塚穴川・夫婦池接続部

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現地踏査日:2012/3/9
記事公開日:2012/3/12
塚穴川の記事の取っ掛かりとなった「夫婦池・汀踏査【1】」では夫婦池から国道横断部手前までで、しかも塚穴川そのものよりも周辺にあるものが主体になってしまっていた。
あれから2ヶ月後、そのときにやり残していた宿題を片付けることができた。その後前編の続きとして下流側の調査も行ったので、本編は続編になる【】とは別に派生記事としている。

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時刻は既に午後3時過ぎ。お気楽な身分だと言われそうだが、私は平日のこんな時間に国道190号の夫婦池南岸に来ていた。しかも仕事の用事でたまたまこの方面へ来たのではなく、始めから踏査の目的で自転車を漕いでいた。
遊びと仕事のけじめがつかないので、本当言うと平日は自転車で踏査を行う積もりはなかったのだが…
ゆとり学生が喧しくてアジトに居ても仕事にならずストレス溜まるので飛び出してきた格好…

さて、前編をお読みになった方ならこの場所がどの辺りか覚えていらっしゃるだろう。


振り返って撮影。
国道190号の夫婦池本土手を過ぎ、塚穴川を渡ってすぐの場所だ。ここに歩道のガードパイプが切れている場所がある。


ここは以前も夫婦池の汀を辿ろうと目論んでいたときにも立ち寄っている。しかしその時はまだ藪が酷く完全にお手上げ状態だった。
再度ここへ来たのは他でもない。前編においてやり残していた宿題を片付けるためだった。
塚穴川の夫婦池接続部はどうなっているのだろう…
そこには接近可能?
3月は未だ草木が伸び始めるには寒い。つまり藪の勢いが一年中で最も衰える時期である。接近したいが藪に阻まれて断念している物件すべてに対して追い風だ。
先の答えを見つけるには今が時期だと考え、塚穴川の接続部を含めて夫婦池の未踏査区間に接近し、時間が許せば国道を横断して塚穴川自体も調査する積もりでいた。

歩道に自転車を放置するのも不用心なので、この敷地内へ引き込んだ。
もしかしたら私有地かも知れない


前回は夫婦池側、つまり塚穴川の右岸側から撮影していた。この敷地から左岸に接近すればもう少しよく見えるのではないかと思ったのだ。

まずは国道横断部に接近する。
平日の午後3時過ぎともなれば、小学校低学年の児童は下校する。子どもたちが歩道を歩いているので、なるべく自分の姿が目につかないよう行動する必要があった。
子どもが真似をして同じ場所へ踏み込んで事件が起きたら少なからず責任がある


前回は1月というのに雑木の繁茂が酷くまるで歯が立たなかった場所だ。それだけに時期が良い現在でも接近にはかなり苦労した。
護岸は練積ブロックで、まったく昇降できるような造りにはなっていない。


それでも前回訪れた2ヶ月前よりはまだ藪が薄れていて見通しは利いた。雑木の中へ潜り込むことで、右岸側がどうなっているか見ることができた。


右岸に立って左岸を観たときは自然の岩のままと思っていたのだが、左岸から見た右岸は違っていた。
明らかに岩を切削したと思われる痕跡が見られたのだ。


削られた岩肌は常盤池の荒手を思わせる。しかし全面が岩というのでもなく、土砂になっている部分もあるらしい。健気にも切り取られた垂直壁の途中から生えている雑木があった。
前回来たときと同じく、塚穴川は数十センチの水深をもって流れていた。出来ることなら川面に近い場所まで降りて精密な写真を撮りたいと思った。

練積ブロックの端にこの近辺の雨水を排除するU字溝が斜めに伸びていた。
ところどころ接続部が緩んでいるものの水は流れており、ただちに崩れる感じはなさそうだ。


上から眺めているので高低差は分かりづらいが5m程度はある。ここを伝って安全に降りられるか、安全に戻って来れるかを検討した。特に最初のU字溝まで踏み出すには護岸に生えた木から伸びる太めの枝だけが頼りで高低差もあり、戻るときはかなり大きく伸び上がる必要がありそうだ。
大丈夫…これは行ける…
確信できた時点で行動開始する。

段差部分に腰掛け、枝を保持して脚を伸ばす。U字溝は幅が20cm程度しかない小型サイズで、中を湧き水が濡らしているので、立っ端に足掛かりを求めた。枝から手を離して下り始めると体勢を保持できるものは足元と側面の壁以外ない。

歩道を行き交う自転車や通行人が多い。ある程度歩道から離れているし、目立たない黒のジャンパーを羽織って藪の中に居るからまず誰にも気づかれる心配はないのだが…


一番下まで降りてきた。
身動きできる範囲が極めて狭く、まるで崖上に取り残されたネコのような気分である。
まあ、水深は浅いのだがこんな所まで踏み込んで足を濡らすなど笑いものだ。


U字溝の先端部分に足を掛けてボックス内部を撮影した。
幅一杯に水が流れている。ここから先は胴長靴装備でない限り荒手の排水路部分を辿ったときみたいに内部を歩くことはできない。


さて、一番欲しい結果を撮影しにかかる。この上流部、夫婦池の接続部分がどうなっているか…だ。いつ来ても異様に高い水位の夫婦池が余水吐の高さによるものかが判明する。ここでコケては一大事なので、バランスを保ちながら慎重に体を入れ替えた。

目測で夫婦池までは50m程度。真っ直ぐに排水路が伸びており、池との接続部は何もなさそうに見える。しかし堀割になった川面が暗いため夫婦池側がホワイトアウトしてよく写らない。


明るさバランスを調整して再度写した。
余水吐らしきものは何もない。普通に池と繋がっているようだ。


改めて視座を下げてボックス内部を撮影する。
この部分は既に塚穴川でありながら、水面の高さは夫婦池と一致していることになる。


国道横断部分はボックスの上下線が分かれていて、下流側の方がスラブがかなり低いし構造も異なっている。
ボックスの先の方を窺うと、塚穴川の水面が水平に見えている。どうもあの場所に井堰らしきものがあるように思えるが、ここからでは判然としない。

荒手の排水路を思わせる断面部分。下部は岩を切削し、その上は通常の地山になっている。


夫婦池は大正期に造られた溜め池なので、元々の塚穴川は今より低い谷底を流れていた筈である。全く川のない場所を切削して人工の水路を造った点では荒手と同じ…と言うか、この水路は荒手の排水路を参考に造ったのはほぼ確実ではないだろうか。

現在のダムや規模の大きい溜め池なら、余水吐や排水路は堰堤そのものに造る。堰堤の上部を切ってコンクリートの排水路を造るだけなので構造が単純でコストがかからないからだ。
しかし常盤池と夫婦池の排水路部分は、いずれも堰堤とは切り離された場所へ新規に造られている。それも施工には労力を要することが明らかな岩盤部分を切削している。
その理由は2つ考えられるが、いずれも本土手部分の破壊に対して最大限注意を払っていたからではなかろうか。

本土手は元々谷だった部分へ人工的に土を盛り、締め固めて造られている。昔の土木技術環境に鑑みれば、地球の歴史によって自然に固められた地山よりも人工的な堰堤の方がずっと弱い。
樋門は水量を木栓によってコントロールしつつ取り出すことができるが、排水路の場合は流下する水量を制御できない。土を締め固めただけの本土手にそんな水路を造れば、大雨のとき堰堤が脅かされる。
現在は水圧や流水に抗えるだけの技術やコンクリートという資材があるので、堰堤の一部を切って排水路が造られるのはごく一般的だ。昔はそのような資材がなかったことも一因ではないかと思う。

塚穴川のこの部分は、成り立ちからすれば”第二の荒手”とみることも出来る。もっとも大正初期にどの程度この土木工事を容易にする機械や技術があったか今では想像するも困難だ。
後年になって水路幅を拡げたなど改変された可能性も有り得る

ボックスから5m程度は両岸とも練積ブロックになっていた。
この部分は国道の4車線拡張工事で造られたので、昭和50年代初頭ということになる。


再度、ズームで夫婦池との接続部分を撮影する。


夫婦池には余水吐が存在しない。
これが結論だ。

即ち夫婦池の水位はそのまま塚穴川の流下レベルと一致する。それは少なくとも国道を横断する場所まで続いている。しかも今まで踏査した限り、常盤池とは異なり用水を調整しながら取り出す樋門すら存在しない。
未だ探しきれていないだけかも知れない

これは水利用の溜め池としてはかなり異色だ。人工の溜め池ではその殆どが堰堤に縦笛のような形状の樋門を持っており、用水の需要がない時期に一番下の栓を抜いて水位を下げ、清掃することができる。しかし夫婦池のこの構造では現在の塚穴川の水深以上に水位を下げることができない。下がることがあるとしたら自然蒸発か堰堤部からの漏水しかあり得ない。

ボックス内部を覗いた限りでは、国道横断部の先に堰があるようにも見える。もしかすると未だ見つけきれていない場所に排水用の暗渠が存在するのだろうか…

さて、復帰しよう。

登り直すことができるのを検証した上で降りてきているのは当然だが、それでも一旦デジカメをポケットへ押し込み、両手を開けてU字溝を登る必要があった。

側溝の内部は濡れているので足を掛けられない。絶対に滑る。


最後は降りるときつかまった太い枝に身体を預けて登り直すことができた。

次に直接、夫婦池接続部に接近してみた。
あまりにも藪が酷く正直あまり気乗りしなかったし危険でもあった。しかし今以上に藪が薄れる時期はあり得ないから、今観ておかなければ接近できるときはない。

こんな状態である。足の下が地山なのかそれとも雑草が生い茂って護岸から張り出しているのか分からない。後者だったら雪庇ならぬ草庇(?)の上に乗っているようなもので、体重を支えきれず転落するだろう。


塚穴川と夫婦池の接続部である。これ以上は危険過ぎて無理。
人工物はまったく何もない。水位が高まった夫婦池から自然に水が流れ出ているだけだ。


歩道が近いので藪から抜け出るにも周囲を窺う必要があった。
下校する子どもたちが見ていれば間違いなくヘンなオジサンだ。
いや…目撃者の有無にかかわらずヘンなことは疑いないだろうが…^^;


本当に井堰も樋門も存在しないのかは、国道を渡って反対側を検証する必要がある。ボックスカルバートを覗いてみた限りでは堰のようなものが見えていた。
それが堰であっても塚穴川の水深よりも夫婦池の水位を下げる手段がないことになり、如何にも奇異だ。
かつて堰堤の何処かに用水を取り出す樋門などがあったのだろうか。現在は夫婦池の水位が高すぎて水没してしまっているか、永く使われなかったため消失しているのではないかとも思える。

しかし現地の自分はすぐに国道を渡らず、前回に引き続いて夫婦池の未踏査区間の汀を調査することにした。国道を渡るには常盤公園入口交差点まで引き返さなければならないし、時期的に今は藪漕ぎ必須な部分を優先して踏査すべきことを知っていたからだった。
それ故に時系列的流れとして、以下の記事は夫婦池関連の続編を案内しておく。下流側については同じ日の最後に訪れた「塚穴川【2】」を参照されたい。

(「夫婦池・汀踏査【5】」に続く)

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