隧道(トンネル)について

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記事作成日:2020/2/12
最終編集日:2021/9/11
情報この総括記事は往来向けの隧道(トンネル)について記述しています。
導水目的のトンネルについては こちら を参照してください。

ここでは、往来用の隧道(トンネル)についての一般的事項を記述している。
写真は国道490号の小野一の坂に存在する小野隧道[1]


当サイトでは隧道(トンネル)を特定セクションに位置づけている。即ち市外に存在するものも同等の興味を持ってウォッチの対象とし記事も作成している。早い時期から興味を抱いていたこと、後述するように市内に存在する隧道の絶対数が著しく少ないことに起因している。他にはダムや発電所および付随する関連構造物も特定セクションである。
【 往来向けの対象 】
冒頭に書いた「往来用の隧道(トンネル)」の対象は、人間や荷物を支障なく通すことを意図した人工的構造物を指す。同等の構造を持っていても灌漑用水のような流体を送るための人工的構造物は暗渠(管渠を含む)の項目、同様の外観を呈していても貫通しておらず行き止まり構造になっているものは横穴の項目で記述している。ただし暗渠であっても規模の大きなもので人が往来するものがあったり、往来用のトンネルでありながら灌漑用水路も内部へ通されているなど、両者の区別は厳格なものではない。
《 呼称について 》
隧道「ずいどう」とはトンネルなる英語の和訳語である。一般事項は「トンネル」に記述があり、現在では何をもってトンネルと呼ぶかの定義も与えられている。それらは人馬や灌漑用水のような流体を制限なく連続的に通せるように概ね人工的に掘削されたものであるが、その形態は驚くほど多い。

典型的な例としては、山岳や尾根の下へ山の斜面よりも角度が緩い穴を掘って往来可能に供せられたものが挙げられる。しかし川や海洋の更に下の岩盤を掘削したトンネルがあり、極端な場合は海中に往来可能なチューブを通したタイプのトンネルも存在する。何処に存在するか、何を通すためのものか、施工形態がどうであるかなど様々であるが、比較的特定のものに対して呼称が定まっているものもある。
【 トンネルと隧道 】
トンネルはこの種の構造物に対するもっとも一般的かつ包括的な呼称である。近年の道路や鉄道など交通用に掘られたものは専らトンネルと呼称される。昭和後期以前に掘削された交通用のものと、歴史的にみて重要なものや一定規模以上のものに対して隧道(ずいどう)の名称が与えられることが多い。

以下、成立年代の古いものを隧道、比較的近代に入って造られたものをトンネルと記述する。年代や形式を問わず一般的なものに関してはトンネルと記述している。
《 区分について 》
トンネルの造られ方は多種多様である。以下では勝手呼称も含めて分類を試みている。
【 山岳工法 】
上部構造を一度も切り崩すことなく掘削されたものである。友達と砂山の両側に位置して水平に掘り進み貫通させるトンネル掘り遊びをした子どもは多い。この意味でもっとも一般的かつ古典的であり、狭義のトンネルと言える。

両側に充分な作業地があって相応な長さを持つトンネルは現在でも同じ要領で施工される。両者が到達した場所は貫通点と呼ばれる。貫通が間近に迫ったとき最後の破砕スイッチを押して反対側の明かりが見え、双方の現場責任者が握手するシーンはトンネル貫通に象徴的である。ただし常に両側から掘削されるのではなく、短いトンネルでは一方向から後述する機械をもって掘り進むことが多い。(片押し)

近年建設される長大な新幹線トンネルでは、単一の山岳ではなく尾根やときには台地や平野部の下をいくつも横切るものがある。このような場合、工期を短縮し効率化する目的で土被りの薄い場所や立地の好適な場所に竪坑や斜坑を掘削し、そこから機材を降ろして横方向へ掘り進むことが一般的である。完成後にこれらの坑口は点検用入口やトンネルの内圧を逃がす排気口などに転用されることが多い。
【 開削工法 】
設置する場所の上部を一度完全に切り崩した後、人為的なアーチ構造を造って上部を再び埋め戻すことで造られたものである。通常はすべての土砂を取り除いた切り通しにされるが、別の道路や鉄道が上を通ったりトンネル上部の土地を有効利用したい場合、切り通しで放置すると法面が崩れて維持管理に問題を来す場合に適用される。

子どもの砂遊びから連想すれば開削工法によるものはトンネルとは言い難いが、実際の往来などに関して山岳工法と何ら変わりはなく、特に区別されることなく隧道やトンネルの名称で呼ばれる。

古い隧道で、文献などにどのような手法で掘削されたか記録がなくとも現状を観察することで推察はつく。例えば船木鉄道大棚トンネルは上部の土被りが極端に薄いこと、鉄道トンネルでありながら断面が典型的な馬蹄形ではなく下部が石積みによる垂直壁となっていることから、開削工法で施工されたものと考えられる。

この最も極端な例は市道片倉請川線の山陽自動車道交差部に造られた道路構造である。
写真を見るだけでも外観はトンネルと同じながら建設手法が異なることが分かるだろう。


かつてここは何処にでもある峠に向かう山あいの道だった。ここへ車線数の多い高規格道路を建設するために市道を横切る形で高さ十数メートルの路体を相当な長さに渡って造った。これにより市道が分断されてしまうため、盛土を行うに先だってアーチ構造を造り、路体盛土で埋め戻すことでトンネル構造を造ったのである。したがってトンネルと認識されていないからか扁額は存在せず特定の名称も与えられていない。これより低い位置を流れる大番川や地区道の交差部も同様な手法でアンダーパスを造っている。

重機械を用いて大量の土砂を運び盛ることができる近代的な土木施工技術の為せる業である。しかし鉄道が小規模な里道や通路を跨ぐ場合、下の道に対してトンネルと寸分違わないような構造を造ることがある。しかし鉄道側からすれば対象物の上を渡る構造とみなされるので、下の道のトンネル構造自体には隧道ではなく橋りょうや架道橋といった名称で管理される。浅地川橋りょうは鉄道が里道と川を二重構造で跨ぐ珍しい事例である。


既存の地下道やバイパス建設時に以前から存在していた里道の通行補償目的で造られる地下通路構造も工法的には同種のものである。ただし一般にはそれらはトンネルとして認知されない。特定の名称が与えられることはなく、地域名に数字を添えた管理番号を持つ程度である。
《 施工の手段 》
地中に横穴(ときに斜坑)を通す点で往来向けでない暗渠も同種の工法に含まれるため、ここでまとめて記述している。
【 人力による掘削 】
人が道具を使って掘削する手段で、古代から昭和中期頃まで行われていた。ただし人馬の往来向けはもちろん灌漑用水を通すための比較的径が小さなものも含めて、幼少期に子どもたちが砂山などに掘ったトンネルとは難易度がまったく異なる。

私たちの身近にある里山や山岳はその殆どが雑木で覆われている。表面に落ち葉が堆積し、その下に風化した土壌が被さっているだけで、よほど特異な地勢でない限り地表から十数メートルも掘削すれば岩盤が現れる。特に峠越えのトンネルでは(峠そのものが風化することなく残った硬い岩を主とした地形であるため)ほぼ全区間が岩盤掘削となる。

岩盤にトンネルを穿つには、岩以上に硬い道具を用いて削り取る以外ない。このため古代の人々は短くて施工断面の小さな隧道の掘削にも酷い苦労を強いられた。特に初期の隧道掘削の目的は、越えようがない尾根の反対側へ灌漑用水を流すのが目的のため水が自然流下するように勾配を考慮しなければならず高い測量技術も求められた。長い年月と膨大な労力を投じることと、完成によって耕作面積が拡大するという地域に大きなメリットをもたらすため、隧道の完成は大きな喜びをもって迎え入れられた。初期の導水隧道では、工事中の安全祈願と完成を待ち望む願成就の石灯籠が近くの神社に寄進された例がある。

これに対して人馬の通行を目的として掘削されたものは、大八車を牽き通せる程度のサイズがあれば足りるとして、佛坂隧道のように充分な測量も行わないまま掘削され、縦断勾配も線形も不定なものがある。


人力による掘削も後年電力や燃油といった動力を頼れるようになってからは、削岩機や火薬による爆破掘削が主流となった。最先端の現場で岩を破砕し、破砕岩を坑外へ運び出すための軌道によりトロッコで搬出される分業体制が確立され、鑿とつるはしに頼っていた時代よりも作業効率が一段と向上した。

現在では四輪による移動が主流であることから、それらの往来に向かない素掘りの隧道は別ルートに新たなトンネルが掘削されたり、同じ場所に道を通す場合は全体を切り崩して堀割にされたものもあり、初期の隧道のまま原形を遺しているものは少ない。
【 推進工法 】
山岳工法の一形態で、すべての区間で地中に回転する切羽を横方向へ推し進めながら掘削する工法。口径が小さな汚水管の埋設などに用いられる。また、山岳工法のトンネルでも現在では口径の大きい切羽で同様に推し進めつつ掘削し、全体を補強しつつ施工するのが一般的である。原理的に推進ではあるがこれらはNATM工法などと呼ばれている。イメージとしてしばしばモグラが地中を掘り進むのに喩えられる。

上部の土被りが充分であれば、山岳に限らず河床や海底下の岩盤や市街部の地中においても適用される。殊に現在では上水道や汚水管、工業用水道の布設では専らこの工法(小口径推進)にて行われる。山岳工法では所定の土被りが確保できるまで切り通しを造った上でトンネルを掘り進めるが、推進工法の場合掘削開始地点自体が既に地下であることが多い。このため掘削開始地点と終了地点に垂直の竪坑を掘り、そこから推進機を降ろしてほぼ水平に掘り進む。開始地点は発進竪坑、終了地点は到達竪坑と呼ばれる。

写真は厚東川水路橋のサイフォン更新工事において掘削された竪坑。
既に工事が完了し新しいサイフォンの呑口となっている


従来のヒューム管布設では道路などに沿って所定の幅に掘り割り、土留め支保工を施した上で管を埋設し埋め戻していた。この工法はシンプルであり現在でも幹線規模では適用されるが、施工期間中は交通に支障を来し、施工音がそのまま外部へ漏れる、転落防止策を講ずる必要があるなどの欠点がある。推進工法では一連の制約を受けない代わりに、上部にある既設構造物への影響や地下埋設物との支障を考慮しなければならない。

平成期に入って掘削された道路トンネルや導水トンネルの殆どが該当する。厚東川1期工業用水道における末信接合井から中山分水槽に至るバイパス管は、昭和10年代に施工され老朽化が進んでいる旧経路の二条化を目的として掘削された。また、厚南地区の汚水はすべて西部浄化処理場へ送られているが、この過程で汚水は厚東川の河床下を推進工法により掘削された管路で送られている。2019年には厚東川水路橋の代替ルートとなるサイフォンが推進工法にて施工され、既に切り替えが完了している。2021年現在では建設中の玉川ポンプ場から既存の鵜ノ島ポンプ場へ向かってJR宇部線下や国道下を経て掘進され、夏頃に終了している。
【 沈埋工法 】
あらかじめ施工箇所を掘り割っておき、そこに巨大な箱状の部材を据え付けて接合する工法である。トンネルに相当する部材を上から降ろして据えるので、現地盤よりも低い場所や河床、海底に施工される。この部材はケーソンと呼ばれ、別の場所で造られたものを運んで据え付ける。小規模なものでは交通量の多い道路へ地下道を造る手法と同等で、トンネルとの境目は曖昧である。

外圧耐性のある部材を沈めて造るので、山岳工法と同様の手法で海底下の岩盤を掘削するよりも施工は容易で落盤リスクも少ない。他方、河川や海洋を往来する船舶の接触を考慮して、ケーソンを据え付けるにあたって所定の深さまで底質を掘削する必要がある。このことに伴う水質悪化や生態系への影響も考えられる。

市内には交通向けの海底・水底トンネルは存在しない。鉄道において在来線の関門トンネルは門司側で一部この工法が援用されている。

工業用水道では厚東川1期工業用水道の中山分水槽より中山川の河床を横断する部分は、近年の改修工事で函渠を据え付ける形態で施工されている。この函渠は天端が河床へ剥き出しになっており、上部より観察可能である。


これらのいずれとも異なる工法として、香港にある本土と島を連絡するトンネルは海中にチューブを担架する形で施工されている。
《 関連する用語 》
橋とは違いトンネルに付随する構造体はそれほど多くはない。しかし当サイトの記事でも頻出している用語があるためここでまとめて解説する。土木分野の教科書を意図したものではないので、施工に関する機器などについては省略している。
【 ポータル 】
トンネル出入口の外周部に積まれた石材やレンガなどの総称。トンネルの玄関部分にあたることからポータルと呼ばれる。トンネルの土被りがゼロになる地点であり構造上もっとも弱いことから、トンネル外周部だけではなくその周辺を含めて構造体で固められる。トンネルの顔であり、構造体の要素や周辺の地形などを含めてそれぞれのトンネルを特徴付けている。

古典的な隧道では、まず入口の外周部をレンガや石材で巻き固める。直下で支えられない天井構造をもつので、最上部にはくさび形をした特殊な石材が配置される。これを要石(かなめいし)という。
写真は大迫溜め池の水を取り出す隧道にみられる要石。


要石の存在により、天井構造を構成する石材も自重による真下へかかる力を隣接する石材に押しつけ転換している。このことにより天井付近の石材は真下に支えがないにもかかわらず落下せずアーチ構造を維持できる。要石が失われると隣接する石材を引き留めるのはモルタル等の接合材料のみとなるため、自重に耐えきれず早晩(場合によっては即座に)落下しポータルを構成するアーチ構造が崩落する。

アーチ構造をレンガで実現する場合、土被りの厚さや土質を考慮し3〜4重に巻かれるのが普通である。アーチ構造の外側は上部からの自重よりもトンネルと同方向に押し出す土圧が強くなるので、アーチ構造に接続して壁構造が造られる。この造りは石材であっても布積みが多い。特にポータルではアーチ構造からやや離して両側に柱状の構造を造り付けることもあり、トンネルの顔たるポータルの風格を形成している。

近年のトンネル施工では補強用に鉄筋を配したコンクリート構造が普通なので、全体が均質なコンクリート面となっているものが多い。高速道路などでは袖壁と一体化し竹を斜めに割ったときの断面のようなポータルを持つ構造が採用されている。
【 扁額 】
トンネルの名称を刻んだ石盤で、道路トンネルなどではポータルの正面上部に埋め込まれるのが標準的である。
写真は国道434号にある菅野隧道の扁額。


トンネルの名称を著名人が揮毫したり、当時の県知事名が扁額の脇に刻まれていることもある。

道路トンネルでは短いものでも大抵は扁額が備わっている。主要なトンネルは地図に名称が記載され、現在地を把握する上で重要なランドマークとなる。幹線道路などでは運転していても名称が判別しやすいように、扁額とは別にポータル手前にトンネル名と延長を記載した案内板が設置される。高速道路や高規格道路では最初から扁額がなく、案内板のみのことが多い。

鉄道の長大トンネルの掘削には多額の費用と時期を要すため、隧道名とは別に末永く安全な往来と地域の発展を祈念するような熟語(四字が多い)を刻みつけることもある。それ以外の短いトンネルでは扁額がなく、ポータル側面に白ペンキで長方形を描きその中にトンネル名を記載した簡素なものが一般的である。
【 竣工プレート 】
トンネルの発注者、施工業者や竣工年月、延長などの諸元を刻んだプレート。道路トンネルではかなり一般的である。
写真は国道316号美祢トンネルにみられる竣工プレート。


掘削技術が発達した現在でも、大型車の往来需要を容易にするためにトンネル断面が大きくなり、更にバイパス建設で長大なものが多くなってきたこともあり、トンネル施工は現在でも多額の建設コストを要する構造体である。近年建設された道路トンネルでは、ポータル上部にある扁額やトンネル手前に設置される名称板とは別に、ポータルの側面に設置される。近年のものは耐久性のある鋳鉄板が多いが、初期のものは扁額と同様に石材へ刻みつけたものが多い。
【 土被り 】
トンネルの上部に存在する地山や人工的構造物などの厚みをいう。現地に函渠などをも含めたトンネル構造を造るときの工法選定に大きく影響する。

一般にトンネル構造を造るとき、元々の構造に設定されている高さ以上の土被りが必要である。この値がゼロもしくはマイナスになる場合はそもそもトンネル構造である必要性がなく、他の制約がなければ高い部分の一部またはすべてを削って堀割を造る。ただし上部に保存を必要とする古墳や土地利用需要の高い市街部などでは、一旦掘り割った後でボックス構造を構築した後で上部を復元する方法が採られる。市街部近くから始まる新幹線のトンネルに顕著で、土地の有効利用と共に騒音問題を軽減することに寄与している。

標高のある尾根や山岳の下を通すような旧来みられるトンネルにあっては土被りは充分に厚いので、脆弱な土質や湧水などの特殊要因がなければ目的地の2点を連絡するように掘削される。土被りが厚いほどトンネルにかかる土圧が高まるが、土被りが薄いと土圧こそ少ないものの今度はトンネル構造の天井崩落のリスクが高まる。

このことは幼少期に誰もが経験したであろう砂山でのトンネル掘りでモデル化される。子どもたちは最初に砂場で砂を集めて大きな砂山を造って突き固める。それから砂山の両側に対峙して低い位置から相手に向かって水平に掘り始める。乾いた砂だとグズグズと崩れてしまうが、ある程度の湿度をもち突き固められた砂であれば崩れにくい。そうして砂山の反対側からも掘っている友達と砂山のほぼ中央真下で握手することをもって「貫通」させた経験は誰でもあるだろう。更に砂場へ頭を着いて真横から確かに貫通しているのを眺めたりしたものである。実のところ初期のトンネル建設にはこのときの経験則の殆どすべてが盛り込まれている。

子どもたちは小さな砂山にトンネルを掘ったりはしない。長いトンネルを掘りたいという遊びの欲求もモチベーションだが、小さな砂山だと掘っている途中に崩れてしまうのを経験的に知っているからである。腕を砂場の上に置いてそこにどんどん砂を乗せていくと、砂の量に比例して腕に砂の重みを感じる。しかし大きな砂山に手でトンネルを掘っても砂を掻き出すのにそれほどの労力は必要ない。そして掘ってしまえばそこへ腕を入れても当然ながら上部の砂が腕を押す圧力はゼロである。掘り取る穴の径に対して砂山が充分に大きければ、圧力が分散されて比例的な土圧がかからない。

x軸方向に土被りの厚み、y軸方向にトンネルへかかる土圧の大きさをとるとき、このグラフは比例状にはならない。トンネルの内径の数倍程度の小さな土被りまでは土圧は急激に増大するのだが、ある土被り値よりも大きくなると土圧は殆ど頭打ちとなる。トンネルの真上にある地山の圧力がトンネルのみにかかるのではなく周囲に分散されるためである。
そうは言っても千メートル級の山岳の下に掘られるトンネル内部の岩盤にかかる圧力は凄まじいものがある

トンネルか切り通しのどちらも採り得る中程度の土被りである場合、ある程度の勾配や段差を越えて進み得る人馬のような往来目的だと殆どが切り通しとなる。徒歩での峠越えも困難なほど急峻な地形に限って最後の手段としてトンネルが選択されるのが常である。鉄道だと縦断勾配に制約がつくので、トンネルが選択されることが多く延長も長くなる。昔から有る峠を越える場合、多くの場合で道路トンネルよりも鉄道トンネルの方が長い。
ただし後年のモータリゼーション隆盛により鉄道を上回る長さのトンネルが追加掘削されることも多い

灌漑用水を通す場合は切り通しよりも隧道比率の方が高い。これは上流側の絶対高度が定まっていること、断面積が小さくて済み施工規模が幾分緩和されること、側面からの土砂崩落が少なくなり維持管理が容易になることに依る。歴史的にみても全国何処の地区においても往来用の隧道よりも灌漑用水を通すための隧道建設需要の方がはるかに高かった。
【 明かり 】
一般には暗闇で行動可能にするために周囲を照らす手段を意味するが、トンネルにおいては外部から差し込む光が見えている場所を示し、多くは反対側の出口である。

初期の導水トンネルは直線的に施工されるため、相当長いトンネルでも反対側の明かりが点のように見えることがある。
写真は常盤用水路の No.3隧道。


川沿いの岩盤を掘削した青の洞門のような事例では、換気と採光目的で壁面が崩れない程度に外へ向けて穴を穿つことがある。これも明かりと呼ばれる。近代的なトンネルでは、ポータルの前にロックシェッドが施工されることがあり、この側面に明かり構造がみられる。
【 勾配 】
トンネルが全経路において完全に勾配ゼロ(フラット)で建設されることは稀である。全経路において単調に下り(上り)であるものを片勾配、中央付近が高く出入口側が低いものを拝み勾配と呼ぶ。この特異な呼び方は信州の合掌造りの屋根葺きと同じものである。

特段の事情がない限り、峠越えのトンネルは大抵が拝み勾配となっている。これはトンネル出入口双方の標高があまり変わらない場合にトンネル内部の湧水を排除するのに有効である。地下の湧水と言えども地域の用水源であるので、できる限りトンネル上部の分水嶺に呼応して配分すべきという配慮もあるのかも知れない。

大きな片勾配がついているトンネルは、前後の接続における標高など地勢によるものが大きい。美祢市堀越にある宇部美祢高速道路の伊佐隧道が典型的な片勾配の事例である。県道37号宇部美祢線を宇部側から進んだ場合、涼木峠まで殆ど登りを感じさせない縦断勾配であるのに、宇部美祢高速道路は峠に差し掛かるより手前でわざわざ地下へ沈み込むような縦断勾配によってトンネルに入っている。その分だけトンネルの延長も長くなっている。

この一見無駄に見える設計は、涼木峠が典型的な片峠であることに依る。即ち堀越側は殆どフラットに近いのに対し、美祢市街側は短い距離で高度を大きく下げる急峻な地形である。実際、県道は涼木峠を過ぎると底が抜けたような急なヘアピンカーブを伴う下りの連続となる。重い資材を運搬するダブルストレーラは縦断勾配に弱いため、涼木峠へ入る前から美祢市街部までをできるだけ小さな縦断勾配に収めるためにこのようなトンネル構造となっている。そして伊佐隧道を出てからは急峻な地形を埋めるべく長い盛土によるスロープとなっている。この工夫された道路構造をもってしても極端な高低差のために美祢側から堀越へ向かうダブルストレーラは低速走行を強いられている。また、堀越側からトンネルに入る前は特異な掘り割り構造となっており、ここへ落ちた雨水は旧来の分水嶺を越えて美祢市街部側へ流れていることになる。
この記述は伊佐隧道の項目を作成した折には移動する

鉄道トンネルは縦断勾配に弱いという特性があるため、峠越えの経路では遠くからスロープを造ったり尾根を掘り割ったりしてもおよそ限界がある。その限界地点にトンネル坑口が造られるので、大抵は道路トンネルよりも早く地中へ潜り延長も道路トンネルより長いことが多い。灌漑用水や工業用水など流体を自然流下させるためのトンネル(暗渠)は、当然ながら緩やかな片勾配で造られる。できるだけ水頭を維持しつつ遠くへ運ぶことが目的なので、勾配は鉄道トンネルよりも更に小さい。

河川や海洋の下を通るトンネルでは陸上から河床・海底より更に下の岩盤を通るため、両側が下りの逆拝み勾配(落ち込み勾配)となる。前述のように鉄道では縦断勾配に制約があるため、河川や海洋よりかなり離れた位置に坑口が設けられ緩やかに下っていく。最深部には岩盤などから染み出した湧水が溜まるため最低地点より水を導きポンプで汲み出す機構が備わっている。
【 線形 】
トンネルに限らず一般に往来用の道路における直線とカーブの接続具合や構成を指す語である。

トンネルの掘削は通常の堀割施工に比べてコストが高いので、特段の理由がない限り施工延長が短くなるよう直線的に掘られる。これは導水隧道において特に顕著である。ただし往来用の隧道で張り出した尾根の中ほどを通過する場合、そのまま直線的に掘るとトンネル内部の山側と谷側において土被りに著しい非対称が生じる。土被りの薄い谷側では側面が弱くなるため、一定の土被りを確保するために敢えて山側へ潜り込む方向にカーブを造る場合がある。国道9号の杖坂隧道や真琴隧道が典型例である。


このような線形は、ダムによる付け替え道路などいくつもの小さな尾根を横切る道の途中にあるトンネルに多い。ダムのある前後にはトンネルが目立ち、特にダム湖沿いには連続したトンネルが多い理由である。

新幹線や高速道路などの比較的施工延長のあるトンネルでは、完全な一直線ではなく内部で蛇行していることがある。これは単純な直線では高速道路においてハイウェイ・ヒプノーシスを誘発することに加えて、いくつかの谷地の下を横切るための土被り確保や地質調査の成果を反映させたものかも知れない。東北新幹線の中山トンネルは途中で含水量が多く極めて不安定な区間が見つかったため、計画を2度変更して規定外のカーブを挿入してこれを回避したことで有名である。この規格外のカーブのため、中山トンネルの当該区間は設計速度の上限で走行できないボトルネックとなっている。
《 附帯設備 》
トンネルに関連する附帯設備について。
【 管理通路 】
車両向けのトンネルでは、点検作業のときに作業員が安全に往来するためのキャットウォークを備えているものがある。近年施工された自動車専用道路などに顕著であり、道路面よりも一段高い位置に手すりを備えているものが多い。

近年建設された一般道のトンネルで自転車や歩行者の往来を考慮しているものは、片側に充分な幅の自歩道が併設されている。
写真は美祢農林の猪木トンネルにみられる自歩道部。


昭和中期までに建設された道路トンネルでは、四輪の往来を主体に設計されているため自転車や歩行者の往来について想定されていないものが殆どである。特に交通量の多いトンネルでは自転車や歩行者の往来が禁止され、旧道を迂回するよう指示表示されているものが多い。
【 待避所 】
高速道路のトンネルなど近年掘削されて延長が比較的長いものでは、緊急時に車を移動できるように一定間隔で待避所が設けられている。非常事態に対応できるように外部と連絡がとれる緊急用の電話も併設されている。昭和期に掘られた隧道では1kmを超える長さでも待避所がない場合が多い。

鉄道で相応に長い隧道では、作業中に列車が入ってきたとき安全に待機できるように一定間隔で退避坑が設けられている。
写真は旧長門鉄道の中山隧道にみられる退避坑。


退避坑は大人2人が立って避ける程度の幅と広さしかない。据え付けの器具などはないが、廃線の隧道などでは時代考証可能な古いものが放置されている場合がある。
【 給電設備 】
道路トンネルの坑口付近に設けられ、トンネル内の照明や排気用ファンの電源供給を行っている。海底トンネルでは陸上通過部真上に給電と排気を兼ねた竪坑が設けられることが多い。

比較的長い道路トンネルでは、上下線の斜め上に照明が設けられる。昭和中後期のトンネルでは消費電力が少なく視認性の良いナトリウム灯が主流である。短い道路トンネルでは何も設置されていないことが多い。
【 排気設備 】
排気ガスの排出がある道路トンネルで、比較的延長のあるもので天井部にジェット機のエンジンのようなファンが造り付けられる。高速道路のような長大で大型車両の往来が多いトンネルでは複数箇所設置され、トンネル内の視認性を保つために強制換気されている。

特に長いトンネルでは、土被りの薄い場所に換気設備が造られることがある。その多くがトンネル掘削時に土被りの薄い沢地などから竪坑を掘削し横方向に掘った後、竪坑を再利用したものである。市内で該当例はないが、県内では欽明路トンネルの中ほどにみられる建物は換気用のものとみられる。同種のものは中国自動車道の米山トンネルにもみられる。
【 斜坑 】
特に長いトンネルにおいては、全体をいくつかの工区に分割して工区境に作業用の斜坑を掘って両側に掘り始めることが一般的である。初期の山陽新幹線では土被りの薄い場所が選定され、そのうちいくつかは現在も点検用通路に転用されている。新関門トンネルの火ノ山斜坑が著名である。関係者以外の立ち入りは不可能で、その存在も一部の好事家にのみ知られている。

後年の上越新幹線など山深い場所を通る長大トンネルでは土被りも1,000mを越えるものがあり、斜坑どころか殆ど壮大な竪坑となっている。列車通過時の圧力変動を逃がす機能はあるものの、転用されることなく埋め戻されるものもある。
【 排水設備 】
長大トンネルにおいて、坑口よりやや離れた場所に給電設備同様の建屋がみられることがある。その多くは用水の補償として造られた灌漑用水供給施設である。

山岳トンネルが田畑や民家の近接地を通過するような場合、地下水位が変動するため井戸涸れを起こしたり灌漑用の補助池に水が溜まらなくなったりする。他方、トンネル施工時には坑内の出水が起こり、覆工を施してもある程度の湧水が避けられない。その水は本来上部にある田畑が使用すべきものなので、トンネル工事の補償として灌漑用水を集めてポンプで給水する設備が造られる。山陽新幹線のトンネル坑口付近にいくつかみられる。

海底トンネルのように中央部がもっとも低くなっている場合、湧水は最深部に溜まる。この場合もトンネルの両側に湧水を導きポンプアップして排除する設備が造られる。多くは鹹水で灌漑用水に使うには適していないので汲み上げ後に雨水などに準じた処理がされる。
類似する構造体
往来用に供されているもののトンネルに類似しながら異なるもの、形状はトンネルに似ていながら往来用ではない構造体が存在する。それらは一般に横穴系とでも呼ぶべきものである。詳細は項目に設置されたリンク先を参照。
《 往来可能なもの 》
往来用に供されているもののトンネルに類似しながら異なるものをまとめている。
【 洞門 】
近年の構造物でもトンネル状の構造を持ちながら側面に明かりが多数箇所設置されているものは洞門(どうもん)と呼ばれる。
写真は県道31号美東秋芳西寺線にある秋芳瀬戸洞門。


著しい傾斜のある尾根の中ほどにトンネルを掘るとき、土被りの薄い沢地に面している部分は敢えて横穴を開けて明かりを設ける場合がある。典型例が青の洞門であり、川に向けて人工的に明かり窓が開けられている。洞門は外壁部分よりも横穴が増えた形態とも言える。
近代的な道路においては明かり部分を補強したコンクリート柱にすることが多く、これらはトンネルと言うよりは庇(ひさし)構造であり、崩落する対象によってスノーシェッドやロックシェッドと呼ばれる。
《 市内の状況 》
山口県は本州の西の端に位置し、中でも宇部市は瀬戸内側に面したエリアのため、往来用のトンネルは(厳密な統計は取っていないが)他都道府県に比べて極めて少ない。現在ある比較的長いトンネルは山陽新幹線や高規格道路など殆どが昭和40年代以降のものである。
《 市内の道路交通向けのトンネル一覧 》
《 地名としての隧道について 》
峠や坂道が自然発生的なものであるのに対し、隧道は明白に人為的な工作物であるため、人馬の往来用に掘削された隧道の殆どは現地に既に存在していた地名が隧道に与えられている。隧道建設によりその付近の地名が影響されたと思われる事例としては、御撫育用水路の最初期の経路として掘られた辰ノ口隧道に対し隧道入口周辺に辰ノ口なる地名が与えられた事例がある。これは恰も用水が龍の胎内へ吸い込まれていくさまを擬えたものとされる。
【 隧道の命名について 】
専ら隧道が存在する周辺の地名や山岳名が援用される。昭和期に入ってトンネルの規模が長大になるにつれて命名は中域や広域の地名が宛てられる傾向がある。山陽新幹線のトンネル名に顕著で、建設当時は更に長いトンネルが造られる可能性が薄いと考えられたのか、市町村名や旧国名が与えられている。里山を通るトンネルには大字や小字名が冠せられることが多いが、人里離れた山地へ造られたトンネルには離れた場所の山岳名が与えられることがある。

旧道の峠越えに掘られたトンネルに対し、後年線形改良でより長くカーブの少ないトンネルを掘削した場合、大抵は「新〜トンネル」とされる。この命名手法は橋などと同じである。ただし旧道のトンネルは施工時期が古いことが多いため、旧道を「〜隧道」のままにして新しい方を「〜トンネル」とすることも多い。

同一地域に複数のトンネルが造られた場合、起点側から第一、第二…のように命名される。山陽新幹線のトンネル名では専ら「第一〜トンネル」のように先頭に置くが、道路トンネルでは「〜第一トンネル」としているものがある。
出典および編集追記:

1. 2021年6月より現在の小野隧道を迂回する道路改良工事(荒瀬バイパス・一の坂工区)が進められており、完成した後は小野隧道を含む区間は市道一の坂線に格下げされる予定。

2. 常盤用水路の上水槽を出て最初の長いトンネルを(施工に携わった人からの聞き取りであるが)沖ノ旦トンネルと表記した書籍がある。

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