市道上中堀岬線

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現地撮影日:2012/6/1
記事編集日:2015/2/7
市道上中堀岬線は、市道恩田八王子線の末広町に起点を持ち、南西に位置するJR宇部線の宇部岬駅に向かう経路である。上中堀は今では聞き慣れない地名だが、起点付近にかつて存在していた小字である。
派生記事: 上中堀とは
市道の起点をポイントしている。


ポイントされた場所には南北を貫くメインの道とは別に斜めに交わる道が見える。その北側は水路に当たるところまで伸び、南側は宇部岬駅のところへ向かっているのでこの市道は典型的な駅前線のように見えるだろう。
しかしより正確に現地を反映している冒頭のYahoo!地図を拡大することで判明する通り、この市道は宇部岬駅入口に到達しない。終点は駅の裏手にあたり、正規に駅の改札を通るためには市道岬駅通り線の踏切を介して駅の正面へ向かう必要がある。

現状で宇部岬駅に行く経路はかなり複雑で面倒だ。市街部から行くなら恐らく国道190号松山通りをそのまま直進し市道松山通り線に向かい、宇部岬駅方面に左折する。それから踏切の手前で再度左折して駅前広場に至るという形になる。他方、駅の東側から向かうなら市道恩田八王子線から分岐するいくつかある狭い市道のどれかに頼ることになるだろう。これから向かう市道のその選択肢の一つでしかない。

じゃあ、一体何のために宇部岬駅方向まで直線的な市道を造ったの?という疑問は当然起きてくる。
現時点では確定的ではないが恐らくこうではないだろうかという推測的な理由が手元にある。実際に走ってみることで見えてくるものがあったのだ。

市道恩田八王子線の分岐点である。
これから向かう市道は、この押しボタン式信号から右側へ分岐する道になる。


小字マップによればこの近辺が「上中堀」になるらしい。ここは私が永年暮らした恩田地区から離れていて、昔からあまり縁がない地域だった。後年に私がこの場所を訪れるようになった頃から既に末広町という名前だった。
末広町という名前の成り立ちは分からない…昭和中後期に入って公募により決定された町名と思われる

市道はスタート直後、すぐに高度を若干下げる。やや広い対面交通の道で、左側には歩道も見える。確かに駅前線だとすれば充分な規格だ。


右端に少しばかり妙に目立つ緑色の屋根の建物がある。
現在は近くにある協立病院関連の介護総合センターとされているが、かつてはスーパーだった。
詳しくはこちらの派生記事を参照されたい。
派生記事: 丸久末広店
この近辺に訪れる用事として、先のスーパーでの買い物ともう一つあった。私的な話だが、家庭教師として受け持っていた生徒宅がこの近くだったのでママチャリを漕いで教えに来ていた時期がある。
この他に宇部岬駅方面へ向かうときの通り抜け路としても利用していた。いずれの用途でも自分の中の記憶では、この市道を通るようになった時点から今の広い道の状況しか記憶がない。
しかし恐らく初期はそうではなかったと思う。後で解説する過去の映像が物語っているし、その痕跡は今でも注意深く観察すれば理解される。

見たところ何処にでもある普通の対面交通の道だろう。


着目点はとっても些末なものにあった。
路面に目立つ角桝。


それは何故か片側車線にばかり集中し、等間隔に並んでいる。
車道や歩道にこのようなグレーチング付きの桝が設置されているのは珍しくはない。しかしこの市道の場合、それは一つだけではなくいくつも等間隔で並んでいるのだった。
車のタイヤが踏みつける車道には出来ればこのような桝や溝を造りたくない。開口部があれば万が一蓋が逸失すれば大事故になるし、そうならないように重荷重に耐える高価な桝蓋を据える必要があるからだ。

これは雨水渠の桝だ。汚水だったら臭いが漏れないようマンホールに密閉性の高い鋳鉄蓋を掛けるものである。しかも桝が車道に沿って等間隔に設置されていることから次のように推測される:
用水路を暗渠にして道路を拡げたのでは…


直線部分から線形が変わる場所で道幅が狭くなり、センターラインと歩道が消滅する。
しかし同様の角桝は先の方まで続いていた。


もし暗渠化して道路を拡げたのなら、この近辺は元はかなり狭い道だったのではと想像される。桝の位置から元は半分以下の幅しかなかっただろう。

市道は住宅地の中を進んでいくので、左右への枝道が多い。そのいずれもが地区道だ。
右への分岐を進めば宇部岬変電所前まで抜けられる
市道自体は行き止まりになるので、地元在住民ではなく宇部岬駅方面を目指すのなら少しばかり注意力が必要になる。


やがて左手にブロック積み擁壁で一段高くなったアパート群が見えるようになる。
ここを過ぎると…


左へ折れるやや幅のある道に出会う。市道はまだ先まで伸びているが、車ならここを左折しなければならない。


市道からの左折分岐を眺めている。この区間は地元管理の道で、前方にある突き当たりが市道岬駅通り線である。


市道自体は更に直進する経路がある。
しかし既に前方が行き止まりになっている様子が観て分かるし、次の左へ折れる分岐点には看板が出ている。


左折矢印にペケが上書きされ、更に「この先行き止まりの文字が見える。


同様に市道から左への分岐路を眺めている。これも地元管理の道で、一見すると通り抜けられそうに思える。


実際、歩行者や自転車、原付なら市道岬駅通り線まで出られる。しかしバリカーが設置されているため四輪は通れない。


この枝道は物理的には普通車でも出入りできる程の幅がある。それにもかかわらず通り抜け出来ないようバリカーが設置されている理由を理解しなければならない。

この場所まで乗り入れれば、当然踏切を渡る方向にハンドルを切るだろう。前方の市道岬駅通り線は鉄道を斜めに横断しており、鉄道に平行に伸びるこの地区道からだと鋭角カーブになる。岬駅通り線はそれほど広くもなく、しかもここからだと見通しが悪い。何よりもここで鋭角にハンドルを切って踏切に乗り入れる一般通行を許してしまえば、いつかは内回りし過ぎて脱輪するドライバーが出てくるだろう。

したがってこの市道を途中まで利用して宇部岬駅方面に進むなら「行き止まり奥から2番目の道を左折」と覚えておく必要がある。もっとも通り抜けに使うドライバーは心得たもので、何の淀みも躊躇いもなく2番目の路地で左折していく。私自身恩田に居た頃には宇部岬駅方面に用事があるときはこの経路を選択していた。
しかしこれから述べるような理由で、宇部岬駅へ抜けるためのルートにこの市道を使うことは一般には推奨できない。

車で市道恩田八王子線を通って宇部岬駅に向かうとき、どこを通るべきなのかは微妙な問題がある。具体的には以下の3つの主要ルートが存在する。


基本的には車両の通行が規制されない認定市道を通ることに関して誰にも文句は言われない。その点では五十目山バス停付近で右折して市道岬駅通り線に入るのがもっとも分かりやすく妥当と言える。
しかしこの右折点は狭い上に見通しが極めて悪い。駅方面から出てくる車が一台でもあれば、その車両をやり過ごさないことには進入できない狭さだ。これを嫌気して、一つ手前の市道岬赤岸線を進む人もいる。こちらも道幅は同様に狭いが市道恩田八王子線からは入りやすいし、若干のショートカットにもなる。

そして今回走った市道上中堀岬線はほぼ直線路で見通しが良く道幅も広い。ただし行き止まり市道なので途中どこかで岬駅通り線に戻るために地区道を通らなければならない。このうち最も選択されやすいのが図の赤で示した経路だ。

一般のドライバーにとっては、車が通行可能な道はすべて「道路」という一括りで認識されがちである。何処が認定市道でどの道が地区道あるいは私道なのかは、明確な看板などが出ていない限り殆ど問題にされない。この赤線区間も宇部岬駅までドライバーが安全に通るための経路として外部からの車が頻繁に利用している。
このルートを通る車両は極端には多くないためか、現状では特に通行制限などは課されていない。しかし元来居住者向けの道を外部車両が頻繁に通れば、居住者の安全が脅かされ騒音と排気ガスを遺して行かれる…道路は早く傷む…何一つメリットがないのも確かだ。

もしこの地区道の末端部に「外部車両の通り抜け禁止」という立て札が掲示されれば、良識あるドライバーの一部は通行を差し控えるだろう。しかし他の市道が安心して通れる道でなければ、構わず通り抜けるドライバーが存在することも容易に想像される。
メインの通りとなる筈の岬駅通り線が狭いのが一つの原因

なお、この場所をチェックしている最中に面白いと言うかちょっと哀しくなる公園を見つけた。
派生記事: みさき公園
一旦市道の分岐点まで戻り、既に行き止まりであることは分かり切っているが突き当たりまで行ってみた。
ここにも例の角桝が設置されていた。


背丈ほどの高さの土手があり、その上にネットフェンスが張られている。
管轄は西日本旅客鉄道側なのか市道側なのか分からないが、斜面はきれいに草刈りされていた。


自転車を停め、駆け足で助走して斜面の上に登ってみた。


フェンスの向こうは既に宇部岬駅のホームだった。そして反対側ホームの向こうにこの市道の成り立ちを示唆させるものが見えていた。


ズーム撮影。
鉄道の下を幅広の用水路が通されていたらしく、その上を横切るコンクリート床版が見える。ちょうど今いる市道の真下だ。


やはりこの市道は付随して流れる用水路に蓋をして幅を拡げて出来た道だった。[1]
その様子は、暗渠化される以前の昭和49年代にまで遡ることで推測できる。
「国土画像情報閲覧システム - 常盤池西部(昭和49年度)の航空映像」
http://w3land.mlit.go.jp/cgi-bin/WebGIS2/WC_AirPhoto.cgi?IT=p&DT=n&PFN=CCG-74-12&PCN=C24&IDX=11
別ウィンドウで開いたページ右上にある400dpiのリンクをクリックすると高解像度の画像が表示される
この航空映像で宇部岬駅付近を頼りに現在の市道付近を表示させてみよう。
市道の幅が現在の半分程度しかなく、ぴったりと用水路が寄り添っていることが分かる。道路沿いには既にかなり家屋が見られるが、起点付近はまだかなり田畑が遺っている。そして鉄道横断部分が開渠になっていることがハッキリ分かる。

昭和50年代に入るまでは下水普及率が低く、一般家庭の排水もこうした用水路が担当していた。このため市街部の開渠は概して何処も汚れがちで定期的な溝浚えが必要だった。
ところが下水道が普及し、生活排水と雨水排除の別経路が確立すると、こうした用水路は農業用の用水供給や余剰水の排出、雨水排除のみを担うようになった。更に浸食防止も兼ねて自然の土手からコンクリート護岸に変わることで草刈りの必要もなくなり殆ど手がかからなくなった。そこで最終的に水路全体をボックスカルバート等の暗渠で置き換えることでその上を道路敷として有効利用するようになった訳だ。

この成り立ちが完全に正しいものかは分からないが、駅前線を意識して造られたと言うよりは併走して流れる用水路を蓋掛けして道路幅が広くなっただけだと思う。

もっとも将来的に宇部岬駅の双方向乗り入れを意図して市道幅を拡げてここまで延伸しているのかも知れない。
実際、フェンスさえなければここから全く容易に小郡行きの列車に乗り込めてしまう。
駆け込み乗車でフェンスの隙間から乗り込む人などがいるのでは…


土手の上から振り返って撮影している。
周囲は適度に空き地もあり、整備すれば市道を駅前線として機能させる余地は充分にありそうだ。


今のところ宇部線には線路の双方向から乗り入れ可能な駅は恐らく一つもない。お隣りの東新川駅について双方乗り入れできるよう改築しようという案が持ち上がっているだけだ。
残念ながら宇部線は未だ通勤通学客主体のローカル線に過ぎず、単体で大幅黒字を生じるほどの収益をもたらしていない。大幅な収益増が約束される保障もない改築には慎重にならざるを得ないのも当然だ。

いつしか昨今のモーダルシフトの流れでローカル線の利用が物流の基幹として見直され、人々の動線が変わればいくつかの駅について改築されるかも知れない。恰もいつ駅前線としてデビュー出来るかも分からないその時のために宇部岬駅のお膝元まで駆けつけ待機しているように思われるのだった。
【路線データ】

名称市道上中堀岬線
路線番号432
起点市道恩田八王子線・押しボタン式信号
終点JR宇部線・宇部岬駅裏
延長約400m
通行制限
備考行き止まり市道(地区道を経由して通り抜け可能)

延長など各データの正確性は保証できません。参考資料とお考えください
出典および編集追記:

1. これは中川と呼ばれる市の指定水路である。見かけは排水路だが古くからあった小川らしく明治期作成の地名一覧にも中川浴筋という小名がみられる。下流側は岬明神川となっている。

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