白岩公園・第五次踏査【1】

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(「白岩公園・第五次踏査【序】」の続き)

あまりに藪が濃いために敬遠していた場所へこのたび初めて突撃したところ、案の定イバラの洗礼を受けることとなった。

藪漕ぎにイバラ攻撃はつきものだ。最近の踏査では面河内池で堰堤の余水吐に向かう最終局面で厳しいイバラの洗礼を浴びた。よほど酷くこじれない限り慌てる程のことではない。
しかしこの場所のイバラは凶暴で、まさに「こじれて」しまった。刺さったのと逆方向に身体を入れ替えることでトゲを外そうとしたところ、別の枝のトゲが最初より更に厳しく突き刺さってきたのである。

痛い、いたい、イタイ、痛ぁーいっ!!

尖った先がズボンを貫通して皮膚に刺さっていた。当初は刺さった写真を撮影しようなど余裕を見せていたのだが、最初に刺さったトゲを外すことができないうちに別のトゲの攻撃を受けてしまった。


おのれぇえぇえーーーっ!!
格闘しようと暴れ回る私に対してイバラはまったく余裕で攻撃してきた。既に何もしなくてもトゲが深くささっていて攻撃力を削がれていた。

さすがの痛さに声が出てしまった。下手に身動きすると鋭い棘がズボンの上から素肌を抉るようだった。
このときカメラの電源がオンになっていたらしい…右手にカメラを持ったままトゲを振り払おうとしたために意味不明な写真を量産することになってしまった。


激痛が走る中、何とか冷静さを保って一番の痛みを与えている部分を取り除いた。取り除くにも茎にはびっしりトゲが植わっている状態で、指先でつまむ部分を探すにも困るほどだった。

最後に突き刺さったイバラ。
今まで見たなかで最凶クラスだった。トゲは親指の爪ほどの大きさがあり、先端がまるで針のように鋭い。


植物の中には殆どの動物の接近を拒み、近寄るものに積極的な危害を仕掛けるものが結構ある。イバラのように物理的な苦痛を与えるもの、触るだけで炎症を起こさせるもの、摂食すれば死に至らしめるもの…
こういった植物にとっては花粉を媒介する虫は別として、生き物に干渉されることを頑なに拒否しているようだ。イバラの棘はとても丈夫で鋭いのに、茎に植わっているトゲ自体は根元から抜けやすくなっている。攻撃対象に刺さったまま抜けて苦痛を与え続けるための仕組みのようで、まさに悪魔的な装置だ。

かなり思い知ったのでその先は注意して歩いたが、イバラが目立ったのは、部分的に日当たりが良いこの場所だけだった。

平場の端に到達した。
この石積みは以前の踏査時にその末端部までは確認していた。沢を塞ぐ形で連なっている石積みの一部で、この場所は既に沢の右岸側になる。


狭い平場に間知石が散らばっている場所があった。
このサイズの石が自然に集まることは有り得ず、何かが崩れたか石材を一箇所に寄せ集めたかだろう。


うねうねとヘビのように見えるのはロープではなく自然の木の根だった。およそ藪漕ぎを始めてから石材以外の人工物にまったく出会わなかった。ゴミ一つ落ちておらず、相当の長期にわたって人が立ち入らない空間になっていたらしい。

石積みは意外に広範囲にわたっていた。
高低差は最大で人の背丈の倍くらいだ。


石積みのラインは沢の右岸下流側まで長く伸びていた。
既に一部が土砂に埋もれているのでどの程度の規模かは分からない。


沢の右岸側から見下ろしている。
岩を集めて拵えた堰堤のようなものがあることは左岸側から見えていたが、その少し上流側で長方形状に石を並べた遺構が見つかった。


降りるのは大変そうだが、目の下に見えているものを調べずに放置はできない。梵字池のように何か重要な遺構が隠れているかも知れないからだ。

急斜面を注意深く降りて沢の中に到達した。
先ほどは前方に見えるあの石積み上の平場を歩いてきたことになる。


正方形状に石材が配置されている。一辺の長さは3m程度。木の葉と殆ど炭化した木の枝が詰まっていた。


これが元は何だったか想像できなかった。
石材は2段かそれ以上に積まれていた。井戸のようでもあり、水を導いて洗い物をする水場のようでもあった。


正体が何であるかはこの内側を掘り起こせば手がかりがあるかも知れない。もっともこの遺構自体は本命ではないし、何よりも道具を持っていなかった。それで位置だけ野帳に記載し、再び斜面を登った。
今回もマップ作成向けに野帳を持ち歩き経路などをメモしている

位置関係を記録しようと沢の下部にある緩衝池を含めた写真を撮っていたときのこと…
緩衝池の右岸側に今までの踏査では気付いていなかった石段を発見した。


以前の踏査では沢の左岸側しか歩いておらず、この場所にはまだ一度も来ていない。そもそもメインの道からここへ到達する手段さえも分からなかった。
石段を下った先は丸っこい岩がいくつも転がっている狭い広場に向かっていた。


この石段の下には道らしきものの痕跡が窺えた。
石積みで縁取られたゆるやかなスロープがあるように思われるのだが…


スロープを降りていけば必然的にメインの道の何処かへ出てくる筈だ。しかし追跡は止めておいた。どんどん下って行くとまた登り直すのが一苦労だからだ。

この狭い平場には間知石よりはやや大きな岩が散乱しており、その中にちょっと気になる人工物を見つけた。


スレート材の一部である。
見るからに古い。ここに何かの建屋があったことを偲ばせる。


建屋の屋根なら、たったこれだけの部材だけではないだろう。片付けられたか既に木の葉や土砂の下に眠っているのだろうか…
まったく無関係な投棄ゴミの一部ということも有り得る

この狭い平場は土肌の目立つ崖の下で、現在も侵食が続いているようだ。
まだここより高い場所があるなら、例の遺構に向かうならこの上に登らなければなるまい…[13:43]


崖の横には普通の斜面があったので登っていくことに困難はなかった。問題は、これから先は明らかに何の踏み跡もない山野へ突入することになるという点だ。
ここまでの経路も道はなかったが、緩衝池がある沢を黙視しつつ移動できたので自分の位置を把握できた。この先は目印となるものがない。まあ、脱出不可能になる樹海ではないが、それなりの覚悟が要りそうだ。

少しでも視界を確保できるように最初のうちは崖に沿って登った。
上から先の平場を見下ろしている。[13:46]


しかしいつまでも視界に頼ってはいられなかった。崖から離れるように斜面を登ると、みっしり生い茂った雑木ですぐに下界が見えなくなったからだ。
K氏の手書き地図によれば、御堂と石碑は2つの沢の間の尾根部分にあるように描かれていた。目標物のない藪なので具体的な位置は自分で推定するしかない。

闇雲に歩き回れば体力を消耗するばかりでなく、同じ場所を重複して訪れたり見落としたエリアが出来てしまうだろう。そこで地形や藪の条件が許す限り斜面をジグザグ歩行しつつ尾根のピーク部分を目指すことにした。
自分が設園者になった積もりで考えれば、御堂や石碑は周辺の一番高い場所を選ぶだろう。とりわけ石碑については(実のところ踏査前からその石碑の意味が分かっていたので)ピーク地点付近にある筈だ…

チェック対象は大きな岩と木造構造物だ。疑念の感じられるものはすべてチェックしなければならない。
ここから暫くは視界の効かない藪の中の歩行となり距離感覚が掴めないので参考までに写真撮影時のタイムスタンプを添えている
崖を登ったすぐ先に如何にも人の手が入ったように見える岩に出会った。[13:46]


もしかするとこの裏側にあるものは…

(「白岩公園・第五次踏査【2】」へ続く)

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