第一次・レンガ塔接近計画【2】

インデックスに戻る

(「第一次・レンガ塔接近計画【1】」の続き)

強引な突入に勝ち目がないと見た徒歩・自転車隊、別のルートを求めて一旦獣道を下った。

下った先は一面の荒れ地と言うか平原になっている。
この平原を突っ切って、正面から接近することはできないだろうか?


どのみち藪漕ぎになりそうなものの、謎のレンガ塔を正面に見るまでは精々膝丈くらいの草を押しのけて歩けそうに見える。
足元を確かめつつ、少し進んでみた。
無理ッ...


そこには地図にない幅広の水路と言うか沼があって、先への進攻を阻んでいた。しかも水際まで草に覆われ、どこから沼が始まっているかすら分からない。もちろんロングジャンプで飛び越せるような幅ではない。

まさか足を踏み入れる方もないとは思うが、この地点はもちろん岸壁と丘陵部に挟まれた荒野部分には、明確な人の踏み跡が付いている場所以外、不用意に足を踏み入れないことをお勧めする。
ハッキリ言って、地図の描写がまるっきりアテにならないのである。
Yahoo!地図では、この近辺に以下のような溜め池の描写があるが、現況とは著しく異なっている。現在はこれほど沼地が広がっていない半面、徒歩自転車隊を阻んだ水路部分は地図には記載されていない。
Yahoo!地図 - 謎のレンガ塔近辺の荒野
丸裸な荒野ならいざ知らず、この近辺すべてが膝下以上の草に覆われていて地面の状態が全く分からない。この近辺はもう何十年とこの状態のまま放置され、草が伸びては枯れて沼に沈む自然のプロセスを繰り返しているのだろう。通常の池であれば落ちても泳げば済むだろうが、泥濘に満ちた緩い沼地は踏み抜けば一瞬でアウトという危険すらあり得る。[1]
逆に言えばその危険を想起できない方は始めからこのような場所へは接近すべきではない

さて、そのYahoo!地図を模倣して、攻略に関して考えられそうなルートを書き入れてみた。


ルートBは今しがた試行したばかりであり、とても勝ち目がない。この水路を迂回して荒野部を突き進むのも、先に述べたような理由から却下である。安泰に荒野を横切れたとしても、最後の登り部分に笹藪が待ち構えている。ルートAが物理的に近く、目下一番勝ち目がありそうだ。

しかし取りあえず他のルートも検討する過程で、ルートCを見いだした。これは獣道が浜辺を離れて登り坂が始まる途中にあり、しかもそこには踏み跡らしきものが見いだせたからだ。

この場所である。
…と写真をお見せしても比較対照になるものが何も写っておらず何処も似たようなものなのだが。


そこには獣道から外れて斜面を降りる微かな踏み跡が見えており、薮の中にうち捨てられた漁業用の発泡スチロール製浮きが転がっていた。
人間の踏み跡なのか、たまたまそこだけ草が生えていなかったのかは分からない。

取りあえず、下降を開始する。

獣道から数メートル下ってきたところ。
微かに青空が見えているところに獣道があるから、下降自体が結構な重労働だった。ぬかるんではなかったものの、水分を含んだ土手はよく滑って体勢の保持に気を遣った。


何とか足元が平坦になったところで、踏み跡らしきものは消えていた。
残念ながら人間による踏み跡ではなく、自然のいたずらだったようだ。あれでも徒歩自転車隊と同様の興味を持つ「同業者」が、先行してここから入っていったのかと淡い期待をしていたのだが…

ここから先は藪漕ぎになる。藪の背丈が高いから、言うまでもなく直接レンガ塔は視認できない。
まずはレンガ塔の方向を確認しようと目先の薮を漕いだ。

その瞬間…
捕まってしまった…sweat


表面がすべすべのジャンパーを羽織っていたつもりが、イバラの刺はジャンパー上の僅かな縫い目に突き刺さってきた。悪いことに左肩の後ろ側に深く刺さっていてカメラを持つ右手が届かない。下手に足掻けばジャンパーは破れるだろうし、何よりも撓ったイバラが顔面を直撃すれば流血の惨事である。

この醜態を撮影後、何とか右手で枝を静かに払いのけることができた。
刺さっていたのはたった一箇所だったが、人間を足止めさせ足掻かせるには十分だった。もし同時に複数ヶ所へ食い込もうものなら、容易に貼り付け獄門の刑が出来上がる。自然が用意した有刺鉄線は侮れない。

この場所からレンガ塔方向を眺めて撮影…と言っても何も見えない。
背丈をはるか超えて伸びている。


イバラの不意打ちに懲りたし、どのみちその先はイバラの楽園で、到達への勝機がまるで見えて来なかった。しかも諦めて退散しようにも容易に帰らせてもらえず、しまいには元の獣道まで引き返す方向からして分からなくなる恐怖を味わうことになった。
こんな見通しの効かない藪野へ不用意に入り込めば本当に方向感を失ってプチ遭難する恐れがある

結局、最初のA地点まで戻ってきた。
どうしても攻略するなら、やはりここからしかなさそうだ。もう半ば心は折れていたが、今の時点でやれそうなことはやっておこうと思った。

チェーンソーないしは草刈り機でもあれば、目の前の鬱陶しい笹藪をバッサリ刈り取れるだろう。そうすれば意外にサッパリとした安泰な経路になるのかも知れない。しかし現地を記録するカメラという道具しか持ち合わせない徒歩自転車隊ができることは、手作業(ないしは足作業)でこの障害物を除去することであった。

途方もない作業のように思えたが、謎のレンガ塔もなかなか意地悪いところがある。簡単に諦め退散させてしまうのが惜しいのか、恰も接近したくてたまらない徒歩自転車隊の気持ちを弄ぶかのような環境を用意して来たのだ。

乾いた笹や竹は意外に簡単に折り取れる。


藪を形成している笹や竹は、その殆どが枯れて朽ちていた。見たところ剛体に見えるが、ちょっと力を加えると簡単に折れた。ほぼ水分を失い、藪に乱立する太めな爪楊枝の如きだった。
見た目ほど酷い障壁ではなく、地道に取り除いて行けば進路が拓けるのかも知れない…

どのみち誰も見てはいないし、枯れて自立するだけの笹や竹を押し倒して迷惑を被る人も居ないだろう。手足を使ってどんどん押し倒してみた。
それらは須く乾いた音を立ててパキパキと折れ、足元に散乱していった。
なかなか小気味良い。
「お前らが跋扈しているせいで遺構が失われるんだよ!」
親の敵とばかりに、乱暴に枯れた笹や竹を足蹴にする。謂われのない言いがかりを浴びせられた可哀相な笹藪は、一人の酔狂な徒歩自転車隊という来訪者によって攻撃されていった。
しかし孟宗竹や笹藪のような「竹害」は思いの外山口県は酷い地区だそうな…

為せば成る。
獣道から2〜3m程度進路を確保できたところで、薮の中に異様なものを見つけた。
もしかして…
炭鉱時代のトロッコでは?
一瞬、そう思いかけた。

残念ながら、まだ四輪が進入できる時代にうち捨てられた廃車の残骸らしかった。金属部分は錆び付いているものの、ゴムタイヤは劣化しただけで今も黒さを保っていた。


徒労に終わるのは、始めから見えていた。
竹藪を足蹴にする間もなく、進路の途中に人力では到底除去できないほど大量の木々の枝がうずたかく積もった場所が見えてきたからである。しかしそれは分かっていても、少しでも鮮明な映像が得られるまでレンガ塔に接近したかった。

そして、またしても…
またお前かよ!


またコイツが袖口に攻撃をしかけて来やがった。しかもまだ生きている。
憐れなジャンパー、ズダボロとまでは行かないが表面がササクレだらけになっている。

もう見えている。
見えているんですよ、ホントに。

直線距離にして間違いなく10m以下。
しかしここから先の笹や竹は生きていて、今までのような素手では全く太刀打ちできない。


ここまで見えていると言うのに!

もうレンガ壁の表面までズームすれば分かるくらい。
後から思うにここへΦ1200位の塩ビ管を置いて中をくぐって行けばその方が早いと思う…


本当にここまで到達できていながら…の心境だが、それ以上の接近は能わなかった。

他にできることと言えば…遠巻きながら少しでも鮮明にレンガ塔を観察できるスポットを探すことのみだ。そして立ち位置を選べば、ここからでもレンガ塔の三角屋根が窺える。
しかし近づくこと能わず…


背伸びし頑張ってズーム撮影。
それでもどうしても手前に生い茂る笹がズームターゲットを奪ってしまいピントが合わせられなかった。


徒歩自転車隊の凶行によって本来の居場所から駆逐された笹や竹の跡は、黒くぽっかり開いた穴のように遺された。
この獣道を通る方があれば、徒歩自転車隊が格闘した跡だと思いを馳せてくださいw


遺憾ながら、宣言せざるを得ない。
ダメだ…降参!!
もう、ホンットにどうしようもないよ。
レンガ塔には道具を使わなければ接近は絶対に不可能…断言します。

だけど一年のうち今の時期こそもっとも薮の勢いが衰える時期のはず。春先になれば、また新緑が芽吹いて薮に加勢するわけでして…その頃にはここって一体、どうなってしまうんだろう?
おぞましいものを感じる…

スゴスゴと退散しつつも、なお未練がましく振り返って撮影。
鳥になって飛んでいきたい気分…


それにしても…
結局、このレンガ塔の正体って何なんだろう?

現地まで行けたとして、そこには一体どんな光景が広がっているのだろう?
レンガで積まれた煙突状の建物があり、ただそれだけなんだろうか…付近には当時使われていた物品が放置されているとか、あるいは恐ろしく深い竪坑が厳重に蓋をされた状態で遺っている…なんてことはないだろうか?

たまさかすれ違う人があれば、尋ねてみようかとも思っていた。しかし一連の踏査の間、誰一人とて出会わなかった。
もしあの犬を連れた端正な御婦人にすれ違ったなら…今なら迷わず声を掛けるのだが♪

もう、いいや…
時期を変えれば、あれでも地区在住の方が獣道整備の一環であの近辺を草刈りしてくれるかも知れない。些か他力本願だけど、今はそこへ望みを託すことにして…
だけど現状のまま放置すればいずれは竹の根が基礎部に入り込んで倒壊するでしょうか…

せっかく歩いて来たんだ。
もう一度浜辺と岬の景色を楽しもうぜっ!!


(「取りあえず本山岬の浜辺に遊ぶ【4】」に続くことにしてみた…)

出典および編集追記:

* 2014年11月に本山岬を再訪しレンガ塔にも立ち寄ってみた。新たな成果は何も得られず撮影のみ行っている。訪問日はまったく異なるが第一次踏査の補助的記事として案内する。
(「第一次・レンガ塔接近計画【3】」に続く)

1. この場所ではないが、昭和45年頃に西沖干拓へ入り込んだ児童が行方不明になった事件があったようだ。この情報は地域SNS掲載時の読者コメントによる。

ホームに戻る