市道崩金山線【3】

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(「市道崩金山線【2】」の続き)

今まで見たこともないほどもの凄い竹の群生地を抜けきると、視界が開けてきた。
竹藪のトンネルを抜けた先に見えるのは、民家の軒先と舗装されたように見える道だった。


曲がりなりにも民家のある場所まで抜けて来れたことにまずは安堵を覚えた。
今まで辿ったのは普通に通りようがない荒れ道なので、前方に道らしきものが見えている限り山中をあてどなく彷徨うことになる事態は回避された。とりわけ今まで酷い苦労を強いられて自転車の担ぎ歩きを経てきたので、先が行き止まりで引き返すことになるなんて真っ平ご免だった。
空模様も怪しいが、もしここでザーッと雨に降られたならあの民家の軒先を借りることができるだろう…

別に命など取られる訳でもないのだが、山道から民家の見える場所へ出るときには周囲の気配に注意した。山を愛する登山家ならまだしも、何しろ自分は有り得ない山道を自転車と共に進んでいる。こんな荒れ道から私の如き人間が出てくれば、庭先で草取りとかしている方があれば驚かせることになろうし、小心者な私自身もびっくりするだろうし…
野山から出たすぐ右側に納屋らしきものがあり、同じ敷地に一軒家があった。山道はその家の前でアスファルトの舗装路に変わっていた。
居住者があるかも知れないと思いつつ、ここは重要なポイントなので、自転車を舗装路の上に停めて撮影した。

振り返ったところ。
今しがた納屋の横に見える暗がりから出てきたところだ。傍らにはコンクリート製の電柱があり、この民家に電気を供給していた。


位置関係が分かるようにもう少し視野を左に振って写している。
納屋と言うか倉庫のすぐ横が山道になっていた。


この納屋に隣接して一軒家があり、市道はこの民家の庭先を囲むようにカーブしていた。
コンクリート製の電柱があるからにはそう古い家ではないものの、庭先にはロープが張られていたので、人は住んでいないように思われた。[1]

更に自転車を押し歩きし、この民家の横手から振り返って撮影している。
電柱の立っている背後は、藪が薄くなっていて道があるようにも見える。


この電柱の存在により、以前から得ていた情報に重ね合わされるものがあった。
電線の通っている場所が”例の市道”かも知れない…
実はあの電柱の近くに立ち、一度はカメラを構えていた。しかし道の形などなく見渡す限り藪しか見えなかった。そのまま写しても藪の写真になるだけなので撮影しなかった。

地図には納屋や民家を意味する建物、そして山に向かって伸びる道が描き込まれている。その道は納屋から離れた方へ伸びている。
この地図を南西(画面では左下)にドラッグすると、中山浄水場の上にある階段から現在地へ向かって道らしきものが書き込まれているのが見える。いずれも途中で切れていて明確には描かれていない。


今まで調べ上げた限りではこれが市道金山線ではないかと思っている。市道路河川管理課の地図でピンク色の線が描かれているのを見ていた。もしそうならこの路線は現在トレースしている本路線よりも更に荒れているような気がする。
この辺りの正確な状況はあともう1〜2回現地を訪れなければ分からないだろう

生活感の薄い家屋は、何とも言えない寂寥感を醸し出していた。
行こうか…

アスファルトが安泰に見えていたのは家屋の近辺だけで、そこからは再び落ち葉に覆われていた。
ここはフラッシュありとなしで2枚撮影してみた。


こちらがフラッシュなしの撮影である。
明るく見える代わりに、ピントが甘くなっている。見え方としては前の写真の方が近い。

再度、振り返って撮影。
この家の前までキチンとアスファルト舗装されているということは、かつては相応に人の往来があったのかも知れない。しかし木の葉の散らばりようを見る限り、本当に最近は通る人がなさそうに思われた。


そうそう…
ここで私は、今回の物語の冒頭で出会ったあの方の言葉を思い出した。
「この先を越えて行くと、一軒家があって
道がカーブしちょる所がある…
その内側が大きな窪地になっちょる…」
かつて砂金を採っていたという、炭生(タブ)のことだ。
確かにさっきの家屋の裏手は窪地になっているようだ。

近づいてみた。


見たところ確かに急斜面になっていた。しかし竹が生い茂っていて下の方はよく分からなかった。この程度の窪地なら何処の野山でも普通に見られるし、直ちに何かを採掘した跡であることを裏付けるようなものはなかった。
足元の悪そうな急傾斜地だし、民家の裏側へ踏み込まなければならないので、踏査は自重して先に進むことにした。

道幅は広がったし、一応はアスファルト舗装されている。しかし舗装路とは全然思えないほどもの凄い量の落ち葉で埋め尽くされていた。しかも道の両側にまたしても夥しい竹が…


地面の状況がどうなっているか分からない恐怖を感じつつ、自転車に乗って進んだ。しっぽりと濡れている落ち葉や小枝は相当な量らしく、タイヤで踏み締めるとパキパキという乾いた音が野山に響き渡った。

路面をフラッシュ撮影している。
部分的にアスファルトが露出することで辛うじて舗装路であることが分かった。相当の永きに渡って車は乗り入れたことがなさそうだ。


竹藪が開けつつある場所まで来て見つけた、市道を物語る付属物。
路肩注意の表示だ。紛れもなく「宇部市」の文字が見える。
もっともこれがあるから間違いなく市道であるとは恐らく断言できないと思うが…


相当昔に立てたものらしく、コケまみれであった。


再び道幅が狭まり、軽四がどうにか通れるという幅の道になった。こんな山道でもアスファルト舗装されていること自体が奇跡的だ。


覆い被さる竹のせいでまた周囲が薄暗くなってきた。
実際には舗装路なのだが、とてもそうは思えない外観である。


もの凄い量の落ち葉だ。
道の両側には土のうが積まれていて、それによって辛うじて道路線形が分かるような状態だ。
常盤公園の周遊園路みたいな道だと思った


思えばこの竹藪が最後のおどろおどろしい区間だった。竹藪のトンネルを抜けると再び視界が開け、来た方向から反転して下っていく道を見つけた。
これがさっき話に聞いた「中山にも降りられる道」のことだろう…


もの凄い勢いで下り、恐らくは中山の方を目指している。しかしここから県道までは見通せなかった。


本路線よりは通行車両があるらしく、完全にアスファルト舗装路面が見えていた。しかし途中で狭い区間があるらしく「通行できません」の看板が立っていた。その右手の高台に一軒の家屋があった。

この分岐点を振り返って撮影。
一見、どちらも同じような規模の道に思える。地元在住者の車は通るらしく路面は相応に綺麗だ。


安泰に帰宅できた今だから分かることだが、この分岐路は市道栄ヶ迫大笠線である。ここを起点として中山観音に向かって下り、県道まで行き着かないうちに市道尾崎大笠線という別の路線にぶつかっている筈だ。いずれも軽トラ一台がやっと通るか、この路線と同様の山岳路ではないかと思う。

分岐部分は酷い鋭角になっていて本路線から車で曲がれるようになっていない。
通り抜ける車がないので昔のままになっているのだろう。


私は律儀に起点からきっちり辿っていたが、実際の交通としては終点側からコッチへ向かう方が多いようだ。
またしても振り返っての撮影になるが、電信柱に通り抜けに関する注意書きがあった。
この先通り抜けできません 宇部市」


それは異なる市道への分岐点手前に設置されていたので、どちらを通ろうが車では抜けられないことを意味している。外部から入ってくる車向けのメッセージだ。

あり合わせの鉄板を半紙に見立てて、書き初めでもしたような感じの標示板である。それを電柱に貼り付け、番線で結わえているものだから、字が曲がってなかなか読みづらい看板になっている。
一体、いつの時代に作ったものやら…


先の道からの往来があるのか、本路線は合流点からは車一台がどうにか通れるような道になった。
家並みも少しずつ増えてきて、今度は紛れもなく現役家屋だ。
このあたりからご近所の飼い犬がワンスコワンスコとうるさく吠え始めた…汗

人里離れた野山をあてどなく自転車を押し歩きする心細さからは開放された。やはり民家が近くにあるとホッとするものだ。(吠えまくるワンコはうるさいけど…)

(「市道崩金山線【4】」へ続く)
出典および編集追記:

1. 2度目のトレースを行った後の現時点でこの家屋には居住者があることが判明しているので、当初の公開記事では掲載していた民家の写真は削除している。

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