夫婦池・汀踏査【7】

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(「夫婦池・汀踏査【6】」の続き)

荒手の滝壺に”神聖ニシテ侵スヘカラス”を感じたという訳でもないのだが、状況が変化するまで当面入り江へ降りることは見送った。そして再び自転車を置いたあの行き止まりの遊歩道まで戻ってきた。


自転車を取りに戻った序でに、この入り江から亀浦市営住宅の裏手へ何処まで接近できるのか再度確認しておこうと思った。前回も写真を撮ってはいたのだが、あの鉄管を過ぎて何処まで行けていたのか分かるショットがなかった。

前回は経路取りにかなり苦労したものの、一度でも行った場所なら難易度はかなり軽減される。まして前回よりも藪が断然軽い。元から道も踏み跡もない場所なので、純粋な経験則のみでどんどん先に進んだ。鉄管には何の変化もなかったのでそのまま通り過ぎ、先を追究した。

こうして安全に進める限界まで進攻して撮影した一枚。
影の部分が多く、如何にも夫婦池らしい風景だ。


そして全く同じ場所から振り返って鉄管を撮影した。
精々20m程度しか進攻できていない。元から原生林の中を突撃するような進攻状況だったが、現在いる場所から先は汀までの傾斜がきつくなり、安全に汀を辿れるだけの平場がなかった。


汀から離れて斜面の上部を進攻する手だては有り得たと思う。しかしさすがにそこまではしないでおいた。斜面の上部は民家の裏手になり、そこへ接近するのは斜面滑落とは別の意味で危険だ。どう考えても尋常な精神を持った人間が歩き回る場所ではない故に、ガサガサ歩き回っていれば当局へ通報されるかも知れない。

したがってこの場所だけ確認してすぐに自転車の元へ戻った。2往復もすれば経路取りも慣れたので、戻るのに1分もかからなかった。
そうは言うものの夏場以降は進攻自体無理だろう

さて、残る未踏査の区間は荒手の半壊石橋から本土手用水路の始まる区間だ。夫婦池の汀を辿るタスクを立案し、最初に取り掛かって最初に挫折した場所までの間だ。

自転車を取り回しておくために、まず前回荒手を発見して市道からの入口を確認する最後に立ち寄ったこの場所に乗り入れた。黄色いバリカーが設置されている昔の遊歩道の端だ。


ここから一旦半壊石橋まで歩いた。途中朽ちた竹が小道を塞いでいる場所があることを知っていたが、それほど困難なく突っ切ることができた。
振り返って撮影している。


前回来たときは時間が押していて接近しなかった鉄管の反対側へやって来た。
汀までの高低差は5m以上ついている。同じ入り江の先端部分に荒手から流れ出る滝があるのだから、この高低差は納得がいく。


斜面の下降を開始する。荒手のような露岩ではなく地山だから幾分危険度は低い。そうは言ってもかなりの傾斜で細心の注意が要った。

まだ汀まで高低差3m以上ある。藪を漕ぐ必要はなかったが、それはそれで斜面の場合は危ない。足元に枯れ葉が堆積しており、足を取られたら周囲は滑落を阻止できる木の枝に乏しい。亀浦市営住宅横のあの棚田跡で尻餅をついた以上に酷いことになりそうだ。


未だ明確な回答は得ていないが、入り江の上を渡るこの鉄管は水道の本管だろうと考えている。同種同規模の鉄管がボックスカルバートの上部に渡されているのを観たからだ。
雨が続いたせいか水位がやや上昇している。


振り返って下降してきた斜面を写している。
斜面に木が乏しいのは、本管を埋設するとき掘削したからではないかと思う。もっとも本当に水道管なのか、何故ここを通したのか…などは当然ながら分からない。


池の中央部を眺める。木々の繁茂が酷いため充分な景色が得られなかった。
これでも鉄管を足掛かりにある程度リスクを取れる場所まで身を乗り出しているのだ。


汀はこの場所も含めてどこも傾斜がきつく、鉄管からどちら側へも辿れなかった。足を滑らせても最悪の事態は回避できる程度まで汀から離れ、藪の薄い場所を選びつつ池の中央に向かって歩いた。
方向としては自転車を置いた場所へ戻る形になる。

池に露岩が張り出している場所から接近した。
苔を纏っているので不用意に足を掛けられないが、枯れ葉に覆われた地山の斜面よりは幾分信頼を置ける。


松の木に左手を回し、前方に垂れ込める木々を避けるようにカメラを差し出して撮影している。
かなり怖かった
この近辺は珍しく池の水が浅緑色を呈している。
入り江付近は底に堆積した木の葉などが見通せたが、この場所では既に底が見えない。何とも怪しい色だ。


入り江の先端を振り返って眺めている。
汀は自分の居る場所も先ほど限界まで進攻した場所も原生林だ。まるで人の手が入ってなさそうな場所なのに、入り江を渡る人工的な鉄管の存在が不気味だ。


パノラマ動画撮影をやっておいた。

[再生時間: 21秒]


同じ場所から池の中央を眺める。モノクロに傾いた色調は、如何にも夫婦池らしい妖しさがある。
水面に石炭記念館が反射している。拡大対象画像です。
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更に汀を歩く。
見覚えのある青いものが見えていた。


本土手用水路から近いところにある樋門である。


この場所は市道の真下に近い。
ここからも行き交う車を観ることができた。もちろん今ならではの事象で、夏場などは相互に全く見通せなくなる。
歩道から投げ込まれたゴミが酷い。


何処まで行けるのだろうか…
順調という程ではないが、足元の悪さに目を瞑れば藪を避けつつ斜面を進攻することができた。あり得ないとは思うが、もしかすると前回進攻を断念した場所を自然にバイパスし、一周して本土手用水路のところまで辿り着けるのでは…と思ったくらいだ。

辿っている場所は踏み跡の痕跡すら窺えない藪の中でありながら、印象深かった場所があった。
恐らく再度この場所を見つけるのも困難だろうが、古い道の痕跡を思わせるような帯状の平場があったのだ。


自然のイタズラだろうが、木の葉すら堆積せず土の地面が露出しているのが何かの小道を思わせた。

そこを通過後、唐突に進攻の限界がやってきた。
市道が斜面に迫ってきたため、斜面で安泰に歩ける場所が少なくなってきた。そこへ来て猛烈な藪が進路を阻んだのだ。


可能な限り藪を漕いだものの、この太い松の木の近くで完全に進攻不可能になった。適度に日が当たるために笹藪が旺盛なのが原因だ。


ここは恐らく夫婦池の汀を辿り始めて最初に挫折したあの場所からそれほど離れていない裏側になるだろう。
無理をせず、ここまで踏査して引き返した。

歩いた経路をマップに書き込んでみた。
このマップは荒手を発見したときのものを流用している。ラインは私が歩いた経路で、茶色は紛れもなくかつて人が往来したと視認できる踏み跡赤は道のない部分を藪漕ぎして歩いた部分である。


茶色の踏み跡部分は本土手を通る市道とほぼ同レベルで、入り江を渡る鉄管方向とは5m以上高低差がある。ここから北側の汀は、最も藪の勢いが弱い今の時期で道のない木の葉の藪を歩くことを甘受し、しかも連続的に汀を辿るというのではないという限定条件付きで、接近可能である。上の図で2ヶ所汀に接する部分はそれぞれ撮影を行ったポイントを示している。

最後に太い松の木がある場所で進攻不能となったのは、斜面が急になって藪や雑木に進路を阻まれて回避する選択経路がなくなったからである。この辺りは常盤池と夫婦池が最も近接している場所であり、本土手の幅が狭くなっている。ここは(初回に試したときと同様だが)周辺を草刈りするなどしない限りどの季節だろうが相互に行き来はできないだろう。
初回の踏査でも同様に進攻不能となった両者の×印は一本の松の木の表側と裏側ではなく、相互に10m程度離れていると思われる。

ともあれ、これで現時点で可能な限りの夫婦池の汀を辿った。
貴重な発見や興味深い物件は見つからなかったが、一定のモチベーションを維持することができるなら、何か面白い物が眠っているかも知れない…という探検的好奇心をそそる物件だったとは言えるだろう。

今後再度同じ題材で踏査することは、よほど新しい発見や情報がもたらされない限り恐らくない。そもそも夫婦池は一般の農業溜め池ほどには安全管理されていない人工池である。立入禁止にはなっておらずネットフェンスなどもない。そうでありながら汀が急斜面になっていて水深も相当あり、危険度はかなり高い。安易な踏査は勧められない。
しかし実際に踏査せずとも一連の記事をお読み頂き、写真を眺めるだけでも夫婦池の深遠さや妖しい野性味は充分に伝わったのではないだろうか。
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これにて”夫婦池の汀を辿る”シリーズは一応完結とします。
なお、今後夫婦池に関する更に包括的な記事を書く必要性がでてきた場合は、一連のシリーズを”夫婦池・汀踏査”などに書き換えることがあるかも知れません。書き換えを行いファイル名も変更しました。(2016/7/2)

なお、時系列的にはこの後塚穴川の踏査を行っています。記事リンクを案内しておきます。

(「塚穴川【2】」へ続く)

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