恩田運動公園・恩田プールの廃止について

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記事作成日:2020/6/1
最終編集日:2021/6/1
ここでは、恩田運動公園に存在していた恩田プールの廃止について記述している。
写真は閉鎖された後の25mプールと徒渉プール。
許可を得て入場し撮影している


一連の記述は、当初恩田プールの総括記事に収録していた。記述量が多くなったことと2020年にその後の動向を把握できたので、独立記事に変更している。なお、このプールは直営時代は市営プールと呼ばれ、後に恩田プールと呼ばれるようになったが、以下特段の断りがない限り「恩田プール」の表記で記述する。
《 背景 》
プールの廃止は、老朽化した恩田運動公園全体のリニューアルの一つに過ぎない。実際、そのことを知ったのは恩田スポーツパーク構想のワークショップ(WS)に出席したときだった。即ち平成期に機能増強された宇部市野球場、2年間を経ての耐震補強工事が終わった俵田体育館を除いて、他の恩田運動公園にあるものすべてが改修対象となっていた。

したがって市からすれば、昭和30年代建設で老朽化が著しいプールの廃止は殆ど既定路線のような論じられ方だった。他方、慣れ親しんだ恩田プールが改修どころか廃止され取り壊されることを初めて知ったWS参加者が極めて多く、衝撃を持って受け止められた。

恩田プールの廃止はWS参加者以外にも公表されたが、やはり市民の耳目には充分達していなかった。老朽化を理由とした取り壊しに理解を示す市民は多くても、プールを再建せず他の施設を造る計画が盛り込まれていた恩田スポーツパーク構想の素案に極めて多くの市民から反対意見が寄せられた。その反響の大きさは、当初予定されていた素案の策定期日が先延ばしされたことで如実に示される。
【 市のスタンス 】
市が恩田プールを廃止する理由は概ね以下の通りとされる。これにはプールを一旦取り壊すべき理由も含まれる。
(1) プールおよび関連設備が老朽化し維持管理が困難になっている。
(2) プールの運営コストに見合う収益がなく赤字経営となっている。
(3) 学校や民間施設で代替可能なプールが存在している。
プールおよび関連施設の殆どすべてが昭和30年代の建設であり、経年変化が著しい。特に深刻なのはプールの水を循環させるポンプ系設備で、去年も営業シーズン中に不具合が発生し当座凌ぎで補修し切り抜けている。設備が古いため交換可能な部品が入手不可能であり、ポンプ室も通常はメンテナンスのために上部を開口部構造とするのだが、初期の建設からか建屋の天井部がコンクリートで覆われているためポンプやタンクの搬出自体不可能であることが補修困難の理由である。

プールそのものも水漏れの補修など対策が必要な箇所がある。管理棟も同期に建設されているため老朽化は元よりバリアフリーな設計となっていない。更衣室の上がり口には段差があり、床はコンクリート打ちっ放しで水に濡れると極めて滑りやすい。シャワー室のタイルや天井も一部が剥げている。不便というだけでなく現在の運動施設について安全面が充分配慮されていない設計が散見される。以上の理由は、プールの再建を行うか否かにかかわらず一旦取り壊すべき理由となっている。

プールを廃止した後に再建しない理由として、一つは収益の問題がある。昔は市営プールと呼ばれていたようにかつては市の直轄で、利用料金は極めて低廉に据え置かれていた。高いお金を払わずとも安価で安全な水泳環境が得られることで市民に与えた恩恵は大きい。しかしその低価格性は将来的な設備更新を反映していなかったため、老朽化してしまった後に更新すべき余剰金を蓄えておくことができなかった。利用料金が安すぎる点はかなりの指摘があったが、改定するには議会を通す必要があることから措置されないままになっていた。

プール開催期間は7〜8月の2ヶ月のみであり、利用者が増えるのは7月中旬以降の夏休みに入ってからである。更に毎週月曜日が定休のままで午後6時以降の営業はない。それでなくても廉価なのに営業機会を自ら削ってしまっている。利用者の多寡にかかわらずプール維持の水道代や安全面での監視員配置のコストがかかる。敷地内にも植わっているメタセコイアが秋口以降に落とす葉がプールにも堆積し、清掃にかかる維持管理の手間はむしろプール営業外期間の方が大きい。

二つ目の理由として、恩田プール以外に代替可能なプールが既に市内外で存在していることである。プールが建設された昭和30年代初頭では、まだプールを持たない学校もあった。現在では娯楽の多様化によりプールでの水遊び以外を求める人があること、市内各地で民間施設のプールが建設されていることから、市営としてのプールの役割は終わったという見方がなされている。
《 時系列 》
以下にプール廃止議論が始まってからの主な出来事を時系列で並べた。個人的に取得した意見やメディアによって報じられた内容の双方が含まれる。
【 2019年 】
月日出来事
7/1今シーズン最後のプール開き。恩田スポーツパーク構想でプールが廃止される件について多数の反対意見が寄せられているようで、来年3月に予定されていた構想の策定を先送りし、プール利用期間の7〜8月に利用者アンケートを採るとしている。[7]
7/25宇部市水泳連盟がプール存続を呼びかけるための署名活動を開始する。真にプールを必要とする人々の声を届けることが目的であるため署名目標人数は設定されていない。8月25日まで行い9月下旬に市へ提出されることとなっていた。[8]
7/31サンデー宇部のコラム「恩田運動公園のプール(Vol.38)」が配信される。コラムの執筆にあたっては行政批判に繋がらないように現在の状況を確認し、記述内容も配慮した上で行っている。
9/12恩田プール利用者に対するアンケート結果が公表され、54%の利用者が存続を希望していることが判明する。[9]プール廃止により先送りされていた恩田スポーツパーク構想素案は10月末を目処に策定されることとなっている。
その後恩田プールに関する情報がなく、動向を知ったのは翌年の5月以降であった。
【 2020年 】
月日出来事
5/27市スポーツ振興に出向いて市営プールのその後の動向について確認する。(→廃止確定後の動向)また、再度の恩田プールの撮影のために許諾を頂く。
5/29宇部市体育協会を介して恩田プールへ入場し2度目の撮影を行う。
将来的に恩田プールは取り壊されることが確定している。その折りには継続監視対象物件として変化を記録する予定である。
《 廃止確定後の動向 》
以下に個人的な意見をまとめている。なお、前述のWSで意見を述べたときとその後では情勢の変化により少しずつ考えが変遷してきたので、年度ごとに分割した。

情報以下の記述には個人的な意見が含まれます。
【 2019年 】
以下にプール廃止が判明した直後の個人的な意見を記述する。なお、後述するように2020年に入ってからは情勢が大きく変わってしまったので、現在もこの通りの考えを持っているとは言えないことをお断りする。

昔慣れ親しんだものが先々で取り壊されると聞くと、人は動揺し悲しむ。そして出来ることなら存続させて欲しいと願う。そういうノスタルジックな理由で温存を求めると、街の新陳代謝が進まなくなってしまう。殊にその古さ故に不便なだけでなく安全性や利便面が脅かされていて完全な造り替えないしは取り壊し以外手段がないなら、その映像記録を遺して取り壊すこともやむなしと考える。他地区にみられる震災で破壊された構造物を災害遺構として保存するのも度が過ぎれば街が変われなくなってしまう。

他方、プールに限定しそれを取り壊し再建しない手法を採ったとしても、取り壊すだけで費用がかかる。コストを投じて得られる利益は精々それが在った相応に広い場所くらいのもので、コンクリート殻と鉄筋は再生ルートに乗せることでいくらかの資材費が回収できるに過ぎない負の資産である。現地にスケートボードの練習場を造るといった案が提出され、実際に7月にはプール前の広場でイベントも開催されている。例えば徒渉プールは広範囲にフラットなコンクリート面であるので、これをわざわざ取り壊して再びスケートボードの練習場のためにフラットなコンクリート面を打設するのは、今あるものの有効活用を端から放棄した設計手法とも言える。

行政の施策は得てして何かを取り壊したとき、すぐ跡地に代わりとなる別のものを造りたがる。意見がまとまらないうちは暫く更地のままにしておき時間をかけて市民の意見を汲み上げるといったことを何故かしない。素案ではプール廃止の如何に関わらず取り壊すことを盛り込んでいるが、そもそも現在ほどプール存続の意見が分かれているなら営業休止を明言するにとどめ、取り壊しは先送りすべきである。市外だが山陽小野田市の東糸根公園にあるプールも、営業停止から何年も経ちながらそのまま放置されている。来訪者からのイメージは良くないだろうが、状況が変わればバリアフリー化などの改修を加えて再生することが可能である。取り壊して別のものを造る行為は、行政が市民に下す「ここにもうプールは要らない」という最終宣告に等しい。

次にプールの必要性についてだが、建設された昭和30年代と比べて確かに環境は変わっている。殆どの小中高で独自のプールを所有し、更に一般向けでも民間でプールを主体に営業している企業が複数社ある。阿知須のきらら浜には50mの公認プールがあるので恩田プールで保有する意義に薄いという意見もある。しかしそれらは水泳をスポーツとして嗜み日常的に取り入れている人々の意見である。例えば市内にいくつかある民間運営のプールは会員制であり登録が必要である。他方、恩田プールはそこまで構えた取り組み方ではなく、暑いから水遊びに行こうという人々にも利用されている。このことは徒渉プールでは特に強い。恩田プールが廃止されれば、そのような人々が涼を求めて気軽に遊びに行く場が失われることとなる。

このような利用者がどの程度あるのか、恩田プールの存続がどれほど求められているのかをリサーチすることも兼ねて7月末にはインターネット市民モニターでもアンケート採取されている。ただしモニター登録者は市民全体からするとごく僅かであり、恩田プールが存続の岐路に立たされている現状を知らない市民が非常に多い。また、7月末現在で最後の営業を行っている恩田プール当所では今季が最後であることの掲示や告知は何もされておらず、利用者アンケートも採取されていない。

明白に表へは出て来ないだけで、恩田プールの今季営業終了とプール廃止論が大変な波紋を呼んでいる。現在、市内で新規に造られている大規模物件は行政主導で進行させている宇部市役所新庁舎建設くらいのものであり、一般市民にとっては宇部井筒屋の閉店レッドキャベツ新天町店の撤収、更に追い打ちを掛けるように消防法の絡みで次々と消されていった市内諸々の個人営業の店舗といった感じで、慣れ親しんだものが次々と消えゆくばかりといったイメージがある。そこへ来て恩田スポーツパーク構想におけるリニューアルという中で、次にどれほど市民挙って愉しませてくれるようなものが明確に示されないままに、市民の慣れ親しんだプールは取り壊しありきの議論で、しかも再建も考えていなかった…という状況に臨んで、どれほどの市民がそのプランに賛同してくれるだろうかというものである。
【 2020年 】
2020年に入ってすぐに世界を震撼させ、今も危機に晒されているcovid19は現代社会にパラダイムシフトをもたらした。これによって人々の関わり合い方に新たな知見が拡がってきたので、前項の2019年までとは別に以下のように考え方を修正している。

現在ある恩田プールを廃止して機能を充実させた上位互換のプールが必要である。ただしそれは同じ場所である必要はなく、他の場所が適正と判断されるなら反対しない。また、市内にある小中学校の老朽化したプールは基本的にすべて廃止し、上位互換のプールで授業を行うのが妥当である。

この理由は、当初市が提示していた意見とほぼ同様である。
(1) 市内の各小中学校が個別にプールを持つのは効率が悪い。
(2) プールの運営コストに見合う収益がなく赤字経営となっている。
(3) 学校や民間施設で代替可能なプールが存在している。
新しく建設されるプールは、当然ながら前述のcovid19で得られた知見を遵守するような仕様にする必要がある。特に義務教育の体育の授業で水泳を今後も行うことを前提とするなら、各学校からはスクールバスで生徒を新プールまで送迎し授業を行うこととなる。厚東区や吉部といった市街部から遠い場所は、新プールまでの往復だけで1時限分の時間を要してしまうので、同等の機能を持ち規模をやや小さくした新プールが必要かも知れない。

ただしこれは「義務教育の体育で水泳の授業を行う」ことが前提であり、将来的にこれが崩れる可能性がある。泳ぐ技能の体得は必要と考えるが、義務教育でそれを行うには他の教科に比べて(普段着から水着の更衣やプールの維持管理コストなど)あまりにも時間的コスト的代償が大きいため、個人的には体育の授業から水泳を廃止して他の内容に差し替える考えを支持する。現代人が水泳の技術を体得していなければ困ることは殆どあり得ず、本人の興味に応じて個別に技能教室へ通えば足りる。泳法の体得なら、むしろ着衣状態で我が身を護る術を指導した方が良い。

水泳に限らず体育の授業内容の多くが学童の体格差や技能、体力といった本人の努力で克服することが困難な部分に依存しており、義務教育において「全員が一定水準まで出来ることを前提とした」指導は廃止すべきと考えている。それはまったく前近代的な教育であり、水泳なら泳ぎ方の概説や愉しみ方、潜んでいる危険などについて教えるのが今後の体育教育である。
《 記事作成後の変化 》
2021年5月末より25mプールと徒渉プールの解体撤去作業が始まった。工事は同月29日から着工されており、31日にたまたま現地を通り掛かったことで知った。遅い時間だったがざっと写真を撮って報告したところ、恩田プールを知る多くの購読者から惜しむコメントが寄せられた。[2] ただし単純に解体撤去し更地にするのが目的ではなく、同じ場所に幼児向けの水遊び場を建設するのが目的とされている。建設スペースにかからない50mプールや管理棟は当面撤去の対象外とみられる。

ともあれ部分的にせよ歴史ある恩田プールの解体が始まったので、この単独記事はここで締め切る。奇しくも単独記事を作成してちょうど1年後のことであった。
出典および編集追記:

1.「恩田運動公園水泳プールの今後のあり方|宇部市スポーツ振興課」および
アンケート(スポーツ振興課) 恩田運動公園水泳プールの今後のあり方|宇部市」による。

2.「FBページ|2021/5/31の投稿

4.「FBページ|公益財団法人宇部市体育協会(2019/7/31)

5.「『恩田スポーツパーク構想(素案)』に対する意見を募集

6.「屋根付きグラウンドなど新設 恩田スポーツパーク宇部市素案|山口新聞

7.「廃止か更新か議論の中、恩田プール一般開放始まる|宇部日報」
最後の夏、水遊び楽しむ 宇部の恩田運動公園水泳プール|山口新聞(2019/7/1)」

8.「市民プール存続呼び掛け、宇部市水泳連盟が署名活動|宇部日報(2019/7/25)」

9.「『市内に新たなプールの整備が必要』は54%、市民アンケートの一部を公表|宇部日報(2019/9/12)」

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