奥宇内という集落の知名度は市内でも恐らくそう高くはない。生粋の宇部人でも何処にあるかも知らないという方が結構あると思う。市内の主要な道路や地名に造詣深いうちの親父も知らなかったし、私など暫くの間「おくうだい」と誤って覚えていた位だ。
(確か市道路課担当者も”おくうだい”と読んでいた…その読み方があるかどうかは分からない)
この市道の起点位置を示そう。
この地図を示したところで「あの道か」とすぐ分かるのは地元在住者くらいだろう。説明するのも長くなるのだが、小野の街並みを過ぎて北上し、国道490号を外れて大田川の左岸を遡行する別の市道(上小野下宇内線)を延々と走り、奥宇内集落に着く。市道上小野下宇内線が峠を避けて左折する分岐点にこの市道の起点がある。そこから峠を目指して進み、市境までが本路線となる…
…と、事務的に市道の所在地や経路を説明すればこれだけの話だ。地元の方にはお隣りの美祢市美東町に行く近道として役に立っているものの、市内在住の方には縁のない話である。車で通ったことがない方が大勢だし、私がここで記事にしなければ読者の殆どは永遠にその名前を知ることはなかっただろう。
何の話題もない市道を私が記事にするわけがない。読者だってある市道が記事になっていれば「きっと何かがある」と思うだろう。
そう… 何かがあった。
大ありなのだ。
特筆すべき話題は2つある。
一つは全く私個人に関すること、もう一つはこの市道が持つ客観的な特性である。
客観的な話題を含めて、私は一連の情報をインターネットという誰でも閲覧できる世界に提示して良いものか若干の逡巡を覚える。もしかして守秘義務に関わる内容があるのでは…という懸念があるのだ。
ただ、企業秘密めいた要素はないし、私だけはなくこの市道に関わった方は複数いらっしゃる。一般には大した話題ではなく誰もネットに情報を上げないというだけだ。
(その意味で私は紛れもなく先駆者になる)
この記事は他の市道レポートとは異質なものにならざるを得ない。他のレポートのように単に「市道を走りました。こんな面白いものがありました」で終わらせる積もりはない。私にとってはそれ以上の物語が詰まっているのだ。
そういう事情で、第一部では従来の形式を踏襲し、起点から終点までのスポット的映像を淡々と紹介しよう。そして第二部以下でこの市道に「詰まっているもの」を少しずつお伝えする。恐らく小説のように長いレポートになると思うので、ご了承頂きたい。
---
12月中旬の寒い午後、私は仏坂トンネルを訪れ、その周辺に眠る古道関連の初回踏査を終えた。そしてアジトへ帰宅する折りに美東町側からこの市道に向かった。帰るのに若干遠回りにはなるが、立ち寄ることは当初からスケジュールに組み込んであった。
美東町から市境を経て奥宇内へ向かったので、以下掲載する写真などの時系列はすべて逆順である。
(終点から走って撮影したものを起点側から構成するのって結構難しい…)
市道の起点である。
私が立っている位置は市道上小野下宇内線で、この市道は峠を避けて左折する。真っ直ぐ山手に伸びるのがこれから幾多の物語を紡ぐことになる市道奥宇内線だ。
先の国土地理院地図で示される通り、この地点で既に標高94mである。国道2号が宇部市を通過する最高地点である吉見峠(標高90m)よりも高い。
(しかし後で述べるように寒さなどに関しては吉見地区よりも遥かに厳しい)
起点のすぐ傍らにコンクリートの平屋があった。
宇内ポンプ室という表示板が掛かっていた。
後で紹介する調整池に飲料水をポンプアップしている。割と新しい建て屋である。
ポンプ室の横に石碑がある。
何と書いてあるか読み取れないくらいに古い。
この場所から振り返って撮影。
もう一対の石碑は畦畔部分に建てられていた。
大正十五年と読み取れる。
花崗岩の石碑によくあるように、側面に穴が空けられていた。祭りのときこの石碑に沿わせて幟を建てて固定するのに使われるようだ。
起点から市道はただちに高度を上げていく。勾配はかなりきつめて山裾を伝いながら登っている。
この大きなカーブから奥宇内集落を見下ろしている。
足元まで棚田が連なっている。如何にも里山にありがちな長閑な風景だ。
同じカーブ地点の反対側には取り付け道があり、何やらフェンスに囲まれた設備がある。
宇内調整池の文字が見える。
起点にはポンプ室があった。ここまで水道水をポンプアップし、集落内に配水するための設備だ。
調整池を少し過ぎたところから更に登り坂が急になる。
左側には市道を離れて溜め池に向かう通路があった。
市道は進行方向右手は急な山の斜面、左側はすぐ溜め池という狭い領域を登っていく。
センターラインはなく側帯のみだが、普通車同士でも徐行せず減速するだけで離合できる幅がある。
ガードレールからちょっと身を乗り出して撮影。
市道の真下がすぐ溜め池になっている。
ほぼ二等辺三角形をした溜め池である。名前はもちろん分からない。
この坂道を終点側に向かって歩き、振り返って撮影。
溜め池に接する部分はほぼ直線である。左端に見える黄色にペイントされたコンクリート柱は市の官民境界杭だ。
溜め池の直線を過ぎるときついヘアピンカーブに差し掛かる。
カーブの中ほどから撮影。縦断勾配もきつい。
実際には先の溜め池横まで一気に車で降りてきたので撮影はしていないが、この先もう一つのヘアピンカーブを経て最高地点に至る。
宇部市側に向けて市境標識が立っていた。
(美祢市入りする側に標識はなかった)
美東町側から走ったので、実際にはこの市境標識を最初に撮影した。以下、要所要所で車を停め、車から降りて周辺を歩いて撮影したものを起点側から再配置している。
ここまで観た限り、これといった特徴もない市道に思えた筈だ。起点からいきなりカーブの目立つ登り坂を進み、溜め池の横だけ短い直線的があってヘアピンカーブ2つで市境へ到達して終わり…に過ぎない。私個人に纏わる何かと、特性を隠し持っているいうこの市道は、単なる普通の田舎道で特別な要素はなさそうに思える。
それでは…
少しずつ熱く語ってみようか…
(語ってもいいのかなぁ…何も問題にならなければいいけどね^^;)少しずつ熱く語ってみようか…
(「市道奥宇内線【2】」へ続く)