夫婦池・汀踏査【6】

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(「夫婦池・汀踏査【5】」の続き)

亀浦市営住宅付近の汀については殆ど見るべき成果もなく、次に予定していた場所へ自転車を走らせた。
それが何処であるかは、続編も第6巻まで進んだ今、この写真だけですぐ分かるだろう。


ここは夫婦池の最も東側になる入り江で、荒手の排水路が滝の形で接続されている。排水路の直下は自然の露岩が多く、ここへ降りることが前回残した課題となっていた。

沢の先端部分はブロック積み擁壁になっている。これがなかなか嫌らしい高さで前回は降りることを断念していた。場所を選べば降りられるかも知れない…


沢の先端に窪地があって溜まり水になっていた。
ちょっと淀んだ感じがするが、雨水が流入することはあっても家庭排水はまず流れ込むことはない筈だ。


この窪地は前回来たときから気づいていたし、単に沢の水が溜まってそうなっているのだろう…位にしか思っていなかった。
そして次にカメラをやや上方に構えたとき初めて気がついたのだ。
あれはもしかして…?
そのまさかだった。


見覚えのある石柱。その柱の両側に見える黒い空間…
荒手の排水路の末端になる石橋は、実はここからも見えるのだった。


こんなに近くにあったのか…
前回来たときは藪に隠れてまったく見えていなかった。あの半壊の石橋はもう少し入り江の中ほどにあるものと思っていたのである。
溜まり水と思われていたあの窪地こそ、荒手の排水路が造り出した滝壺だったのだ。

ますます入り江まで降りて下から撮影してみたくなった。そのためにはまずブロック積擁壁で隔てられた高低差をどう克服するか…

まず、擁壁の天端を辿って回り込むことはできそうになかった。
擁壁は途中から完全に木々の中へ埋もれていてその上を歩くことができず、沢へ流れ込む水は暗渠の他に地表も少し伝っていてスニーカーでは嵌るほど地面が緩かった。


擁壁の折れ点には土砂が堆積するせいで最も高低差が低くなっていた。ここからならどうにか出来そうにも思えた。
しかしなお高低差は1m以上あり、登り直せる自信が持てない。とりわけ足元は木の葉が堆積していて、どの程度足が嵌るのかも未知数だ。


この滝壺から若干池側へ寄ったところには豪雨で洗い流されたと思われる石橋の部材らしきものが見えていた。
擁壁の上からでも眺められるので無理して降りる必要はないのだが、目の前に見えていながら接近できないのは焦れったい限りだ。


ブロック積みの隙間から染み出た土砂が固まったのだろうか…下から2段目あたりに出っ張りが見えていた。それを足掛かりにすれば昇降できるようにも思われた。
天端の土を払い、ズボンが汚れるのも構わず座り込んだ。それから天端を両手で支えて右足を思い切り伸ばして土塊につま先を載せた。それから少しずつ体重を移動してみた。

土塊は敢えなくバサッと崩れ落ちてしまった。
ダメだ…降りられない。


土が崩れたとき、半分程度体重を移動し既にお尻が天端を離れていたので、落下しないよう慌てて両手で全体重を支えて踏ん張った。
別に不本意にも降りてしまったからとて怪我はしない。ただ、自転車の元へ戻ろうとするとき悩むのは自分だ。
ブロックの表面に凹凸があるからある程度足掛かりにはなるだろう…しかしそこへ足を掛けて安泰に登って来れるか分からない…少なくとも服やズボンは汚れるだろう

滝壺付近にごろごろしている大きな石が近くにあれば擁壁の折れ点に投下できようが、足場になりそうなものは周囲に何もなかった。
誰ですか…「自転車を降ろして足場にしたらいい」なんて言うのは…^^;

この場所から降りることは諦めて他の場所を検討した。
前回訪れた入り江の上に謎の鉄管が通されている方は試さなかった。ブロック積み護岸の端からすぐ入り江になっていて降りられないことは前回既に分かっていたからだ。

荒手の方から降りられないだろうか。
自転車はそのままにして沢の先端の上部に移動した。
現在立っている場所は元は沢で護岸を造って埋め立てられたのだろうか


右側に見えるのが荒手に沿って伸びている遊歩道だ。
高さ的に言えば、この途中から藪を一漕ぎすればあの石橋に接近できると思った。


どのみちマトモな道が遺っているとも思えない。石橋が既に見えていた以上それほど距離はない筈なので、場所構わず適当に藪へ突撃する。
2回くらい木々をかいくぐった先に微かな踏み跡が見えた。


藪の中に身を置いたまま振り返っている。
まだ木々の隙間から先の傾斜地が見えている。そしてこのアングルは見覚えがあった。


やはりあの場所だ…

踏み跡に並行して小さな溝があった。
初めて荒手を発見し内部へ降り立った後、壊れた石橋を見つけてその踏み跡の伸び先を調べて撮影した場所だ。
この小道も沢が埋められるときに消失したのだろう


このときもあと藪を一漕ぎすれば遊歩道まで出られていたのだ。しかし当時は行き止まりの遊歩道を視認できても、進攻がままならないほど藪の繁茂が酷かった。

この先に半壊の石橋がある。
心なしか前回よりも更に壊れているような気がした。


石橋の上にしだれ掛かる木からキノコが生えている。
マイタケみたいな質感だが美味しそうとは決して思えない。禍々しいだけだ。


もし可能なら、この倒木を撤去して石橋を楽にしてやりたい気分だった。
もっとも基礎部分の壊れようからして、倒木を除去しても次に豪雨があれば更に酷く崩れるのは時間の問題だろう。
その意味でも写真を撮りたい方はできるだけ早めに行っておいた方がいいと思う

なお、今回は荒手の方は行かなかった。前回来たときと何も変わりはなかったし、何よりもここへ来たのは露岩伝いに夫婦池の汀まで降りるためだったからだ。

半壊の石橋の下から眺めた夫婦池の入り江部分。
ブロック積擁壁と行き止まりの遊歩道が見えている。拡大対象画像です。
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半壊こそすれ石橋が直ちに崩れる恐れはないと判断して、上のショットの他に真下へ潜り込んで基礎などの写真も撮っておいた。
全く安全であるとは言い切れない…充分な注意が必要

さて、ここから入り江へ降りられないかは前回も検討はしたのだが…


無理…。


写真では高低差が分かりづらいが、視座から入り江までは5m程度ある。高低差自体は覚悟してやって来たのだが、この苔を蓄えた露岩を伝って降りようとしたら何が起きるかは当然予測できなければならない。少しは岩肌が露出していて足掛かりになる場所があると思っていたのは見込み違いだった。

露岩の斜面は適度な日照が得られるせいか、一面に苔が生えている。西日に映えて大変美しい。拡大対象画像です。
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結局、この入り江へ降りること自体を完全に諦めた。
別に祟りだとか畏れ多いという感覚ではないが、遊歩道や石橋の上からでも充分に眺められる。特にこの場所は危険が予測されるし、単なる好奇心からの昇降で年月かけて露岩にまとわりついた苔を足蹴にしたくない気持ちもあった。
まあ、眺めるだけで到達できていない場所が一つくらいあってもいいだろう。

来た経路を辿って再び自転車の元へ戻った。
夫婦池の検証しておきたい場所もいよいよ残り少なくなっていた。

(「夫婦池・汀踏査【7】」へ続く)

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