低水位踏査

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記事作成日:2018/9/30
最終編集日:2018/10/5
当サイトにおいて低水位踏査(Low Water Level Survey)とは、溜め池などの水位が極端に下がった時期を見計らって行う調査を指す。低水位調査とも呼ばれる。
写真は水位が極端に低下した小野湖。下小野地区にて撮影。


後述するように観察するタイミングによって可視化される対象物がダイナミックに変わるため、特定の時期を要するいわゆる瞬ネタ(旬ネタ)に分類される。
《 観察の対象 》
標準状態では水で隠されているものが対象なので、カテゴリとしては溜め池、ダム湖、河川が該当する。海は定期的な潮の干満があるため低水位踏査の対象とはならないが、特定の場所においてこの手法を援用し干潮時に踏査を行うことはある。

河川は低水位踏査の対象ではあるものの、観察に値する広大な河川が少ないこと、低水位で現れる遺構のある場所は概ね河口近くで海水の干満の影響を受けること、ダムにより常時河川維持量の放流が行われ干上がることがないため実施されることは殆どない。したがって対象は主にダム湖と人造湖(溜め池)である。

低水位踏査は当サイトの用語として定義づけただけで、同種の観察は遙か昔から行われていた。よく話題になるのが日照り続きでダムの貯水率が極端に下がったとき、昔の集落跡や古いコンクリート建造物などが泥を被った状態で湖上に現れる事例である。その光景はしばしば深刻な渇水ぶりをアピールする映像としてメディアに援用されるが、廃墟や遺構探索と相通じる要素があり、それらを手掛ける有志によって探索されてきた。
《 低水位踏査の意義 》
基本的にはすべて「覆われている水がなくなること」に起因するのであるが、単純に既知の物件を調べることを含めて以下のようなメリットがある。
(1) 水位の低下によって水中に隠れていた人工物などの観察が可能になる。
(2) 広範囲な水の排除によって元あった地形と地質の分析が可能となる。
(3) 陸地歩行に準ずる装備で到達可能範囲が拡がる。
(4) 不法投棄物や護岸の脆弱部分の発見などの情報提供が可能となる。
低水位踏査それ自体はこのドキュメントを制作するはるか以前から既にその名称で実行されていた。ただし初期は個人的な興味を満たすためだけのややもすれば悪趣味の領域と自覚されていた。現在では後述するように、低水位というタイミングを選んだ調査は他の対象物においても適宜援用されるだけのメリットがあると考えている。
【 人工物の観察 】
水位が低下することで観察地点を変えることなく、今まで見えていなかったものが現れることがある。
写真は小野湖北側の渡瀬地区にかつて架かっていた旧渡瀬橋の橋脚。


同じく現在の渡瀬橋より満水位時に撮った写真である。


特に小野湖の場合、厚東川ダム建設によって水没した集落が多いため水位が下がることによって当時の石積みや道路の痕跡がしばしば観察される。上の写真のようにその多くは極端に水位即ち貯水率が低下したときのみ観測され、満水位近くでは湖水に覆い隠されてしまう。他方、水位が高ければ水で隠される面積が広がるため景観的には秀麗となる。したがって一般的にはダム湖や溜め池の写真を撮るタイミングとして「景観面優先なら満水位、遺構調査優先なら低水位」であると言える。

既に存在しているものでも水位が下がることによってそれまで知られていなかった下部構造が分かることがある。常盤公園の噴水池に架かっている現在の眺橋を低水位時に観察することで、前代の低いコンクリート橋の上に被せるように施工されていたことが判明した。
ただし2018年の補修工事により橋の側面部分が塞がれ水位に関係なく観察できなくなっている
【 地形と地質の分析 】
水位が下がると低い位置に水や泥が溜まり、相対的に高い部分は早く干上がる。そのことで湛水前に尾根や沢が概ねどの方向へ伸びていたかの推察が可能となる。ただし低い部分には大抵上流から運ばれてきた土砂が溜まるため、かつての沢部分のもっとも低い位置を特定することは困難である。

後年の護岸改修などで人の手が加わった場所では、水位の低下が大きな知見をもたらす場合がある。例えば下小野集落近くの国道490号は小野湖の汀へ道路が移し替えられていて、陸繋島の下流側には矩形状の窪地が現れることが分かっている。


周辺の湖底は概ねフラットでありながらこの場所で急激に落ち込んでいるため、かつては田畑の段差と思われていた。しかし地理院地図で解析したところたまたま低水位状態の航空映像が撮影されており、ほぼ四方が塞がった窪地状になっていることが判明した。


田畑であれば少なくとも一辺が開いた状態となり窪地とはなり得ない。これは湛水効率の向上か流用土採取の目的で人為的に掘削されたものと考えられている。現在の国道490号は小野湖の水深が浅かった汀を通されているため、道路護岸材料として採取されたのかも知れないが、まだ充分には調べられていない。

常盤池のような低標高部にある人造溜め池では多くの汀が遠浅であり、少し水位が下がるだけでかなりの面積の地山部分が地表に現れる。ごく小規模な泥炭の露頭や、石炭そのものを採取する目的で掘ったタブ跡は常盤池特有であるが、県西部特に市内では一般的な真砂土から更に微粒子化し粘土となったものが、常盤池築堤で長期間水に洗われた結果生じる表面の紋様や奇妙な形状の堆積性泥石がみつかり、注意深く観察されている。
【 行動範囲の拡大 】
自明なことであるが水位が下がることによって歩行により到達できるエリアが広がる。水で隔てられた領域でもボート等を使うことにより到達可能ではあるが、実際の踏査では未だ一度も援用されたことはない。歩行踏査でも表面が浅い水で覆われ隔てられた領域は、通常歩行の一跨ぎで足りる幅か、あるいは通常のスニーカーでも浸水しない程度(精々水深10mm以下)でなければ踏査を試みない。これは後述するような安全性の確保と、条件さえ整えば誰でも到達可能性(即ち踏査の再現性)があることを重視しているからである。

行動範囲の拡大は、新規物件の発見や詳細な追加調査の助けとなる他に、その場からでなければ撮影できない既知の別物件を提示することによって到達可能性を間接的に示す目的としても援用される。

例えは以下の写真はお馴染みの白鳥大橋を低水位時にある場所から撮影したものであるが、通常水位時ではボートやドローンを使わなければ足を濡らさず陸上に立ってこのアングルで撮影することは不可能である。


この種の撮影は些か個人的趣向が強い。学術的見地からは低水位の状況によってはここまで到達できることを間接的に立証する資料となるが、悪く言えば昭和のガキ大将が「俺はこんな場所へ来ることができたんだぞ」をアピールするものとも言える。もっとも当該物件を知っている人に対してはたった一枚の写真で証明可能であり、通常は同じ写真を撮影することは不可能なためしばしば援用される。
【 環境維持への貢献 】
かなりのこじつけ的な弁明ではあるが、低水位踏査は環境パトロールとしての機能を併せ持つことができる。もっとも最初から前置きしておくことに、当サイトはこの目的のみをもって行動しているわけではない。物件の調査が主体であり、踏査行動によって副次的に判明する問題点を客観的情報として提示しているのみである。

低水位踏査によって露呈するのは、知りたい物件の素性だけではない。場所によっては目にしたくない、あるいは社会的に容認されない状況も目撃することとなる。具体的には堆積したゴミや不法投棄物である。市民の水がめである小野湖の堆積ゴミは深刻で、定期的に有志団体による除去作業が行われている。

常盤池は風致地区に含まれることもあり、更に都市公園としての名を保つためにも環境面には注意が払われている。来訪者が多い水際や周遊園路沿いの入江に殆どゴミは浮かんでいない。低水位踏査でも護岸工事のとき発生したコンクリート片や建築ブロックといった素材が沈んでいるのを見るのみで、ペットボトルやプラスチックのトレーの如き人工的なゴミは殆ど見当たらない。しかし来訪者の目に付かない場所では、同じ常盤池とは思えないほどに汚染されている。

常盤池全体でもっとも汚濁の酷いのは、西側にあたる楢原の入江である。この入江の殆どは私有地に接していて周遊園路は存在しない。来園者の目に付かないだけで、入江部分には水に浮くゴミが押し寄せている。低水位になると状況は更に酷くなり、水に浮かないゴミが大量に現れる。写真はある護岸の下で、原形を留めない自転車が5〜6台投棄されている。


もっとも要らなくなった自転車の投棄など楢原の入江では他にも数ヶ所が知られており、白鳥大橋の真下には原付さえも2台投棄されている。このような実態は通常水位時のみを観察していてもまず分からない。

ダム湖のような広範囲に水を溜める場所では、しばしば上流から運ばれるプラスチックごみが問題視される。それらは目に付きやすく景観を損なうため施設の管理者やボランティアによって清掃されている。これとは別に不法投棄物の実態を厳密に調査するなら、水位の下がったタイミングでのパトロールが効果的である。
《 実施にあたっての注意 》
低水位踏査では通常時では人が立ち入らない場所の行動が多くなる。一般人の到達が想定されていないだけに、注意喚起の表示は当然出ていない。現地での行動に起因する結果はすべて自己責任となる。一般的な注意事項については既に記事化されている「守って頂きたいこと」に準ずるが、低水位踏査の場合は更に以下のような点の留意が要る。
【 転倒や水濡れに対する最大限の注意 】
水際での行動が殆どなので、自己防御に関しては足元の悪さに対する最大限の注意が要る。最も起こりやすいのは足元の軟弱地盤を読み誤ったことによる足のはまり込み、泥を被った岩でスリップすることによる転倒である。

海の砂浜では粒子が均質なので、何処へ踏み出しても足元の沈み込みはほぼ一定である。しかし溜め池などの汀は泥を被っているのが普通であり、また地山も不陸が多い。遠回りになっても極力湿潤していない場所を選定して歩く。やむを得ず湿ったり浅く水を被っている場所を歩く場合は、水に洗われて地山が露出している部分に足を置いて進むようにする。


長靴装備であれば泥濘のはまり込みはあまり気にならないため、海辺や水路などではある程度水を被っている場所でも進攻可能だが、低水位踏査の場合はあまり勧められない。泥濘を被った場所ではどれほど沈み込むか分からず、地面の状態が不定な場所へ足場を求めるのは危険だからである。踏査に於いて転倒などによる負傷は論外で、予期しない靴のはまり込みや尻もちによる泥汚れも「失策」である。元から危険な場所へ踏み込む以上、踏査で得られた成果以上に失策を起こさないことを重視すべきである

コンクリート護岸の如く足元のはまり込みがあり得ない場所では、スリップに注意が要る。往々にして苔を被っていることが多く、このような場所に入るときはまず足元の滑りやすさを確かめ、摺り足を避けてかならず足の裏を垂直に着けながら進む。 この意味でビーチサンダルや滑り止め加工のないスニーカーは不適である。

乾いた場所でも溜め池の汀では礫石やレンガなどが転がっていることが多い。特に土留め目的で昔築いた杭は尖った先端が上向きになっているものが多く、こういった場所で転倒すると危険なのでなるべく避けて通る。
【 踏査行動に対する他者の危険誘発防止などについて 】
ここで言う他者とは成人よりはむしろ未成年、特に幼児や学童に対するものが主である。

いくら調査目的であっても通常人が居ることがない溜め池の汀を歩いていると、学童の場合は興味を惹くし、大人が入っている場所なら自分も行っても構わないだろうといった判断をしがちである。既にみてきたように、このような場所へ相応な注意を払わず接近すると事故を誘発する。

低水位踏査を行う場合は、たとえ短い時間であっても周囲に同じことを真似して怪我をさせかねない学童などが居ないか見回す必要がある。特に長時間にわたって広範囲を調べる場合は平日の午前中から午後3時頃までのような幼児や学童の目に触れる機会の少ない時間帯を選定すべきである。

成人が同種の行動を見て模倣した場合の影響についてまで配慮する必要はないが、もし尋ねられたとき何を目的に一見危険に思える場所へ立ち入っているかの説明責任は要る。溜め池などの周辺は通路のように見えても私有地であることが多く、行き先が公地たる溜め池の汀であっても土地所有者から誰何されれば目的を説明できなければならない。

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