市道北小羽山4号線【1】

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現地踏査日:2009/10/18
記事公開日:2012/2/7
あなたは「廃道」という言葉をご存じだろうか。

言葉はそのまま成りを表す。

廃された道…
様々な理由があり、現在は使われなくなった道である。
「Wikipedia - 廃道」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BB%83%E9%81%93
人の手によって管理されないものは、自然へ還ろうとする一般法則がある。
道路とて例外ではない。
人や車が通り、路面が磨かれ、磨り減り、補修される…一連のサイクルがあるからこそ、道が道たり得るのであり、人の手を離れれば急速に荒れ果てていく。
そのような道が、宇部市内にあった。
いや、恐らく廃道かそれに準ずるような道ならば、そう珍しいものではない。
既に自転車隊が走破した市道崩金山線とて、一部の区間は人の往来も殆どない荒れ果てた山道だった。
しかし今回レポートする廃道紛いのその道は、人里離れた山奥ではない。
ここ数十年のうちに開拓され、人が住まうようになった小羽山に眠っていたのである。
市道北小羽山4号線。
断っておくが、この市道は厳密な意味では廃道ではない。台帳に記載され、現在も正規の市道として管理されている現役の道である。

供用廃止などの理由で現役市道でなくなれば台帳から該当する経路が抹消される…例えば市道真締川西通り線の山大キャンパス付近は公園に転用され該当区間は市道指定区間から抹消されている

しかしこの市道の現況を目にすれば、あなたの中にある「廃道」のイメージにほぼぴったり重ね合わせられるだろうし、次にその市道の存在理由を考え始めるようになるかも知れない。

それでは、手元の資料を元に、この市道を可能な限り正確に辿ってみよう。
今回の市道完全走破は、厳しいものになりそうだ。

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市道北小羽山4号線の起点は極めて分かりやすい場所にある。
それは小羽山在住の方なら間違いなく一度は利用したことがある建物に隣接している。下の写真にも写っているのだが、何の施設かすぐお分かりになったであろう。


宇部小羽山郵便局である。
誰ですか?小羽山派出所って答えた人は?お世話になったことあるの?

宇部小羽山郵便局は昭和50年代中期に開局され、当時からその位置や規模を全く変えることなく運用されている特定郵便局である。小羽山にある唯一の郵便局であり、東・南・北と3地区に分かれる広大な小羽山全地区からの利用があるので、日中は人や車の出入りが絶えない。郵便局の駐車場に入りきれず、小羽山を貫くメインの市道(小羽山中央線)に路駐する車が目立つ。
真向かいが小羽山派出所なので路駐はとっても度胸が要ると思うのだが…


さて、郵便局紹介ではないので市道に話を移そう。

しかしこの写真で、これから挑む市道の起点がどこにあるかはすぐ想像ついただろう。
まさに、郵便局の駐車場入口も兼用しているこの細い道がそうである。


起点を中心とした地図を示そう。


上の地図を見てもこれから向かおうとする市道の経路が推測できたかも知れない。それはそうと、この細い道が「市道である」と断言したときの反応は、単純に2つに分かれると思う。
一つは
「えっ?こんな通路みたいな道が認定市道なの?」
これは妥当な反応と言えるだろう。
もう一つは、お届けしている市道レポートを読み慣れていらっしゃる方の、
「まあ…小羽山にはヘンな市道が多いみたいだからねぇ…」
という、分かったような分からないような反応である。

”変な市道”とは少々語弊があるが、これはある意味的を射ている。
一般に住宅地や団地内を通る市道群は、碁盤目状に整備され、良く言えば整然とした道、悪く言えばレポートする価値もない退屈な道になりがちである。しかしどういう訳か小羽山にある市道群はヘンな市道が多い。

まあ、御託はその位にして、先へ進んでみることにする。
もちろん毎度ながら、自転車を連れて行く。


自転車を連れて行くことに関しては「今のところは」困難はない。
しかし四輪の進攻に関しては、戦闘開始早々からお引き取り下さいの兆候が見えていた。


率直な感想…
「何とまあ、可愛いバリカーではないか」
幅1mもない小さなバリカーだが、立派にその先の四輪進入を挫折させる仕事をこなしている。
もちろん人や自転車は何の支障もなくすり抜けられる。道のド真ん中に設置されているために、その両脇を軽トラですら強行突破するのも物理的に不可能。

結局、この市道に関して四輪が通行と言うか進入可能なのは、起点から郵便局の駐車場付近に至る10m足らずである。車に関して言えば、この市道は郵便局の駐車場を利用する車が方向転換するスペースを提供しているに過ぎない。
正規に駐車場へ停めれば必ず「利用」することになる…幅がそう広くないので転回しづらい

郵便局の裏手からは、蛇瀬池を囲障するネットフェンスが始まっている。
このネットフェンスは、我が市道において最後の最後まで寄り添って頂くことになる。


ネットフェンスに取り付けられた注意書き。
この右横がフェンス門扉になっていて、蛇瀬池の畔へ向かうことができる。他にもいくつか経路はあるが、蛇瀬池の畔に接近するのに最も多用される小道だ。


車の通行は有り得ないものの、取りあえずアスファルト舗装路が続いている。
舗装もそんなに綻びはなく、人の往来はあるようだ。


進行方向左側に植え込みを隔てて小羽山ふれあいセンター(ここには市道北小羽山9号線というこれまたワケの分からない市道が接続されている)があり、その裏手を過ぎると市道は一旦カクッと折れている。

20mばかり進むと、我が市道は再び思い出したようにカクッと反対方向へ折れる。
正面に見えるのは、小羽山市営住宅8号棟である。


北小羽山地区にある一連の市営住宅アパートの周囲には通路が巡らされ、その多くが車の往来する認定市道になっている。しかしこの市道はスタート直後に四輪の進攻を断たれており、市住への車の出入りとしては全く使われておらず、恐らく今までに使われたこともないだろう。
実際、上の写真でも分かるように、市道から最も近い8号棟からも5m程度の高低差がある。8号棟を訪れる人はほぼ例外なくその前を通る別の市道小羽山3号線に車を停める。(公道でありながら駐車禁止になっていない
この市道と8号棟との直接の行き来は、車はもちろん歩行者ですら不可能なのだ。この高低差がある故に、どちらかと言えば蛇瀬池へ降りて行く方が近いくらいなのだ。

今度はかなり長いストレート。
まだ散歩などで通る人はあるのか、路面にさほど荒れは見られない。しかし道の両脇から雑草の進攻が始まっており、右手の蛇瀬池側にはネットフェンス設置時には存在しなかったであろう立木が伸びていた。


一体、何処へ向かおうとしているのだろう…

そのストレートの末端部で、我が市道は軽く左へカーブした。
しかしそろそろ草木の勢いが増してきたようで、ネットフェンスも飲み込まれつつある。


そこを曲がると…
何これ?行き止まり?


突然、アスファルト路は薮に飲み込まれてしまい先が見通せなくなる。
その左に人の踏み跡によって自然発生した通路があり、市住6号棟の下を通る市道小羽山3号線の屈曲部分に繋がっていた。

この市道が曲がりなりにも道形を保っていた理由はこれだ。

小羽山郵便局やバス停へ歩く人の近道になっている。

あるいは、北小羽山地区在住の方がペットを散歩させる経路になっているのかも知れない。歩く人があるからこそ、全体が荒れ果てずに済んでいたのだろう。

しかしこの地山が剥き出しになった踏み跡は人々が勝手に通った結果できたに過ぎず、市道ではない。単なる通路だ。

…って言うことは…この先は…?

当然の展開であるが、
廃道同然の荒れ道。
こっちが市道なのだ。


取りあえずまだアスファルト舗装された形跡は窺える。
しかしもう何年、何十年という長きに渡って使われたことがないのは、舗装面まで進出してきた草木の存在より明らかだった。

どのみち車両通行不能な我が市道なら、ここで左の獣道みたいな部分を通ってすぐ上を通る市道北小羽山3号線へ接続して終わり…となっていれば、まだ納得はできたかも知れない。

面白くもあり悲しくもあるが、事実はそうではなかった。
さて…我々はここを直進する。
直進しなければならない。
まだ終わってはいない。
そうは言うものの、さすがにこの先自転車を連れて行く意義が感じられない。


自転車はそこへ留守番させ、デジカメをポケットへ忍ばせて薮の中へ突撃開始する。
ここからは終点までは歩行踏査である。

幸い、元が舗装路面だったせいか、道なき道で藪漕ぎを迫られたときの最大の強敵、イバラ類は見られない。
しかし落ち葉はアスファルトを隠し、腐葉土と化した土の上から新たに草木が生い茂る状態。

市道を横切る側溝を見つけた。
一応、キチンとコンクリート蓋にグレーチング蓋も掛かっている。しかし通る人もなければ無用と思われたのか、端の方のコンクリート蓋は持ち去られ何処か別の場所に転用されたのか、数枚欠けていた。


それはすぐ上を走る市道北小羽山3号線を伝って集められた雨水の竪排水から来ていた。


薮に邪魔されて見づらいが、市道の折れ点にカーブミラーがあり、そこから斜面を伝って竪排水が至っている。
排水路は市道を横切り、すぐ右手下にある蛇瀬池に放流されていた。
正面微かに見えるのが市住の7号棟になる。


もはや立って歩けないくらいに上から横から薮が干渉し始めた。

その先で出くわしたのは、ここを住み処とする薮の先住民だった。
廃道ネコ?拡大対象画像です。
画像にマウスをかざすと拡大、ダブルクリックで最大化します。
クリックすれば元のサイズに戻ります。


どういう訳か、廃道や廃墟などの近辺には必ずといっていいほどネコが棲みついている。
外部からの干渉者がありえない廃道は、彼らには楽園のようだ。
野良らしいその猫は私に一瞥を加えた後でサッと薮の奥へ姿を潜めた。
家捜しするようで申し訳ないが、踏み込ませていただく。

もはやどう思っても市道という面影はない。
全くアスファルト面が見えず、下地が平坦だから道路だろう…と推測できる程度のレベルである。

カメラのシャッターを押すと、薮の暗がりでフラッシュが自動作動した。


ゴミの投棄も酷い。
上の写真では、段ボール箱が写っている。この他にも弁当殻やプラスチックの容器類が至る所に散乱していた。
さすが路線番号538「ゴミ屋」ならではだ…と思ったり…w

もうそろそろ進攻も限界。

路面の平坦性も失われ、草木が生い茂り、日照を勝ち取って育つことのできた木々が勢力を増し、力尽きた草木は枯れて地に自らのじゅうたんを敷き詰める…という自然のサイクルが営まれていた。


進攻不能…
そして 恐らくここが終点。

起点からずっと寄り添ってきたネットフェンスがここで直角に曲がり、市道の行く手を阻むように設置されている。
この先に道がないという何よりの証拠だ。
さすがにそのフェンスの先がどうなっているか進攻する気力はなかった…


草木の繁茂は、もはや最悪ペース。
いや、草木どころか、人の手では動かすこともままならない大岩が路上に陣取っていた。舗装した後でここに転がり出て来たのか、それとも既にアスファルト舗装自体存在しないのかも分からなかった。
ここで市道走破(歩破?)完了を宣言せざるを得ない。

終点から振り返って撮影。
自転車を脱ぎ捨てた地点からは約20m程度。しかし周囲は完全に薮に包まれて、自転車は元より進んできた道すらマトモには見通せない。


さて、一連の経路は全くの行き当たりばったりで得た情報ではない。
市の道路河川管理課で地図を眺めているうちに、藪へ突っ込んで行き止まりになる形で描かれていた市道のルートを見つけたのでメモし、現地を踏査したという訳だ。

今回はいつも提示する国土地理院の地図に書き入れたマップを掲載できない。 そこで拡大地図に直接ルートを書き込んでみた。
道路河川管理課の地図もこれと同等で、郵便局の横に始まり何度かの折れ点を経由して、蛇瀬池に突き出る半島部分に突き当たる場所までルートが描かれていた。


こんな廃道同然の道が認定市道であることも驚きなのだが、それ以上に疑問に思うのは
「この道は一体何処へ行きたかったのだろうか?」
という点である。

市住を造るときの資材搬入路に過ぎず、当初から何処へも接続する予定はなかったことも一応は考えられる。その可能性さえ排除できるなら、何も薮の中へ突っ込んで終わり…というような無駄な道造りをする筈もないだろう。

考えられるのは、蛇瀬池の西側、北小羽山3丁目付近の住宅群へ向かう経路である。当初そこまで造る予定があったものの、何らかの理由で中途頓挫してしまったのだろうか。

予算がなかった、通行需要が見込めなかった、すぐ上の市道北小羽山3号線に代替ルートを求めることができる…等々、理由はいろいろ考えられる。 蛇瀬池の半島部に手を加えることになり、景観保護の声が上がった、あるいは道路敷を確保できない地理的理由があった(この辺りは蛇瀬池に対してかなりの急斜面で平坦地の確保は困難)のかも知れない。

現時点でこの市道を整備し、車が通れるように改良したとしても、さほど通行需要が見込めるとは思えない。精々、歩行者や自転車にメリットがある位のものだ。この市道は蛇瀬池に沿って進むので、小羽山郵便局の横から直接北小羽山3丁目に抜けられれば、その一段上を通る市道北小羽山3号線を経由するよりはムダな上り下りを回避できる。

それにしても地元の必要という声が上がるとは思えない(需要があれば既に整備されていただろう)し、財政的に厳しい中、新規築道以前に既存の道路の管理費を計上することすら困難な現状なら、この市道は改良も廃道化処理もされず今の姿のままで在り続けるだろう。

その意味では、現在においては確かにかなりムダな道造りであったという点は否めない。
しかしだからと言って、現在において過去の施策を単純批判するのは早計である。

かつて小羽山地区を開拓し、住宅や団地が次々と建てられ道路が整備されている時代には、確かに将来的な展望で相応の需要が予測できていた。団地や宅地が計画されれば、連絡道路は先行して整備される。この市道程度の小粒な道を新規に造るのは、発案・計画から施工に至るプロセスは相対的に短かったに違いない。
その結果、時代が下って現役バリバリで働いている市道があれば、存在理由すら首を傾げたくなるような市道も出てくるのは、ある意味仕方ないとも言える。

数ある北小羽山地区にあっては、遺憾ながら「負け組」となってしまった市道北小羽山4号線。その途中まで住民が近道代わりに歩くことはあっても、アスファルト舗装されていながら四輪の車を通したことは一度もないし今後もまずあり得ない。悲哀さを滲ませるようなこの市道の現況も、高度経済成長時代にあっての時代の落とし子だったと言えるのかも知れない。
【路線データ】

名称市道北小羽山4号線
路線番号538
起点市道小羽山中央線・小羽山郵便局横
終点(不定)
延長約90m
通行制限車両の乗り入れ不能(バリカーあり)
備考近隣住民の通路的役割。終点付近は実質的に廃道状態。

延長など各データの正確性は保証できません。参考資料とお考えください
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ローカルSNSからお越しになった読者には、
もう、この記事って前に読んだことあるよ。
あれから何か新しい発見とか、ないの?
とか、お気楽な読者なら、
何か面白い写真でも撮って来なよ。
例えば雨の降る夜に廃道部分を撮った写真とか…
…なんて、言ってるかも知れない。

夜の写真は無理かも知れないけど、今の時期なら出来る”野ウサギごっこ♪”的な写真を撮って来たので、いずれ続編でお届けしよう。

(「市道北小羽山4号線【2】」へ続く)

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