常盤池・未知の水没鉄筋

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現地踏査日:2012/10/21
記事公開日:2012/10/26
常盤池には何故か謎の遺構や構造物が目立つ。頻繁に常盤池を訪れ丹念に観察しているので目に付きやすいだけかも知れないが、今まで見つけている数件の遺構すべてが造られた時期から存在理由まで分かっていない。

今回見つけたものは、何かの遺構とされるうちではもっとも小さく「取るに足りない」と言える。長生付近を踏査したとき見つけた藪に埋もれたトイレットと似たような些末さで、常盤池の陸繋島を踏査しようと現地を訪れたとき、水位の引いた汀で真っ先に見つけた物件だ。
参照元となる陸繋島の記事に地図を載せているので省略する

それは岬から陸繋砂州に降りたって暫く砂地を歩き回っていて気付いた。
土取の入り江側の砂州上に存在する。


この2つの鉄筋である。
大きめのかすがいを2つ十字型に組み合わせて埋め込んでいる。まるで鉄筋で造ったクモか高足ガニのようなオブジェに見える。


鉄筋の埋まっている場所は岬部分から数メートル離れており、標準水位時では完全に水没する。そのため3月にここを訪れたときにはまったく分からなかった。

地表部に現れているのは鉄筋だけで、その下がどうなっているかは分からない。


私の指に対してこれくらいのサイズである。通常のかすがいよりは大きい。
また、土台か何かに固着しているようで指で押してもまったく動かなかった。


全体が酷く錆び付いており、何十年と経過しているのは間違いなさそうだ。


鉄筋のズーム写真。
中空になっているようで一部が腐食され穴があいていた。


ショベルなど掘り起こすものを持ち合わせないのでこの鉄筋が何に固定されているかは分からなかった。ただ、引っ張っても微動だにしない位に固定されているので、相当深く打ち込まれているか下部にコンクリートが埋まっているのだろう。

普通なら殆ど目にも留まらない無視すべき鉄くずに過ぎない。しかし古くて存在意義が分からないものには取り合えず身体とカメラが反応してしまう。
場所柄、これが一体何で有り得るか可能性を考えてみた。読者の予想したものが以下のリストに含まれているだろうか?
(1) 小舟などを係留するロープを固定するアンカー
(2) 建物の柱部分の基礎跡
(3) 投棄された鉄製の部材
(1) はもっともありそうな答で、上の3つの中では恐らく一番正解に近いのではないかと思う。半島にユースホステルがあり、岬まできちんとした道がついていることから、かつては常盤池の清掃作業向けの小舟を係留していたのではないかと考えたのだ。
小舟ではなく他のものを引っかけるアンカーの役目も想起される。ダム湖には取水塔に流木などが流れ込むのを防ぐために網場が設置されており、両岸に網場を固定するアンカーが設置されている。そういった目的のアンカーにも似ている。

しかし上の説には疑問がある。鉄筋のある場所は、通常水位なら完全に水没する場所だ。船か網場の係留目的のいずれにしても水位が高くなったらアンカーの脱着ができなくなるのではないかという点だ。特に小舟を係留するアンカーなら、鉄筋全体が陸上にないと困るだろう。網場のアンカーにしてもこんな低い位置では水位が上がったとき網場の上を越えて夾雑物が移動してしまう。

(2) の基礎説は、かつてこの上に何かが取り付けられていて上部構造は撤去されたいう考えだ。基礎なら水没する場所であっても不都合はない。実際、かつて夫婦池に向かって伸びていた初代コースターの橋脚基礎跡は、その一部が夫婦池の汀に水没して今も遺っている。交差した2本の鉄筋は基礎のあった鉄筋を思わせるものがある。
問題はこの場所に設置すべき構造物があったのだろうかという点だ。建物なら少なくともあと一つは汀に存在すべきだが、これ以外には見あたらなかった。
単独の基礎と考えるなら外灯のような構造物になる。かつてはユースホステルの宿泊客が岬から夜景を眺められるようになっていたのかとも考えたが、ちょっとあり得ない気がする。数十年前ならここからの夜景は今以上に寂しく不気味だっただろう。

(3) はもっとも単純な説で、特に由来もない何かの鋼鉄製部材が投棄されているだけではないかという推測だ。そんなものを風致保安林の区域内に投棄するなど今では考えがたいが、昔はそのあたりが案外大雑把で、正規に処分されないまま放置されている場合が結構見受けられる。即ち十字型の取っ手がついた鋼製の部材が捨て置かれているだけで、取っ手の部分だけ地上に現れているという推測だ。

他に証拠となる資料もなにもない今の状態では、(1) の説を支持する。アンカーが水没するのでは…という矛盾点については、もしかすると昔の常盤池は現在よりも標準水位が低かったのではないかという仮定が正しいなら解消される。

十数年の遅延があるYahoo!航空映像で見たこの場所は、浅瀬部分が見えている。昭和49年度版の国土画像情報閲覧システムに至っては砂州や島が明瞭な形で観察できる。それらはいずれも私が3月にみた水位よりもずっと低い。この両方ともたまたま水位が低いとき撮影されたのか、それとも3月に訪れたときの水位が高すぎたのだろうか…

例えば常盤池により多くの灌漑・工業用水を貯えられるように後年護岸整備するとき一斉に天端を嵩上げした…なんてことはないだろうか。これはちょっと調べてみなければ判らない。
野外彫刻広場を整備した平成期に広範囲な護岸工事を行っている

遊園付近など元から護岸があった場所は数十センチ程度上昇しても外観はあまり変わらないが、遠浅になっている自然の護岸の場合、汀が水平距離で数メートル移動する。
小舟を使っていた頃はアンカーの設置場所まで歩いて行けていたが、やがて舟を使わなくなった…その後水位が上がることになってアンカーは常時水没することになった…というシナリオが成り立たないだろうか。

現地踏査日:2012/11/24
記事公開日:2012/12/5
陸繋島に見つけたのと同一というものではないが、にしめの鼻付近の汀に鉄筋のついたアンカーらしき人工物がみられた。


位置は概ね以下の場所になる。


一般にはたかが投棄された鋼製部材であり、取り立てて話題にすべき物件ではないと思われるだろう。海岸や港湾ならこの種のものは普通に見られるからだ。
しかしこの場所は遊歩道もつかない常盤公園内の半島の突端で、通常まず人が訪れない。私と同等かそれ以上に好奇心旺盛な方か、常盤公園をこよなく愛する方、学術目的で調査に訪れる人くらいのものだ。そのような場所は殆ど人の手が入っていないので、むしろこのような人工物に興味を惹かれる。

付近の汀はかなり傾斜していて容易には近づけなかった。


斜面に足場を確保して腕を差し出して撮影している。
正方形のブロックの中心に鉄筋が差してあるだけの簡単な構造だ。水深は50cm程度で、単に汀へ置かれているだけのようだ。


ズーム撮影。コンクリートブロックのサイズは30cm角くらい。中央の正方形状の穴に鉄筋が刺さっている。面取りがされているのでそれほど古いものではなさそうだ。
この位置にあるなら、標準水位ならすべて水没してしまうだろう。


こんな重い物が対岸からここまで流れ着くことは考えられないから、意図的に置かれたものの筈だ。そしてにしめの鼻付近をざっと踏査した限り、このブロックが唯一の人工物だった。

陸繋島にあったクランプと違い、この場所は陸路から運び込むにはあまりにも遠い。恐らく小舟でここへ乗り付けたとき、舟を係留するために積んであったものを投入する形で置かれたアンカーではないかと推測される。

ただ、鉄筋の先端が直線的になっているのは不自然な気がする。その形状ではアンカー代わりにロープを結ぶと外れやすいからだ。あるいは舟の係留ではなく何か別の用途で置かれたものかも知れない。
もちろん今となっては正確な答が得られることはない。そしてこのブロックも常盤池が安泰に在る限り、人知れずいつまでもこの場所で水上に姿を現したり隠れたりを繰り返す運命だろう。

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