市道真締川南小羽山線【1】

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現地撮影日:2012/5/10
記事公開日:2012/5/20
真締川南小羽山線は、真締川と南小羽山を連絡する市道である。
…と書けば確かにその通りだ。実際は”真締川”という小字はないのだが、「真締川のある場所」から南小羽山町に向かっている。古くからある道はその周辺に纏わる小字を元に路線名が決まることが多いので、この分かりやすい命名法から割と歴史が浅い路線ではないか…と想像される。

小羽山地区が開拓され、現在の街並みが形成されたのは昭和50年代半ば以降である。小羽山はそれほど標高が高くはない丘陵地帯だが、総じて東側 - 真締川に面している方 - が周囲より急な斜面になっているという特徴がある。このため東側からアクセスする道は、古道や開発に伴って造られた新しい道を問わず、どれも急な坂道を避けられない宿命を持っている。

これから向かう市道真締川南小羽山線は、小羽山の東からアクセスする中ではもっとも道路幅が広く相対的に安全な道である。
ただし、それはあくまでも「相対的に」だ。他の市道や坂をこなす諸々の道に比べると、遺憾ながら非常にグレードが悪い。交通量は多いのに、実際車で走ってみると如何にも小羽山地区が整備された当時を象徴するような道造りに思える。よりハッキリ言えば現代の視点からすると些か道造りが強引かつ粗雑で、快適さや安全性があまり考慮されなかったのではないかと思える要素がある。

そこで申し訳ないがこの市道には”反面教師”となってもらい、市街部と小羽山地区を連絡する重要なこの市道が現在どんな状況に置かれているのかを分析(まあ早い話が「ダメ出し」)させて頂こう。

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市道真締川南小羽山線の起点である。
この市道は、真締川の右岸を遡行する市道真締川西通り2号線上に起点を持つ。写真は真締川の上流部を向いて撮影している。一度でもこの道を走ったことのある方なら、この写真だけで「あの道か…」と分かることだろう。


起点をポイントしている。
地図を見慣れた方なら、まったく知らない道でもちょっと眺めただけでこれから向かう市道の経路の異様さに気づいたかも知れない。


起点の入口を過ぎ、反対側から撮影。
たまたま車通りが切れているだけで、真締川西通り2号線の交通量はかなり多い。
現地にあまり変化がないので3年前の写真を流用している…以下同じ


起点から少し進み、振り返って撮影。
このT字路には信号がないので、メインの市道へ出るのはドライバー自身による確認と自己責任に委ねられる。


さっそくのダメ出しであり、これは今から辿る市道だけの問題でもないのだが、
(1) この市道からメインの通りへ右折しづらい。
車で走った方ならきっと同意してもらえると思う。市街部へ向かうにはここを右折することになるのだが、昼間はともかく夕方はかなり苦労させられる。
真締川西通り2号線は工学部通りから北側は市道西山線の交差点以外信号がないので、裏道代わりに走る車は結構飛ばしている。右折でメインの通りに出るのに上下線が途切れるまで待つのだが、しばしばこの市道へ入ってくる右折車と交錯して譲り合いやぶつかり合い(←それはないだろw)が発生する。
しかしここには信号はつかないだろう…設置すれば双方の流れは確実に悪くなる

小羽山から市街部へ降りていくドライバーの半数近くはこの市道を通ってここで右折すると思う。しかしこういった事情があるので、夕刻の車が多いときはここから出るのを避けて工学部通りに接続される道(市道西の宮小松原通り線…現在一部区間を工事中)へ出た方が良いかも知れない。

さて、それでは例によってカメラを携えた自転車隊が綿密に写真を撮りながら進むのだが…
出発早々、初めてこの道に入ったドライバーなら必ず困惑する場所に遭遇する。


起点を出て直線路を進むのだが…
ん?
ここって…どうなってるの?
一瞬、勘違いしてしまいそうな素敵な線形なのだ。


(2) 直角曲がりっっっっっ!!


度肝を抜くようなカーブと言うか、折れ線。初めてここを走るドライバーに「道路…消えてんじゃないの?」って思わせるに足りる。細い道が直角に交わる十字路を右折するイメージだ。
この様子を分かりやすく撮影するアングルに結構苦労した

折れ点の反対側から振り返って撮影。
もはやこれはカーブではない…明らかな「直角折れ点」だ。


言うまでもなくこの直角折れ点はこの市道が造られたときから存在した。上に舗装を被せる程度の修繕はされただろうが、それ以外の改良を施されたことはない。
工事に伴う仮設道ならともかく、完成形としての道路が直角折れ点を持つなど今ならあり得ないだろう。元は十字路にする計画がありながら頓挫し、一本の折れ点にしたのだろうか…
恐らくそうではないだろう。蛇瀬川の流路を定めてコンクリート護岸を造り、そこに沿わせて今の市道を造った感じだ。本来なら曲がりやすくカーブにするところだが、そうするとカーブの内側にある田が削られてしまうので直角折れ点にしたのだろうか。

終点から走ったときはこの折れ点の正面に小さな枝道が続いているのが見える。そのせいか本線自体が直角に折れているのに交差点と勘違いしてウインカーを出して曲がっていく車が見受けられる。
別にいけないことではないが…枝道へ真っ直ぐ入っていく車を見たことがない


この道を頻繁に通る方なら、この直角折れ点に付随する枝道が気になるかも知れない。

その道が分かるように、折れ点からちょっと寄り道して撮影している。
ここから山手の方に向かう細い道があり、2つの道の間を蛇瀬川が流れている。この枝道部分は両者を連絡するコンクリート橋を含んでいる。


この近辺は認定市道が複雑に入り組んでいる。
色分けしてマップに書き込んでみた。


真締川に沿って伸びるメインの道が真締川西通り2号線、ピンク色で示した短い道が桜並木の美しい維新山線、南方から狭い御手洗橋を渡って現在地までやって来るのがまかよ小串線、そして同じ場所から山の手に分け入っていく細い古道が維新山西山線となっている。

この地図で分かるように、蛇瀬川を渡るコンクリート橋を含む区間はどの市道にも属していないらしい。大抵は何処かの市道の枝線として組み入れるのだが、認定市道を示すピンク色の線になっていなかった。
単なる記入忘れか地元管理の道なのかは分からない

再び直角折れ点に戻り、パノラマ動画撮影しておいた。

[再生時間: 10秒]


あらかじめお断りしていたように、ここまでの写真はすべて3年前のものである。現在も殆ど変化がないからだが、路線の途中で下水工事が進められており、この直角カーブのところに工事看板が立っていることは今の時期固有の情報だ。


さて、ここまで「直角折れ点」ばかり粘着的に写真を撮りまくったが、そろそろ先に進もう。
まだまだこんなのは序の口、更に「トンデモ市道」ぶりを発揮してくれる。それも車道に関わることだけではなく自転車や歩行者に関することまでも…

直角折れ点を過ぎ、すぐ先に車道から分離された歩道だが…


(3) 歩道開始地点の段差がそのまんま…


元来、自転車は車道を走るべき乗り物である。しかしこの道は車道幅がそう広くもなくその割に交通量は多い。買い物カゴに荷物を載せたママチャリなら車を避けて歩道を走りたいだろうし、通行車両としても路肩を走る自転車は邪魔者に映ることだろう。実際、ゆっくり進む自転車の殆どはこの歩道を通っている。
車道の幅員が狭くて危険などやむを得ない場合の自転車の歩道通行は認められている

そのため普通は歩道の開始地点は道路と同じ高さにすりつけるものだ。そういう細かな施工がされていない。乗ったままここを通過すると、空気の少ない自転車のタイヤならリム打ちが原因でパンクするかも知れない。

道路敷を広く取れない事情から市内の多くの歩道は自転車通行可になっている。しかしこの歩道は当初から自転車の乗り入れを全く考えていなかったことになる。まあ、車道から分離された歩道が設置されているだけまだマシだろうか。

直角折れ点をこなした後は、割とおとなしめに田園地帯を進んでいく。ここからはまだ田畑を挟んで市道真締川西通り2号線が見えており、市道は少しずつ小羽山の丘陵部へ向かっていく。
舗装が新しい…この区間は確か一昨年あたり切削オーバーレイで補修されたはず


振り返って撮影。
直角カーブを過ぎてここまでは全く素直な直線路だ。


その先で大きく左へカーブし、広田の平野部に別れを告げる。市道のすぐ外側が蛇瀬川で、川面へ降りることが想定されていないせいか土手が見えない位の藪状態だ。


とりあえず今度は折れ点ではない。まあ何処にでも見かけられるカーブだ。特に問題はなさそうに思える。
しかしこのカーブの構造ときたら…
一枚のショットでは収まりきらないので、動画撮影でカーブの全体を眺めてみた。
[再生時間: 14秒]


もしかすると180度転回しているのでは…と思われるほど大きく曲がっている。丘陵部を巻いて蛇瀬川沿いに進んでいるので仕方ないことだ。それは分かるとして…
(4) 緩和曲線のないきついカーブ。
(5) 片勾配のないベタ道。
これは最初の「直角折れ点」にも見られたこの市道の”どうしようもない側面”だ。

緩和曲線は、今では国道は元より県道・市道レベルでも標準的に導入されている道路設計である。カーブを造るときに直線部分から単純に円弧の一部を接続するのではなく、その間に曲率が段階的に変わる種の曲線(一般的にはクロソイド)を挿入することで急なハンドル操作にならないよう設計されている。

たとえば車のハンドルを一定量ほどきった状態で進行すると、円弧を描くようにぐるぐる周り続けるだろう。ハンドルの切り方が大きければそれだけ半径の小さな円弧になる。他方、直線を走るときはハンドルの切り方はゼロである。
このことから直線と円弧を描くカーブが直接つながった道を運転すればどうなるか想像しよう。最初はハンドルを全く切っていない状態から、カーブにさしかかるや否やいきなり一定量ほどハンドルを切る操作が要る。そうしなければコースアウトする。
早い話、急ハンドル操作を招く道ということだ。古い遊園地のコースターに乗るとカーブで体がガクッと外へ振られるのは、往々にしてこういう構造になっているからだ。コースターだからスリルを楽しめるが、一般の道路では事故の元である。
カーブ前後でセンターラインが掠れていることから運転手自身が対応していることが窺える

更にまずいのは、道路に片勾配がついていないこと。
カーブを曲がるときは中心から外側へ流れていく遠心力が働く。こうした経路を安定的に通過するには外へ流れる動きを鉛直方向で受け止めるように道路面自体を傾ける必要がある。サーキットのように高速でカーブを通過するようなコースでは、停止すれば転がり落ちてしまいそうなほどカーブの内側が傾いているだろう。高速走行したときスムーズに通過できるよう設計されている訳だ。。
ここらへんの難しい話は[1]に詳しく説明されている

この市道では長く大きなカーブの実態に対して片勾配がまったくついていないか、あるいは少なすぎだ。そのことは運転席から見える路面の形状からも分かるし、カーブにさしかかった時点で明白に体感できる。体がカーブの外側へ引っ張られるのを感じるし、どうにかすると座席に置いていた荷物がザザザーっと移動してしまう。
卵など割れ物を積んでいるときは本当に気を遣う

この道を行き交う殆どの車は事情を知っているから相応にスピードを落としている。しかし初めて通った人は速度が出ていて慌てた経験があるかも知れない。
カーブでのスリップや転倒事故は数え切れないほどあると思う…

きついカーブが終わると、また短いストレートコースになる。ここにも現在の道路造りからすればちょっと考え難い齟齬が…
(6) 道路外の出入口も歩道が切り下げていない。
ガードレールに切れ目があるのは田んぼに乗り入れる耕耘機の通路確保のためだろう。そうでありながら歩道と車道の段差があるのでこのままでは乗り入れられない。L型側溝に沿って木の板が並べられている。
現在はプラスチック製の乗り入れ板に置き換えられている


一般に歩道は車道との間にブロックを築くか車道より一段高く造られる。雨のとき車道に溜まる水を側溝に集めて排水し歩道が水浸しにならないようするためだ。この市道の場合はL型側溝に沿って雨水が流れることになる。こういう場合に段差を解消する乗り入れ用の板などを置くと、雨水排除の障害になってしまう。

基本的にはこのような部材を市道へ置くのは公道の無許可占用になる。しかし必ずしも部材を置いている田畑の持ち主の責任とは言えない。乗り入れ需要がある場所は隣接する土地所有者の意向を確認した上で当初から歩道を切り下げるものだからだ。
切り下げるとそこから雨水が歩道へダダ漏れになるのでその手前に雨水桝を設置する

実を言うと小羽山地区に造られた市道の殆どがこれと似た状態である。田畑の入口ならまだしも市道に沿って並ぶ民家の車庫や玄関、小さな店舗の入口でも縁石は切り下げられていない。そのままでは車が乗り入れられないので、各自がL型側溝の上に縞鋼板の板などを置いて対処している。
切り下げだらけになってL型側溝としての機能をなさないので道路課時代から追認されているのかも…

終点まで到達した帰りに撮影したこの場所での問題点。
歩道やりっ放し。それも歩行者なら大丈夫だがうっかり自転車で走った場合に何が起きるかは…


道路設計は一応40km/hとなっている。しかしここも40km/h以下でなければ安全走行できない。 次のカーブも片勾配のない「ベタ道」であることが運転席から視認できるからだ。


これほどの幅がある規模の道路では50km/hが普通なのに、この道ときたらスピードを落とさなければ安全走行できない。十分に速度を落としきれていなければ、カーブを曲がる都度後部座席に置いた荷物があっちへガラガラ、こっちへゴロゴロ…
運転席でハンドルを握る自分自身もしっかりと座っていられない。カーブにさしかかるたびに反対側へ重心を移動したくなる。悪いけどまったくストレスの溜まる道だ。

渋滞や理不尽な信号機による交通整理でストレスを感じる道はいくらでもあるが、運転自体が物理的なストレスを与えてくれる道も珍しい。次に舗装打換えするときは、せめてカーブに片勾配だけでもつけてくれれば、もう少し「カーブの抜けの良い道」になるのだが…

本当にダメ出しばかりで可哀想な位だ。
何か目に見える面白いものとか景観はないものか…後半に期待したいところだが…

(「市道真締川南小羽山線【2】」へ続く)
出典および編集追記:

1.「Wikipedia - 道路(線形)|片勾配・カント

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