隧道あるはずでしょう

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記事作成日:2022/5/24
最終編集日:2022/8/26
情報この記事は記述内容が多くなってきたので各項目毎の分割再構成を予定しています。

隧道あるはずでしょうとは、山口ケーブルビジョン「にんげんのGO!」で放映された単発企画である。
写真はオープニングで表示された隧道あるはずでしょうのテーマとなるロゴ。
番組放映シーンの接写画像や現地ロケで採取した画像の掲載について承諾を頂いている


このロゴはインサートやスポンサー紹介など一部のシーンを除いて、番組中では画面左上に表示されていた。
《 概要 》
隧道あるはずでしょうは、企画名から想像されるように隧道どうでしょうからスピンオフした単発企画である。この企画が生まれた背景には、おそらく隧道どうでしょうのシーズンIIIで山口線の浅地川橋りょうが紹介されたことに遠因があった。

浅地川橋りょうは山口線が浅地川と里道をオーバークロスするために造られた構造体で、里道目線で見れば断面が卵形の隧道を思わせるため、隧道どうでしょうの物件対象となった。
写真はロケ時に初めて浅地川橋りょうを見たときの撮影。


後に地理院地図で調べたところ、浅地川橋りょうから山口線の最大の難所である田代トンネルまでの間に沢地を横切る場所がいくつかあることが指摘された。そこにも同種の構造物があるかも知れないという興味が生じ、これを裏付ける客観資料が津和野線線路圖である。
(出典:山口市立図書館蔵資料


松田ディレクターが山口市立図書館で見つけたこの資料には、沿線にあるすべての踏切や橋りょう、隧道名の諸元が細かく記載されている。資料では浅地川橋りょうは淺地川拱橋(きょうきょう)と記載されていた。そして田代隧道までの間に確かに4つの同様の拱橋があることが判明した。

地図でも分かるように、山口線の仁保篠目間は周辺に道路が取り付かない嶮岨な山あいを縫って高度を上げている。そこへの到達が難航することはまったく明白であった。


津和野線線路圖に示されているように、浅地川橋りょうのような4つの構造物が存在するのか、あるとして実地に到達して検証可能かという興味が持たれた。そこで番組として成立しないリスクを承知で、現地踏査を行う企画が立てられた。
【 出演者 】
レギュラーメンバーはハッセーのみで、タレントが誰も出演しないことが番組冒頭で謳われている。現地案内役を岡藤氏が務め、鉄道関連に造詣の深い山口氏、そして隧道マニアの宇部マニアックスという男ばかり4人が探険する。
この4人は「にんげんのGO!」において”1.5軍オールスターズ”という位置づけで紹介されている。


4人にマイクと携帯型録音機が装着され、現地の映像は動画部分が岡藤氏と松田ディレクターが採取している。現地での会話などはすべて編成時にここから採取されている。したがって実働メンバー5人というロケとしては異例のコンパクトな構成である。

通常のロケではまずロケハンを行い、番組として成立するかを判断した上で行われる。隧道あるはずでしょうでは先述の客観資料以外データがなく、現地の到達経路などの情報を持ち合わせるメンバーは誰も居なかった。まったく行き当たりばったりの収録で、現地に臨んだものの到達不可能だったり番組を構成可能な映像が採取できないリスクがあったため、最少メンバーで実施されたのである。
《 放映内容 》
実際に隧道あるはずでしょうとして放映されたことから明らかなように、客観資料に記載されている構造物は確かに存在した。それらは新鮮な知見をもたらし、下調べなしで現地踏査されただけに大きなドラマがあった。以下では出演者の一人として時系列と放映内容をあわせて記述する。
【 踏査時の流れ 】
山口線の仁保駅が出発点である。駅のホームで出演者4人が登場する。宇部マニさんはロゴの印刷されたボードを持って隧道あるはずでしょうと唱える。その後インサートで隧道どうでしょうで訪れた浅地川橋りょうが示され、その周辺に類似する構造物があるらしいことが客観資料で提示される。
本当にあるかどうか、あっても到達して視聴者に分かる形での映像が採取できる保証がないためレギュラータレントを含めず”にんげんのGO!1.5軍メンバー”4人で現地に臨むという説明がされる。


現地に赴くための資料として、津和野線線路圖を元に松田ディレクターが作成した手描きマップが提示される。これを元に浅地川橋りょうに近い側から探索を開始した。途中で道から外れて尾根を一つ越えて反対側の沢地に出てきてしまうが、その先で最初の構造物を発見した。客観資料に記載された山根拱橋と推測した。

ところが一旦拠点へ戻ったところ、地図と合致しない点がいくつか見つかった。たまたま近くに民家があり、ダメ元で尋ねてみようということで私と松田ディレクターで訪問している。この聞き取りで、発見したのは山根拱橋ではなく2番目の二反田拱橋であることが判明した。このとき「それは2番目の拱橋じゃ!」と指摘されるテロップ付きの画像は、私の撮影である。

放映では流れないが、飛ばしてしまった1番目の山根拱橋へ向かう前に車を停めた拠点で昼食休憩している。この昼食もコストを抑えるために出演メンバーが各自で調達したパンや飲み物で、草むらへ地べたに座って食べている。

教えられた通りの道を辿ることで、本来最初に見つけるべき山根拱橋を発見した。構造は最初に見つけた二反田橋拱と類似していた。ハッセーはこの拱橋の通路部に放置された鉄道資材を見つけている。


3つ目の大引越橋拱はやや離れた場所に存在が予測され、車で移動している。林道を行き止まりまで走った先にあって発見は容易だった。この橋拱は今まで見つけた中で一番長くかなりの急勾配だった。隧道の笠石に相当する上部のコンクリート構造が斜めになっていた。この理由は拱橋が山口線のカーブに造られていて、地山の傾斜の非対称性に依るものではないかと山口氏が推測している。

4つ目にあると思われる場所は、山口線のSL撮影でよく知られているスポットに近かった。しかし撮影スポットとして整備されている場所には構造物がなく、今まで見つけてきた場所の共通点から沢地の上流部にあることが推測された。そこで車で進攻したところ予期しないハプニングに見舞われる。(このときの詳細は番組内では放映されていない)

その後、幸いにもその構造物を知っているという地元在住者に接触することができた。分かりにくい場所にあるということで、先頭を歩いて案内して頂くこととなった。沢地に架かる橋を渡ってからは、山越えの里道を外れて山の斜面に入った。足掛かりの悪い礫石が多く、藪漕ぎは慣れている宇部マニさんも何度も足を取られるシーンがある。松田ディレクターも不安定な斜面で体勢を整えながら手持ちの機材で撮影しているため、映像は暗く画面も酷くぶれている。この荒削りな映像がかえって現地へ向かう困難さを如実に提示した。

案内人のすぐ後ろを歩いていた宇部マニさんは、一目それを見るや「今までのと違う!」と叫んでいる。


その構造物は3箇所再発見された拱橋とはまったく異なり、人の往来を想定されておらず沢地の水のみを排除する暗渠だった。暗渠は加工された間知石とレンガ巻き立ての非常に精密な造りで、相当なコストを投じて建設されたことが窺い知れた。
写真は後述する再放送向けに現地を再訪し暗渠内部から下流側を撮影した画像。
一連の構造物群はいずれ総括記事を作成する予定


この構造物が隧道あるはずでしょうで最後に再発見されたことは、本企画の価値を著しく高めた。岡藤氏が隧道あるはずでしょうとして再発見された構造物群に対してコメントする。宇部マニさんは興奮冷めやらず、最後に再発見されたこの構造物に対して目に見えない部分にもの凄いコストを掛けて安全な鉄道輸送環境を構築するという当時の建設思想を解説している。


これを受けて山口市在住で鉄道をこよなく愛するハッセーも山口線を大事にしなければならないと評論する。最後に山口線をSLが走る様子をドローン撮影した山口氏による映像と解説により終了する。
《 放映後の影響 》
隧道あるはずでしょうが放映された後の一般的な視聴者の反応はよく分からない。しかしある視聴者から非常に丁寧で長文に至る感想が2020年11月下旬のこと山口ケーブルビジョン宛てに送られている。ここにその全てを書くことはできないが、別企画で大変な評判を生んでいる「アーケードヒストリー」と共に日常の中へ埋もれていく郷土資産や生活体験を再度掘り起こし、編成して伝えていくという姿勢が評価されていた。隧道あるはずでしょうに関しては、最後の構造物が再発見されたときの驚きと、そのときの出演者の重みある解説が絶妙に噛み合った点に高い価値を感じると言及されていた。

この作品のコンセプトがその後どういった経緯で人々に伝播されていったかは知る由もない。放映は1〜2週なので翌週には次の企画に差し替えられ、私の知る限りでは特段の大きな動きは感じられなかった。しかしそれは私自身が観測できなかっただけで、作品を評価している人々の存在が間違いないことは、後の出来事によって顕在化したのだった。
【 番組アワード受賞と再放送 】
隧道あるはずでしょうは2022年5月10日、日本ケーブルテレビ連盟中国支部 第12回番組アワードにおいて、地域を見つめ時代を描写する作品として高く評価され、レギュラー番組部門で NHK広島拠点 放送局長賞(実質的に1位)を獲得した。

同月24日に下関市で第36回日本ケーブルテレビ連盟中国支部主催の番組アワード表彰式が開催された。この様子はNHK情報維新やまぐちで放映され、この中で優秀作品として選ばれた隧道あるはずでしょうが紹介された。

表彰式の後でNHKの取材に対して松田ディレクターは「あまり他のテレビ局が目をつけないところに着目できるように、いろんなところにアンテナを張ってやっていきたいと思っている」と述べている。

この快挙を受けて、隧道あるはずでしょうはケーブルテレビ中国地方エリアまで拡大する形で再放送が予定されている。これに先だって再放送向けのインサートや状況説明に必要なトーク部分の採取が19日に行われた。
写真は仁保駅での収録の様子。


再放送を前編・後編に分けて放映することを想定して、その前後に流れるお知らせや視聴者プレゼント情報がまとめて収録された。前編は5月30日から、後編は6月6日より一週間放映された。
この放送回を記念して、滝カードに倣って隧道あるはずでしょうで訪れた4つの橋拱および橋梁をカード化し、津和野線路圖を台紙にセットにした視聴者向けプレゼントが制作された。


この再放送によって隧道あるはずでしょうは視聴者の方々に焼き付けられ、NHK情報維新やまぐちから地方局でも同じニュースが放送された。7月13日配信のサンデー山口の「聞かせて」コラムに松田ディレクターが紹介されている。
外部記事: サンデー山口|【聞かせて】No.769「松田大輔さん・『番組アワード』で第1位 山口ケーブルディレクター」
記事の中で7月14,15日に山口ケーブルビジョンで再放送されることも書かれている。

8月中旬に山口市小郡KDDIホールで開催された鉄道フェスタでは、隧道あるはずでしょうがイベント会場の一室で再放送された。
《 最近の情報 》
現在のところ隧道あるはずでしょうは山口ケーブルビジョンの契約視聴者しか見られない。隧道あるはずでしょうの一出演者として、この企画が制作された背景や番組で伝えられなかった部分を再現したいという気持ちがあった。

外出が危険なほどの暑さが続く8月の間、映像にはまったく肉薄できないが時系列記事として番組に近い流れを再現した 隧道あるはずでしょう物語 を書き上げた。
写真は印刷完了し手許に届いた小冊子。


小冊子はA4版50ページ(表紙4P + 本文46P)で、全ページオールカラーである。初回印刷部数は120部で、このうち100部に隧道あるはずでしょうが収録されたDVDが添付する。このDVD制作は山口ケーブルビジョンによる厚意で提供されている。宇部マニアックスとしては初めての出版物であり、大元となったドキュメントから個別 PDF に分割するなど一部の作業を手伝って頂いた以外、執筆から写真のレイアウト、販売価格や手法まですべてを自分で決定した。

販売価格は税込み1,000円であり、基本的に宇部マニアックスと繋がりがある方との対面販売で実施している。遠隔地の場合、配送料を負担頂ければ対応可能である。(1冊の場合郵便局のゆうメールで215円かかる)初版の120部を売り切った後はまとまった需要が発生しない限り増刷はしない。初版は数量が限定されているため書店にも卸さない。詳細は隧道あるはずでしょう物語の総括記事を参照されたい。
ホームページトップに掲載していたお知らせ履歴。
「隧道あるはずでしょう」がNHK広島拠点放送局長賞を受賞しました!
出典および編集追記:

1.「FBタイムライン|「隧道あるはずでしょう」がNHK広島拠点放送局長賞を受賞しました

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