写真は初めて隧道どうでしょうのロゴが表示された瞬間を撮ったテレビ画面接写。パネルを提示しているのは藤田さんである。
このロゴはインサートやスポンサー紹介など一部のシーンを除いて、番組中では画面左上に表示される。黒丸に赤で独特な字体で描かれたデザインの出所はまだ調べられていない。
《 概要 》
県内にあるトンネル(隧道)を実地に訪問し、外観や構造体を愛でると共に成り立ちなどを紹介する不定期シリーズである。企画名が何を擬えたものかは想像つく人が多いだろう。発案・命名は松田ディレクターである。関係者の間では短縮して隧どうと表記する場合もある。県内にトンネル自体は無数にあるので、その中から成立時期が古かったり話題性に富むなど番組として成り立つものが選定される。初期に県内の著名なトンネルが紹介され、これを受けて類似する物件をリサーチしたり視聴者から寄せられた情報を元にロケハンを行って3箇所ずつ紹介される。
トンネルと言えば人や車が往来可能な構造物を指すが、類似した構造体であっても構わない。灌漑用水などを通すものは一般には暗渠と呼ばれ、管理者の許可を得て潜入が可能になれば隧道どうでしょうの物件対象となる。鉄道と道路などの立体交差で断面部分がトンネルのようなアーチ構造をしているものは橋りょう(橋拱)の部類に入るが、これも隧道として扱われる。
ロケでは一度に3箇所の物件が選定され、車で移動しながら一日かけて収録される。この収録単位は慣行的にシーズンと呼ばれる。ロケで採取された音声と映像情報は、編成部で番組として使う部分を抽出し、更に裏付け資料が添付される。1シーズンは前半・後半の2度に分けて放映されている。
【 出演者 】
隧道どうでしょうの出演者は、レギュラーメンバーのハッセーとどさけんに隧道マニアこと宇部マニアックスが加わる。現地までの案内役と訪問先の隧道の概略を真実ちゃんが説明する。[1] 隧道が私有地にあったり水利組合の所管となっている場合は、担当者も現地同行して解説する場合もある。《 一般的な放映の流れ 》
以下は現在まで放映された内容に概ね共通する流れである。映像はスタート地点に出演者が集結しているシーンから始まる。どさけんが「吉本興業の山口県住みます芸人、どさけんです。そして…」と唱え、カメラがハッセーをフォーカスして「何にでも興味がある長谷川一夫です」のように続ける。この撮影場所は現在のところ新山口駅前がもっとも多い。
次にどさけんが今日のロケは何処に行くのかを案内人の真実ちゃんに尋ねる。初回放映時では行き先はもちろん隧道へ行くということも知らされていなかった。真実ちゃんが県内のあるトンネルに行くことを伝え、トンネルと言えばこの人ですと宇部マニアックスが紹介される。
宇部マニアックスとは誰ぞやと視聴者が感じることを考慮して、シーズンIIあたりまではどんな人物で何をやっているのかをダイジェストで紹介する映像が流れていた。この中で宇部とトンネル好きであることが紹介されている。
この人物紹介ダイジェストは、大人の社会見学など宇部マニさんが出演する他の企画でも流れていた。多くがホームページやコラムなどのキャプチャ画像のインサートだが、自転車に乗っているシーンのように別の日に映像採取されたものも含まれる。(→映像デビューの地)
【 行き先の決定 】
次に真実ちゃんが最初の訪問地が含まれる6箇所の行き先が書かれたボードを提示し、何処へ行くかはサイコロの出た目で決めると説明して行き先を読み上げる。写真はシーズンIVでボードを持って説明する真実ちゃん。
この目的地の決め方は”本家”となる番組の手法に倣っている。
初期には常に一番下(即ち6の目)に本命の行き先が書かれていた。上記の例では四郎谷地区にある隧道を訪れることとなっていたので、それ以外の一郎谷や二郎谷は存在しないダミーの地名である。しかし無作為に振られたサイコロはきっちりと4の目が出る。
何度もサイコロを振って本命の目が出たシーンのみを放映しているのではなく、サイコロ自体はきちんと1から6までの目が刻まれている。それでも本当に(100%ではないが)高い確率で本命の目が出る。不審に思って宇部マニさんがサイコロを振り直し、やはり同じ目が出るというシーンもあった。
行き先が分かっていたシーズンIIまでは、宇部マニさんが現地にどんなものがあるかを概略説明していた。後に行き先の概略が伏せられるようになってからは、今日も一日張り切って行きましょう!と出演者が声を合わせてスタートするスタイルとなった。
【 ロケ中の状況 】
訪問地までの移動中の映像が流れ、現地に着いてからは真実ちゃんが概略を説明して先頭を歩く。最初に物件に接するリアクションが重要なので、松田ディレクターと冨永さんの2人が別角度で出演者を撮影しながら随伴する。現地に到着したとき、出演者はありのままの印象をそれぞれ語る。宇部マニアックスは当該物件を見た限りでの外観を説明し、出演者からの質問にも随時回答する。導水用の暗渠などに潜入するときは、ヘルメットに長靴装備となる。
隧道マニアなので、出演者の誰もが突入に辟易している中でも率先して突撃する。
宇部マニさんは常に帽子を被っているが、ヘルメットを装着するときは帽子を脱がずわざわざその上から被る(ダブルヘルメット)のがお約束である。これは「大人の社会見学」で平瀬ダムを訪れたとき帽子を脱ぎたくなくて無意識にやった動作が面白がられて定着した。
前述のようにシーズンIIまでは行き先が分かっていたため、地理院地図などで場所を調べてある程度予備知識を蓄えてロケに臨むことができた。シーズンIIIからは大体の場所だけが知らされて出演者の誰もが詳細を知らないままに訪れるスタイルとなった。これは予定調和的でない番組制作の方針に馴染むものである。このため初めて訪れた物件を観察し、予備知識なしにその場で見どころや特徴を即座にコメントする必要に迫られ難易度が高くなった。
一通り隧道を愛でた後、真実ちゃんがどさけんに向かって「それではどさけんさん…この××トンネルですが、隧道どうでしょうか?」と感想を求める。秀逸な物件なら概ね肯定的な評価となるが、ヘルメット装備で暗渠への潜入を求められ苦難に遭った場合は「どうもこうもないよっ!」とぼやき節が聞かれることが多い。
更にハッセーがどさけんの評論に被せる形で、訪問地や物件の名称をヒントに駄洒落を放つのがお約束である。好調なときは現地へ向かうまでの道中でも出演者との会話で連発される。番組でも相当な頻度で駄洒落が披露されているが、実際のロケではその倍以上連発されていると考えて良い(と思う)。
一ヶ所目の収録が済んだ後、真実ちゃんが初回と同じようにボードで提示し、概ねその場で再びサイコロを振る。宇部マニさんが振ることもある。シーズンIIで市内の柿ノ木原暗渠を訪れたときは、現地でサイコロを振るのを忘れたためすぐ近くの野山へ立ち寄って親父がサイコロを振っている。
各訪問地では、一通りの収録が終わってから冨永さんが番組で使うインサート用の映像を採取する。関係者が随伴しない場合、どさけんとハッセーは概ね休憩しているが、宇部マニさんは滅多に来ることができない市外物件の場合記録せず帰るような勿体ないことをする筈もなく、邪魔にならない場所で写真を撮りまくっている。後に制作された隧道カードでは、このとき宇部マニアックスが撮影した画像が使われている。
前編では概ね2つ目の隧道へ到達する前までが放映され、番組終了前にダイジェストの形で流れることが多い。
《 放映された物件 》
最終編集日時点までに訪問された物件のリストを記す。なお、放映開始年月日が分からなくなり現在調査中のものは空欄にしている。シーズン | ロケ年月日 | 訪問物件 | 放映開始年月日 |
---|---|---|---|
I | 2019/4/16 | 鹿背隧道・榎谷洞道・佛坂隧道 | 2019/6/14 |
II | 2019/9/24 | 佐波川ダム・譲羽隧道・柿ノ木原暗渠・椎の木峠隧道 | --- |
III | 2020/7/21 | 瀬戸浜隧道・浅地川橋りょう・昭和隧道 | --- |
IV | 2021/6/8 | 四郎谷隧道群・鷺尾隧道・潮音洞(漢陽寺) | --- |
【 保留状態にある物件 】
視聴者などから寄せられた情報を元にロケハンが行われる。松田ディレクター独自に行ったものや宇部マニアックスが情報提供して現地案内したものもある。特殊な事例として、下関市内で開催された上映イベントを観に行く折に松田ディレクター、ハッセー、私の3人で埴生駅の東側にある物件を視察している。ロケハンの対象となった物件が実際に放映されるかどうかは、ストーリー性に依存する。最終編集日時点では次作となるシーズンVのロケ予定日も物件も明らかではないが、有力な候補と思われる物件は写真でいくつか提示されている。私も現地撮影したことがある物件もあれば、写真を見ても何処にあるのか見当も付かない物件もある。
ロケハンを行ったものの放映されていない物件がいくつか存在する。それらは完全にお蔵入りとなったわけではなく、今後の構成によっては現地ロケが実現する可能性は残されている。著名なトンネルが少ない本州の最西端県であり、話題性・特筆性ある隧道は更に少ないが、読者からの情報提供や地図などの客観資料などを頼りに、まだ掘り起こされていない隧道の探索が地道に進められている。
《 隧道どうでしょうの誕生の背景 》
「にんげんのGO!」で県内の隧道を特集する企画が誕生した背景には「風景印その先へ…」で、吉部地区の風景印提案候補題材として案内された船木鉄道の大棚トンネルの影響が大きい。廃線となり既に半世紀以上が経過した船木鉄道において、ほぼ完全な形で遺されている大棚トンネルは高く評価された。相当な題材を紹介しなければ満足しないどさけんも大棚トンネルは手放しで秀逸とコメントしていた。「にんげんのGO!」公式ブログにも”隧道をゆく”という特集で隧道の写真が紹介されている。
(隧道に関してはすべての写真を宇部マニアックスが提供している)
今となっては記憶も薄いが、「風景印その先へ…」や「大人の社会見学」といった不定期題材がいくつか放映された後に大棚トンネルのような秀逸な題材が他にないか探索されていたかも知れない。紹介するに値するトンネルとして、私はすぐに佛坂隧道を思い付いた。そこは市内とは言えかなり遠く、しかも初回訪問時には隧道の坑口へ接近することすらままならなかった。そこで坑口の写真だけでも採取しようと現地に向かっている。
そして以前から運営していた宇部マニアックスのFBページで佛坂隧道の美祢市宗国側坑口の写真を掲載した。潜入することはできなかったが、以前は堀割に積み上げられていた木材が片付けられ坑口が明瞭に分かる状態になっていた。
(該当するFBページの投稿は今となっては何処に埋もれているか分からない)
佛坂隧道は一部の好事家によってはよく知られた物件で、外観の偉容だけでなく歴史的にもきわめて重要な隧道である。内部に水が溜まっていて潜入できず入口で撮影したのみだが、こんな驚くべき物件が市内にあるのかとかなりの反響を呼んだ。掲載後ほどなくして松田ディレクターから直に連絡があった。
2019年3月の撮影から約2週間後に現地の下見が行われた。写真でも分かるように宗国側入口はかなりの水が溜まっており、排水しなければ足を濡らさず中へ入ることができない状態だった。長靴にスコップなどを持参してかなりの時間を費やして排水作業が行われたものの一向に水位が下がらず、一時は候補地として断念されかけた。このとき私はある秘策を思い付き、足を濡らさずに水が深く溜まっている場所を突破する手立てを施した。このときの経緯は、後にエッセイ(有償記事)で配信されている。
下見が成功した翌月の中旬に、隧道どうでしょうのシーズンIのロケ地として選定された。このときは出演者が足を濡らさず安全に進行できるように対策を講じ、なおかつ(里道なので誰でも通行可能なのだが)内部へ潜入し撮影する行為に関して関係者の承諾を得て行われた。収録後、宗国地区在住者からの聞き取り情報や客観資料を交えて他の2箇所の隧道と共に放映されている。
佛坂隧道が選定されなかったとしても隧道どうでしょうが編成されていたことは疑いない。それでも小野地区の郷土書籍でしか知ることができなかった物件が映像と共にテレビ放映されたことの意義は大きい。このことは宇部マニアックスとしても市内および近隣地域で他の興味深い隧道題材を発掘する出発点になった。
《 派生した企画 》
重要な派生企画の元となった題材として、シーズンIIIで紹介された山口線仁保にある浅地川橋りょうが挙げられる。これは通常の山岳工法として掘られたトンネルではなく、浅地川を跨いで山口線を建設するために川を覆う上部構造を造って人馬の往来も可能にした構造物である。写真はロケ時での撮影。
このように上部がアーチ状となった構造体は拱橋(きょうきょう)と呼ばれる。しかし往来者目線では楕円形の上部が目につくためトンネルを想像させる。道路と河川が並列的に鉄道の下をくぐる構造物は知られていた[2]が、上下二段構造となっている例は初めてで、現地ロケでも詳しく解説した。そして同様の構造物が他の場所にも存在する可能性を示唆した。
後に松田ディレクターによって山口線の建設時期に作成された津和野線路圖が紹介された。この資料には沿線にあるすべての踏切や橋りょう、隧道名が克明に記録されていた。そこで浅地川橋りょうのような構造物が他にどれほど存在するのか、実地に到達して検証可能かという興味が持たれた。この背景からスピンオフ企画である隧道あるはずでしょうが編成された。
隧道あるはずでしょうは2022年5月10日、日本ケーブルテレビ連盟中国支部 第12回番組アワードにおいて、地域を見つめ時代を描写する作品として高く評価され、レギュラー番組部門で NHK広島拠点 放送局長賞(実質的に1位)を獲得した。[3]
この快挙を受けて、隧道あるはずでしょうは仁保駅での再収録を追加する形でケーブルテレビ中国地方エリアまで拡大する形で再放送された。更にまだ一連の出来事が鮮明である間に、山口ケーブルビジョン視聴者以外にも知って頂きたい気持ちから、宇部マニアックスが出演者目線で企画化からロケ、表彰までの流れを写真付きで記録した隧道あるはずでしょう物語を出版している。
《 近年の話題 》
2022年10月に絶景!滝見物落差1000シリーズが終了し、にんげんのGO!は次の柱となる企画が立ち上がるまで充電中であることがアナウンスされた。それまでに過去の隧道どうでしょうの再放送が行われることとなった。【 2022年の再放送 】
再放送は過去の放映分に若干の注記(放映当時から期間が経って現地や状況が変化している可能性があること)がテロップに追加され、再放送分を挟む形でハッセーと宇部マニアックスが所定の台詞を唱えるスタイルとなっている。写真は実際の放映場面。
この台詞はそれほど長いものではなかったが、実際の収録では(隧道あるはずでしょうの再放送向けに仁保駅で枠撮りを行ったときと同様に)両者とも噛みまくって数回の撮り直しを行っている。最終的にほぼ満足なものが収録されていながら、実際の放送ではNG連発部分だけが流れるコミカルな演出となっている。
再放送後に二人が収録場所の隧道(正確には拱橋)を歩きながら放映回の感想を話しながら歩くシーンがある。このときは脚本無しのフリーで話していて、その会話はまったく淀みなくスムーズに出来ている。
その最後に隧道あるはずでしょう物語を紹介するシーンが収録されている。
隧道内を歩くのにダブルヘルメットはお約束として、眼鏡を外して写っている。表情も意識して写っているのは、鏡で自分がどのような表情で見えているか調べた上での成果である。これはテレビ放映されたときの印象を考慮する初期の取り組みになるかも知れない。[4]
【 隧道カード 】
隧道どうでしょうの再放送を契機に、滝カードを踏襲して隧道カードが制作され始めている。この総括記事の最終編集日時点でシーズンIの鹿背隧道と榎谷洞道は頒布が開始されている。入手方法は滝カードと同様で、直接山口ケーブルビジョン編成部を訪ねるか郵送での応募となっている。
《 関連記事リンク 》
出典および編集追記:
1. シーズンIのみ藤田さんが現地案内役を務めている。
2. 後にそのような例がいくつか存在することが判明している。船木鉄道の旧吉部駅付近には恐らく市内で唯一現存するコンクリート拱橋(名称不明)が知られている。
3.「FBタイムライン|「隧道あるはずでしょう」がNHK広島拠点放送局長賞を受賞しました」
4.「FBタイムライン|鏡を見ながら表情を作る練習を…」
1. シーズンIのみ藤田さんが現地案内役を務めている。
2. 後にそのような例がいくつか存在することが判明している。船木鉄道の旧吉部駅付近には恐らく市内で唯一現存するコンクリート拱橋(名称不明)が知られている。
3.「FBタイムライン|「隧道あるはずでしょう」がNHK広島拠点放送局長賞を受賞しました」
4.「FBタイムライン|鏡を見ながら表情を作る練習を…」