常盤小学校近くにある謎のレンガ積み構造物【2】

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(「常盤小学校近くにある謎のレンガ積み構造物【1】」の続き)

厳密に行うならマンションの反対側にある小さな丘のすべてを洗い出す必要があったが、今は時期が適していない。これ以上勿体ぶることなく単刀直入に勝負を挑もう。まだちびっこたちの目も留まっていないし…

再びここへ戻ってきた。
レンガ積みトンネルの先には空間があり、太陽の光さえも差し込んでいる。サーチライトは不要だし、肉眼で先が見えている限りそれほど深刻な危険はなさそうだ。


蓋のない用水路を一跨ぎするのに困難はなかった。しかし…すぐに遠くからパタパタと駆けつけるような足音が聞こえてきたsweat
案の定、ちびっ子ギャングが…^^;
私の「後で行くよ。」発言をしっかり覚えていたようで、ターゲットへ向かおうと用水路を跨いだのを見計らって4人とも大急ぎで駆けつけてくれたようだった。振り返ると4人が雁首揃えて一列に並んで見物している。ご苦労様だ…^^;
既に水路を渡っていたので敢えて引き返さなかった。
「ついて来ちゃダメだからね。」
「行かない。だってそこ通れないもん。」
私なら一跨ぎでこなせる用水路も子どもには無理らしかった。
そうそう…それでよいのだよ。こういう異色な物件に興味を示すのもいいが、本腰入れて取り組むにはちょっと早い。もうちょっと大きくなって身も心も用水路を一人で跨げるようになってから研究してもらおうか。有名な遺構ならまず壊されはしないだろうし…

レンガ造りのトンネルは高さが大人の背丈よりちょっと低い程度で、幅も同じくらい。長さは精々5〜6メートルだろうか。


フラッシュ撮影した画像をその場で再生する。レンガのアーチは綻びもなくしっかりしているようだった。

フラッシュなし撮影。実際の見え方はこちらの方が近い。
地面には腐葉土状態になった落ち葉が大量に溜まっていた。


入口部分はレンガの2層巻きである。
見た目は確かに古い。しかし傷みが殆どみられない。


さて、外で待機している4人ギャングが静かにしている筈もなく、あれやこれやと投げかけてくる。
「何がある?何が見えるの?」
「奥はどうなっているの?」
もっとも子どもたちがせっつくまでもなく既に奥にあるものは見えていた。ここまで引っ張られた読者も恐らく子どもたちと同様の心境だろう…

レンガのトンネルを抜けた先には若干の光が差し込む空間があり、そのやや右よりには…
レンガ造りの小屋のようなものが見える。


ちょっと近づいて接近を試みた。
足元は大変に状態が悪い。腐葉土のような地面を踏み締めると沈み込んで水を吐き出す場所があるので、迂闊に歩き回ることができなかった。

腕を伸ばしてフラッシュ撮影する。
レンガ積みの小屋は側面が空いていて奥は空洞になっている。水が溜まっているようだ。


腕を伸ばして撮影。
竪坑のように思えてちょっと気持ちが悪い。


レンガ積み小屋の道路側には大量に水が溜まって湖状態だ。


これほど湿気が多い場所のため踏査的には最悪の環境だった。足元がハマるかも知れないというだけでなく、ヤブ蚊がもの凄い。久し振りに動物タンパクを分け与えてくれる餌食が潜入してくれたことを察知して、大群を成して顔や露出している手足にまとわりついてくる。振り払うまでもなく数ヶ所刺された。

あまりに酷いので一旦レンガ積みトンネルの方へ戻った。
子どもたちはまだ撤収したわけでもなく、外でああだこうだと言い合っている。


内側からレンガ積みトンネルを撮影。
風の行き来があるためかトンネル部分のレンガは乾いている。


内側の壁の様子。
何かを取り付けるために後から意図的に削ろうとしたのだろうか…2ヶ所ほどレンガが大きく抉れていた。


同様の削り跡は入口付近にも見つかった。


外が静かになった。
私がだんまりを決め込んで撮影に勤しんでいたので、退屈になって余所へ行ってしまったようだ。
そういう移り気なところもなかなか子どもらしくて良いと思う^^;


外から観ているギャラリーがあるとどうにもやりづらい。子どもだけならまだしも、保護者が出てきて「この中に入って写真撮ってる人が居るんだけど…」なんて言い出したら私は悪い手本を示す大人に祭り上げられてしまうだろう。ガチな踏査はとにかく一人でなければ何ともやりづらい。

改めてレンガ積みトンネルの中へ引っ込んだ。
内側から見たレンガ積みトンネルの状況。土被りが非常に薄いと言うか殆どない。それは私が最近寄せられたこの物件の素性に合致する特性だった。


足元を確認しつつもう少し奥まで潜入してみた。あのレンガ積みの小屋の詳細を観ておかなければならない。
水が溜まっているのでスニーカーでは自ずから行ける範囲が限られた。この場所は時期を問わず長靴装備の方が良いかも知れない。

レンガ積み小屋の開口部正面である。
元は扉があったのだろうか。入口の上部だけはコンクリート造りになっていた。


あまりに足元が悪いのでカメラを持った腕だけ伸ばして撮影している。
高さは3mくらい。屋根はなく大きな煙突のようだ。四隅部分など一部のレンガが意図的に抜かれている。
換気口だろうか…


床の部分。竪坑ではなく単に水が溜まっているだけだ。
床の一部には排水を意図した穴が開けられていた。


一番奥から撮影したレンガ積みトンネル。
通路を造る必要性あってトンネルを拵えたのではなく、レンガアーチを先に造って後から土を盛った構造だ。それも必要あって土を盛り、この部分をレンガ積みトンネルにしているのである。


前編は不意に引っ張ってしまったから、本編ではそろそろ隠さずこの物件の素性を明かしていい頃合いだろう。
一連のレンガ積みトンネルおよび小屋は、子どもたちの語っているような防空壕ではない。ただし大事なものを格納する場所だったという意味では正しい。
火薬庫跡である。
場所を寄せてくださった一読者による情報で、かつての長生炭鉱で使用するダイナマイト類を格納していた火薬庫とされている。
火薬庫の遺構であることをもっとも雄弁に語っているのが入口部分のレンガ積みトンネルである。即ち火薬庫は地山を掘り下げて造った窪地の中に設置し、レンガ積みトンネルのみで外部と繋がっている。万一火薬が暴発した場合でも周囲に甚大な被害を及ぼさないようにするための構造だ。

火薬庫を窪地ないしは周囲に土塁を持った中に設置する構造は、現在でも火薬を扱う工場類で普通にみられる。下の航空映像は、山陽小野田市渡場にある日本化薬(株)厚狭工場の敷地内である。
数年前にネットで航空映像を眺めていて偶然に見つけた


分譲住宅地に散在する戸建て住宅に見えるが、ちょっと様子がおかしい。それぞれの建屋は恰も地面に「めり込んでいる」ように見える。最初これを見つけたとき私は理解できなかった。
現地は工場の管理敷地内で一般の立ち入りはできないが、戸建て住宅に見える建屋はほぼ間違いなく火薬庫だ。火薬が暴発しても他の貯蔵庫に波及しないよう土塁が盛られているものと考えられる。

さて、この場所からかつての長生炭鉱までは直線距離で1km弱である。何故この場所が選ばれたのかという疑問が当然でてくる。
他に何か関連する物件が知られるなら判断材料になり得るだろう。今のところ「潮風の影響を受けない人里離れた山間部」という条件以外思い浮かばない。あまりに海に近いと強風時に湿気て着火不良を起こすだろう。また、いくら暴発防止構造になっているとは言っても民家の近くに造られるのを容認はしないだろう。
火薬庫から需要地まで搬出したり補充したりの動線は当然必要となる。そうなれば現在は常盤小学校の登下校路となっている市道常盤小学校線も道としては意外に歴史は古いのかも知れない。

情報提供者の話によると、この火薬庫の遺構の他に別の物件があるかも知れないことが示唆されている。小学校時代、正課クラブの探検でこの周辺の山林を調査していた過程で友人が報告したとされる。
現地踏査を行う前から分かっていたので、レンガ積み小屋の背面がどうなっているかは興味の対象だった。
前編でわざわざ裏側から回ろうとしたのはこのためである

しかし火薬庫のすぐ背後は地山で、壁状に聳える急斜面のため接近できなかった。藪の勢いが衰えておらずヤブ蚊攻撃も厳しい。何よりも足元があまりにも悪くて不用意に進攻できなかった。

外にはもう誰も居なかった。
レンガ積みトンネルはちょうど正面のマンションに面していることになる。


用水路に蓋がかけられていないため、大人は容易に跨げても子どもは入って来れない。このため登下校路の小学生が気付いても、何か板でも渡さない限りは入り込むことはできない。
レンガ積みトンネルの入口をフェンスで覆うなど無骨なことをせずに済んでいた。


感触としては、レンガ積みトンネルと火薬庫以外に遺構はなさそうな気がする。この方向にある他のものと言えば、八王子神社だ。地図で確認したところ双方は50mも離れていない。友人の指摘した「火薬庫以外の遺構」は、山野を歩き回っていて八王子神社を裏側から眺めた可能性もあるだろう。他方、これ以外に関連する別の遺構が本当に隠れているかも知れず、少なくともあと一度は現地調査を行う必要がある。

本件は要追跡調査物件として、秋口以降の藪漕ぎ可能な時期が到来したら第二次踏査を行うことにする。その折りには八王子神社側から進攻して火薬庫に到達可能かどうかも検証する予定だ。
第二次調査を行って成果が得られたなら続編を追記し、併せて総括記事も作成する流れになるだろう。


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この物件の追跡調査の必要性については永らく頭にあった。年が明けて早々のこと、床波方面へ向かうとき綿密な再調査を行った。 続編として案内する。なお、既にこの物件の素性は明らかになっているので以後の記事タイトルは物件名に変更している。

(「長生炭鉱火薬庫跡【3】」へ続く)

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