馬の背池・新堤【3】

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(「馬の背池・新堤【2】」の続き)

結果的に溜め池の岸辺へ到達はできたが、途中経路がさっぱり分からない…
帰りにこの経路を検証した。

割れた石橋を渡って中山観音コースの登り坂が始まる。


真っ直ぐ登っている間は道の両側が原生林に包まれており視界が効かない。
ただ、左側から水の流れる音が聞こえるので沢地になっていることだけが分かる。


更に登り坂を進むと遊泳禁止看板の後ろ側が見えてくる。


この立て札の周囲を見回してもなお新堤の存在を確認することができない。しかし立て札があるということは概ね同じ高さに堰堤があり、かつては池が見えていたのではないかと想像された。


新堤への入口は恐らくこの場所だった筈だ。
中山観音コースが直角に右へ進路を変える露岩の目立つこの場所である。


新堤および下池付近の拡大地図に経路を書き込んでみた。
水色が水の流れる経路で、赤色が明確に道と分かる経路である。


現在は木々が育ちすぎてしまっただけで、かつては遊泳禁止の立て札がある辺りから新堤が直接見えていたのではないだろうか。もっとも初回および2度目に自転車で来たときには立て札の見覚えがない。立て札は比較的最近のものかも知れない。

藪の中に身を置き、この岩がある分岐点を撮影している。


ここからは前方に登山道があることは一目瞭然だ。
しかし…


露岩の場所から堰堤方向を撮影するとこんな塩梅だ。
通行可能な登山道があると言えるだろうか…


かつて登山道があった…と強硬に主張されれば、まあ納得できなくもない踏み跡だ。
しかし足元すらよく見えないこんな場所に踏み込もうとするなら、かなりの覚悟は要るだろう。
幹の表面をびっしり覆っているウロコ状の模様が気持ち悪い…--;


焼け焦げたような太い幹の下をくぐり、数歩進んで藪の切れ目から眺めることで新堤の水面を確認できる状況だった。
もしも新堤が沢を堰き止める堰堤を造ることで出来た人工の溜め池なら、現在居るのは地山ではなく遙か昔に土を盛った場所になる。しかし現況は周囲の野山と大差ないほど自然に還っている。

昔はどうだったのだろうか…
昭和49年度の航空映像を参照してみた。
「国土画像情報閲覧システム - 馬の背池付近(昭和49年度)の航空映像」
http://w3land.mlit.go.jp/cgi-bin/WebGIS2/WC_AirPhoto.cgi?IT=p&DT=n&PFN=CCG-74-12&PCN=C20&IDX=14
別ウィンドウで開いたページ右上にある400dpiのリンクをクリックすると高解像度の画像が表示される
新堤付近を拡大すると、現在と同じ位置に登山道の経路が見えている。そして新堤の堰堤部を伝って西に向かう筋が写っているのが分かるだろう。
その道筋は尾根を越え、面河内池の東岸からやってくる道と合流しているのが分かる。溜め池が現在よりも重要だった昭和期には、面河内池門前池と相互に行き来できる道があったのは間違いなさそうだ。

念のために堰堤上を伝って余水吐側に歩いてみた。
しかし走水路に到達する前に踏み跡は完全にかき消され藪と化していた。


昭和49年度の航空映像では面河内池と相互に行き来する山道が見えていながら、現在ではほぼ完全に失われていることになる。この経路の途中には送電鉄塔もないので、索道として通行されることもないのが自然に還ってしまった一因だろう。
堰堤上を通って新堤の右岸側へ渡るには、途中で余水吐からの走水路を横断する。もしかすると何十年もの間誰にも渡られなくなった石橋などが遺っているかも知れない。
先述の通り走水路の先を追跡しなかったので詳細は不明だ

帰りに出水口を確認できないか調べてみた。新堤の取り出しは余水吐ではなく樋管を経て放流されているので、堰堤の下流側中央部に取り出し口がある筈だ。

遊泳禁止の立て札がある辺りで水の流れる音が聞こえていた。
もしかしたら出水口があるのかも知れないと思い、再び覚悟して藪を漕いだ。


それほど急な斜面ではないが地面が殆ど見えないくらい草木が生い茂っていた。
草木が勢いづく春先前でこれだから、通常はまったく接近できないだろう。


岩の上を嘗めるように流れ落ちる水が見えていた。


何とか小川のところまで到達した。
この近辺はすべて硬い岩盤らしく、その上を水が適当に流れ落ちている感じだった。


ここだけ妙に開けているように思えるのは、一枚岩で草木の生えようがないからだった。


なお、上流側は藪に包まれていて出水口などは確認できなかった。
水を被った岩は極めて滑りやすく、まして足元がよく見えない藪の中を上流へ辿るのは危険なので断念し引き返した。
それでも十数年前に岸辺から観たあの小池をもう一度眺めたいという当初の目的は達せられたのであった。

以上のレポートを殆ど書き終わる頃、十数年前に初めてここを訪れたとき撮影したデジカメ映像がやっと見つかった。
ホームページ素材フォルダに入れていたので発見が遅れてしまった


デジカメは現在使っているものより解像度が低く機能的にも劣るので、色調も赤みがかっている。
この日は風が殆どなく水面は鏡のようであり、しかも紺碧色の水は透明度が高く印象深かった。

中山観音の駐車場からはるばるここまで歩いていながら、池を撮影しているのはたったこの一枚だけだった。しかし今から思えば、何処にでもありそうな山の溜め池にカメラを向けて映像を遺した最初期の例である。それ故に溜め池の正式名称も分からないながら、自分の中での記念の意味も含めて記事を拵えようという気になったのであった。

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