セッテン!!

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記事作成日:2022/10/5
最終編集日:2022/10/10
ここでは、宇部フロンティア大学付属香川高校(以下「香川高校」と略記)の総合学習の一環として実施されたセッテン!!について記述する。
写真は2024年度実施時に会場ホールで参加者と生徒向けに掲示されたディスプレー画面。


セッテン!!の大元は一般社団法人豊かな暮らしラボラトリーの提唱する活動の一形態で、総合学習の一環として高校生と地域在住の社会人が後述する人生グラフを通して歩みを振り返り合い、時間と価値観の重なる接点(節点とも表現される)を見出すことで学生・社会人相互のより良い生き方に繋げる取り組みである。香川高校では2022年に初めて実施され、最終編集日現時点では2024年に第2回目が開催された。

香川高校においてセッテン!!は課外活動ではなく正規のカリキュラムに位置づけられ、高校1〜2年生の生徒全員が参加する。地域在住の社会人は学校の先生と事前に参加申し込みをした人たちである。社会人の参加は無報酬で、年齢や有資格者などの制限はないが事前申し込みが必要となる。香川高校の出身者や教育に関心を持つ地域在住者の参画が多い。

正規のカリキュラムとは言っても各教科を伝授するような従来形式の授業ではない。知識や経験を持つ社会人が生徒たちへ情報伝達するのとも異なり、話し慣れていない高校生の生徒の話を傾聴し、過去のお互いの時系列を元に現在の時間軸で未来を一緒に考える点が本質である。結論やアドバイスを行うことは求められておらず、共に考えるプロセスを重視する授業である。

相互に面識がない社会人と高校生が一対一で向き合うのは時間も労力も要る。社会人よりも高校生の方がずっと多いため、すべての生徒が社会人と一対一で向き合う機会を確保しながら、対談していない生徒は別の社会人が演じる人生紙芝居を観る同時進行により、限られた時間で効率よく進める工夫がされている。
《 下準備 》
以下は今まで2度開催されてきたセッテン!!のうちで共通する部分を抜き出して記述している。
【 人生グラフ 】
セッテン!!では、生徒と社会人が今まで歩んできた時系列を視覚化した人生グラフが中核的資料としての役割を担う。これはB4横置きの用紙で、実施時までに各自が作成する。
写真は2022年度実施時に作成し持参した宇部マニアックスの人生グラフ。


用紙は縦軸に感情の起伏度、横軸に時間の経過を表す目盛りが印刷されている。グラフ作成者は今までの自分の人生を振り返り、記憶に強く残る主要な出来事とその時の感情値を時系列に沿って落とし込む。嬉しい、楽しい、愉快なといったポジティヴな体験をした時期をプラス領域に、哀しい、辛い、嫌なといったネガティヴな体験はマイナス領域にプロットされる。最後にそれらを線で結ぶことで人生グラフが完成する。

当日は社会人と生徒が自分の人生グラフを見せあい、これを元に自己紹介や一対一の対談が進められる。想い出したくない出来事や他人に話したくない内容は省略して構わない。社会人は事前の説明会のとき用紙を渡され本番当日までに作成する。説明会の時点で作成し、その場に居合わせる社会人へ自己紹介を兼ねてトークを行うこともある。生徒はおそらく学校の授業か宿題として用紙を配布され各自が記入している。

余談だが、セッテン!!を離れても立ち止まって自分の時系列を振り返ることは極めて重要であり、個人的には過去に同じことを考えて株式市場のチャートを模倣してグラフ化したことがあった。(→人生ローソク足
【 人生紙芝居 】
社会人の中から人生紙芝居の担当者(以下「演者」と略記)が数名選出される。初回と第2回は参加する社会人の負担を軽減するために学校関係者などが演者に選ばれた。演者は通常の人生グラフ用紙ではなく、独自に画用紙を使って今まで歩んできた時系列がビジュアルに理解できる紙芝居形式にまとめ上げる。
写真は人生紙芝居を上演している様子。


後述するようにセッテン!!では生徒と社会人の一対一での対話が行われるので、社会人との対話をしていない他の生徒は演者の人生紙芝居を観に行く。したがって演者は自作の紙芝居を元に、多人数の生徒に語る必要がある。2024年度以降の開催では社会人からの演者が募集されるかも知れない。
【 実施会場のセッティング 】
セッテン!!の本番から逆算して社会人向けの説明会が開催される。連絡事項は登録メールに配信され、学校の会議室などで行われる。本番当日は定刻までに各自が作成した人生グラフなどを持参する。

当日は生徒が集まる前に社会人だけで最後の打ち合わせが行われる。複数回開催された説明会の出席者からいくつかのグループが作成されるので、初めて顔を合わせる社会人が殆どとなる。グループ内で自己紹介が行われるが、このグループは最初と最後のみで、セッテン!!の実施中はすべての社会人がバラバラになる。
《 本番当日の流れ 》
本番とは生徒視点でのセッテン!!の授業相当時間になるが、当日の流れとしてはその前後に社会人の最後の打ち合わせとクロージングが含まれる。
【 最終打ち合わせ 】
当日、社会人は所定の時刻までに人生グラフなどの資料を持参して会場へ集まる。事前に申し込みしている社会人のみ入場していることを確認するため、受付でチェックを済ませてセッテン!!で使用する追加のアイテムを受け取る。セッテン!!を通じて自分を呼んで欲しい名称(実名でなくてもペンネームで構わない)を書く名札、最後に生徒に渡すメッセージを書く紙片などである。

それから番号札を受け取り、会場に複数設置されている指定されたポジション(アルファベットなど)へ移動する。このポジションは社会人をグループ分けするためのもので、番号札は生徒とのグループを作るときに使われる。授業風景は撮影され資料に使われるので、撮影の承諾書を任意で提出する。

社会人が全員入場したところで、最終打ち合わせが始まる。
進行役が一人選出され、社会人にセッテン!!という活動の目的と本番の流れが説明される。


事前の説明会は参加者の都合を考慮して複数回行われるので、会場で初めて顔を合わせる社会人が多い。最初のポジションで顔を合わせたメンバー内で人生グラフを用いて自己紹介を行う。このトークは本番で生徒を前に話すときの予行演習にもなっている。

人生紙芝居の演者が前に出てメンバーを前に演習し、最後に全員が輪になってキックオフを行う。
【 本番 】
開始時間までに生徒は会場入口に待機しており、本番開始と共に入場する。社会人は横に並んで生徒を拍手で迎える。生徒はグループ番号を記入した紙が渡されており、この番号を元に社会人一人と複数人の生徒によるグループが出来上がる。

最初に社会人が自己紹介し、生徒を前に人生グラフを提示して説明を行う。その後適宜順番を決めて生徒一人だけがグループに残り、他の生徒は上演されている人生紙芝居を聞きに行く。この時間に社会人と生徒の一対一の対談が行われる。生徒は自分の人生グラフを提示し、今までの時系列を話せる範囲で説明する。高校生ともなれば幼少期の記憶は殆ど消失しているので、小学生時代から中学校時代と今の浮き沈みをグラフ化する生徒が多い。

人生紙芝居と一対一の対談は概ね10〜15分である。終了後生徒がグループに戻って対談する生徒が交替する。これを1グループに含まれる生徒の最大人数だけ繰り返す。生徒が全員戻ってきた後、社会人と各生徒は相手に渡すメッセージを紙片に記入する。以上で終了となり、生徒たちが退出するとき社会人は入場時と同様に見送る。
【 クロージング 】
社会人は最初のポジションへ移動する。今日一日の感想を語り合い、最後にステージへ上がって社会人全員で記念撮影を行う。この画像は本番時にカメラマンが採取した画像と共に共有される。共有画像はクラウドにアップロードされ、参加した社会人のみにアクセス方法が通知される。名札や人生グラフなどは各自が持ち帰る。
《 評価 》
セッテン!!を香川高校のような私立校に限定せず、公立高校にも導入することを推奨する。他の主要教科では代替できない重要な部分があり、昭和平成期の古い価値観ならまだしも、これからの社会を生きる人材として必要である。

この取り組みが教育的に有用な点が2つある。一つは社会人と高校生に共通する部分として今まで歩んできた人生を立ち止まって振り返る機会を設けることである。情報化が進み些か情報過多な社会に生きる現代人は、およそ立ち止まって考える機会を自然に奪われている。殊に多忙な社会人なら朝起きて出社して業務をこなし、帰宅して食餌して寝る…の反復で精一杯という人が少なくない。

高校生にあっては、小学校時代から中学校、高校受験を経て現在に至っている。この間に共通して現れる悩みの局面が高校受験と大まかな進路選択である。在学している今の時間軸では高校受験は過去のものだが、数年先にかならず自然と求められてくる進路選択で悩まない生徒はいない。社会人は立ち止まって考えずとも、ややもすれば漫然と今までの生活を続けることで暮らしは成り立っていく。高校生はそうではない点で、ひとたび立ち止まって時系列を振り返ることは、先行きが見えづらい状況にヒントを与えてくれるかも知れない。

もう一つは高校生にとってまったく見ず知らずな社会人と接点を持ち、異なる視点からの情報を受け取る機会が設けられることである。社会人は日々家と会社の往復が常態化されがちなのに対し、高校生は家と学校の往復である。自分の考えていることに意見したり同調や反対、是正を唱える存在は家族、先生、そして友達である。これは家と会社を往復する社会人よりは多彩と言えるが、先生にしても家族にしても同じ人からは同じ意見しか生じ得ない。生徒自身が本を読むとかネット上の記事を読み解くなど能動的にならなければ、新たな情報が考え方に影響を与える機会がない。

セッテン!!ではどの社会人がどんな高校生に接し、情報交換するかはまったくランダムである。人間誰しも相性があり、高校生の目からもそうは思わないという考え方を唱える社会人に接してしまう確率はゼロではない。ただし参加する社会人は事前の説明会で早急に意見や結論を求めず、傾聴し共に考える時間を持つように勧告されているので、高校生よりは永らく人生を歩んでいる分だけ配慮した言動をしていると考えられる。殆ど「何もしないよりも実施したことで得られたメリットは相当に大きい」と言えるだろう。

現代社会は家族や友達などある時点で接点を持ち、その後も時系列を共有させ続けている関係にある人以外、特段の理由もなく関わり合うことが忌避される傾向にある。(→知らない人と安易に関わってはいけない)このことでトラブルを回避できている半面、今までの生活を続けているだけでは得られない新たな視点を受けづらくなっている。この状況は生活が巧く行っている状況では問題ないが、進学や就職などの人生の主要なイベントが近づくと、新たな意見を受けづらくなることに起因する悩みが深まる要素となり得る。

このようなとき異なる視点をもつまったくの赤の他人が接点を持ち、客観的な情報から現在置かれている状況を判断していくつかのヒントを提示できれば、その中に現状を打破できる考えに到達できるかも知れない。個人的にも過去に永らく続けてきた巡回家庭教師は、その一つの答えである。何故なら生徒に対して決まり切った考えを持ってしまいがちな保護者や先生と異なる視点で見ることができるからである。平たく言えば「多くの子どもたち(生徒)を多くの大人たちが育てる」環境が遠い未来に見えている。
2024年度に実施したセッテン!!について。
時系列記事: セッテン!!【2024年度】
2022年度に実施したセッテン!!。初めての実施。
時系列記事: セッテン!!【2022年度】
6枚を繋げた紙を裏返すなど演出が煩雑に見えるが、実施当時はまだ covid19 の脅威がありソーシャル・ディスタンスを保つための演出である。
参加者は繋げた紙の外側より近づかずに話すよう勧告されていた
出典および編集追記:

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