その翌々日の火曜日…
私は市の主催する常盤湖畔ウォークなるイベントに参加していた。
歩くのは好きではないが、ちょうどサクラの時期で天気も良かった。どのみち周遊園路は自転車に乗って走れないのだから、じっくり歩いて興味深い物件を探すことも頭にあった。
何よりこのとき私の頭にあったのは、
白鳥大橋から「あの物件」が見えるかも知れない。
ということだった。一周コースの並足グループで、写真を撮りつつ殆どしんがりを務めていた徒歩・自転車隊は、楢原の入江を跨ぐ白鳥大橋を渡るとき、例の物件が潜む方へカメラを向けていた。
かすかにそれらしいものが見える…
カメラが手ブレすると鮮明な映像が得られなくなる。そこでカメラを欄干上に据えてズームした。先頭グループからの遅れを気にしながらも白鳥大橋の袂からズーム撮影。
確かにここからもそれらしきものが見える。その左側の高専グラウンド護岸には暗渠らしき黒い穴が見える。
ズームの限界。
思ったより遠い。こないだ市道楢原線から見たときよりもずっと遠かった。ギリギリ湖上に顔を出している何かというところまでしか分からない。
しかり新たな発見もあった。
市道楢原線からでは確認できなかった暗渠の吐き口である。かなり大きなものらしく、管径の半分が水没している。
排水口にしては変だ。そもそも常盤池は灌漑用水を貯める池だから、生活排水などを流し込むことはない。しかも吐き口の見え方からして、明らかに高専グラウンドの下を通っている。
残念だが、ここからでは今以上のことは分からない…もっともそのことは想定内だった。白鳥大橋からでも現物が見えることが分かっただけでも収穫であった。
湖畔ウォーク終了後、私は自転車を園外まで押し歩きし、市道常盤公園開片倉線を高専の方へ向かった。
無理に高専の敷地へ入らなくとも近づける場所があるはず…そのことはアジトを出る前に再度地図によって確認してあった。
一昨日も訪れたこの場所へ再びやって来た。
今日もグラウンドでは球児の卵たちが練習に励んでいた。しかし今やここからの経路に関して思い悩む必要はない。この裏門の横をすり抜けて汀へ向かう経路がないことを確認しただけだった。
(ないこともない…フェンスの裏側に小道があるが「私有地につき立ち入り禁止」の立て札がある)
そこから市道を少し常盤公園側に進むと、小さな個人商店がある。
その右側から現地へ接近するように伸びている地区道の存在を地図で見つけていたのだった。
近くの常盤中学校へ通っていながら、ここは生まれて一度も来たことがない地区道だった。この先は何処にも通じておらず、住宅群やアパートの住民のための道だから当然だろう。
恐る恐る自転車を進めつつ、汀へ接近できる経路がないか探した。
左手へ下りる道があり、その先はどこへ向かおうと行き止まりなのは分かっていた。欲しいのは、例の物件を少しでも近くから観察できる場所であった。それもコソコソと他人様の庭先へ踏み込むのではなく、安泰に見られる場所を…
どう考えても行き止まりと分かっている道をウロウロ自転車で漕ぎ回るのは、極力短時間に済ませたい。下手をすると空き巣狙いの下見と勘違いされかねない。
個人の庭先より少しばかり罪悪感は薄れる場所があった。
学生アパートと思われる駐車場である。
(実際にはこの写真は帰り際に撮影している)
その入口から既に常盤湖の湖面が見えかけていた。ここから見えなければ、後はもう腹をくくって高専グランドからアクセスする以外ない。
あまりフェアではないが、あたかも誰かの家を訪ね歩くような面持ちを作りつつ、駐車場へ自転車を乗り入れた。とにかく短期勝負だ。見えなければ、グズグズせずにサッサと退散しよう…
まだ距離はある…
しかし…
それは今までになくハッキリと観察できた。
グラウンドからやや離れたコンクリート護岸に空いている暗渠。
その右側少し汀から離れて、航空映像で見たような竪穴が顔をのぞけていた。
こことて何度も気軽に足を運び、写真撮影できる場所ではないだろう。
要りそうになるデータはすべて採取する気持ちで、まずは暗渠の方を撮影した。
ズーム撮影。
直径1m以上ありそうな管渠で、半分以上は湖水面より下にある。樋門など何もなく、自由に常盤池の水が出入りしている。真上には転落防止柵が設置されているものの、須く薮に侵食されていた。
(物理的には行けるかも知れないが先のような理由でこの場所まで安泰に行くことができないと思う)
この管渠の続いている方向が読めない。高専グランドの雨水排水にしては管の呼び径が太すぎる。これほどの規模なら、もっと広域の雨水を集めているのかも知れない。
そして本命の「謎の竪坑」にカメラを向ける。
水面から僅か顔を出していて、2羽の野鳥が羽を休めていた。
そしてこの映像をもってハッキリ分かったのだが、
竪坑は円筒状の現場打ちコンクリートではなく、
正方形に組み上げられた建築ブロック積みだった。
正方形に組み上げられた建築ブロック積みだった。
市道からの撮影映像でも四角い井戸のような形には見えていたものの、確信が持てなかった。ここからならハッキリと分かる。中空状態に積み上げられた建築ブロックだ。
手ブレしない範囲で限界までズーム撮影した映像。現時点で手にしている最も鮮明な写真だ。
標準的な建築ブロックは、目地代を含めて1スパンが40cmだから、この正方形状の構造物は内々が2m程度の大きさを持つことになる。内部は中空になっていて、ここから見る限りでは正方形の内側にも湖面と同レベルの水が溜まっているようだ。
(建築ブロックの内側も外側と同様に濡れているように見える)
他方、この建築ブロックが何段積まれているのか、水面下がどういう構造になっているかは全く見当もつかない。何よりも、この構造物の存在意義からして全く分からない。
それはダム湖底に水没する定めとなった廃屋の如く、かつては何かの役目があったものの、解体されることもなく放置されたものだろうか?
それとも何かの目的があってわざわざ常盤湖の中を部分的に締め切り、排水した後にこの建築ブロックを築いたのだろうか?
現地でじっくり考えている暇はなかった。
ここに掲載したものが、自転車隊の撮影した映像のすべてである。アパートの住民に訝られる前に、自転車の方向を変えてそそくさと退散した。
アジトへデジカメ映像と共に宿題を持ち帰り、この構造物の正体を推測するために国土地理院による過去の航空映像を参照してみた。何か気になる遺構を見つけたとき、同じ場所を昭和40年代後半まで時間軸を戻して眺めることができる強力な武器だ。
「国土画像情報閲覧システム - 常盤池西部(昭和49年度)の航空映像」
(http://w3land.mlit.go.jp/cgi-bin/WebGIS2/WC_AirPhoto.cgi?IT=p&DT=n&PFN=CCG-74-12&PCN=C23&IDX=15)
(別ウィンドウで開いたページ右上にある400dpiのリンクをクリックすると高解像度の画像が表示される)
驚いたことに、昭和49年度の撮影時点で既にこの「謎の竪坑」は存在していた。(別ウィンドウで開いたページ右上にある400dpiのリンクをクリックすると高解像度の画像が表示される)
白鳥大橋や周遊園路こそまだ存在しないものの、楢原の入江周辺の護岸は現在の状態とほぼ同じである。
(一昨日訪れた「楢原の最も尖った部分」の護岸も既に見えており意外に古いものらしい)
当時の航空映像の周辺も含めて観察すると、汀は砂が流れ込んだのか遠浅の部分が目立つ。しかし当時からあの建築ブロック積みは常盤湖の中に造りあげられていたようだ。
しばしば野鳥が羽を休めに立ち寄るのか、ブロックの天端は糞で汚れていた。しかし建築ブロックには何の綻びもなかった。
これが今も何かの役割を担わされている現役の構造物で、定期的に打ち換えているのならまだしも、何十年も湖水に洗われ続けて原形を保てるものだろうか。
海岸で波に洗われる構造物と比較すれば幾分条件は良い。破壊的に大きな波が叩きつけることはないし、塩分を含まない水だから内部の鉄筋を腐食させる進行度も遅いだろう。そうは言うものの、横筋が入っていなければ、何十年と湖水に洗われれば、目地モルタル部分が侵食され強度を失うものである。デジカメ映像を見る限り、そのような兆候は見られない。たまたま建築ブロックが置き去りにされたり並べられているのではなく、明らかに何かの目的をもってキチンと積まれている。
あなたは、この建築ブロック構造物を
何と推測するだろうか?
何と推測するだろうか?
少なくとも今から三十数年以上前から存在し、今も殆ど誰にも顧みられることなく常盤池の中に僅か顔を出す建築ブロック構造物。
意外に答は簡単で、誰かが情報を持っているのかも知れない。人が築いたものである以上、必ず答がある。しかし遺構の如き重要なものでないから、大した記録も遺されず、気が付いてみれば「誰も知らない構造物」になっている可能性もあるかも知れない。
高専グランドからフェンスの裏側に抜け出て薮を掻き分け、護岸に近づけばもう少し詳しく見られるだろう。しかし湖上にある以上、ボートを使わなければ到達は不可能である。
果たしてそれはいつか解明される時が来るのだろうか?
あるいは、解明に向けて努力する価値ある遺構だろうか?
そんな人間の熟考など何処吹く風とばかりに、恐らく今日も野鳥たちは水面に現れたこの建築ブロック構造物に羽根休めという実用的な価値のみを見いだしているのだろうか…あるいは、解明に向けて努力する価値ある遺構だろうか?
(何か新しい情報が解明され次第続編を書くことにする)
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解決には繋がりそうにないものの追加の情報があるので、更に続編を書くことにしよう。
(「常盤池・水没建築ブロック【3】」に続く)