真締川・砂どめ井手【2】

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(「真締川・砂どめ井手【1】」の続き)

砂どめ井手の堰堤上部に到達できた。自分一人納得するのならこれで踏査は完了だ。河床へ降りる階段はないし対岸へ渡る橋もない。しかしここまでの写真と説明だけでは全容がさっぱり分からず読者に伝えることができない。全体像がする分かる形で映像を持ち帰るにはもう少し工夫が必要だ。

堰堤の端まで立てばもう移動できる場所がない。
ぎりぎり接近可能な場所に立って木々を避けて両腕を伸ばす以外なかった。


堰堤を越えて流れる水はそれほど多くない。精々厚み1cm程度で流れ落ちているように見えた。下に降りることさえできればスニーカーでも足を濡らさず対岸まで歩いて行けるのでは…と思いかけた。

対岸側をズームすることでそれが甚だ無謀な試みであることが理解できた。
石積みで作られた斜面になっている。その先にまったく道は見えない。降りるだけで何処にも行けないだろう…


足元が落ち葉で隠れて分からないだけで、数歩踏み出せば斜面に足を取られ滑り落ちる。流水部に立つことができれば上流側も下流側も存分に撮影できる。ただし…もはや何処にも行けず流水部で立ち往生が確定だ。上流側は堰き止め湖状態、下流側は10m近い落差を持つ滝だ。越流部の高低差は背丈以上あり、元の場所まで上がって来れる保証はない。

堰堤は意外に幅があるようで2m程度の厚みをもっている。
背面側は上流まで続く細長い堰止め湖状態で両岸は深いジャングルである。普段私たちが見慣れた真締川らしくもない光景だ。


木々を避けて上流側をズームする。
水面が反射して分かりづらいが堰止め湖の水深はかなり浅いように思われた。


ダムや堰堤の上流側は通常もっとも深い場所だ。しかし現地で眺める限り越流部とあまり変わらない高さに砂地が透けて見えている。殆ど満杯状態に砂が溜まっているようだ。あるいは元から滝状の高低差がある場所で、流水で削れて滝が後退するのを防ぐために堰堤で保護しているのかも知れないが…[1]

同じ位置から更にカメラを右へ振ると…
雑木の繁茂がもの凄い。木々の間から微かに堰き止められた水面が見えるのが分かるだろうか。こんな中へ転落しようものなら木の枝に絡み取られ身動きが取れなくなるだろう。


落下口を撮影。これが限界だ。
どうにも危ない。これ以上身を乗り出すと本当に転落する。


あまりにもここは危険な場所だから久し振りにお約束のテンプレートを貼っておこう。

注意この物件への接近には重大な危険を伴います。現地踏査をなさる方は自己責任において慎重に行動することを強くお勧めします。

下流側を撮影しようにも斜面に生い茂る雑木が眺めを遮っていた。


元々高い場所が苦手な身なので、カメラを構えるどころか立っているだけで背筋がゾワゾワした。
これ以上他のアングルからの撮影は望めない。ましてこれほど木々が生い茂っている状況では離れた場所からの撮影は期待できず、堰堤の全容を撮影したいなら河床まで降りる以外の選択肢はなかった。

こんなところでうろうろしていると最後には落ちる。
一旦安全な場所まで戻って川面へ降りられそうな経路を検討することに。


堰堤の接続部から斜め下を眺めた。
この枯れ葉が大量に積もっている斜面を安全に降りられるだろうか…傾斜は45度かそれ以上ある。当たり前だが戻って来れなければならない。


確かに傾斜は急だが、ごちゃごちゃと雑木が生えまくっているから手がかり足掛かりを求められそうだ。
あとは…注意力と体力勝負だ。


堰堤と同時に見つけた古い水路沿いをちょっと調べたが、下流へ移動しても斜面の傾斜角は緩やかにならなかった。何処も似たようなもので、むしろ堰堤のすぐ横から降りるなら手がかりは確保できそうだった。
いっちょ、やるか…
堰堤から斜面へ降りる第一歩からして相応な難易度がありそうだ。
写真では分かりづらいがこの場所で既に1mくらいの高低差がある。何もサポートなしでは昇降はまず無理だ。


さすがにカメラを握ったままでは危ない。一旦ポケットへ仕舞って両手をフリーにした。それから堰堤の端に座って両手で体勢を保持し両脚を伸ばした。足が斜面に届いたところで二度三度と足元の地面をつつく。滑らないことを確認した上で徐々に体重を両手から脚の方へ移動させた。

まずはこのタスクをやり遂げた。
既に私の目線くらいの位置にさっき居た堰堤上部がある。


登れることの検証なしに降りてしまったように思えるが、大丈夫…確実に登り直せる。労力が要っても登りの方が間違いなく容易だ。降りるときは足を滑らさないよう体重移動に気を遣うが、登りでは手の届く場所に自分の体重を支えきれる幹や枝があればそこまでは上がれる。たとえ足場が確保できなくとも最後の手段として腕の力だけで自分の身体を引き揚げれば良い。
ただし…自分はあと何年くらいそういう芸当ができるものやらという疑問はある

堰堤の近くには頼りになりそうな木が生えておらず足を滑らせると一番下まで身体を持って行かれる。いつもの藪漕ぎなら雑木を避けるところだが、木の葉が積もる斜面を昇降するときは体重を預ける担保となる雑木が多い中へ入った方が有利だ。
雑木の中には体重を支えきれない細い枝やツル系植物、見かけは太いが朽ちた樹木も混じっている。生きた木の枝や幹を選んで握り、手足交互に体重移動しつつ下っていった。両手両足フル稼働させる必要があったのは最初の堰堤を降りる場所程度で、カメラを右手に持ったまま移動できるようになった。

斜面の降下時に撮影。
あれを早く正面から眺めてみたい…まだ雑木が邪魔しているし近すぎてダメだ。


ある程度堰堤から離れなければ全体像を眺められないので、堰堤から遠ざかる形で竹藪の茂る斜面を降りていった。


さすがにこんな場所まで訪れる人は皆無らしく枯れ葉の堆積がもの凄い割には人工的なゴミはまったく見当たらない。無秩序に生えまくる竹は丈夫で掴みやすいので、滑りやすい斜面を降りるときの適宜な手がかりになった。日当たりの悪い斜面のせいか足止めを喰らわせるイバラ類は見当たらなかった。

木の葉と土が目立つ脆弱な斜面にやや目立つ露岩を見つけた。
よく見ると…岩の下側にモルタルを充填したような跡がある。こんなところに人工物か?


更に斜面を下ったときその露岩の下にコンクリート製の桝のようなものを見つけた。
これは完全な人工物だ。


上部は枯れ草で覆われていたので全体像が分からなかった。しかし尖った角の状態から雨水桝か何かの基礎のようだった。気にはなったが敢えて枯れ草を取り払ってまで調べようとは思わなかった。

堰堤から遠ざかる形で斜面を斜めに降りていった。
徐々に堰堤の全体像が明らかになりつつあった。水の流れ落ちるところはやや深い滝壺のようになっている。


周囲の様子を観察しつつ下っていたところ…
斜面の途中に何かコンクリートの塔らしきものが聳え立つのを見つけた。あれは何だ?


斜面の上の方にさっきよりはずっと大きく明白なコンクリート構造物が見えかけていた。斜面に垂直な絶壁状の面を見せている。構造物の上の方は藪に隠されていて見えない。

あと少しで河床に到達できるというところだが…今しがた見つけたものがちょっと気になった。


帰りに斜面を登るとき撮るのは大儀だろう。降りる前にちょっと偵察することにした。見えている先だからそれほど労力は要らなかった。

再び斜面を登り直して接近する。
それは川へ向かって塗り壁のように聳えていて基礎部分や側面の一部には空隙があった。


ここの場所柄あるものが想像された。念のためにすぐ下まで接近してみた。

(「真締川・砂どめ井手【3】」へ続く)
出典および編集追記:

1. 持世寺の先にある天狗の滝がそのような構造になっている。

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