その住民は私の足音に反応してチラリとこちらを見られた。私はわざと右手のカメラを目立つように持ち替えて軽く会釈した。住民は背を向けると再び庭の掃き掃除を続けた。そのことから部外者が一歩たりとも足を踏み入れてはならない程の厳しい場所ではないと理解した。

それでは…岸辺を調べさせていただこうか。
住民の問題は回避できたとして、更に深刻な問題があった。


草木の繁茂が酷くどこまで岸辺なのか分からない。
足元はこんな塩梅なのだ。
フジと思われるツル性の植物が生い茂っている。あまり近寄りたくないし手足でかき回すのも正直嫌だ。


フジは花が咲き終えた後、柔らかな葉を目当てにイラ[3]を集らせる。見るのもゾッとするし、刺されでもしたら猛烈に痛痒くただちに本日の踏査は終了…となってしまう。単純にフジの木の下を通っただけでイラが落下し服に付着、そのまま家まで持ち帰ってしまった事件が野山時代にも起きている。何か肩に橙色のものが蠢くように見えるのでふと目をやると、ポロシャツにイラがくっついていたので絶叫したなどと…^^;
こういうことがあるので5月に入ったら野山に入ること自体を自重しているのである

ざっと葉の裏を眺めた限り毛虫はくっついていなかった。それでもツル系の植物というのは始末に負えない。こんな場所をウロウロしていてツルに足を絡ませ躓きでもしたらどうなるかはかなり自明だ。しかしこの先にあるものの正体を探りに来たのだ。こんなことで諦め引き返すという選択肢はない。足元のフジの状態をよく視認し、少しずつ前進した。

見えた。
しかし今の立ち位置からではピントが合わない。手前に生い茂っている草木がカメラの照準を奪ってしまうのだ。もう数歩前に出るか、片方の手で視界を遮る草木を押さえていなければ撮影できない。


更にフジの葉の裏をよく確認した上で右手にカメラを構えたまま左手で慎重に足元のツルをかき分け、一歩また一歩と前進した。
あの場所までは護岸だから転落せず接近できる。


間違いなく足元がコンクリートになっていることを確認した上で、そこまでにじり寄って邪魔な草木を大きくかき分けた。
遂にそれは正体を現した。
何だこれは?


もうちょっと近くで観たい。それには多分の労力と勇気が要った。身の安全は当然考えるにしても、もはやフジの葉の毛虫など考えている状況ではないほどの興奮を覚えた。

(「古原田上池【2】」へ続く)
出典および編集追記:

1.「Facebook|宇部マニアックス|5月15日投稿分(要ログイン)

2. 地理院地図(1974〜1978年)の航空映像による。

3. トゲの多い小型の毛虫に対する方言。アメリカシロヒトリの幼虫が代表格。

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