市村境界石

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記事作成日:2021/4/22
最終編集日:2021/4/24
ここでは、宇部市(旧沖宇部村)と旧西岐波村との境界線に沿って据えられている石柱を市村境界石[1]と題してまとめている。
写真は最も海側にある市村境界石で、個人的には2番目の再発見だった。
2017年頃に横付けで建っていた電信柱が移設されている


知られている市村境界石はすべて花崗岩柱で、市村を上部に横書き状態で刻まれ境界を大きめの文字で縦に刻んでいる。他の面に文字が刻まれているものは今のところ一つも知られていない。
《 探索の意義 》
藩政時代には一般的だった周防の国と長門の国の国境は、瀬戸内海より内陸部に向かって周防側は西岐波村、長門側は沖宇部村だった。沖宇部村は大正10年11月1日に他の4ヶ村と共に合併し宇部市が誕生した。したがって市村境界石は宇部市と西岐波村の境界を示す印であると共に、市制へ移行する際に境界が変動していない限りはそのまま周防国と長門国の国境を意味すると言える。

周防と長門の国境位置を示すものとしては、他に黒岩天神にある国境石や今坂と割木松の間に置かれた国境柱などが知られる。市村境界石は宇部市と旧西岐波村の境界に複数箇所見つかっている。尾根伝いに国境が存在していたものの、早くから拓かれ尾根筋が分かりづらくなっていたことから境界石を据えて位置を定めたものと思われる。国境を挟んでの入会権などを巡って諍いが多かったことは、沖宇部村と西岐波村にまたがって存在する論瀬(ろんぜ)という小字名からも窺い知れる。

市村境界石がいつ頃据えられたか、正確に何ヶ所あってどの位置に存在するかなどについては未だ史料に接することができておらず明確でない。この総括記事を作成する現時点で4ヶ所が知られている。
《 既知の市村境界石 》
以下、個人的に再発見した順に掲載している。特に最後の4番目のものはほんの数日前に再発見されている。所在地情報などはリンク先記事を参照されたい。
【 一番目の石柱 】
常盤ふれあいセンター前を通る古道沿いに存在する。縦横の長さがほぼ等しい標準的なサイズで、後に同種のものを探す基準となった。


初めて見つけたのは2012年1月8日で、文字が見える部分を撮った画像しか存在せず、今では発見した経緯がよく分からない。
人や自転車が里道を通るとき石柱に躓く恐れがあるからか、近年は工事用のセフティコーンが被せられている。
二番目の石柱
市道亀浦線沿いに存在し、恐らくもっとも海側に存在する市村境界石である。
最初の個人的再発見は2013年8月25日だった。


この市村境界石だけは横幅が他のものよりも広く、読み取りやすいように文字に墨入れされている。亀浦古墳や昔の鍋島に向かう道の途中にあり、恐らくもっとも知名度が高い。目に付きやすいため大事にされてきたようである。
三番目の石柱
市道岡ノ辻今村線沿いにある民家のブロック塀に横付けされる形で存在する。
再発見は2015年12月29日で、地元在住民に教えられる形で見つけている。


サイズは標準的であるが、ブロック塀に沿う形で据えられているので注意して観察しないと気が付かない。個人的にはこの市道自体は自転車で複数回通っており、そのときには全く気付いていなかった。

現在のところ西岐波村相当エリアのもっとも北側で再発見された市村境界石である。
【 四番目の石柱 】
亀浦の住宅地内に取り残された里道沿いに存在し、2021年4月に見つかった。
既知の市村境界石のうちでもっとも判読が困難である。


この辺りに国境が通っていることは分かっていたが、この里道自体は見落とされていた。初めて通ったとき周辺に遺る古い素材(割って並べられた常盤系の青っぽい石材)などから、単純に里道の記録目的からこの石柱を撮影していた。帰宅後、撮影した石柱の裏側に文字のような凹凸がみられることから市村境界石ではないかという疑念が働いた。翌日ただちに現地で再度精密な撮影を行い、第四の市村境界石であることが確定した。

写真のように文字は墨入れされておらず刻みも淡い。更に午後訪れると文字の刻まれた部分が逆光になることから、目視での直接的な確認ができていなかった。予備知識なしでこの石柱を眺めても文字が刻まれていることを見抜けない。既知3例の市村境界石で文字サイズと配置を覚えていたので、淡い刻みながらも市村境界の文字を判読することができた。
出典および編集追記:

1. 西岐波村が宇部市に合併したのは昭和18年なので、すべての石柱が戦前に据えられたと考えられる。当時は右書きであったことから村市境界石と呼ぶべきかも知れない。今のところこの石柱に関する史料が見つからないこと、既に市村境界石の名称でFBを含めてかなり多くの場所へ記載してしまったことから明確な史料が現れるまでは暫定的に市村境界石という呼称を用いる。

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