真締川・火力発電所の排水口【2】

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(「真締川・火力発電所の排水口【1】」の続き)

護岸に立てば河床までは結構な高低差があった。それでも半ば降りる覚悟を決めてフェンスを越えてきたのだから試すだけ試してみなければなるまい。
人通りは少ないとは言え目立つ場所だ。降りるにしても諦めるにしても短時間で判断したかった。

護岸へ腰掛けてみた。
そのままでは爪先も一番上のブロックに届かない。両手を護岸について支える必要があった。


両手を後ろ手に回して伸ばせば届きそうな高さだ。要は帰りにここから登れるかだけを考えた。両手で支えられる場所が高くとも自分の目線より下ならジャンプの反動で体重移動できるという経験則があった。
まあ何とかなるだろう…
護岸の天端に両手をつき思い切り足先を伸ばした。
爪先立ち状態でブロックの上に足が届いた。そのままゆっくりとブロックに体重移動してみた。
実のところまだ右手でで撮影できているから余裕はあった


ブロックは僅かながら動いたが体重を支えられる程度に安定していた。

左手を護岸の天端にあてたままでブロックの上で横向きになっている。まだ河床には降りていない。


左手を離して完全に体重をブロックの上に移動し、それから足元の堅牢そうな石に足場を求めた。登り直しが効くことに自信があったからその場では試さなかった。河床へ降りた後、護岸の上へ留守番させていたショルダーバッグを肩に提げた。まずは無傷で最初のミッション完了だ。

ぐふふふふ♪
まさかここに降り立つことが出来ようとは…到底無理だとばかり思っていたのだよ。
久し振りの獲物を捕獲したようでわくわくする。初めて到達できた場所で一度きり味わえる高揚感である。


護岸の上から眺めれば如何にも足元の緩そうな泥濘だったが、降り立ってみれば意外に締まっている感じがした。どうしてもヘドロ堆積のイメージがあるのだが、足の下の殆どは砂礫だった。溜め池の低水位調査ではしばしば不用意に歩いてハマッてしまいがちだが、水の流れがある分だけ有機物が溜まりにくいせいだろう。もっとも完全に乾いている地面ではないので足元の状態には神経を遣った。

護岸に空いた孔はタービン冷却水排水口として知られるものが2つ、それとは別にすぐ近くに類似する孔が1つあることが分かっている。
まずは素性の知れない小さめの孔に接近して撮影してみた。


カメラを構えている現地ではまったく気づかなかったのだが…残念なことに肝心の中央部分にオーブが発生してしまっていた。横の方にはレンズフレアも起きている。
護岸の下はかなり暗いものの西日は護岸の上から降り注いでいた。公園の高木が西日を遮っているものの不定期に木漏れ日が差し込んでいた。逆光が気になっていたので巧く撮れないかもと現地では何枚か撮影していたが、このショットだけは他に代替できるものがなかった。

コンクリート護岸は厚さが30cm程度あってその内側に石積みのようなものが見えた。排水管の上部には石材が見えているので、古い間知石積みの護岸から被せるようにコンクリート護岸を造ったらしい。

一歩踏み込み排水口の近くまでカメラを差し出して撮影。
結構奥の方まで続いている。


逆光が気になって巧く撮影できていない懸念は現地でもあったので、周囲を含めて動画撮影もしておいた。

[再生時間: 24秒]


管の直径は50cmくらい。材質は…石積み部分に現れている断面はびっしり貝殻が付着していて分からない。

しんどいが身体を低くしてカメラを孔の奥へ突っ込んだ。
前屈みで両腕を先まで差し出すと、バランスを崩してカメラを持ったまま泥濘の中に突っ込みそうだ。


撮影後に短く再生される液晶画面ではなお詳細が分からなかった。
そこで強制フラッシュオンのモードに切り替えて撮影してみた。


もう一辛抱とばかりに更に排水口の奥まで両手を突っ込みフラッシュ撮影させた。それは上の画像よりは奥の方まで捉えていたが、残念ながらピンぼけだった。
この失敗は現地では分からずアジトから帰ってPCへ取り込んだ後になって判明した。液晶画面には正常に表示されたのでピンぼけまでは見抜けなかった。何度か撮影すれば防げたことだろうが、何しろ低いアングルでの体勢保持は酷い労力が要ったし、フラッシュ撮影を回数重ねるとバッテリーを消耗して後々の撮影ができなくなるリスクがあった。[1]大抵はフラッシュ撮影でも問題なくこなしてくれるのだが、このカメラはここ一番の大事なときに失敗を不定期にやらかすのが残念なところだ。
再度干潮時に訪れたとき撮り直しを考えたい

写真を見る限りコンクリート管でもレンガ巻き立てでもなく鋳鉄管のように感じられる。特に奥の方ほど断面の円形が滑らかでレンガならこれほど精密にはならない。色彩からすれば鋼製に見えるが、これはあまり当てにはならない。強制的に光を発射して撮影しているので、全体が茶色に傾いて表現されているだけかも知れないからだ。
この管の正体が何であるかは想像もつかないが、位置的にみてこの後に撮影する一対のタービン冷却水排出口と同時期のものであることはかなり確からしいだろう。

さて、いよいよ本命だ。
ここまで来て撮影したなんて人は市内に誰も居ないだろう…という気持ちが脳裏を過ぎる。


総括でも見てきた通り火力発電所タービン冷却水の排出口は2孔あることが知られている。ただ、当たり前だが現地に「これが明治期の排水口で…」などの説明板はないし、現物を見てもそこそこ古そうな土管だという印象しか持ち得ない。河床にしゃがみ込み護岸に向かってカメラを向けている私を誰かが目撃したなら「綺麗でもない川の中まで降りて何を撮ってるのだろう」と思うだろうし、熱心にカメラを構えた先は実のところ何処にでもある古いヒューム管だった…という懸念は私自身持ち合わせていた。

下流側にある排水口の前にしゃがんでいる。
今までは対岸からズームで窺うしかなかった。その現物に対面している。


二度目のズーム撮影では管の部分にピンク色がかっているものが見えているからレンガ巻き立てでは…と書いていた。しかしどうも光線の加減であって現物は外から見ただけでは材質がまったく分からなかった。原形が分からないほどびっしり貝殻が付着しているのである。

先の孔とは違って足元が悪くこれ以上近づくことができなかった。管の周辺に溜まっている水が完全には捌けきらず泥濘になっていたからだ。
カメラを持ったまま前のめりになると先よりもっと酷いことになりそうだ。


バランスを保ちつつ身を低くしてカメラを前に差し出した。
先の管よりも閉塞度が大きい。管径の3分の2以上が塞がっているようだ。貝殻の付着も半端無い。


水流で砂塵が押し込まれるらしく目視だけでも閉塞していることが確認できた。
管の材質は分からないが先に見たものと同等のようだ。


限界まで両腕を差し出してフラッシュ撮影した映像である。今度は巧くいった。
一番奥に何かが見えるが、押し込まれたゴミか石材かはさすがに分からない。


管の材質としてレンガ巻き立てかも知れないという説だけは否定できそうだ。少し奥のところに管の天井部分がズレているのが見える。一定の長さがある円筒管を突き合わせで埋設したらしい。
本当にこれが明治期の火力発電所タービン冷却水の排出口だとしたら、この管の奥は人工的な光であれカメラのフラッシュを浴びたのはほぼ百年振りということになるだろう。
そうは言ってもサーチライトを持って中を照らしたことのある人の一人くらいあるかも知れない

それから今更だが…管や周辺のコンクリート護岸に付着しているこの貝殻は何だろう。


火山の噴火口のミニチュアみたいな奴はフジツボだ。潮が満ちればこの辺りは海水で浸るので海生の生き物が暮らせる余地がある。しかし縁が波打っている割と大きめの貝殻の正体が分からない。このような形状をしている貝と言ったら牡蛎あたりしか思いつかない。
この貝殻はまったくありふれていて栄川の河口付近など何処でも観察される。しかし見かけるのはいつも白化した貝殻だけで生きたのを観たことがない。もしかすると昭和中期頃まで割とありふれていて大発生し至る所に定着しながら、貝殻のみ遺して今は居なくなった種なのだろうか。
生物学についてはさっぱりである

牡蛎のような高尚なものではなく今も生存している別種の貝かも知れない。いずれにしろこの貝殻は結構注意を要する。貝殻は充分に硬く縁が尖っているので踏み付けるとスニーカーの裏を突き抜けかねない。怪我はしなくてもその後で水に浸った場所を歩くと靴の裏から浸水してくることがある。
栄川の河口付近を歩いたときもこれでスニーカーを駄目にしてしまった

もう一つ上流側にも排水口がある。
こちらも泥濘が溜まっていてあまり近づけそうにはない。


多分中は殆ど同じと思われるが…再びやや離れた場所にしゃがんでカメラを内部へ突っ込んでみた。

(「真締川・火力発電所の排水口【3】」へ続く)
出典および編集追記:

1. 特にネットで買ったバルク品の予備バッテリーは消耗が著しい。気温低下時では起電力が下がるので更に持ちが悪くなる。先日の大雪のときなど予備バッテリーはフル充電直後だったのにフラッシュオフでたった一枚撮影しただけで「バッテリーを交換してください」のメッセージが出てシャットダウンする有様だった。
純正バッテリーはサードパーティーのバルク品に比べて1桁違う位に高いけど仕方がないね

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