松崎の用水路・第一次踏査【3】

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(「松崎の用水路・第一次踏査【2】」の続き)

水路の斜面は上の方に手がかりとなる木が若干あるものの、下の方はまったくなかった。枯れ葉の上から両手をつき、左足を伸ばして水路と思しき端っこに足先を着けた。似たような動作は真締川のタービン排水口付近へ降りるときに経験し、高低差も同じくらいだったが、足下の状況がまったく分からない分だけはるかに難易度が高かった。

まだどれだけ足下がしっかりしているのか分からない。左手で握った木の根っこから少しずつ足へと体重移動した。
見る間に足下が水を吸って膨潤化した木の葉の中へズブズブと沈んだ。


どうにかスニーカーの浸水は免れる程度に沈み込んだところで足下の沈下が止まった。多分これ以上は沈み込まないだろう…左手を更に緩めて右足を大きく伸ばし、水路の反対側の斜面に押しつけた。
上のショットはその体勢を取った後に撮影されたものである

両足で水路を跨ぐような格好で仁王立ちする格好になった。
水路の中央部分には水が溜まっているようなので、このまま水路の両端を交互に踏みつけながらポータル前へ移動する必要があった。


それにしても…
ついに来た。
両足の安定を確かめた上で中腰になり正面から撮った映像だ。
市内で一体どれほどの人によってこの物件が知られているのだろう…近年どれほどの方がここへ到達しただろうか…と思われた瞬間だった。


周囲の荒れ方が著しい。水路部の末端には水が流れ込むのを阻止する目的からか土のうが積まれていた。扁額は松崎側と同様存在しなかった。
要石付近の拡大映像はこちら

撮影環境はとても悪い。両側が切り立った深い水路の底なので日照は僅かしかなかった。内部に滞水しているせいもあって湿度が異様に高く、暖かな時期柄小さな羽虫が飛び交っていた。もう少し気温が上がれば長生炭鉱の火薬庫跡のように間違いなくヤブ蚊に悩まされていただろう。両側が崩れるような心配はないにしても、穴蔵の中から四本足で駆ける生物が突進してきたなら二本足の野ウサギ(?)は逃げようがない。正直あまり長居はしたくない場所だった。

ポータルのレンガ造りはほぼ同等だったが、松崎側にはあった笠石と柱部分の補強がこちらには付属していない。そのため若干小さめな印象を与える。重厚さはあるもののポータルに主従をつけるとするなら松崎側の方が明らかに主だ。
隧道入口部に土のうが積まれているということは、水路を管理する人の存在があって意図的に置いていったのだろう。もっとも周辺に道はまったくなく、一体何処から土のうを運び込んだのだろうかとも思われた。

内部の撮影を試みる。すぐ上が沢地で湧水が多く、ポータルのすぐ横からかなり流れ落ちていた。
フラッシュ撮影は行わず外部からの自然光のみで撮っている。


もう一歩奥へ…と踏み出したいところだが如何にも足下が悪く動きようがなかった。
もう一枚は足下が分かるように縦アングルで撮影してみた。


レンガ巻きはポータル部分のみですぐにコンクリート巻きになっていた。代わりにずっと奥までコンクリート巻き立てが見えた。入口から2mも進まないうちにかなりの区間にわたって滞水していた。

このショット以外にも更に隧道内部へ両手を差し出して撮ってはいたのだが、真っ暗になって何を撮ったのやらも分からない映像だった。フラッシュ撮影は方法が分からなかったし、既にバッテリーサインが残り2つになっていた[1]ので次回送りとして周辺の状況記録を優先した。

両足を水路の端に置いているのでその場で回れ右をするのも一苦労である。
斜面に手をつき、なるべく足を置いていた場所に近いところへ逆の足を移して方向転換した。


両足を交互に水路の縁へ押しつけつつ移動する。
両側から枯れ木の倒れ込みが目立つ。まったく酷い場所だ。


この先は何処へ続いているのだろう…それによっては水路や隧道の素性にヒントを与えてくれる可能性があった。しかし…奥へ奥へと進むと自分はマトモに降りてきた通りの踏み跡を戻ることができるのか不安になってきた。クマが出ることはあり得ないが、それ以外の小動物ならどこから不意に飛び出してきてもおかしくない程に人気の感じられない藪だった。
ここまでで止めておこう…
カメラが戻ったらまた来ればいい…
無理に今この先を辿らなくてもすぐ現状が変わってしまう場所ではない。それに周囲の状況からこの先の様相も大体想像はついたし時間的制約もあった。

可能な限りポータルから離れた場所で振り返って撮影。
本当に灌漑用水路なのだろうか…ここまで荒れるなんて一体どれほど放置されていたのだろう。こんな酷い溝同然の先に立派なレンガ巻き隧道があるのが如何にも場違いだった。


水路の両岸踏みつけ歩行で下降した場所まで戻ってきた。
斜面の枝に引っかけておいたショルダーバッグを回収しなければならない。


大丈夫…時間的余裕とバッテリーフル装填のカメラがあれば必ずもう一度ここへ来れる…
今すぐ撮って画像データを持ち帰らなければならないものはもうないだろうか…


そう思ってポータルのすぐ右横のこの部分を撮影した。
最初にポータル前へ蹲踞したときから気になっていた部分だ。


見るからに脆い土壁のような土質だ。これは松崎側のポータルから奥を覗き込んだとき見えた素堀り部分と一致する。土の中に玉砂利のようなものが無数に押し込められたような構成だ。現地ではあまり見慣れない土質だと思いつつ撮影したのだが、もしかするとこれは松崎という地の形成された履歴を示すものかも知れないことに後になって気づいた。
別編でいずれ述べる予定

さて、降りてきたからには登り直さなければならない。
バッグの下から垂れ下がっている木の根をロープ代わりに使ったのだった。
靴の裏で踏みつけ斜面をこすった跡が見えている


木の根は充分に堅牢だろうが、それでも全体重を預けるには不安だった。この傾斜に滑りやすさでは足の裏は体重を支えるのにほとんど役立たなかった。再びカメラをポケットに仕舞って右手を木の根、左手はその横にある別の埋もれた根に添えて水路の端の地面を蹴って上体を持ち上げた。片方の足を持ち上げる短い一瞬はまったく無防備で、もしそのタイミングで足下が滑ったら敢えなく転落する危うい状況だった。
ここで滑って泥だらけになったらこの後の会合会場で入場拒否されていたかも…^^;

ちょっと手は汚れたが何とかこの課題をこなしてショルダーバッグを右肩へ戻した。
さっきしゃがみ込んで隧道内部を撮影した地点が足下にありながらこことの高低差は既に4mくらいついている。


こんな状況なので、ポータル前に再訪する予定はあるにしてもこのルートでの下降はあまりにも危険だ。もうちょっと安全に接近できる経路を見つける必要があるだろう。
そこから尾根伝いの道まで戻るのは純粋に肉体労働だった。手がかりとなる枝さえ見つかるなら、足元の滑りをあまり気にせずに済む分だけ登りの方がラクとも言えた。

視界が開け鉄塔が見えたあの場所である。
何処に出るか分からないが、先に鉄塔を撮影したときここから斜面の上部に沿って下っていく踏み跡があるのを見つけていた。


斜面上端をなぞるように下っていく。とても道とは言い難いが、通る人はあるらしく自然に踏み跡ができていた。
見晴らしが効くため自分の位置が確認できるのは好適だ。


本編とは殆ど関係がないがここからの遠景を一枚ほど。
藪や湿っぽい隧道ばかり観てきたから、この場所からの眺めは私だけでなく写真で観る読者にとっても開放感があることだろう。


厚東川が松崎のところで軽く屈曲しているのがよく分かる。実のところ屈曲と言うよりは、上の写真で右側へ伸びる方が昔の海岸線で、現在の土手道(市道岩鼻中山線)から内側は浜田開作による陸地化である。

さて、上端伝いの踏み跡を辿っていると、唐突に道がなくなる場所があった。


もしかするとここが最初に報告のあったあの場所かも知れない…と感じた。
隧道の最初の報告がもたらされたとき、岩鼻公園の奥をずんずん歩いていて知らない道を通って下へ降りる途中に見つけたと聞いていたからだ。

そこで竹藪を通して山側の方を観察してみると…
確かに下の方へ隧道ポータルが見えていた。


すぐ下の方へ見えるというのも奇妙だ。即ち自分の居る位置は右側がもの凄く急な傾斜地で遙か下の方に住宅が並んでいながら、左側も低い方へ落ち込む沢地である。現在場所は斧の刃先の上を歩くような狭い踏み跡で、もの凄く不自然な地形だ。住宅を建てるために山を切り崩した結果ではないだろうか。

やがて先の方でエッジ道は完全になくなり、隧道ポータルが見える側へ降りざるを得なくなった。
鋭角に切り返して沢地へ降りる経路で、正面に先ほどのポータルが見えるようになった。


これが正規の道とはとても言い難いが、次回調査するときはこの道を通れば遠回りながらも斜面を直接登るよりは楽な筈だ。

もうそろそろ昼からの会合へ向かうのにいい時間になってきたので自転車を置いていたところまで戻ることにした。
すぐその横に近くの住民のものと思われる現場ハウスのようなものがあった。


何となく人の気配が感じられたので、もし誰が居れば敢えて声を掛けてみようと思った。これほど近くにお住まいなら、隧道について何かご存じと思われたので。しかしハウスの中には誰も居なかった。

体力勝負となる部分もあったが、何とか報告されていた分とその反対側のポータルを映像に収めることができた。
かなり注意はしていたもののほいとプルーフではないパンツで藪を歩き回ったので若干は汚れたし、帽子や服の背中には枯れ葉程度はくっついていたかも知れない。しかしスニーカーの中まで浸水するほどの失敗を犯すことなく次の会合先へ向かえたのはラッキーであった。[2]

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会合終了後、アジトへ戻っての報告は[3]で行っている。第二次踏査はカメラが修理から戻ってきた4月上旬に行っている。大きな成果はないが現地のフラッシュオン画像と動画を採取している。いずれ後続記事を案内する予定である。
出典および編集追記:

1. サブのカメラは通常充電状態でバッテリーサインが3つで2つになってからも通常の撮影なら数十枚できることは分かっていた。しかし動画やフラッシュオンでの撮影は電力消費が大きくワンショットでバッテリー残がサイン1つになることがあったので自重した。

2.「FB|ミーティング中」での投稿による。(要ログイン・制限)

3.「FB|2016/3/20のタイムライン(要ログイン)
なお、タイムラインでは大迫池が請堤の延長のように書かれているが後で誤りであることが判明している。請堤と大迫溜め池はそれぞれが独立して存在していたようである。

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