市道崩金山線【1】

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現地踏査日:2009/12/14
記事公開日:2013/12/4
直近に公開した市道金山線の記事は、4年前に初めて走破したときの様子を、写真と予備知識だけは当時のままで時間軸だけ現在に移動する形で書いた。自分の中では難易度の高い市道藤曲門前線を追跡する過程で起点付近を訪れたものの、再チャレンジを受け付けないほど荒廃していたためだ。
これと同じ主旨で、やはり同時期に走破を成し遂げた路線として本路線、市道崩金山(くずし・かなやま)線を紹介したい。

本路線も市道藤曲門前線と交差する場所を持つなど密接な関係があり、トレースする過程でちょっと偵察してきた。そして起点から100m程度進んだところで金山線と同様藪に包まれて進攻不能状態となっていることが判明した。
これは2013年11月16日、市道藤曲門前線との交点から先の部分を偵察したときの写真である。


初めて訪れたときも確かに草まみれだったが、それでも当時の方がずっとマシだった。
現況は枯れ木が倒れて経路を塞ぎ、その先も藪で道が見えない状態だった。


4年前は幸運な助言も味方してトレース完了し、当時の様子は地域SNSのブログで公開した。そこでまずは以前やっていた移植公開の要領で当時の記事を流用して当サイトに焼き直した。
実のところ本路線も起点がダメなら逆から…の発想で、金山線と同様に終点からのトレースを試み、つい最近完遂している。しかし初めて本路線を走ったときの異様な光景や出会いは記録に値するので、移植公開記事を先行し、その後で最近のトレース成果を記事化する。

本路線の起点をポイントした地図を載せる。[1]


私がこの市道の存在を知ったのは、市道路河川管理課で経路をメモするようになった初期の頃である。浜バイパス(市道北琴芝鍋倉町線)のように県下一交通量の多い藤山交差点に面する道から市道小羽山4号線のような廃道同然の道までが同じ範疇の認定市道であることに興味を覚え、身近な市道を調べてみようという気になったのである。

市道路河川管理課の地図では、市道崩金山線の経路はこんな具合に記載されていた。


市道の経路表記はピンク色の蛍光ペンを用い、起点をで描いて終点部をにするのが慣習化している。最初この地図を眺めて興味を覚えたのは、道も何もないところに描かれている直線部分だった。地図では山裾の一軒家手前まで道が記載されているがその先には何もない。経路を示すピンクの実線は、山の方へ向かう適当な直線で描かれていた。

実質的な山道が認定市道となっている存在については、地図の閲覧で既に気付いていた。この路線に興味をもったのは、遭難が心配されるほどの深山ではないこと、起点自体は割と馴染みのある場所という点にあった。
本路線の起点は宇部変電所の敷地外側をぐるっと回る別の市道(小松原桃山線)にある。車は言うまでもなく自転車でも通ってみたことはなく、多分あの道だろうという程度の予備知識だけがあった。

本編で掲載する写真は4年前の撮影であり、知識や情報も当時の自分を想定して作成している。道間違いや横話的な話題が多いが、初回踏査の状況をお伝えするために殆どの案件を派生記事化せず本編中に盛り込んでいる。

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12月13日、時刻は午後2時前。冴えない天気で雨に降られるリスクをも覚悟の上で、私は正午過ぎにアジトを経ち、産業道路の一部である市道小串通り鍋倉線を調査し、そこから桃山への登り道の一つである市道小松原桃山線を経て終点へ到達した。いずれも車で走り慣れている路線で、雨に降られることもなく順調に進み、この日の最重要課題に取り組むために本路線の起点と思われる場所へ戻っていた。

今回の場合「決して間違った道を辿ってはならない」という事情があった。起点と終点は地図上に記されているものの、途中がどうなっているか全く分からない…しかも初めて足を踏み入れる場所だ。藪漕ぎや山歩きは結構慣れている身ながら、浅い山だからと甘く見てかかるとどういう事態が待ち受けているかは重々承知していた。

起点は先ほど走破したばかりの市道小松原桃山線上にあり、宇部変電所の敷地をグルッと回る部分から伸びていることは分かっていた。
宇部変電所の頑強なフェンス列が途切れるあたりで、山へ向かいつつ一旦下る道が見えてきた。断定はできないが、道路河川管理課の地図を閲覧して得た情報からすれば、ここが本路線の起点になる筈だが…


同じ位置からカメラを右に振ってみた。
一旦下った道は再度上りに転じ、山の稜線へ吸い込まれていた。


ズーム撮影してみる。
確かに家並みが割れている間を山に向かって道が伸びているようである。


その先は…ここからではよく分からない。
ただ、自転車で乗って進むには明らかにきつい坂が見えていた。


ここから眺めた限りでもスタートして100mも進まないうちに山道となり、しかも地図通り真っ直ぐ山の中へ向かっていて自転車はすぐ押し歩きになりそうなことが示唆された。
いくら認定市道とは言ってもまったく知らない山へ分け入っていく道だ。しかも徒歩ならいざ知らず、今回も自転車を連れて行くという付帯条件がある。
ああ、行くともさ。
そのために雨のリスクも覚悟で来たんだし…
実際、途中で雨に降られるかも知れないというリスクがあった。山中で強烈な雨に見舞われたら逃げ場もなく雨に打たれるままになるだろう。
覚悟のできた時点で攻略開始である。

振り返って起点を撮影。
山口変電所から運んできた電気エネルギーを下ろす鉄塔群がここからも見える。


山へ向かって伸びる区間は、今のところ普通に車も通れる道だった。
坂はかなりきついもののここは自転車に乗って進むことができた。


ブラインドカーブを軽く左へ曲がると、道幅は急激に細くなり、坂がきつくなってきた。
道の左右に家屋が並び、家並みが過ぎる毎に市道は幅が狭くなっていく感じだった。
左側に祠が見えるが当時はまだそこまで注意を払っていなかった


いや…本当に市道なのか、未だ断定はできない…
道なりに進めば、このまま一軒家の庭先に入り込んで行き止まりになりそうな雲行きであった。

左脇にある一軒のお宅と、その玄関先にある郵便ポストを最後に舗装路がなくなり、完全に山道となった。
もう自転車に乗ったままでは1速ギアでも無理だ。降りて押し歩きを開始する。もっともこれとてまだまだ想定の範囲内だ。


振り返って撮影。
既に四輪は完全に通行不能な程度の幅になっている。


しかし未だ人里離れた感じがないのは、電柱のせいだろうか。まだこの先にも民家があるらしい…


地面は完全な地山ではなく、中央部分にだけコンクリートを流したような形跡があった。
坂がきつく、雨が降ると土のままでは滑って歩きにくいので簡易舗装したのかも知れない。


頭上に伸びていた電線らしきものは民家への給電用ではなく、何かの連絡線のようだ。
更に高いところに携帯の電波塔のようなものが見えてきたのである。


坂がいくらか緩くなった先は小さな広場のようになっていた。
戦闘開始から僅か数分経過というのにここで最初の難題を突き付けられた。
道が二又に分かれている。


さて、困った。
市の道路河川管理課で眺めた地図の記憶によれば「無節操なピンク色の実線」は等高線を無視して直線的に伸びていた。その情報を信じるならここは直進する場面だ。しかしその道は冬初頭という今の時期ながら薮に包まれていて、進行がしばし逡巡された。他方、自転車を向けている右への道は刈り払いが進んでいて、安泰に進めそうな状況であった。

こんなところで直角に右へ折れるとは考えられない…そんな記述はなかった筈だ。そうは言うものの、直進は深い薮…どちらが市道だろう?

直進とは思ったもののなお迷いがあったので、自転車を停めて少し先への偵察を兼ねて歩いてみることにした。
そして少しばかり薮の中へ入りかけたその時…
ガサガサガサッ...
明らかに前方で薮を形作る竹や草木が大きく揺れた。
藪に営巣する鳥なら上方に飛び立つだろう…しかし空をはばたく姿は見えなかった。
…となれば?

さすがに怖じ気づき、自転車はその場に置いてサッと後ずさりした。
こんな浅い山でクマが出ることはまず考えられない。しかしイノシシなら十分に有り得る。前日の晩のこと、住宅地にイノシシが現れて住民に噛み付き重軽傷を負わせたという全国ニュースを見たばかりだった。

まあ、そんなことは多分ないだろう…今の時期なら山中にいるイノシシとかは冬眠している筈だ。
冷静さを取り戻して、周囲を撮影した。
すぐ背後は携帯会社が設置したと思われる中継塔が建ち、フェンスで囲まれていた。


上の写真を撮影した後、徐に自転車の元へ戻って前方を確認した。
藪とは違う色の帽子らしきものが見え隠れしている…どうやら人がいるらしい。
イノシシじゃあなかったのか…そうか…よかった良かった…
ん?
何でこんな藪の中に人が居るんだ?
藪の入口からやや奥の方を窺うと、確かに人の姿があった。何をしているかは分からなかった。
まず思ったのは、ここから先はその方の保有する土地で、藪の刈り払いをなさっているという推測だった。そうなれば私は私有地に無断で入り込もうとする不審者…それも山歩きならまだしも自転車随伴で突撃しているわけで、傍目にも不審度は倍増してしまう。

取りあえず、直進の道は後回しにして右の道へ行ってみよう…
多少なりとも刈り払いが進んでいる。こっちじゃないと思うけど、どうも違うと思えば引き返し、目的を告げて道を尋ねれば不審度も和らぐだろうし…

そこで右へ曲がる道をたどってみることにした。その道はある程度視界が効き、平坦なので自転車に乗って進むことができた。
スタート直後からきつい坂の押し歩きだったので、乗れるのは有り難い…調子に乗ってややスピードを上げていたのだが…
ここで緊急ストップ!


上の写真だけでは何が起こりかけたのか分かりづらいだろう。こういうのが苦手な読者もあるかと思うので明示はしないが、危うくこの中に顔ごと突っ込むところだった。

申し訳ないけど、せっかく苦労して張ったネットを破壊させていただいた。

やがて前方に、起点付近にあった宇部変電所までエネルギーを送っている送電鉄塔の一つが見えてきた。
ううむ…こんな送電鉄塔の下を通る場面はなかった筈なのだが…


そしてその辺りから突然、それまで平坦で安泰に進んでいた道が荒れ始め、とても自転車に乗ったままでは進行できない急カーブと下り坂が控えていた。

いくら何でもこの道は違う。第一、今まで来た道に対して逆戻りするような方向だ。
そんなわけがない。道路河川管理課で見た地図では素直に山の方へ向かう直線だった。やはりさっきの分岐で右に曲がった時点でおかしい感じがする。


自転車を伴う踏査で何が辛いかと言うと、下るだけ坂を下りきった後で行き止まりとか違う道だったことが判明して引き返しを迫られる事態である。時間と体力の浪費になるから、そうなる前に察知しなければならない。
この急な坂を下る前にアッサリ道誤りを認め、さっきの右に曲がる前の分岐まで引き返すことに。

分岐路に戻るまでの間、私の方へ正対して歩いてくる人の姿を見つけた。間違いなくさっき藪の中でガサゴソと音を立てていたあの方だ。
助け船を求めよう。

こんな場所で自転車を乗っている自体で私も相当に怪しい存在と思われている筈だ。ここは至って平静を装い、山登りやハイカーがよくするように挨拶した。
「こんちは〜♪」
紺色の作業帽をかぶったその男性は50代後半〜60代くらいだった。さすがに突然こんな山中で自転車に乗る私の姿にびっくりなさっていたようだった。

(「市道崩金山線【2】」へ続く)

出典および編集追記:

1. 当時から奇妙だと思っていたことだが、起点の小字は崩ではなく大場山である。更に言えば金山も通過地点であり終点の字は赤岸である。本件については後に別途考察する。

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