市道崩金山線【8】

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(「市道崩金山線【7】」の続き)

既に一度は通って微かな記憶がある道なので道に迷うことはないと考えていた。
しかし逆から辿ることで分かりづらい場所があった。
右、左、どっちだったろ?


この分岐は逆トレースだとYの字なので、初回トレース時にはどちらから来ようとも迷う要素がない合流点だった。しかし終点側から登るとどちらも本線に見えてしまう。
幸い現地では殆ど躊躇することもなく左の正しい道を選ぶことができた。峠を越えてからは道中左から合流する道のみだったという記憶があったからだ。

倒れかかった竹の数がもの凄い。その多くが途中で折れて市道上に転がっていたが、中には健全な状態のまま倒れかかっているので自転車を斜めにしてくぐらせなければならない場所もあった。


こんな状態の道を通してきた。
峠越えで道を完全に失い、やむなく再びこれを引き返す事態になったとしたらかなり気が重い。


再び同様の小さな分岐路に出会った。今度は本線が左というのがかなり明らかである。
この場所は確実に覚えている。初回トレースのときもあの頭の赤い境界杭を撮影していた。


少しずつ登り坂の勾配がきつくなっていく頃、竹藪の端が見えてきた。
先は岩場のようになっている。4年前に担ぎ降ろししたときのことを思い出した。


植生が変わりここから先は竹は疎らで下草が目立つようになる。代わりに足元は笹の葉のクッションがなくなって至る所岩が剥き出しになっていた。
写真では分かりづらいが特に前方中ほどに見える岩は大きい。あの辺りで手こずったのだった。


今回は自転車が初回時よりも軽い。それでも押しながら歩くのは到底無理で、先に自転車を送り込んで後から自分が移動することに変わりはなかった。

最初の露岩を担ぎ越すのは殆ど問題なかったが、次の場所は最初の難関だった。
足を置く場所がない。溝状になった道の中央に木の幹が落ちていて踏むとグラグラと動いた。左側は大きな岩で足を載せるには段差が高すぎる。


とっても邪魔な木の幹だが溝から取り除ける程度の重さではなかった。

写真では分かりづらいが実際にはこの場所は30度くらいの勾配がついている。自転車なしの単純な徒歩でも岩登りのような状態だ。
まして自転車を連れているとなると…狭い溝状になっているので先に自転車を押し上げて自分がフリーにならなければ身動きが取れない。そこで先に自転車を岩場の上へ押しのけ、後から自分が単独で登ろうとしたのだが…


自転車押し上げ不可能。
この場所だけで1m以上の高低差がついていて傾斜区間も長かった。段差の上まで押し上げようにも自転車が留まってくれずズルズルと降りてきてしまった。

それで可能な限り押し上げておいて先に自分が登り、坂の上から自転車を引っ張り上げることにしたのだが…何しろ溝の部分が狭い。ハンドルやらサドルやら突起部分が邪魔になって跨ぎ越すのに一苦労だった。
あっさり自分だけ道から外れて山の斜面を歩いた方が楽だったかも知れない


段差の上に立ち、自分が滑り落ちないように注意しながら自転車を引っ張り上げた。取りあえず突破はできたが…本当に大丈夫だろうかと思い始めた。
ここまでやってしまいながら引き返しなんてことになったら本当に悪夢だ。


また同じような難関だ。ここも岩だらけの部分の中央に太い幹が転がり落ちている。
再び上と下との段差は1m以上ある。さっきのより幾分溝の幅が広いのが救いだ。


当然ここも押し歩きなどできない。先に自転車を押し上げる必要があった。
引っ張り上げの必要はなかったが、足元は傾斜しているし滑りやすい粘土で体勢を整えるのに難儀した。踏ん張っている間も枯れ葉の下にある粘土に足を取られた。


自転車を押し上げて横倒しにし、後から自分が登る…何とかやり通した。

振り返って一連の難所を撮影。大きな段差がついている前後で植生が変わっているのが分かる。
溝状になっているためにちょっとまとまった雨が降れば滝のように流れ落ちるのだろう。岩ばかりの段差は恐らくそれが原因だ。


竹藪から普通の山道に変わって幾分歩きやすくなった。
木の葉が厚く積もっているので足掛かりが良いのである。笹藪だと足元は頼りにならない上に滑りやすいので歩きやすさが断然違った。


しかし新たな厄介物も現れた。倒木や木の枝が散乱していて至る所道を塞いでいた。
枯れた竹はツルンとしているので払いのけるのは容易だが、不定形をした木の枝は気をつけないと服に引っ掛かって足止めを喰らわせてくる。


坂が緩くなり前方には空の部分が見え始めた。峠が近い。
ここまで来れば最後にどんな難関があろうが起点へ抜けられるのは殆ど間違いない…いや、引き返しという選択肢はもう有り得ない。残された難関は、前回進攻を断念したあの藪だ。


この緩いカーブの外側には印象的な平場があった。
かつては畑かもしくは家が建っていたのではないかと思われた。自然の状態でこのような平らな場所はできない。


恐らくこの辺りが本路線の最高地点だ。初回トレースでは元金山在住民から自転車担ぎ歩きの場面があっても通り抜けられると聞き、意気揚々と突撃開始した場所に近い。
道なりは明瞭で真っ直ぐ伸びている。しかし先の方を見るだけで最後の覚悟が要りそうな気がした。


枯れ葉で薄茶色に塗られたような踏み跡もここまでだった。
峠部分を越して日当たりが良くなるためか雑草が次第に踏み跡を淡くしていた。


いよいよ荒れ始めた。
大丈夫…この藪はそれほど長くはない。道間違いなど有り得ないので構わず押し歩きで自転車を草むらの中へ突っ込ませた。


この藪の中で踏み跡は完全にかき消されていた。突破できるのは確かとしても脱出する方向を誤っていないか、少しでも通りやすい場所がないか見極めるために、一旦自転車を停め置き、単身で先を窺った。
先の金山線だって起点部分がちょっと藪に隠されていただけだ。ここから必ず抜けられると確信した上で膝下まで迫る雑草の中を進攻した。

(「市道崩金山線【9】」へ続く)

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