芝中第3踏切

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現地踏査日:2012/5/5
記事公開日:2012/5/8
当サイトには当初鉄道カテゴリが作られずその予定もなかった。しかし調査してみたい鉄道関連の物件として踏切や橋りょうなどの名称がかなり早期からあった。

鉄道が古い時代から存在し、関連する構造物に与えられた名称はしばしば現在では使われない小字であることが多い。道路および付随する物件の成り立ちを考えるにあたって、古くから存在する”歴史の証人”を避けては通れないことに気づいたからだ。それも調べるうちにかなりの数があることに気付き、鉄道カテゴリを作成するに至った。
この物件は鉄道カテゴリが作成される以前は廃物カテゴリに収録されていた。実際それは「廃された踏切」同然の状態になっている。内容はそのままでカテゴリだけ移動した。

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私がその存在に気づいたのは3年前のことで、まったくの偶然により目に留まった。同じ日付の他の写真を調べる限り、初めて恩田小学校を訪れたときらしい。
市道恩田小学校線を走っている…しかし当時は眺めるだけで路線やカマボコ屋根の体育館などは撮っていなかった

私は芝中方面から国道190号の跨線橋区間を走っていた。折しも跨線橋に差し掛かったところで東新川方面から電車がやってきたので、自転車を停めてまずはこの写真を撮っている。


3年前だからまだホームページ作成に至っておらず、したがって物件という概念もなかった。この日は天気が良く、タイミング良く列車が来たからカメラを向けたに過ぎなかった。

この写真を撮影後、一旦は自転車を走らせ始めた。しかし列車が行き過ぎた後で一瞥を加えたためか、そこに在る踏切の様子が普通ではないことに気づいた。


警報機の備わらない踏切が見える。それ自体はさほど珍しいものではない。昔からの里道にしばしば見られる。しかしこの踏切は線路へ面した部分にコンクリート部材が積まれ、通れなくなっている。渡った先にある民家も著しく藪に覆われていて、踏切としての機能を果たしていない。

この場所を地図で示してみた。


当時から廃物は関心の的だった。ただ、元から恩田小学校へ行こうという目的を曲げてまで寄り道はしなかったらしい。当時撮影したのはこの2枚だけだ。

最近、踏切に現れる小字が気になって相応に注意を払い写真を撮るようになった。この流れで5月の連休も近場を回って写真を撮っていた。このときに廃踏切の存在を思い出し、精密な写真を撮っておこうと考えた。

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国道の跨線橋から見える位だから接近は容易である。経路はやや複雑だが、車でもすぐ近くまで行ける。
もっとも私有地かも知れない場所へ車を留め置くことになる
国道の上り車線側で、鉄道に背を向けて写す形になる。ここに地区道の立体交差がある。


国道横断のボックス内部から撮影している。
正面に存在意義がよく分からない古いミラーが立っており、真っ直ぐ降りる狭い道がある。
後で参考写真撮影のためにその道にも行った


このミラーから線路側はアスファルト舗装された空き地になっていて、その先に例の廃踏切がある。


進行してみた。
駐車場らしき空き地から通路が伸びているが、踏切直前にコンクリート部材が積み上げられている。


通り抜けられそうな状況でないことは早々に分かっていたので、自転車は置いて歩いて踏み込んだ。


昔、花壇を造るとき縁取りに使われた円筒形状のコンクリート部材が積み上げられていた。
それは踏切を塞ぐような形で置かれており、一般の通行を考えていないことが分かる。


この方向が東新川駅方面になる。
線路を境に恩田町と芝中町に分かれている。


踏切から反対側をここから撮影した。
どうしてこの踏切が閉鎖されたかを想像させるようだ。


警報機は当初からなかったようだが、黒と黄色のバーをクロスさせた踏切サインは設置されている。線路には踏み板も置かれていて、かつては間違いなく人の往来があったらしい。
しかし踏切より芝中町側は酷く荒れ果てていて道の形がつかめない。傍目には廃屋になってしまった家の玄関に繋がっているようにも見える。

積み上げられた円筒形コンクリートは、ここから先は「何処にも行かれない」ことの明示だろう。しかし現地は立入禁止になっている訳ではないので、毎度のことながら自己責任において進攻した。

宇部岬側を撮影。国道190号の跨線橋がすぐ近くだ。


東新川駅方面には隣接する芝中第4踏切の標示板が見える。


振り返って撮影。
踏切サインの柱には定型句の「とまれみよ」と踏切名、万が一のときの連絡先を記された表示板があった。


表示板そのものはかなり新しい。
踏切自体は国鉄時代からあった筈だが、表示板の設置は民営化後のことだ。場所を特定するのに必要だからだろうか…芝中第3踏切という名称が確認できた。


そして…
現在撮影地から振り返れば、恐らくこの踏切を必要としていたのではと想像される民家が一軒あった。
既に掲載した恩田側からの写真でも推察されるように、この民家は廃屋であった。

このホームページでは廃屋をはじめとする個人所有の物件は扱わないことになっているので、家屋の写真は割愛する。よって言葉のみで説明するが、玄関門扉と家屋は藪に包まれており、芝中町を示す住居表示板はあったが表札は剥がされていた。
また、この民家の玄関へ至る以外の別経路が存在するかどうかは周囲の藪の繁茂が酷く確認できなかった。

芝中側から振り返って撮影。
この写真を撮影後、再び踏切を渡って戻った。


一般の通行向けではなく、この民家の住民向けに固有名をもった踏切が設置されているように見える。こういう事例は普通に存在することなのだろうか…

冒頭の地図によれば、芝中側からも鉄道を横断する方向の経路が見受けられる。線路を挟んで双方向に往来できなければ踏切設置の意義は薄いから、里道があるのではと考えるのが自然だ。
しかしこの民家に隣接する空き地はブロック塀で囲まれた私有地になっており、通れる道があるようには思えなかった。


どういう経緯で芝中第3踏切が設置されたのだろうか。勝手に想像してみた。
(1) この民家が慣習的に通行できる道があった。
(2) かつて里道だったものが立体化工事などで失われた。
この民家が利用するためだけに踏切が設置されるとは考え難いが、芝中側に出る経路がなく囲繞地通行権の絡みで生まれたのかも知れない。
個人の物件にかかわることだから深く詮索や調査はできない
もう一つ、考えられそうなのが昔は通行可能な里道があったのではという可能性だ。

宇部線の成り立ちは古く、大正期にまで遡る。当時から東西を連絡する道はあったが、国道190号という名前などなかったし、そもそも立体交差していなかった筈だ。現在の跨線橋は昭和中期に芝中・恩田両側を盛土することで造られており、4車線拡幅は更に時代が下ってからのことである。
立体交差以前にこの踏切を通る里道があったか、あるいは立体交差が出来た後で車は通れるが人が安全に通れないため、通行の便宜をはかるために追加設置したかだろう。

この踏切の通番が第3となっていることから、この前後を横断している道路などの写真を探してみた。
国道190号跨線橋の南側にある最も近い踏切は、市道五反田笹山線が横切るもので、芝中第1踏切とされている。
宇部興産工業用水導水路もこの踏切付近の地下を通過している


廃された第3踏切から第1踏切は線路沿いに見通すことが可能で、その間に踏切らしきものは存在しなかった。恐らく国道の立体交差化によって盛土の下に「埋もれて」しまったのではないかと推測される。
そうなれば廃されたこの芝中第3踏切はメインの国道とは別に昔から存在していたと考えられそうだ。それと言うのも東新川駅寄りには第4踏切が存在するからである。

自転車の元に戻り、先ほど見た存在意義の不明なミラーから下る道を進んだ。その細い地区道の先に第4踏切がある。

この踏切は現役だが幅が狭いため四輪は通れない。
遙か昔…この踏切で私の知っている人に纏わる大変に不幸な事故があった


ズーム撮影。
線路傍のコンクリート柱に芝中第3踏切と明示された標示板が取り付けられている。


第4踏切は古くから存在し現在も供用されているので、第3踏切が後から追加設置されたという可能性はあり得ない。その場合は今の第4踏切が当初から第3踏切と命名され、あの廃踏切には別の名称が与えられていた筈だからだ。

踏切の名称を記した案内板が設置され始めたのは平成期に入ってからのことと思う。そのことを思えば、第3踏切が閉鎖されたのはそう古いことではない。やはりあの民家に連動しているのだろうか。

この先あの場所に再び人が住むようになるか、往来可能な里道が整備されれば再度使われるようになるだろう。復活の日が来るのか、それとも芝中第2踏切と同じく欠番という形で完全に抹消される運命なのだろうか…
出典および編集追記:

* 地理院地図の単写真の精査により、芝中第2踏切は紛れもなく存在していたもののその位置は現在の国道立体交差ではなく更に南寄りの別の道であった可能性が強くなった。現在は存在しない里道が写っている航空映像を確認できたからである。国道の立体交差は道がない場所へ新規に盛土して造られたまったく新しい道であると考えている。(2016/10/30)
詳細についてはいずれ別途記事をたてる予定だが、当面は「FB|2016/11/9のタイムライン」を参照。(要ログイン)

この立体交差が造られた正確な時期は分かっていない。府県道として整備された昭和初期には存在していたようである。一連の考察については以下の記事項目を参照。
最初期には芝中橋の親柱が据えられていた筈で、現物は島の郷土資料館横の庭に展示されている。

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