夫婦池・汀踏査【1】

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現地踏査日:2012/1/8
記事公開日:2012/1/27
夫婦池は常盤池に隣接している唯一名前のついた池である。他にも入り江が締め切られて出来たり自然に形成された隣接する溜め池はあるがいずれも明白な名前はない。

どの池のことを指しているかはこの航空映像地図ですぐ理解できるだろう。


名前の由来はよく分からないが、かなり時代が下ってから名付けられたものではないかと思う。
本土手の中央付近にはかつて松の木があり、市道常盤公園江頭線はそれを避けて上下線が分かれていた。確か夫婦松と呼ばれていたような気がする。その下にある池だから夫婦池という、案外そういう由来なのかも知れない。

いずれにしろ夫婦池という呼称は公表されたものであり、園内の案内板や地図表示にもその呼称が見える。
これは本土手の飛び上がり地蔵尊にある案内地図である


常盤池に関しては江戸期から資料がよく遺されており、入り江の名称から2本の用水路(上小場・下小場と呼ばれていたらしい)の建設時期や背景、経緯まで詳しく知ることができる。
これに対し、本土手の下流側に位置するこの夫婦池に関する資料には殆ど見つからない。古地図を見ても本土手とそこから流下する用水路が図示されているだけで、夫婦池が記載された地図は今後の調査の対象だ。

現在は国道190号が夫婦池の南側を塞ぐ形で通じており、一定水位を超えれば池の南東部にある流下口から塚穴川を経て海に注ぐようになっている。この構造より、かつては池ではなく単純な沢で、常盤池の水位が上昇すれば荒手を経てそのまま塚穴川に流れていたのではと推測される。

夫婦池という名前とは裏腹に、その成り立ちが分からないことと現地での雰囲気から、不気味な静けさを保った溜め池という印象を受ける。先の航空映像でも一目見て分かる通り、夫婦池はどういう訳か深い黒緑っぽい色として認識される。常盤池がやや明るいグリーンで見えるのとは対照的だ。
この色を呈する理由は、相応な水深を持っているか池の底の堆積物によるものだろう。国道190号の南側を流下する塚穴川の刻んだ沢はさほど深くはないから、恐らく後者の理由と思われる。
市内の他の場所でも隣接していながら全く異なる色を呈する溜め池が見受けられる

年が明けてすぐのこと、私は所属しているローカルSNSで常盤公園の老朽化が目立つ動物園関連の設備を更新する計画の話(常盤公園動物園ゾーン基本計画案)を耳にした。
この件に関して私はどうしても意見したい事があり、発言内容に齟齬を来さないためには動物園の現状を目で見ておく必要があった…

こう書くと如何にも堅苦しく感じられるが、実際は動物園の現況写真を撮るだけで、気持ちは8割方常盤公園周りの「物件探し」にあった。最近常盤公園近辺の踏査を行っておらず、記事が少ないのも理由だった。

1月最初の日曜日となる8日、私は自転車で常盤公園を目指し、動物園近辺の写真を数枚撮影してきた。その後、これまで何度も訪れた本土手から流れる水路に向かった。


この場所だけで本土手水路をはじめ、宇部興産常盤用水、ジェットコースター基礎跡…と複数の物件を手がけ、既にいくつかは記事化もしている。しかし灯台もと暗しで、水路関係ばかりに気を取られていて、この場所で最も存在感を誇示する夫婦池に関して殆ど調べていないことに気がついた。いや、調べる以前に夫婦池を写した画像の手持ちが殆どなかったのである。

折しも常盤公園へ来るまでに私は祈祷台池に立ち寄り、記事が書ける程度に詳細な写真を撮ってきていた。そこで今度は夫婦池が一体どんな溜め池なのか調査してやろうというモチベーションがあった。
そこで私が自分に課したタスクは、
夫婦池の汀を周回できるだろうか?
そこには何が潜んでいるだろうか?
というものだった。

実はこの日の踏査をする以前から、常盤池の汀をなるべく正確に辿ることはできないだろうか…というタスクを考えていた。遊歩道を歩くだけというのではなく、接近可能なところは汀まで踏査してそこに何があるか、どんな眺めが得られるかというリサーチだ。
この記事を書いている現時点で既に本土手から南山炭生の鼻まで踏査済み
夫婦池は常盤池よりもずっと周回距離が短い。しかも本土手用水路に沿う部分と国道190号に接する部分は既に一度訪れている。手始めに夫婦池の未だ足を運んでいない汀部分について調べてみよう…という課題である。

階段を下りると、本土手樋門から取り出した常盤池の水を用水路と夫婦池に振り分ける樋門がある。


夫婦池側への流入口。コンクリート製の三面張り水路である。
冬場なので本土手用水路に水は回っていない。用水路側の樋門は閉じられ、例の隧道から吐き出される水はすべて夫婦池側に流れていた。


この周辺も汀まで鬱蒼と雑木が茂っていて眺めが得づらい。
あまり気持ちは良くないが、コンクリート斜路の天端を伝ってその先端部分に立った。
バランス感覚に自信がない方はやらない方が良い

この場所から撮影した夫婦池の水面。
さて、あなたはどんな印象を受けるだろうか。拡大対象画像です。
画像にマウスをかざすと拡大、ダブルクリックで最大化します。
クリックすれば元のサイズに戻ります。


冒頭にも書きかけたのだが、何とも言えない不気味で空恐ろしげな感じがする溜め池だ。これは恐らく読者とも共有して頂ける印象ではなかろうか。

ちなみにこれは初めてこの場所を訪れ、本土手水路を辿った帰り際に初めて写した夫婦池の写真である。撮影位置も上のものとほぼ同じだ。


何とも言えないふいんきが漂っているだろう。
ましてこの写真を撮ったときは足元を大きな魚が跳ね、水の音にかなり驚かされた。それもパシャッ☆!という浅い感じの音ではなかった。
トプンッ…という低い音と共に鏡のような水面に波紋が拡がっていった。

周囲が静かであること、池の周囲が開けておらず木々が鬱蒼と生い茂っていること、どの位に深い池か知れないこと、いつ来ても鏡のような水面を保っていること…これらが夫婦池の印象を造っているように思える。心霊現象大好きな人をここに連れてきて「これが古くから不思議な現象の言い伝えが多い夫婦池です」と言ったら、簡単に信じてくれそうな場所だ。
特に池の深さに関して後日かなり驚くべき事実を知ることになった

不気味さは否定できないものの、心霊現象完全否定派な私なので殆ど頓着することもなく、さっそく課題にとりかかる。 まずはここから右回り、即ち本土手に沿う形で東岸の汀を何処まで辿ることができるか試してみた。

樋門のバルブがある場所から撮影している。
これは自転車を取りに引き返したとき撮影している…位置関係が分かりやすいのでこの写真で説明しよう
隧道の脇に宇部興産常盤用水のポンプ室と思われる小屋があり、その右奥を辿ろうという訳だ。


近づいてみた。
左に見えかけているのは小屋の庇だ。その奥に踏み跡があるようにも思える。


その横にある錆び付いたバルブの格納されているコンクリート桝。枯れ木がしだれかかっているが、汀に沿ってかなり明白な小道が見えていた。


これは行けるかも知れない…
年が明けた1月は藪の勢いがかなり弱い。藪を漕ぐ種の踏査には恰好な時期…と言うか、まさに期間限定だ。4月あたりから再び草木が伸び始めるし、5月に入って葉の裏に毛虫などが付き始めるともう山に入ること自体躊躇われるからだ。

踏み跡は本土手の真下にあたる。もしかすると昔は人が歩いていたかも知れない小道と思ったのだが…

残念ながら踏み跡は先のコンクリート桝から10mも先まで続いていなかった。
これは振り返って歩いてきた経路を撮影したところだが…


進行方向はこの有様。
藪漕ぎを厭わないか躊躇うかに関係なく、これをかき分けて進むなど狂気の沙汰だ。
すぐ右下は斜面でそのまま夫婦池の水面である


無理。物理的に辿りようがない。
あまりにもあっけない位に迅速な結末に至った。
強行に突入したとして、この先どれほど藪漕ぎが続くやら予想できないし、足元もよく見えない状況では下手すると怪我の元だ。

諦めて素直に出発地点まで引き返した。藪漕ぎが一番ラクな今の季節でこの状態なのだ。草刈り機を持ち込むなど強引な手段に訴えない限り、いつ来ても不可能だろう。


このルートは諦め、逆ルートを辿るために本土手水路に沿って歩いた。初めてここに来たときは本土手用水路の存在に驚き、水路ばかりを撮影しながら歩いたのだが、今回は池側の方を注視していた。

今まで夫婦池を撮影した写真が少なかった理由が改めて分かった。
池の眺めが得られる場所が殆どない。
本土手用水路を下りつつ歩くと、右側に市道、左側が夫婦池になる。その両方とも深い藪に覆われており、眺めが殆ど利かない。市道を走る車は全く見えないし、夫婦池に至っては何処に汀があるかさえ判然としない場所が殆どだ。

僅かに藪の切れた場所から撮影。
細長い夫婦池を縦に撮影しているようなアングルになる。正面遠くに見える電線は国道190号のものだ。
空は晴れていてそれなりに開放感ある眺めながらやはり池自身は静かで不気味だ


やがて初めて夫婦池がいくらか見渡せる場所に差し掛かる。
初めて訪れたときも見逃さなかったこのポンプ室がある場所だ。


池の岸辺に骨組みだけになった筏らしきものが浮かんでおり、塩ビパイプが敷設してある。それは先のポンプ室に引き込まれていた。


初めてこの筏を目撃したとき、これは古いボート乗り場か何かの廃物だろうと推測していた。
しかし浮き草に侵食されているから廃物のように見えるだけであって、これは現役の設備と思う。即ち遊園側に用水を汲み上げるポンプ設備ではなかろうか。
夫婦池に一般向けのボート乗り場が設置されたことは一度もなかったのでは…


それと言うのも去年の春頃、本土手用水路に付随して通じる宇部興産常盤用水を辿っていて、この筏の上に乗って作業している人の姿を遠くから目撃していたからだ。遊園関連の方ではないかも知れないが、ポンプの汲み上げ状況を確認に来られたのだと思う。


ポンプ室の前まで到達したところで、一旦引き返すことにした。自転車を連れて来なければならない。


ポンプ室から国道190号までは逆から辿ることができる。それで今度は自転車を常盤公園入口交差点付近に留め置くことにした。

自転車で移動するとき市道から先ほど引き返した場所を撮影した。
対岸は本当に汀スレスレまで木々が生えている。
これを見た時点で対岸はまず汀を辿れないだろうと感じた…


そのまま市道を常盤公園入口交差点に向けて走った。
アジトを出た時間が遅かったせいか、既に西日がきつい。


本土手用水路はここで暗渠となって国道の下をくぐっている。
近くに自転車を置き、ちょっとお行儀が悪いが柵を跨いでこの階段から夫婦池の汀に向かった。
この階段を下りるための入口は何処にもない…常盤公園を案内するブロック塀に隠された格好


階段を下りた先には、いくらか広々とした眺めを呈しながらも相変わらず押し黙った夫婦池の表情があった。

(「夫婦池・汀踏査【2】」へ続く)

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