常盤公園・憩いの家再生ワークショップ【第二回】

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現地撮影日:2015/11/14
記事公開日:2015/11/21
8月に開催された第一回目憩いの家ワークショップの続きである。一回目終了時に具体的な月日は明らかにされなかったが第二回目の会合は予定されていた。
11月に入ると初回ワークショップの参加者には第二回目の案内が郵送され、その後ときわ公園の公式サイトやFacebookの公式アカウントからも開催日が案内された。[1]第二回目のワークショップは11月14日で、開始時間や会場は一回目と同じである。

どうやらワークショップは土曜日の午後からと固定されているようである。第一回目と同様に時系列的に報告する。前回同様、物件の発見的記事ではないのですべての写真は資料向けの小さいサイズで掲載している。

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ワークショップの会場は第一回目と同じく中央入口にあるときわレストハウスの2階で、開始時刻(午後1時半)も前回と一緒だった。ただし当日は朝から冴えない天気で断続的に小雨が降りしきるので、自転車ではなく車で行った。

ゲートでチケットを受け取り中央駐車場に入ったところ。
中央駐車場に限らず常盤公園の有料駐車場に車を停めたのは初めてである。


入口ドアにワークショップ会場への案内図があった。


到着したときは雨こそ止んでいたが再びいつ降り出すか分からない空模様だった。そのせいかレストハウス一階を歩いている人はいつもより少ない。

会場入口。一回目と同様に受付を通るスタイルである。


リストと照合してもらった上で白紙の名札を渡されるのも同じだった。ただし今回は第2グループのテーブルへ着席するようになっていた。私が訪れたのは開会10分前だったので既にテーブルへ着いている参加者が殆どだった。

グループ番号が前回と異なるので着席しているメンバーも違っていた。第一回ワークショップで出た意見を元に同一メンバーで更に議論を深める…という手法ではないらしい。同じテーマで継続協議するにはその方が良いので最初ちょっと意味が理解できなかった。
さて定刻に開会し、市担当者からの挨拶と簡単な憩いの家についての説明がなされた。ただし第一回ワークショップで詳細が語られているし今回の参加者にも資料として配付されているのですぐワークショップ本題への下準備に入った。
【 ワークショップ開始 】
進行役から参加者に簡単な問いかけがなされた。
「皆様の中で第一回ワークショップに参加なさった方はどの位いらっしゃいますか?」
私は挙手しようとしたもののこのとき各テーブルからは殆ど手が挙がらなかった。次に初めての方は挙手を…と求められたとき大多数の手が挙がった。そのことで初回とは異なるグループへ割り当てられた理由が分かった。第一回ワークショップからの継続参加者が少なく今回の第二回目で初めて参加したという人が半数以上だったのだ。初回と同一のグループを作れないのも当然である。参加者の絶対数も少ないようで、準備されていた第5テーブルは着席者が居なかった。

初回ワークショップでどのような意見が出され今回の素案に反映されるかが分かるように、第一回での成果がそのまま前面のボードに掲示されていた。


この意見をすべてテキストに起こしたものが参加者に配布された。資料には第一回ワークショップにおける大方の基本合意を元にした改修の基本方針と計画平面図が添付されていた。まず改修にあたっての基本方針は以下の通りである。
「憩いの家 改修の基本方針」からの引用
(1) 古い民家のたたずまいを大切にする。
(2) 母屋は忠実に再現する。
(3) 茶室としての機能を基本とする。
(4) 水回りは別棟とし、機能的なかたちで増築する。
(1) の案について第一回での私たちの班では思いつかなかった手法が提示されていた。現在あるそのままの場所に憩いの家を改築するのではなく、日当たりの良い場所まで牽き家の手法で移動するという案である。

これについては現地の平面図を見なければ分かりづらいかも知れない。資料では配付されており、位置関係が明瞭に分かった。しかしその資料を当サイトで掲載することについて承諾を得ていないので、Yahoo!地図を元に別途作成した。

これが現況の位置と新しい位置を同一地図上に書き込んだものである。
現地の地図は こちら を参照


灰色の長方形が現在の憩いの家である。■印は玄関の位置を示している。そして茶色い長方形が牽き家の結果定まることになる新しい憩いの家の位置である。玄関位置の対応状況から分かるように、新しい憩いの家は常盤池に近づくように20m程度牽き家され、かつ時計回りに120度程度回転させられる。この理由は現在の憩いの家は玄関および濡れ縁が北東を向いているので、これらが南を向くように再配置することで日当たりを良くするためである。濡れ縁は憩いの家が閉鎖された後もここに座って休憩する来園者の姿があった。日向ぼっこには好適だろう。

そもそも現況の憩いの家は、吉部から移設されたときそれらの考慮があまりなされなかったらしい。恐らく周辺の園路(と言うか常盤神社への参道)や地形にあわせて適当に据えたのだろう。
これは手放しで賛成できる素晴らしい案だ。私たちの第2グループにおいてもまったく異論はなかった。

(2) の母屋を忠実に再現する点においてもっとも重視されたのは、現況の茅葺き屋根の維持である。この案は憩いの家改修の前提条件として捉えている意見が多く、うちのグループも私自身もそうだった。ただしこの方針を堅持することによって諦めざるを得ない他のいくつかの要望事項が存在する。

第一回ワークショップでも説明されたように、現代の建築基準では一般的な家屋は耐燃性のある素材で築造することが求められる。茅葺きの建物を新たに造ること自体が困難であり、更にはそこで石油ストーブやコンロなどの火気を使用することは認められない。現在の和室にある囲炉裏はもちろん土間の竈も昔の暮らしぶりを伝えるために遺されるものの、実用に供することはできない。この問題については市建築指導課に照会し、茶室として供することを前提に承諾が得られる見通しであると報告された。したがって茅葺き案を維持しつつ (3) の茶室として使うことはできるものの、火を使うスペースは別途確保しなければならない。

このジレンマを解決するために (4) 案にあるように水回りを別棟として増築する案が提示されている。お湯を沸かす炊事場とトイレである。
現況のトイレは常盤公園エリアが水洗化された時期以降に備わっているが、当然ながら当時主流だった和式である。時代は洋式トイレを要請しており、それは足腰の負担となる高齢者ならずとも同様である。現況を単に洋式トイレに改造するだけではなく、男女別にするか身障者向けのトイレを追加設置する案が出されている。

提示された改修計画案を元に、各グループで追加の案の提出や問題点の指摘を行った。今回は憩いの家への現況視察がないので、話し合いの時間は充分に確保されていた。私のグループでは以下のような意見があった。
(1) 和室を異なる団体が使うときの動線をどうするか?
(2) 夏場・冬場の冷暖房をどうするか?
(3) 茅葺き屋根の永続的な維持管理が可能だろうか?
(4) 反対側に勝手口を設けた場合、廊下に繋がる改修が必要では?
憩いの家は玄関および隣接する竈のある炊事場は土間で、和室が玄関と炊事場に接して田型に配置されている。和室は6畳×2部屋と4畳半×2部屋という構成なのでかなり広い。部屋を隔てた襖を取っ払って広々とした空間で単一グループが茶の湯を楽しむなら問題はないが、襖はそのままで各部屋単位で複数のグループが使う場合に動線の問題が起きる。
例えば別棟から遠い和室グループはトイレに行くにも厨房へ茶器を取りに行くにも他のグループが使っている部屋を通らなければならない。果たして「ちょっと済みません」といちいち部屋の中を通る状況について双方グループが寛容になれるだろうかといった問題がある。
使用中の部屋を通るのが憚られるなら一旦玄関なり竈のある土間なりへ降りることになる。しかしその場合でも (4) に示したような渡り廊下を別途造らないことには別棟の厨房やトイレへ行く手段がない。ここには廊下こそあるが、和室からの出入りのみで竈のある土間からは繋がっていない。

この廊下の写真である。
どん詰まり部分は炊事場がある土間の壁部分となっているので改造しなければ行き来はできない。
これは「憩いの家【1】」で掲載済みの写真があるのでそのまま引用した


もっともこれは4つある和室を別々のグループが使う場合に限って起きる問題で、単一団体での使用しか想定しないなら対処する必要はない。実際問題としてお茶の集い以外でも生け花や各種イベントスペースとして利用することがあり得るにせよ、同一日時に複数グループが憩いの家を使用する事態は稀かも知れない。

(2) の冷暖房は、むしろ動線よりも切実な問題であり得る。なべて昔の家は床を高くしたり庇部分を長く造ることで夏場に風が通って涼しく冬の寒さが部屋に伝わりにくい構造である。そうは言っても使用時期によっては冷暖房設備なしというのはかなり辛い筈だ。襖はそのままで部屋を仕切って使うなら風が通らず茅葺きとは言えども暑いだろう。
冬の寒さはもっと切実である。囲炉裏は使えないし、ファンヒータを持ち込んで暖を取ることも許されない。電熱ストーブとて赤熱部分を有して可燃物が触れることで発火する機器は恐らく使用が認められないだろう。完全に電気依存するエアコンなら問題はなかろうが、漆喰の壁に穴を開けて配管するなどある程度の現状改変が必要である。

これらは茅葺きを維持することによる制約であり、果たしてそこまで茅葺きを押し通すのは憩いの家を再利用するという観点からは障壁になるのではという意見もあった。
施工上の観点から言えば、いくら現状を保つとは言ってもさすがに殆ど朽ちかけている今の茅素材を再使用はできまいから新規に調達してくることになる。材料の調達と屋根に葺く技術はどうにかなるとして、維持管理が困難ではないかという指摘があった。[2]

さて、グループ単位で一通りの意見を付箋に記載し発表となった。発表には第一回ワークショップと同様私がグループ代表で意見の供述を行った。
上記以外で他グループから提出された意見や要望については以下のものが目を惹いた。
・北側の和室の一部を洋間にしてはどうか。(椅子などを置いてイベントで使えるように)
・ぼたんの移植に伴い日本庭園を造ってはどうか。
・敷地内に井戸を掘削して昔体験を再現したい。
・茅葺きにこだわらず火を使える空間を優先した方が良いのでは。
・別棟の廊下の造りを再考して欲しい。(厨房とトイレが近すぎる…トイレが見える状況で厨房を出入りするのは憚られる)
付箋のついた紙は第一回ワークショップで掲示された紙の上に重ねて貼られた。これらの案は再度憩いの家の設計を担当する教授により持ち帰られ次回のワークショップまでに反映することになっている。なお、憩いの家の改修着手など施工期の兼ね合いもあって最終案を煮詰めるまで時間的制約があった。そこで第3回目のワークショップは12月19日(土)の同じ時間に設定された。ただし次回の開催場はときわレストハウスではなく湖水ホールにある第一展示室の予定である。レストハウスは広い空間で空調が充分に行き渡らず意外に寒いことが変更理由である。
実際ちょっと肌寒かった…上に羽織るものを持って行って正解だった

第一回ワークショップと同じく感想カードを記載した。


最後にふたたび市公園緑地課担当者からの挨拶があり、その中で興味深いコメントがあった。
「参加者の中で憩いの家について大変に詳しい写真付き記事をフェイスブックに載せていらっしゃる方があり、真摯に取り組んでおられる方の存在を有り難く思っているところであります。」
あ…それってFacebookじゃあなくってホームページですんで(微笑)
まあ、FBでもあっちのページや自分のタイムラインで[3][4]のように逐次情報は流していますが…

終了後の会場の風景。
既に殆どの参加者が退室して関係者だけが後片付けを始めようとしている。


今回は私自身他に用事がなかったのだが、このまま帰るには惜しい。
受付で駐車料金が24時間無料になる手続きをしてもらっていたからだ。


外は霧のような細かな雨が降っていた。傘を差して歩くほどではない。それで題材探しに園内を歩いてみた。いくつか面白い題材を見つけたものの憩いの家からは離れてしまうので、それらの中から今回のワークショップに関連する写真を以下に掲載する。
引き続き写真サイズは資料用の小さなものを使用している
【 現地視察 】
現況の憩いの家の撮影。


家を背にして撮影している。
周遊園路に上がる階段が見えている。計画ではあの近くまで牽き家されることになっている。


写真では見えていないが周遊園路の直線区間は本土手に準ずる堰堤となっていて、ここに切貫の樋門小屋がある。地勢的には恐らく常盤池に向かって下る沢地だった場所で、常盤用水路(上溝)はこの沢地を利用して更に掘削し梶返方面へ水を送るようになっている。本土手の下溝の後、江戸期における常盤池と関連する用水路整備の後期に造られた由緒あるものである。
一連の話はまた用水路関連の記事で述べることになるだろう

このことから分かるように、現状の憩いの家は沢地の中へ建っていることになる。吉部から茅葺き民家が移設されるまでに地上げされた筈だが、それでもなお周遊園路からは2m以上低い。この低さ故に湿気が溜まりやすい状況となっている。昔から沢地、特にサンズイの漢字で表記される地に家を建てるものではないと言われてきたのだが、この場所が選定された理由はまだ分かっていない。

東側は機材搬入用に車が乗り入れられるスロープとなっている。
確かに今日のような雨降りでは雨水が流れ込みやすく敷地は至るところ水を含んでいた。


このスロープから上の園路は平成3年の野外彫刻展示場整備工事で新規に舗設されているが、スロープ部分は以前からのものと思う。憩いの家へ行くのに下りスロープなので、健常者は問題ないにしても車椅子や足腰の弱い高齢者には負担だろう。
本件とワークショップでは発言しなかった点を含めて思いついたことを以下に書いておこう。
【 個人的な意見 】
周遊園路と敷地の高低差を埋めた方が良いという指摘は第一回ワークショップのときからあった。牽き家をすればぼたん類との位置関係も含めて総替えとなるので、これを機に敷地全体の地上げを行うのが良いと思う。現状の敷地が低い状態のままで建築されるメリットがない。周遊園路と同じ高さまで盛れば近接する斜面がレベルになるのでこの方向の敷地は拡がる代わりに常盤用水路側は狭まり、現状より更に深い水路となる。増設する別棟は水路に近い側となるので、法面処理した上で転落防止柵が要るだろう。
このエリアを地上げすれば隣接するロックガーデンとの取り合いが問題になる。ただし現状はロックガーデンもかなり荒れているので、これを機に再度整備することになるだろう。

それから平面図を添付していないので資料なしでは殆ど分からないだろうが、玄関の反対側に勝手口を造る案がある。冒頭に掲示した地図への書き込みにおいて■印で示した部分である。この部分は竈がある炊事場の裏側で、現状は土間の収納庫となっている。和室に面した廊下は前述のようにここまで繋がっていない。これは初回の配付資料で既に出入口の記号として記載されていた。
もし牽き家を施せば、菖蒲園方面から歩いてきた来訪者にとって玄関は反対方向になる。この位置に出入口を設置し、かつ別棟までの廊下を延伸するなら濡れ縁側の和室利用者も他の部屋を通らず土間を介して往来ができる。しかしこの部分は壁なので、玄関部と廊下接続部を撤去する必要がある。強度的には問題ないと思われるが、なるたけ現状の家に手を加えないという方針に照らし合わせば議論が必要だろう。

この件については、勝手口と言うよりは第二の玄関として整備し、かつ別棟廊下への接続を行う前提で賛成である。既存の土間にある竈を実用に供さないのだから、双方の玄関を施錠せず誰でも気軽に立ち寄れる常時開かれた見学スペースにすることができる。
現況の玄関と同様な横方向へ動かす戸が理想的だが、戸袋のスペースが確保できないかも知れない。引き戸もやむを得ない選択肢だが、玄関に対する補助的な勝手口だからといって安っぽいアルミ扉で済ませる位ならイメージ毀損になるのでない方が良い。

夏冬の冷暖房をどうするかはかなり難しい問題である。憩いの家改修後にどういった利用を促進するか、またどの程度の使用が見込めるかは未知数なので、あまり高価な設備を整えると実働頻度が低いとき無駄になる。また、なるべく既設の家に手を加えない手法からも壁に穴を開けて配管を通すタイプのエアコン設備は様子見した方が良いのではないだろうか。元々、茅葺きの民家に暮らしていた人々は暑さ寒さも受忍してきた。敢えて憩いの家を利用するなら、極端な暑さ寒さでない限りある程度は設備がなくとも理解が得られるだろう。そして一連の設備は後からも追加設置が可能である。

市担当者のコメントより、このドキュメントがある程度関係者の目にも触れていることを考えて査読可能な形でまとめておいた。次回のワークショップでは恐らく殆ど最終案となるものまで煮詰められるだろう。一応、継続記事にする積もりで後続のリンク候補テキストのみ配置しておこう。

(「常盤公園・憩いの家再生ワークショップ【第三回】」へ続く)
出典および編集追記:

1.「第2回ときわ公園憩いの家の再生・利活用を考えるワークショップ参加者募集!(リンク切れ)
FBタイムライン|第2回ときわ公園「憩いの家」の再生・利活用を考えるワークショップについて(要ログイン)

2. 昔の茅葺き屋根が相応な年月を経て持ち堪えたのは、囲炉裏が使われていたからだという参加者からの指摘がある。日々使われることで発生する煙で茅素材が燻され虫除けになっているという。これらを行わないなら、葺く茅に別途防虫加工を施す必要があるかも知れない。

3.「FBページ|2015/11/14投稿分(要ログイン)

4.「【第二回・憩いの家再生活用を考えるワークショップ】(要ログイン)

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