封鎖されたボックスカルバート【1】

廃物インデックスに戻る

現地踏査日:2010/11/3
記事公開日:2012/6/17
注意この物件への接近には重大な危険を伴います。現地踏査をなさる方は自己責任において慎重に行動することを強くお勧めします。

ここまでものものしく断り書きを入れると、逆に興味を惹いてしまうかも知れない。しかしそこに何があるかはこの記事のタイトル通りで、封鎖されたボックスカルバートがあるだけだ。封鎖と言う位だから元は人が通れていたものが現在は廃用状態になっている物件であり、それ故に廃物カテゴリへ収録している。

以前は通れていた通路が封鎖される等の事例はそう珍しいことではない。この物件の場合、現地に佇むボックスカルバートの有り様と、通行できなくなった理由が特異性を醸し出している。
人が往来できないのだからこの場所は一般には殆ど知られていない。近隣地域にお住まいの方か、よほど市内を丹念に踏査して回っている人か、あるいは以前ローカルSNSに公開した記事をお読みになった方に限られるだろう。
私がこの場所をどのようにして知ったかは後述する

その物件は小羽山入口とされる場所に存在する。
県道琴芝際波線の旧道で、現在は市道小串小羽山線に格下げされた道が市道小羽山中央線と交わる少し手前に、沢を下っていく道がある。


この道の入口を地図で示している。
小羽山に向かうメインの道に沿って沢を下る道が地図からも読み取れるだろう。


何処に行くのか気になるだろうし、あるいは川添方面へ降りていく近道かも…と思って車を乗り入れた方があるかも知れない。
前もって言っておけば、この道は車はもちろん徒歩ですら何処にも抜けられない。地図に表記されている通り、細長い荒れた沢に到達してそこで終わりである。車を転回したり停め置きするスペースはあるが、不法投棄の場所探しに来たと怪しまれる恐れがあるので乗り入れは避けた方が良いだろう。

私が記事向けにこの物件の踏査を行ったのは2年前のことだ。市道小羽山中央線の記事を書き進める流れに従って若干加筆修正して公開している。本編および続編までに掲載された写真はすべて当時のもの(ローカルSNSに掲載した写真)である。現在では状況が大きく変わっている可能性もあるのでご了承いただきたい。

---

文化の日の祝日、休みというものの週の半ばで疲れを溜めるわけにはいかないので天気が良いにもかかわらずアジトで過ごしていた。昼から買い物へ出かけようと近くのアルクに向かったのだが、安売りが始まるのが午後4時(4時から始まる卵の特売だ)であることに気づいた。今更アジトに帰る気もせず、時間までちょっと近場をうろつこうという気になった。

もっとも当初からちょっと近場をうろつこうかとう気持ちはあってカバンにはデジカメを入れていた。しかし今やアジトの近場は殆ど調べ尽くしていた。それでちょっと遠いし坂道を登る労力が要るのだが、以前訪れた”あの場所”に行ってみようという気になった。
こうして小串から県道を漕ぎ上り、最近みつけた小字に由来する小串台の「いか土公園」を訪れた。記事向けに写真を撮った後、すぐ近くにある例の場所に向かった。

最初の写真と同じ場所に来ている。私が訪れたとき、ちょうど小羽山中央線の電線工事が始まろうとするところだった。


後で詳しく述べるように、この場所は初めてではない。しかし当初から例の物件を究める目的で自転車で訪れるのはこれが初回だった。


とりあえず所在地は覚えているので、小羽山中央線に沿う地区道をどんどん下っていく。

このあたりでは市道との高低差は5m以上にもなる。通常の盛土では崩れかねないのでコンクリートで補強したようだ。


まるで谷底へ降りていくようで、地区道の日差しも入りにくくなり次第に暗くなっていく。
この地区道を下った先に一棟の民間アパートがある。駐車場には車が数台停まっていてもちろん現在もここで暮らす住民が居る。


したがって沢に下っていくこの地区道はアパートの住民の出入りに今も使われている。しかし道はアパートの駐車場にたどりついて終わりではなく、左側をすり抜けて先に行く道がある。

それはアスファルト舗装路の形でアパートの背面まで伸びていた。しかし車を乗り入れる人は皆無らしく最近人が通った形跡がない。
その道は折れ曲がって小羽山中央線の下をくぐろうとしている。


舗装路は小さな水路に遮られて終わっていた。水路を渡る縞鋼板が架けられていたが、そこから先は永く人の出入りがなさそうな荒れ地に見えた。
沢を下っていく道はまったくない。車が進攻することもなかろうが、入口に簡素な単管バリケードが置かれていた。かつては田んぼだったらしく器具小屋のようなものが見えていた。


さて、ここで屈曲して市道の方へ向かっている道なのだが…
こんな具合になっていた。


ボックスカルバートが口を開けている。高さは3m程度、幅が4m程度あって右端は水路を兼ねていた。しかし先は閉塞しているのか不明だが真っ暗だ。入口付近にはこの近くの住民のものだろうか…スクーターが留め置かれていた。

私が初めてここを訪れ、この通路を見たときは相当な衝撃だった。ボックスカルバートというこのような構造になっているということは、水路だけではなくかつては人も市道の下を往来していた筈だ。現在では通路としての用を為していないのは傍目にも明らかだった。
これほど暗いのに、地下道や立体交差の内部にはありがちな蛍光灯がない。向こう側がまったく見通せない。
塞がっているのだろうか?
それとも内部に折れ点があるために先が見えないのだろうか?
もしそうだとしたら、一体どこへ続いているの?
初めて訪れたときからこの状態だったし、私はそのときここを通って何処かへ抜けられるとは考えていなかった。真上が市道のどの位置になるか正確には分からないが、概ねつい先ほど訪れた「いか土公園」の真下に向かっているからだ。

信じられない。いくら何でも出口はないだろう。いか土公園は市道と同じレベルに造られているし、市道より10m位低いこの場所から進攻するなら、公園の真下をトンネルで通ってしまう形になる。まったくわけの分からない構造だ。
内部が真っ暗なボックスカルバートながら、入口にはバリカーや縄張りの類はもちろん立入禁止などの掲示もなかった。もっともここは市道に面しておらず人目につく場所ではない。恐らくそういう標示を出す以前の問題で、この先通れるかどうかは”見りゃ分かるだろ”状態とも言えるだろうか。

更に一歩前進し、スクーターの先を撮影した。
スクーターは比較的新しくナンバープレートも備わっていたので、廃車ではなく近くに持ち主が居るようだ。


農作業用資材の他に、個人の持ち物と思われる雑品も散乱している。もしかするとこの通路自体既に市の所有ではなくなってしまったのだろうか…
市道としては健在なのに、その下をくぐるボックスカルバートが私有物になるってことがあり得るのだろうか…

肉眼で歩ける範囲まで進み、振り返って撮影している。
通路の壁側には雑多なものが積まれ、水路の上にも木材を渡して資材などが並べられていた。日が射さず湿気が多いせいか、鉄製のものは須く錆びまくっていた。


そして前方。周囲を視認しつつ、照明なしで安全に歩ける限界地点だ。
もうここから先は真っ暗で奥には何も見えない。しかし通路はずっと奥まで続いていた。


ボックスカルバートの壁には外灯が全く見当たらなかった。外されたか、造られた当初から設置されなかったのかも知れない。人間の造った通路でありながら、この奥は今や365日、24時間全く日の光を浴びることのない異空間を形成していた。

暗闇を恐れる人間の本能に従い、足が停まった。

初めてこの場所を知り、内部を偵察したときも今と同じ行動を取っていたと思う。しかしこれほど暗く日の光が届かないことは今回も想定することができなかった。買い物ついでの踏査だから、当然ながらサーチライトなど持ち合わせていなかった。

ポケットからケータイを取り出して開いてみた。しかしケータイ如きから放たれる光では足下を確認することさえ覚束なかった。
この先はどうなっているのだろう…
先を知りたいという好奇心は抑えがたいものがあった。半面、何も明かりを持たずに何処まで続いているかも分からない暗闇に足を踏み入れる恐怖があった。ないとは思うが途中で横の水路が直角に曲がっていて転落するかも知れない。それも溝ではなく古い竪坑などがあったら…

目を開けても閉じても見えるものが全く変わらないという程の暗闇を前に、私は進攻できずしかし引き返したくないジレンマに置かれていた。

(「封鎖されたボックスカルバート【2】」へ続く)

ホームに戻る